八十四話 それぞれの戦い
「二人とも、僕が良いっていうまで、そこから動かずに目を開けないで。・・・・絶対に」
後ろにいる二人に僕はそう言った。
「歩・・・・」
「刻藤さん・・・・」
「二人の目が汚れるから。・・・・お願い」
「「・・・・分かった」」
二人はそう言うと、グッと目を瞑って顔を手で覆った。
僕はそれを見ると、四島に向き直った。
そして、首から垂れ下がった付喪神のお守りをそっと握って呟いた。
『・・・・、物理的なものだけで良いから、二人に結界を出せる?』
『いけますよ、主人! ここまで対象に近づいていれば、お安いご用です。この前も言いましたけど僕は、主人に対してだけは結界を使えないので注意しておいてください』
『ああ、分かってる』
『そうですね、過ぎた忠告でした。じゃあ、後ろはお任せを』
『頼んだ』
付喪神がそう言った直後、後ろで目を瞑っている二人の身体に光の粒子が集まった。そして、2人の身体には物理的な攻撃を一切通さない結界が作られた。
「さぁ、行け!!!!!!」
直後、四島がそう叫んだ。それと同時に四島を含めて数人が僕の方へと走り出して来た。
「悪く思うな、少年」
「私たちのために死んで」
鎌や両刃の剣を持った二人がそう言いながら、僕に飛びかかった。
左からは鎌の横振りが、右からは斜め下に振り下ろされた両刃剣が襲いかかった。
「・・・・良かったよ、お前たちも屑で。少しは気が楽になる。柳生新陰流 一刀 二式 神速」
僕は意に介することなく、ただゆっくりと歩いて鬼月を抜刀した。しかし、それは僕から見た話だった。周りから見たのは一瞬にして、僕が二人の背後に移動したことだった。
そして、僕が二人の後ろに移動すると同時に二人の服にじわじわと滲むように赤い線が入った。
そして、ずるりと身体が両断された。
「「ッッ・・・・!!」」
そして、上半身と下半身が泣き別れになった二人はそのまま絶命した。持っていた鎌と両刃剣が地面に落ちて、金属音が牢屋に響いた。
「あとは十人。かかって来いよ、屑ども。それと、そこのお前。巻き添えを喰らいたく無いのならそこから動くなよ」
未だ地面で上半身を起こすだけしかできていなかった女にそう言った。
そして、走り出していた奴らの動きが止まった。顔には色々な感情が混じった表情が浮かんでいた。
「あいつ、人を殺せないんじゃ無かったのか・・・・?」
奴らに動揺が走っていた。確かに、数時間前の僕は人を殺すことを躊躇してしまっていた。
けど、それじゃ何も守れないことを知った。だから、僕自身の甘い考えを殺した。
「・・・・ッハハハハ!! 良い具合に壊れて来たじゃないか、刻藤!!」
四島がそう笑いながら叫んだ。そして、次の瞬間、バリッと音がしてから四島がいた場所には濱筒先生の皮だけが落ちていた。
そして、黒く長い髪をした全裸の女がその少し後ろに立っていた。
「甘く見ていたよ、刻藤。だから、アタシのとっておきで君を殺そう」
そして、瞬時に四島はある人物に変わった。
それは僕が殺したラウスト=バラックの姿であった。
「どうだ? 良いものだろう?」
ラウストの顔で口角を吊り上げながらそう言った。
「恐れるなよ、お前ら。刻藤がいくら強くても、この狭い空間で多対一はアタシたちに分がある」
「あ、ああ。分かってる」
「いつも通りで行くぞ、連携で仕留める」
口元がマフラーのようなもので隠れた背の高い男がそう言った。四島を除いて、その場のリーダーのようなものだった。
そして、そいつが手を上にあげた瞬間、弾丸が飛んできた。僕の正面から、視界を埋め尽くすほどの大量の弾丸が即座に飛来した。
「畳みかけろ!」
そして、弾丸の影から残っていた全員が襲いかかった。確かに、後ろをのぞいてほぼ全方位から同時に攻撃をされたらひとたまりも無い。けれど、それは普通の話だ。
僕にそれは通用はしなかった。
僕は弾丸を全て空気の壁に当てて防いだ。流石の弾丸でも壁を破るほどの威力は持ち合わせていなかった。そのまま、壁に当たった弾丸は床に落ちた。
「終わりだ、刻藤 歩!!!!!!」
「・・・・ああ、終わりだよ」
僕は空気の壁を出すと同時に右手を心臓に当てていた。そして、僕の身体がドクンと脈打った。
「封印:自転選択 速血」
通常の二倍近い速度で全身に血が走る。血管が脈打って僕の身体から大量の熱が放出されていた。
「 二式・解 超神速」
神速の更にその上。一瞬の瞬きをする間に全ては終わった。
黒い死神の鎌が命を刈り取っていった。自然災害に人が抗えないように、奴らは少しの抵抗を許されることもなく刈り取られた。最後に奴らが見たものは、赤い雫が飛び散り、血だらけになった黒い鬼の姿であった。
次に奴らが見る景色は、この世のものではなかった。
「ば・・・・かな・・・・っ・・・・!」
マフラーをしていた男が大量の血を吐き出して、地面に膝を付いた。腹部にはすでに真っ赤な染みが出来ていた。
周りには飛びかかってきた奴らの全員の死体が転がっていた。もうピクリとも動かなかった。
まだ息があったのは、四島とこの男だけだった。
「ゴボッ・・・・。刻藤・・・・」
男の手が僕に伸びた。
「・・・・せいぜい後悔しろ。僕たちに手を出したことを」
僕は一瞬で男の手首を切り飛ばした後、上半身を切り刻んだ。痛みを感じさせることも無いほどに一瞬で男の原形は無くなった。
「・・・・後は、お前だけだな。四島」
「ヒッ・・・・!」
僕はゆらりと倒れていた四島の方を見た。僕はわざと四島だけは即死しないようにしていた。ただ、両足を斬り飛ばして、逃げられないようにしていた。
それでもなお、四島は身体を引きずるようにして、僕から離れようとしていた。四島でも今の僕は恐怖の対象であった。
「何処へ行く? もう逃げ場なんて無い。お前が行けるのはただ一つ。地獄だけなんだよ」
「認めない・・・・、アタシがここで死ぬなんて・・・・。!! おい、何処かで見てるんだろ!! 私を助けろ!! なぁ!!」
ぶつぶつと何かを言っていたかと思うと、急にそう叫び出した。宙を急いで何度も見渡しながら、そう叫んでいた。
何かがくるのかと僕は少し身構えた。けれど、誰も、何も起こらなかった。
「・・・・これがお前の結果だよ、四島。お前は負けた。ただそれだけだ」
「アタシは、もっと・・・・」
「人の皮を被った獣よ、さよならだ」
僕は背中を見せて地面を這いずりながら階段のあった場所へと向かっていた四島の背中を鬼月で貫いた。
「があっ・・・・!! と、刻藤・・・・、お前は・・・・私と同じ屑だ・・・・! 絶・・・・たいに、ゆ・・・・るさ・・・・」
仰向けになった四島は充血した目で僕を睨んだ。そして、恨みの言葉を最後まで言い切ることなく、事切れた。
「・・・・そんなこと、もう知ってる。僕は、もう普通には戻れない。・・・・覚悟の上だ」
眼孔を開きながら生き絶えたラウストの顔を見ながら僕はそう言った。
———・・・・、派手にやったな。
レティアがそう静かに言ってきた。
僕は後ろを振り返った。確かに、派手にやった惨状が後ろには広がっていた。地面は血で溢れかえって一歩歩くだけで血が跳ねる音がしていた。
(「・・・・そう・・・・ですね」)
———躊躇しなくなったな。
(「・・・・慣れたんですかね。人を殺すことに」)
———慣れっていうのは、一種の防御だと私は思うよ。身体を壊さないをように、ストレスを感じないように、心をを壊さないようにするために人は何かに慣れるんだ。少なくとも、私はそう思っている。
(「・・・・・・・・段々と壊れてきたのかもしれないですね」)
———そうだな。確かに、壊れてきたのかもしれない。もう、昔とは違うかもしれない。けどな、壊れなきゃ助けられないものだってあるんだ。
現に、君は二人を助けた。
君は他人を助けるために、自分を犠牲にする馬鹿で、不器用で。そして、優しい人間だ。
壊れたって良い。大事なのは、自分の信念を見失わないことだ。
君は見失ってなんかいないだろう?
レティアは優しく、けれど強くそう言った。
(「はい」)
———それなら、良い。さぁ、こんな所でしょげてないで、早く二人を助けに行くぞ。
(「はい!」)
僕は牢屋の隅で二人で固まっていた二人へと歩いていった。
「君は・・・・何者なんだ?」
横から声がした。足をガクガクと、震わせながらも立っていた女がいた。
「僕は刻藤 歩。日本の金級冒険者です」
「何故、私を殺さない・・・・?」
「だから、僕は市山財閥の人間じゃないんです。だから、貴女を殺す理由なんて無いんです」
「お姉ちゃん!!」
「歩!!」
そう叫ぶ二人の声が上の階から聞こえてきた。上を見上げると、鉄筋が見える崩れた足場の近くに一平と、さっきの男の姿があった。
「ッ・・・・! 歩、どういう状況だ?」
「眼下に広がる光景を見て、一瞬言葉に詰まりながらも、一平はそう聞いた。
「無銘教の奴らがここにはいた。だから、全員倒した。友里と深鈴さんは二人とも無事だよ。そこの牢屋の端にいる」
「・・・・分かった。だったら、これで任務は完了だ。すぐにここから出るぞ」
「で、お姉ちゃんは何があったの? まだ足が震えてるけど」
「・・・・完全にやられた。もし、あいつが敵だったら、死んでたわ」
「へぇー、珍しい。お姉ちゃんが負けを認めるなんて」
「ねぇ一平、この二人は一体誰なの?」
「・・・・彼らは中国の暗部、紫龍の人間」
「! ってことは、一平みたいな仕事の中国版ってこと?」
「そういう事ー。じゃあ改めて、俺の名前は、リュー・フー。で、こっちの忠告を聞かないのが姉のリュー・リン。よろしく」
そう言いながら、フーはフレンドリーに僕の方へ近づいてきた。そして、僕に向かって右手を差し出した。
「僕は、日本の金級冒険者。刻藤歩です。よろしく」
僕もフーに右腕を差し出すと、握手をした。
「いやー、さっきはごめんねー。てっきり敵だと思っちゃってさ」
「僕は別に大丈夫です。ただ、一平は割と怪我をしてるので、後でちゃんと謝っておいて下さい」
僕は一平を見ながらそう言った。一平は死ぬほどの致命傷では無いにしろ、浅くは無い怪我をしていた。複数のところから出血して所々服が滲んでいた。
「うん、そうだね。それはそうするよ」
「歩、そろそろ二人をここから出すぞ」
「分かった!」
「そうだ、歩君。君たちに僕もついていって良いかな? 罪滅ぼしって訳じゃ無いけど、もしまだ残党がいたら、僕たちが請け負うからさ」
「・・・・分かった。じゃあお願い」
「うん、任せといてー」
そして、この惨状を二人に見せないようにしながら、僕たち四人はここを脱出するのであった。
◆
歩たちがフーとリンとぶつかり合う直前、レナたちもまた戦いが始まろうとしていた。
穴の中に入ってしばらくすると、全員が一瞬にして別の場所へと飛ばされていたのだった。
「転移か!! 全員、警戒しろ! 必ず生きて戻って・・・・」
一番先頭にいた鞍馬さんが後ろを振り返ってそう叫んだ。しかし、全て言う前に鞍馬さんの体はここから消えてしまったのだった。
そして、すぐにその後を追うようにしてこの場所に五人だけを残して全員消えてしまったのだった。
◆
「ノア君!!」
「はい! 僕は大丈夫です!」
幸い、レナとノアは一緒の場所に飛ばされていた。ここにいたのはさざめさんと銀級冒険者である腹鎌 健と御弓 翡翠の五人だけであった。
「ここは・・・・?」
辺りを見渡しながら翡翠がそう呟いた。レナたちがいる場所は洞窟のような場所だった。しかし、問題なのは、この場所が異常に暑い事だった。
「・・・・ノア君、冷却剤も持ってる?」
「はい、持ってますけど・・・・」
「それをここにいる全員に配ってくれる? 多分、それが必要になる」
「! 分かりました」
ノアはそう言うと、異空鞄の中に入っていた道具の中から五本の冷却剤を取り出した。
ノアは前回のものから改良を加えて欠点が無くなっていた。
「皆さん、この冷却剤を飲んでおいてください」
そう言うと、ノアは全員に冷却剤を配った。
「ありがとう、ノア君」
そうお礼を言いながら全員受け取るとそれを飲んだ。効果はすぐに現れて、さっきまで感じていた暑さが消え去った。
「ミス街中、ここからどうしますか?」
健が空になった瓶を閉まっていたさざめさんにそう言った。
「うーん、そうだねぇ。とりあえず進むしかないね」
「そうですよね・・・・。ああ・・・・、心配だ・・・・。私、生きて帰れるのかなぁ・・・・?」
自信なさげに翡翠がぼやいていた。手には丈に似合わないほど大きい太刀を持っていた。
「大丈夫とは言えないが、最悪の事態だけは避けて行こう」
「さざめさんの言う通り、今は進もう」
そうして、レナたちは動き出した。
この時に冷却剤を飲んでおいて本当に良かった。
じゃなきゃ、被害はあれほどではすまなかっただろう。
◆
レナとは違う場所に、閃光と遼山は飛ばされていた。
そして、運命と言うべきか。宿敵と邂逅しているのだった。
「今度こそ、ちゃんと殺しますよ。餅次遼山!」
「それは俺の、こっちのセリフだ。バーター」
穴の中はダンジョンのように時空が歪んでいるのか、外からの見た目とは全く持って違った。
無機質な天井で広く少し薄暗い探鉱場のような場所で、両者が睨み合っていた。
「あれ〜? 一人で勝てないから、応援を呼んだんですか?」
遼山の隣にいた閃光のメンバーを見ながら、煽るようにそう言った。
「・・・・・・・・」
「良いんですか〜? それで」
「黙れ、私たちはお前を殺すために、今ここにいるんだ!」
奈々が激昂してそう叫んだ。
「お前を殺せるなら、手段なんて選ばないさ。今日がお前の命日だ」
「ハッ、やってみろよ。・・・・首を刈ってコレクションにしてあげますから〜」
その瞬間、閃光のメンバーである文凱凛理が走り出した。
凛理の能力は螺旋構造というもので、生物に直接触れていない物質の形を螺旋状に変形することができる能力であった。
「フライングしすぎなんじゃ無いですか〜? そう言う駒はすぐやられちゃいますよ〜? こんなふうに」
バーターはナイフを取り出すと、凛理へと走り出した。そして、一瞬にして、姿が凛理の前から消えると、既に背後にいた。
「一人目ですね!!」
「そんな訳ないだろう」
しかし、遼山は既にバーターの真横にいた。バーターの動きを読んでいたのか遼山の拳がバーターに向かった。
「本当に、めんどくさいですねぇ〜!!」
バーターはナイフで拳を受け止めると、同時に後ろへと下がろうとしていた。
しかし、捻れた地面が槍のようになってバーターの背中へと飛び出した。
「貫け!!」
バーターのナイフは遼山の拳で既に折れていた。ナイフで槍を受け止めることは出来なかった。
けれど、背中に直撃する寸前で、その場からバーターの姿が消えた。
そして消えたバーターは全員から少し離れた場所に立っていた。
「その動きは読んでるんだよ!!」
直後、バーターの動きを見切っていたかのように奈々の両手から発射されたエネルギー砲が飛来した。
「チッ!!」
バーターは息つく暇も無く、また直撃する寸前で姿を消した。
「どうした?! バーター、こんなもんかよ!!」
次に姿を現したのは奈々の真後ろだった。
「目障りな貴女を殺してあげますよ〜」
欠けた刃が奈々のうなじへと振り下ろされた。
「だから、それは通用しないと言っている」
刃を弾きながら、遼山がそう言った。
そして、空いていた右手でナイフもろともバーターを殴りつけた。
何故かは分からない、けれどバーターはこの攻撃は姿を消して躱すことはしなかった。
「ぐうっっっ・・・・!!」
呻き声を上げてバーターの身体が吹き飛んだ。
「バーター、もう一度言うぞ。今日がお前の命日だ」
「・・・・認めましょう。貴方たちは僕が思っている以上に強い」
立ち上がったバーターは壊れたナイフを投げ捨てた。そして、代わりに短めの棒を懐から取り出した。
「だから、僕のこの愛鎌で殺してあげますよ。光栄に思ってくださいね〜?」
バーターが棒の端を捻った瞬間、大きな鎌へとその姿を変えた。バーターよりも二回りほど大きいドス黒い色をした鎌であった。
「! なんだそれ・・・・」
「・・・・これは、魔鎌ですよ〜。対象の精神を蝕む代わりに絶大な切れ味と対象者の身体能力を飛躍的に上げるものですよ〜」
重量がありそうな鎌を片手で軽々持ち上げると、肩に担いだ。
「貴女ですかね? どうやっているのかは分かりませんけど、僕の位置を特定してますよね〜?」
右腕でルーシーのことを指差した。ルーシーの能力は羅針盤というもので、対象のDNA情報が入ったものを羅針盤の針に刺すことで、世界中、どこに居ようとも見つけ出すことが出来ると言うものだった。そして、その能力は、対象の姿が消えた状態でも適用されるのだった。
「さようなら」
その場で少しジャンプをした瞬間、一瞬にしてバーターがルーシーとの距離を詰めた。ルーシーの眼には巨大な鎌を振りかぶったバーターの姿が映っていた。
「高雅!!」
「分かってるよっっ!!」
ルーシーの目の前に高雅が立ちはだかった。ズチッと音がした後、振りかぶられた鎌の刃が高雅の身体で止められていた。
「奈々!! 俺ごとで良い! 撃てっ!!」
高雅の能力は物理吸着というもので、自分の胴体部分に加えられた物理攻撃の全てを吸着させ、ダメージを無効化出来る。そして、吸着したものは簡単には引き抜くことが出来ないのであった。
魔鎌によって強化されているとは言え、バーターに一瞬の隙が生まれた。
「時溜還元砲!!」
その一瞬で十分だった。奈々は高雅もろともエネルギー砲をくらわせた。高雅の能力はあくまで物理攻撃しか吸着出来ない。だから、直撃したら高雅もただでは済まない。しかし、それは両方とも覚悟の上だった。自分の身を削ってでも、味方を傷つけてでも、バーターを倒すという覚悟があった。
「斬り裂け、喰らえ!」
しかし、そんな覚悟を嘲笑うかのように、バーターは想定を上回った。
「!! 高雅!! そこから離れろっ!!」
ルーシーが叫んだ瞬間、バーターの鎌の刃が紅く光った。高雅はルーシーの叫びに従って、一歩後ろに引いた。
そして、空間が揺れた。一瞬で、鎌がバーターを中心に一回転した。大気が斬り裂かれて、空間が断絶した。
その軌道上にあったものはエネルギー砲も、高雅も斬り裂かれた。
「ぐうっッッツ・・・・・・・・!!!!」
高雅の腹から血が飛び散った。何とか、両断されることは無かったものの、腹が斬り裂かれていた。直ぐに治療をしなければ確実に死に至る傷であった。
「その程度の捨て身で、僕に勝てるとでも思いましたか〜?」
にぱっと、バーターは口角を吊り上げた。
「まずは無意味な捨て身をしてくれた貴方から消しましょうか〜?!」
遠心力が加わった紅く光った刃が動けない高雅の脳天へと振り下ろされた。直撃すれば、まず間違いなく、脳漿がぶちまけられ、即死は免れない一撃だった。
「おい、お前の相手は俺だろう? 余所見していて良いのか?」
しかし、突如として高雅の前に現れた遼山が、振り下ろされた刃を両手で受け止めた。
「餅次・・・・、本当にしつこい男ですねぇ・・・・!」
「はっ、お前を殺すためなら、いくらでも付き纏ってやるさ・・・・!」
軌道を逸らして地面に鎌を誘導させると、餅次さんはバーターの顔面目掛けて、右拳を放った。
しかし、普通なら地面に刺さっているはずの鎌が空中で切り返されて、V字を描いて下から遼山の身体へと差し迫った。
「座標交換」
直後、バーターの位置が後方に移動した。斜め上に斬り上げられた鎌は空を斬った。
「巻羽!! 撃て!!」
「加速分裂砲」
少し離れたバーターへと集中砲火が降り注いだ。
圧倒的なまでの絨毯爆撃がバーターの前方を襲った。
「喰い散らかせ」
バーターがそう呟いた。その瞬間、さっきのようにまた全てが消え去った。まるで、鎌が全てを飲み込むようにして全てを斬り裂いた。
「凶々しい鎌だな」
「言ったでしょう〜? これは魔鎌だって。これの権能は暴食。七大罪の一つを司るものですよ〜」
そう言う、バーターの鎌はドクンと脈打っているように見えた。まるで、生きているかのように。
「さぁ、絶望はこれからですよ〜? 楽しんでくださいよ?」
バーターと遼山たちとの戦いは苛烈を極めていくのだった。
◆
穴の入り口付近で、飛ばされずに残されていた五人は辺りを警戒しながら進んでいた。
「♪」
奥からピアノと鼻歌のような音が聞こえてきた。
「全員、身構えろ!! 何かいるぞ!」
五人は全員臨戦体勢をとった。そして、ゆっくりと前に進んでいくと、少し大きめの空間に大きなグランドピアノと、それを弾いている誰かの姿があった。
「誰だ?! お前は!!」
この部屋に入った瞬間に、五人の中で最年長であった比良風 藤太がそう叫んだ。
しかし、ピアノの手を止めることなく、演奏は続いていた。
「おい、聞いているのか!!」
藤太はまたそう叫んだ。
けれど、何も返事は無かった。痺れを切らしたのか、辺りを警戒はしつつも、そのピアノへと近づいた。
「おい、演奏をやめろ!!」
そして、演奏をしていた髪の少し長い女の肩に触れようとした瞬間だった。
「演奏中は静かにしろ!!」
さっきまでの演奏からは考えられないほどに鍵盤を強く叩いた。
瞬間、藤太の全身に赤と黒の線が刻まれた。
すぐに女がドの鍵盤を叩いた。その音がこの部屋に響き渡った。
「なぁっっ・・・・!」
次の瞬間、藤太の身体が崩れ去った。線が藤太の身体に食い込むようにして全身をズタズタに斬り裂いた。微塵切りのように身体が細かく斬られて地面にずちゃっと落ちた。
「何なんですか? 人が演奏している時に・・・・」
不機嫌そうにそう言いながら顔についた血を拭った。
「お、お前は・・・・?」
目の前で銀級のベテランが一瞬で細切れにされた状況が起きて声を震わせながらそう女に聞いた。
「私は無銘教のNo.六。『死奏』の長噛 椎名」
「!!!!」
それは四人にとって思いもしなかったことであった。まさか、無銘教のそれもナンバーズの人間と遭遇するとは思いもしなかった。
「そうだな、演奏を邪魔した代償は命で償ってもらおうか」
バンと強く鍵盤が叩かれた。その瞬間、全員の首にまるで五線譜のような黒い線が刻まれた。
「いや・・・・!」
一人の女が腰を抜かしてそう言った。眼前に迫る確実な死。それは、人が思考を止め、絶望するにはお釣りがくるほどに十分すぎた。
「死ね」
ファの鍵盤を叩いた瞬間、全員の首と胴体が両断された。
「来世は、演奏中に邪魔をするなんてことをしないことだな」
そうして、女はピアノの鍵盤を拭いて蓋を閉めると椅子から立ち上がった。
「さて、始めようか。終わりの演奏を」
鼻歌を歌いながら椎名とピアノがこの部屋から消えた。
残ったのは、細切れにされた原型を留めていない死体と首と胴体が分かれた死体だけだった。切断された女の首の目には涙が溢れていた。
椎名によって冒険者たちに悪夢の演奏が訪れようとしていた。
◆
歩が無銘教を圧倒している時、友里と深鈴は歩を見てしまっていた。
歩には目を塞いでおいてと言われはしたけれど、二人はその両目でしっかりと見ていた。
歩が十人以上の相手を一方的に殺し続けたことを。
二人とも、歩の強さに少しの恐怖を感じた。しかし、それよりももっと、歩が一人で色々なことを抱えて、悩んで戦っていると感じていた。
だから、二人は心に決めたのだった。どんな形であれ、歩に救われた恩を返すと。そして、歩を支えたいと感じていたのだった。
二人がそれを明確に認識するのは、もう少し後の話だった。
すみません。更新が遅れました。
次回は多分、日曜日までには行うと思います。
次回からは、歩メインの話というよりかは、レナたちの話がメインになっていくと思います。お楽しみに。
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