八十三話 タイムリミット
残り時間は三分。僕は少し焦りを含みつつも、冷静さを保ちながら走っていた。
「歩、もう少しスピードを上げるか?」
「・・・・いや、このままで行こう。警戒はしておかないと」
「分かった」
一瞬迷いながらも、僕たちはそのままのスピードで走り続けていた。そして、この選択が僕たちの命を救うことになるとは思いもしなかった。
僕たちが曲がり角に差し掛かると同時に、僕の首めがけてナイフのようなものが飛び込んできた。少し暗い通路の明かりに照らされてその金属が光った。
「ッ・・・・!!!!!!」
僕はなんとか反応すると、上半身を後ろに限界まで反らした。ほとんど地面と僕の背中が平行になる程にまで倒れながらも、僕はナイフのようなものを躱した。僕はすぐに、地面に左手をついて、側転をするような動きで、後ろを振り返った。
灰色の地面に首から流れた赤い血がポタポタと垂れていた。
「うわ、それ避けるんだ。絶対殺ったと思ったのに」
後ろには、フードを被った誰かが血のついたナイフを持ちながら僕を見ていた。
僕は首を気にすることなく、フードを被った者の後ろの一平の方を見た。
一平も、頬に傷はついていたものの、死に至るような外傷は負っていなかった。そして、一平のそばにも、フードを被った者がいた。そいつに関しては、重力がそこだけ反対になっているかのように天井に立っていた。
「・・・・どうする? お姉ちゃん。こいつら思ってた以上に手練れだけど」
「どうするも何も。殺すしか無いでしょ」
背中合わせに、その姉弟らしき二人はそう話していた。
正直に言って、最悪の状況だった。この二人はさっきまでの有象無象とは違って強者だった。無銘教なのか、市山財閥の関係者なのかは分からないけれど、こんな奴らと闘っている暇なんてなかった。倒せるかどうかも分からない上に、倒せても間違いなく三分以上はかかってしまう。
「一平! 速攻で片付けるぞ!」
「歩! 速攻で倒すぞ!」
僕と一平の考えは同じだった。同時に、僕と一平はそう叫んだ。ここまで接近している以上、逃げることは出来ない。それに、仮に逃げられたとしても二人を助けた後にこいつらと闘ったら二人を守り切るのは難しい。だから、僕たちができる最善の策は、今ここでこの二人を速攻で倒し切ることだけだった。
「良いね、返り討ちにしてやる」
「はぁ、しょうがないか。僕も死ぬのは嫌だから・・・・」
(「それにしても、歩って・・・・。何処かで聞いたような・・・・?」)
目の前のフードを被った者がナイフを投げ捨てて懐から双剣を取り出した。
そして、僕たちは同時に足を踏み出した。
「二式 神速」
僕は一撃で仕留めるつもりで、姉と呼ばれていた方へと鬼月を振った。
「舐められたもんだね。それぐらいで倒せると思われたなんて」
けれど、それで終わってくれるほどこいつは弱くは無かった。双剣を鬼月の刃に当てて神速を止めた。
ガキッと音が響いて、ギリギリと刃と刃でせめぎ合っていた。
双剣で鬼月とせめぎ合っているこいつは女のはずだ。だけど、僕が振り払うことができないほどに力が強かった。
「クッ・・・・!!」
「そんなもんか?!」
そしてこいつは、鬼月の刃を滑らせるようにして、鬼月を自分の後ろの方へ流した。顔だけ動かして、刃先を躱すと同時に前へ踏み込んできた。
鬼月を後ろに流され、無防備になった胴体へと双剣が振られた。
「死ね」
「・・・・死ぬかよ、これくらいで」
僕は避けることも、防ぐことも出来ないことを悟ると、一歩だけ後ろに下がると同時に、胴体があった場所に空気の壁を作り出した。封印を凝縮して硬度を高めた透明の盾が出現した。
「!! は?!」
目に見えない何かに弾かれてこいつの斬撃は僕には届かなかった。流石にこれには驚いたようだった。僕はすぐさま、右脚をこいつの脇腹を狙って振った。弾かれた衝撃で若干後ろ気味に体勢が崩れていたこいつの脇腹を僕は蹴り飛ばした。
「ぐっ・・・・!!」
無理な体勢で蹴って僕は転んだ。けれど同時に、蹴り飛ばされたあいつは、壁に叩きつけられ、壁を突き破っていった。
僕はすぐに立ち上がって、穴が空いた壁の方へと走った。
「一平! 絶対に死ぬな!!」
穴の空いた先へと進む前に僕とは違う奴と闘っている一平へと叫んだ。
「そっちこそ気をつけろ歩!!」
僕は頷くと、すぐさまあいつが飛ばされた方へと走った。
◆
「大丈夫か? お前の姉が飛ばされたようだが」
「・・・・大丈夫でしょ。お姉ちゃんがあれくらいでやられるわけないし」
弟らしき奴は一平から少し距離を開けつつ、黒いナイフを投げながらそう言った。
一平はそれを躱しながら、上に剣がついたリボルバーで撃っていた。
弾が見えているのかどうかは分からないが、さほど距離があるわけでも無いのに、奴は全ての弾丸を躱すか撃ち落としていた。
「随分と余裕そうだな」
「・・・・まぁね。弾丸程度なら避けれるし」
奴は平然とそう言い退けた。捉え方によっては、お前如きの攻撃じゃ、当たらないと挑発をしているようなものだった。
「いつまでそんな口が聞けるかな?!」
一平は歩と比べて、目の前の奴に実力で劣っていた。そもそも、一平は戦闘要員じゃなく、どちらかと言うと諜報や捜索などがメインであった。けれど、だからと言って弱いと言うわけでは無い。
一平は、銃弾を撃つと同時に、能力を発動した。一平の能力は空折力場というもので、視認している範囲限定で、風の流れを自在に変えることができる。だから、風を下から上に流すことで空中の足場にしたり、相手の攻撃方向と真逆に強い風を発生させて、攻撃を届かせないようにすることができる。
「これで簡単には避けられないだろ?」
一平は銃弾を撃つと同時に奴を囲むようにして辺りの空気の流れを一点に向けた。僕が封印で空気の壁を作り出すのとは少し違って、風をほぼ全方向から一点に流すことで移動を制限していた。
後ろに下がろうとしても、横に行こうとしても強い風によって押し戻される。奴は真正面から襲いかかる銃弾を見えているのに、回避することは出来なくなっていた。
「・・・・躱す必要は無いよ。全部撃ち落とせばいいだけだから」
奴は、腕を伸ばすと同時に、奴の影から無数の黒い武器が飛び出てきた。そして、影から射出されて弾丸を武器で弾き飛ばした。それだけに留まらず、黒い武器は一平に襲いかかった。
「チッ・・・・!」
一平は自分の目の前の風の流れを武器が飛んでくる方向と真逆に発生させた。しかし、その風の強さでは武器を押し返すことは出来なかった。見た目以上にこの黒い武器は重量があった。
「なっ!!」
一平は慌てて回避しようとした。けれど、もう目前まで迫っていたものを全て躱すことは出来なかった。致命傷では無いけれど、身体のあちこちに切り傷が出来ていた。特に、回避が遅れた左腕は無数の武器の餌食になった。直前で動きを遅くしたものの、左腕全体が斬られ、ズタズタになっていた。ノアか、高濃度の回復薬があれば治るけれど生憎、一平にその手持ちは無かった。
「ッッ・・・・!!」
「残念、僕の武器って軽そうに見えるけど、実はそうじゃ無いんだよね。僕の手から離れた武器はその重量が僕と同じになるからね」
「ぐっ・・・・。・・・・お前たちは、一体何者だ?」
斬り裂かれて服が破け至る所から出血している左腕を庇いながら、一平はそう言った。
「・・・・俺たち? うーん、そうだなぁ・・・・。良いよ、冥土の土産に教えてあげる。僕たちは中国暗部の人間」
構えていた黒いナイフ下ろして、少し考えてから奴はそう言った。
「! 中国暗部・・・・! 紫龍・・・・か?」
「!! 知ってるんだ。へぇー、物知りなんだね」
「ちょっと、待ってくれ! お前たち、いや君たちは無銘教でも市山財閥の関係者でも無い・・・・?」
銃をしまってから、一平は少し早口になりながらそう言った。顔には困惑の表情が浮かんでいた。
「? それはこっちのセリフなんだけど。え? 君たちって市山の奴らでしょ・・・・?」
そして、その動きに奴もまた困惑し始めているようだった。お互いに、よく分からない状態になっていた。
「・・・・いいや。僕は日本政府直轄組織『暁月』の人間。それで、さっきのもう一人が日本の金級冒険者だけど」
一平は、こんがらがっている頭で自分たちの素性をそう話した。
「日本の金級・・・・、それに歩・・・・。! もしかして、最近有名な刻藤 歩か!」
目の前に立っている奴・・・・、紫龍の人間は手をポンと叩いてそう言った。それに肯定するように一平は頷いた。
「・・・・あれ? ちょっと待って・・・・。って事は、お姉ちゃんが闘ってるのって敵じゃ無いってことじゃ・・・・?」
「もしかして・・・・、やばい・・・・?」
段々と整理がついてきた頭で二人は考えていた。今、お互いに言ったことが本当なら闘っているのは完全なる勘違いであると言うことに。そして、あの二人はどちらも力を持っている分、闘い続けたら、どちらかが死ぬまで続いてしまう。
少しずつ二人の顔が青ざめていった。取り返しのつかない状況になりかけている事に。
「「二人を止めないと!!」」
同時に二人は叫んだ。そして、ズタズタになった左腕を気にすることも忘れて、穴の空いた先へと二人とも駆け出していった。
◆
「いったたた・・・・。可憐な乙女を蹴り飛ばすとか、紳士さの欠片も無いね」
奴は、さっきの通路から何枚かの壁をぶち破って、一つの部屋の向かい側の壁に激突していた。
その姿を視認して、僕はすぐさま追撃を開始した。油断できる相手じゃ無かったし、速攻で片付けないといけない分、躊躇っている時間なんて一瞬も無かった。
「複式 虚爪」
奴が立ち上がるのを妨害するために、僕は遠距離から斬撃を放った。横一線に延びる斬撃が奴へと襲いかかった。
「ハハ、容赦無い。なら、こっちも本気でいく」
奴は立ち上がることなんてしなかった。そのまま、身体が地面の中へと沈んでいった。そして、虚爪は誰もいないただ激突した跡が残った壁を斬り裂いただけだった。
「は?!」
多分、奴の能力ではあるのだろう。ただ、どう言う能力なのかが全く分からなかった。
「ここは暗くて良いね。動きやすいや」
実体は無いのにただ声だけがそうこの部屋に響いた。確かに、奴の言うとおり、この部屋はさっきの通路と比べて明かりがなく、ほとんど真っ暗であった。
「チッ、暗いところに潜るとかそう言う能力か!」
「・・・・さぁね?」
真後ろからそう囁くように言われた。僕は背筋が凍るようなゾッとした感覚を感じて直感的に前に倒れ込んだ。
僕が前に倒れ込んでコンマ一秒もしないほどで、首があった場所を何かが斬り裂いた。少し残っていた後ろ髪が斬り裂かれた。
「そこかよっ!!」
僕は前に倒れ込むと同時に、身体を捻ると同時に真後ろに鬼月を振った。
けれど、そこに実体は無かった。確かに、さっきまで奴がいたはずなのに、もうそこに姿は無かった。そして、同時に急に僕の身体が重くなったように感じた。重いと言うよりかはだるくて力が入りにくい感じだった。
「ぐっ・・・・!?」
「動きにくいよね。だって君の影を断ったからね」
「影? どう言うことだ・・・・?」
「さぁ、どう言うことでしょう?」
身体は重いけど、力は入る。多分、奴の能力は暗い所じゃなくて、影を媒介にした能力だと思う。影を使ってデバフやバフをかけるような能力なのだと思う。だったら、暗い所を無くせば良い。この部屋の中くらいだったら、一発で炙り出せる。
「暗いところがお好きか? だったらこれでも食らっとけよ」
僕は異空鞄の中から球を一つ取り出した。そして、先端にあったボタンのようなものを一度押して宙に投げた。
僕が左腕で顔を抑えた瞬間、部屋一面に大きな光が飛び散った。
「ぐっ・・・・!!!!」
小さく呻き声を上げて奴が暗闇から姿を現した。
「終わりだ、四式 冥突」
奴の心臓目掛けて僕は鬼月を突き出した。けれど、何故か突き刺した奴に手応えは無かった。
鬼月を突き刺した奴の姿がバシャっと黒い液体のようなものに変わった。
「あーあ、ストックが無くなっちゃった。でもまぁ、隙は出来た。・・・・発勁ッッ!!」
その瞬間、僕の背後から脇腹に鋭い打撃が打ち込まれた。身体の内部にまで響く重く鈍い打撃を打ち込まれた。
「がっ・・・・!!!!!!」
さっき斬撃によって斬り裂かれた壁の方へと僕が吹き飛んだ。
「お返しだ」
奴の言うとおり、さっき奴が吹き飛んだように僕が吹き飛んでいった。身体が壁にめり込んでニ〜三枚を突き破っていった。
僕の身体が壁に激突して、床に落ちた。
【歩!! 今戦っている奴は無銘教でも市山でも無い!! 戦うな!】
右耳につけていたイヤホンから一平の声が聞こえてきた。壁に激突した衝撃でイヤホンが故障したのか、ノイズ混じりにそんな内容が伝えられた。
そして、その内容が伝えられたのち、他には何も聞こえてこなくなった。
「ゲホッ・・・・。は?! どう言うこと?! 一平・・・・? 一平?!」
けれど、そんなことに構っていられるほど余裕のある状況じゃ無かった。ズキズキと痛む脇腹を抑えつつ、立ち上がると奴の方を向いて叫んだ。
「待ってくれ! 僕たちはどうやら敵同士じゃ無いらしい!! だから、一旦やめろ!!」
「ハッ、今更そんな嘘が通じる訳無いでしょ!!」
けれど、奴は聞く耳を持たなかった。僕の発言を嘘と切り捨てて、猛スピードで進んできた。幸いだったのは、ここはさっきとは違って明かりがついていることだった。
「嘘じゃ無い!! 仲間がそう伝えてきたんだ!!」
「それで油断させようとしてるんでしょ?! そんなの私には通じないから!」
マジで話が通じない。まぁ、でも確かにこんな状況でそんなことを言われたところで信じる訳はなかった。僕が逆の立場だったら、信じる事は無いだろう。
いやでも、少しくらいは聞いてくれても良いだろ。
『主人!! この真下です!! それと時間がもう!!』
付喪神がそう叫んできた。腕時計に一瞬だけ、目をやるともう三分が経とうとしている所だった。
「・・・・分かった。ありがとう付喪神」
『でも、どうするんですか?!』
「そんなの決まってる。突貫工事で行くしか無い」
僕は異空鞄からお面を取り出した。そして、つけた瞬間に身体を黒い液体が覆い尽くした。
「! 何それ? やっぱりさっきのことは嘘だったんだね?!」
「封印:部分指定:融合」
僕は纏った瞬間に右腕だけ融合させた。鬼月を右手で持つと、奴ではなくて、地面に向かって構えた。
「うるせぇ、人の話をちゃんと聞かないなら無理矢理従わせるしか無いだろ。柳生新陰流 一刀 奥義 月影」
全力の一振りを床に叩き込んだ。ドガンという轟音が響くと同時に床が陥没した。その威力はこの床をぶち抜くだけでは収まらずに、下の階の地面も抉り取った。下の階が最終階層だったらしく、月影によって地層が剥き出しになっていた。
「! 何だ?! 何が起こった?!!!」
下の階からそんな叫び声が聞こえてきた。
下の階に二人がいることを僕は視認した。下の階には、二人だけじゃ無くて、他にも色々といた。その中には先生・・・・いや四島の姿もあった。
「! ハハッ、そりゃやばい。だけど、それじゃ躱せないでしょ?!」
奴は、少し空中に浮いて、身動きがほとんど取れない僕に斬りかかってきた。
「いいや? 躱せないのはそっちの方だろ?」
僕は焦ることなく、空を蹴って空に登った。封印で固めた空気の足場を使って空中で移動をしたのだった。
「!!」
「ちゃんと受け止めろ、じゃ無いと死ぬぞ」
「まじかよっ・・・・!」
僕は斬りかかってきた奴の更に上から左手に鬼月を持ち帰ると、真下に振り被った。奴は双剣を十字に交差させて、なんとか直撃は防いでいた。けれど、双剣が叩き折られた上に威力を殺すことも出来ずに、一直線に吹き飛ばされ下の階の床に身体ごと叩きつけられた。
「ごふっっっ・・・・!!」
相当な衝撃が加わって、奴は気を保つのが精一杯のようだった。何とか身を起こすことができるほどだった。
僕はそれを見てから重力に従って、二人が囚われていた場所に落ちていく。
「助けに来たよ、二人とも!」
何よりも先に僕の口からその言葉が出た。
やっと言えた。僕はやっと目的の半分を達成したのだった。
無傷の二人と再会を果たした瞬間だった。
◆
少し時間は遡り、歩たちが中国に着く少し前。
牢屋の中で、二人は一時の安心を得ていた。さっきから、何回か兄を殺された恵三と呼ばれていた男が降りてきては私たちに少し離れたところからナイフや石を投げつけていた。しかし、その全ては見えない盾のようなものに阻まれ一つとして当たることはなかった。
「ねぇ、深鈴。私たちに何が起こってるの? あんたの能力で分かったりしないの?」
「友里は知ってるでしょ。私の能力は任意で出来ないの。それに、視えることを指定することも出来ないんだから」
「分かってるけど・・・・。ひとまず、私たちは安心していいって事なんだよね?」
「多分、大丈夫だと思う。でも、誰が? それにどうやって・・・・?」
二人とも、そこが分からなかった。誰がこんなことをしてくれているのか。それに、こんな事をしてくれているのに、助けは来ないのが不思議でしょうがなかった。
それに、何よりも方法が分からなかった。スマホを含めて持ち物は全て没収されている。それに、服などにも細工はされていない。
なのに、自分が護られているこの状況が考えても一向に答えが出なかった。
「・・・・友里。能力は今使える?」
「・・・・、使えてたらもう使ってるわよ。アイツが言ってたけど、この牢屋の中じゃ能力が使えないらしいわ」
手を何度か握ったり開いたりしながら友里がそう言った。
その時だった。誰かが階段から降りてきた。
「何の用よ」
「アハッ、そんな警戒しないでよ」
それは、文字通り先生の皮を被った四島であった。
「君たちさ、攻撃が反射されて効かないらしいね」
「・・・・だからどうしたのよ」
「でも、それって君たちの能力じゃ無いでしょ? ってことは外的な要因なんだけど、それを長時間維持するのって無理だと思うんだよねー」
四島はワクワクした様子で鉄格子の前を歩きながらそう言った。
「だから、外から攻撃を続けてたらそれは消えると思うんだよ。アタシの担当は拷問だからさ。・・・・どれだけ、持つかな?」
そう言った四島の後ろから、ゾロゾロと人が降りてきた。そして、その中には恵三たちの姿もあった。
「直接的じゃ無くても間接的に人の心を壊す方法はあるからねー」
四島は先生の顔で口角を吊り上げた。ゾッとするほど、恍惚とした表情で二人を見ているのだった。
「な、何を・・・・」
友里の質問に答えることもなく、拷問が始まるのであった。精神的にストレスを与えるものや、結界によって防がれる事を承知で同時に外からの攻撃が四島たちの手によって行われ始めた。
幸いだったのは、付喪神の結界は身体的なことだけで無く、精神的なことすらも防げると言うことだった。結界は対象の心身ともに防御をしてくれるものであった。ただし、精神の安定に削がれる力のリソースは身体を守るものとは比べ物にならないほどに大きかった。
「アハハッ、楽しい時間の始まりだねー!!」
狂気的に四島は笑う。精神が壊れないように結界によって護られているとはいえ、恐怖を感じないわけでは無い。
今の四島たちの存在は二人に恐怖を与えると言う点では余りあった。
そして、効果は直ぐに現れ始めていた。
二人の纏う光が少しずつ薄くなっているのであった。
「あれ? もう薄くなってきてんの? じゃあ思ってたよりずっとその防御は長く続かないんだね」
四島は自分の仮説が当たっていた事に嬉々としながらそう話していた。
「!! ・・・・、、あなた達は・・・・、無銘教は、何でこんな事を・・・・」
深鈴さんがそう少しだけ声を震わせてそう言った。
「・・・・。アタシは理由なんて無いよ。ただ、こんなことが出来るこの居場所が楽しいだけ。人をいたぶって、傷つけて、殺して。アタシはそれが楽しいだけ」
「屑が・・・・」
友里がそう呟いた。
「そうだよ、アタシは屑だよ。でも、君たちは、そんな屑にこれからやられるんだよ」
二人の恐怖を煽るように、歪な笑顔を顔に浮かべながら四島がそう言った。
二人を獲物と狙った獣の手が着実に近づいていくのだった。
◆
「!! 刻藤 歩!!」
四島が上から落ちくる僕を見ながらそう叫んだ。
そして、同時に付喪神の結界のタイムリミットが訪れた。
牢屋の中の二人の表面にヒビのようなものが入って、二人を覆っていた光が消え散った。
「残念だったなぁ、刻藤 歩! お前は少しだけ遅れた!!」
牢屋の中に入った少し太った体型をした中年の男が二人に向かって銃を向けた。安全装置を外して、リボルバーを回すと引き金を引いた。
「テメェ!! 殺すぞ!!!!!!」
空中で僕は加速した。固めた空気の足場を蹴って、牢屋へと一瞬で距離を詰めた。
———歩、牢屋では能力は使えないはずだ。気をつけろ。
レティアがそう話しかけてきた。
(「! 分かりました」)
何でレティアがそれを知っているのかは分からないけれど、僕はレティアの言葉を信じた。
「一式 虚空」
そして、牢屋の鉄格子を切り刻むと同時に、虚空で二人に向かって飛んできた銃弾を弾き飛ばした。
「お前たちが・・・・、お前たちが、兄ちゃんを!!」
銃弾を弾かれた中年の男が叫んだ。
「五月蝿ぇ。逆恨みをしてんじゃねえよ。お前たちが始めたことだろうが」
僕は躊躇なんて微塵もする事なく、その男に肉薄した。
「四式 冥突」
僕は男のある一点だけを狙って鬼月を突き刺した。なるべく苦しむように、なるべく長く痛みを味わわせるために。
男の肝臓を僕は抉り取った。お面の服のお陰で僕の力は上がっている。だから、腹に突きを繰り出したら、一点だけじゃなくて、その付近もろとも抉り取ってしまう。だから、他の場所を壊さないように、優しく、弱く突き刺した。
「お前に出来るのはただ一つ。なるべく長く苦しんで、死んでくれ」
「ゴボッ・・・・。ぐっっ、あぁっっ・・・・! ッッッッアアッ・・・・!!」
僕はそう言い放った。男は口から大量の血を溢しながら後ろに倒れた。刺された肝臓の辺りを抑えながら、呻いていた。どれだけ抑えても血が流れて、すぐに地面に血溜まりが広がっていった。
「・・・・二人とも、もう少しだけ動かないで待ってて」
僕は二人の両腕につけられていた手錠を破壊してから、そう言った。僕はずっとお面をつけたまま二人の顔を直接見ないようにしながら、四島の方へと向き直った。
「・・・・久しぶり。とは言っても数時間ぶりだねぇ」
「・・・・そうだな。殺したくて、しょうがなかったよ。四島 真香」
「君に何が出来ると言うのかな? 女二人を守ることすらできなかったと言うのに。それに、君は一人だ。対して、こちらは大勢だ」
四島が言うように僕の目の前には、十数人の敵がいた。
「二人を守れなかったから、わざわざお前を殺しに来てやったんだ。感謝しろよ? それに、多ければ良いって言うもんじゃ無いだろ。烏合の衆って言葉を知らないのか?」
「ハハ・・・・。確かに、それも一理あるねぇ。だけど、烏合の衆でも時と場合によっちゃ、強者を追い詰めることはあるだろう?」
「・・・・、それが遺言で良いな?」
僕は下ろしていた鬼月を構えてそう言った。
「ハハハハッッ・・・・!! ・・・・やってみろ」
崩れた鉄格子を挟んで僕たちは睨み合っていた。
天井が崩れた少し広いこの部屋で、激突しようとしていた。
———いや激突なんかじゃなかった。
あれは、ただの虐殺だ。
更新が遅くなりました。すいません。
次回は土曜日までには更新はしたいです。
もうそろそろ、小説を始めて一年が経つのでそこまでには四章は終わらせたい・・・・ですね。
これからも、この作品を見ていただけると嬉しいです。
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