八十二話 日の届かないところへと。
午後八時
僕たち冒険者は組合の地下の一室に集められていた。
「でも、どうやって、中国まで行くんだろう?」
「まぁ、魔道具だろうね。でも、ここまで大人数を一斉に飛ばすとなると・・・・。確かに、どうするんだろう」
「話のコシを折るようで悪いんだけど。歩、これを持っとけ」
僕とレナが話していると、異空鞄から色々取り出しながら、ノアが僕にそう言った。
「これは?」
「煙幕弾と、閃光弾。あと、回復薬。歩の目的は、二人の救出だろ? だから、なるべく足止めとか撹乱が出来るものを持っておいたほうが良いと思って」
ノアは、言った二つの道具出して見せながらそう言った。
「なるほど、分かった。ありがとう、ノア」
「うん」
僕は、ノアから煙幕弾と閃光弾を合わせて十個もらい、回復薬もまた十個もらって、異空鞄の中へと仕舞い込んだ。
「使い方は分かるよな?」
「うん。この前聞いたし」
「よし、それなら良い」
ノアは異空鞄を閉じると、背負って立ち上がった。
「・・・・それでは、全員で中国に飛びます」
冒険者の数を数えていた一平がそう言いながら、服の内ポケットから中に何かが詰まった袋を取り出した。
「これは、転送砂塵という魔道具です。砂で円を囲った部分同士をどんなに離れていても一瞬で連れて行ってくれるというものです」
一平が僕たちを一ヶ所に集まるように指示した。そして、僕たちを囲むようにして砂を少しずつ周りに撒いていった。
「最後に、もう一度だけ言いますが今回においてもう一回は絶対にありません。失敗は許されないので努、その事を忘れないで下さい」
ここにいる冒険者は誰一人として、臆するものはいなかった。全員が、強い意志で頷いた。
そして、一平は一部だけ途切れた円をつくると、自身もまた囲まれた中に入って、左腕につけていた時計を見た。
「「刻藤君、どうか娘を頼んだ」」
円の中で待っていると、悠馬さんと伸治さんが僕の方へと近づいてきた。そして、二人とも僕に頭を下げて頼んできた。ここには、他の冒険者も多くいるというのに、体裁など気にする事なく二人はそうして頭を下げた。
「はい、絶対に・・・・!」
だから、僕は全力で答えた。
少しの雑念を含む事なく、僕はそう言い放った。
「・・・・ああ、頼んだ」
「刻藤君、無事に帰って来てくれ」
「はい!」
「時間です。行きますよ」
そして、時計の秒針を見ていた一平が時計から目を離して、途切れていた部分に砂を撒いた。
その瞬間、身体が一瞬だけ浮いたような感覚の後、眩い光が視界を埋め尽くした。
一秒もしないうちに、円の中にいた冒険者達の姿が消え去った。静かになった部屋で、二人を電球の光が照らしていた。
「・・・・行ってしまったな」
「私たちも、やれるだけを尽くそう。そうだろ? 悠馬」
「・・・・、そうだな。願わくば、全員、大事無く戻って来てほしいものだな・・・・」
二人は部屋を出ると、別々に歩いて行った。しかし、その目的だけは同じ方を向いているのだった。
ゆっくりと、音を立てる事なくドアが閉まっていくのだった。
◆
中国 上海市
目を開けると、草木がうっそうと茂っていた林に僕たちは立っていた。
沖縄よりも気温が低く、夜風が少し冷たいほどに吹いていた。街灯のない林を月明かりが照らしていた。
「到着したか」
「はい。冒険者、五十一名全て到着しました」
林の中にはもう既に鞍馬さんが立っていた。一平は、鞍馬さんに向かって、お辞儀をしてから、そう報告した。
「ご苦労だった、一平」
「はい、ここからの指揮はお願いします」
「ああ。気をつけろよ、一平。命令だ、必ず生きて戻ってこい」
「了解です」
鞍馬さんは一平の顔を見て、フッと笑うと冒険者達の方を見た。
「ダンジョンまではここから移動する。ついて来い。それと、予定通り、この二人はここから別働隊として動く。俺たちの目的は速やかな無銘教及び闇組合の制圧だ。行くぞ!」
冒険者達は静かに、けれど強く頷いた。
「歩、僕たちはここから別行動だ。行くよ」
「頑張ってね、歩君。・・・・、特に何か言うことは無いね、・・・・うん。頑張ってね、歩君!」
「こっちは心配しなくていいからな。やりきれよ、歩」
「うん、行って来ます」
「「行って来い」」
そう言うと、二人は僕の背中を押した。僕は押されるがまま、一平と走り出した。
レナとノアは振り返って鞍馬さんたちの方に戻って行った。
僕たちは、それぞれの目的のために、分かれて進むのだった。
◆
「? 林の中じゃないの?」
僕は思わず、隣にいた一平に首を傾げて尋ねた。
「人を隠すには、人混みに隠したほうが良い。それと同じだよ。奴らがいるダンジョンは市街地の中、それもある店の一角に存在するんだ」
「・・・・マジで言ってる?」
「うん。だから今回は、他の善良な住民たちに被害が出ないようにもなるべく迅速かつ静かに制圧しないといけない」
「・・・・分かった」
「でも、躊躇は要らないからな。容赦は一切しなくて良い」
「分かってる」
「・・・・、そろそろ着くよ」
僕はそう言った。決意が鈍る事ないように、少しも臆すことのないように。今度こそ、二人を守るために。
『主人。そろそろ、眠くなって来たです。奴ら、結界を壊そうとしていて、だんだん力が弱まって来たです』
僕の耳元で、付喪神がそう囁いて来た。さっきまでとは違って、疲れたように小さい声でそう言った。
「! ・・・・、もう少しだけ、もう少しだけ頑張って。すぐに僕たちが駆けつける」
『分かったです・・・・。でも、本当にそろそろ結界が無くなるので急いで下さい』
「うん、ありがとう」
それを聞くと、付喪神は姿を妖精のような姿から、元のお守りに戻した。
僕はお守りを首にかけながら、ぎゅっと握った。
「一平、急ごう」
「うん、もう着くよ」
林の中とは違って、街灯や、ビルの光が燦々と輝く、道を僕たちは歩いていく。
辺りには、屋台や、店が立ち並び、冒険者のような格好をした人たちも多く歩いていた。活気が良く、至る所から笑い声が聞こえてくる。こんな事態じゃなければ僕もこの楽しい雰囲気に身を任せていただろう。
そんな中で、異様とも言える僕たちは店へと歩いていった。
◆
猪肉餐馆
そして、林を抜けてから数分で、目的地まで辿り着いた。デカデカと日本語に訳すと、豚肉料理の店と書かれた看板が掲げられていた。
「ここ?」
「そう。表向きはただの食堂だよ。だけど、闇組合と市山財閥の息がかかってる。人身売買、誘拐、他にも沢山。相当、悪どいことをしている」
一平は奥歯をギリッと強く噛み締めながらそう言っていた。一平とは思えないほどにその目には怒りが満ちていた。
『主人、この地下です。地下何階かはよく分からないんですけど・・・・。でも間違いなく、この下にいます』
お守り状態の付喪神が僕にそう伝えて来た。結界に力を使って眠くなったのか、少し声が途切れ途切れだった。
「分かった。ありがとう」
『はい、お気をつけて。主人』
だんだんと光が薄くなったお守りがそう伝えてきた。
「中に一般人はいる?」
「いる。だから、奴らには気づかれずに、そして、一般人にも影響が出ないように行かないといけない」
こくっと小さく一平が頷いた。
「・・・・どうすれば良い?」
「良いか? 僕たちはアイツらに顔がバレてる。だから、魔道具を使う」
「魔道具って・・・・、ノアが使っていたような姿を隠せるマントみたいなの?」
「そう。僕たちは、これを着て姿を消す。そして即刻、下に続く道を見つける。あとは二人を見つけ出し次第救出、そして脱出をする。分かった?」
異空鞄の中から取り出した少し色がくすんでいたマントを僕に手渡しながら、一平がそう言った。
「分かった。下への道の目安はついてる?」
「・・・・それが全く。少し調査はしてたんだけど、下への道は全くとして情報が得られなかった」
少し申し訳なさそうな表情を浮かべながら一平は首を横に張った。
「・・・・、付喪神はどこか分かったりしない?」
『すみません、主人。二人がどこにいるのかは大体分かるんですけど、下の道がどこからとかは・・・・』
「そうだよね、ごめん」
『いえ、お力になれずすみません』
「・・・・歩。自分で言うのも何だけど、暁月の調査は超一流だ。でもそれでも、見つけられないってことは、正攻法じゃ無いって事だよ」
「? 正攻法じゃ無い・・・・?」
「もしかしたら、通路に通じるものが何かしらに擬態、もしくはドアそのものに細工しているのかもしれない」
「! そんなの、分かるわけが・・・・」
「いや、何かしらの特徴や不可思議な点があると思う。だから、どんなに小さいことでも良いから意識を張り巡らせて」
「分かった」
「よし、じゃあ行くよ」
◆
上海市
「ねぇ、お姉ちゃん」
「何、どうしたの?」
どこかのビルの屋上で、姉弟と思われる二人組が立っていた。
眼下には煌びやかな街並みが広がっていた。
「市山って奴らをぶっ殺せば良いんだよね?」
「そうだよ。地下にいる奴らは全員、市山の関係者らしいから。遠慮はしなくて良いわよ」
「今回は楽そうな仕事で良かったね」
「早く片付けないと、またどやされるわよ」
「・・・・。それもそうだね。じゃあ、ささっと終わらせちゃおっか、お姉ちゃん」
二人はそう言いながら、影の中へと落ちて行った。
素性の分からない二人が、僕たちへと近づいているのだった。
◆
猪肉餐馆 店内
僕たちは、他の客が入ったタイミングで同時に店の中へと入った。
店の中は、いかにも中華料理屋のような風貌をしていてほんのりとオレンジ色を帯びた照明が店内を照らしていた。
僕たちは店内に入ってすぐさま別々に捜索を始めた。一平の言う通り、下に続いているような階段や、入り口は見つからなかった。
一平が事前に言っていた何か特徴などがあるものすらも見つけることはできずにいた。
【一平、見つかった?】
僕は耳につけたワイヤレスイヤホンを通じて、一平にそう尋ねた。
【・・・・何も。てっきり、何かに擬態しているのかと思っていたのに・・・・】
———歩、扉そのものに仕掛けがあるぞ。入り口とかそう言うことじゃ無い。ただ、扉自体に仕掛けがある。
(「どういうことですか? 扉自体に仕掛け・・・・?」)
———金庫のダイヤルのようなものだ。何か特定のことをすると、開くだろう? それと同じような事だ。多分、さっき見た厨房の中の扉だ。
確かに、厨房の中には扉が一つあった。しかし、その扉はただ裏口に繋がっているだけの至って普通の何の変哲もない扉だった。
(「! だとしたら、その暗号は何なんでしょう?」)
———今回は答えを教える。そういった魔道具を使うのは無銘教の奴らだ。奴らが使うのは大きく分けて三つ。今回に関してはそのうちの一つの右に一回、左に三回、そして一度だけ手前に引け。多分、これで開くはずだ。
(「何で、知っているんですか・・・・?」)
———今はそこはどうでも良いだろう。君は、二人を早く助けるんだろう?
(「・・・・そうですね」)
———ああ。分かったのなら、早く行け。
(「・・・・はい」)
まただ。また、レティアに違和感を感じた。日に日に、レティアへの違和感は高まっていく。レティアは一体何者なんだ?
いや、黒級の冒険者なのは分かってる。だけど、それ以外が何一つとして分からない。
今もレティアから理由の分からない怒りの念のようなものを感じていた。知らなければ、聞かなければいけない事が沢山ある。
けれど、今はそれよりもやられなければならないことがあった。だから、また、ちゃんと聞くことができないまま、僕は厨房へと急いだ。
【! ・・・・一平、見つけたよ。厨房の中にいるから来て】
僕はレティアに言われた解除方法を試した。すると、カチッと何かが解除されたような音がした。
厨房にいる人たちにバレないように少しだけドアを引いて中を見た。そこは、さっき見た外では無かった。薄暗い路地裏では無く、壁に松明のようなものがかけられた通路に変わっていた。
僕はそれを確認してすぐに一平を呼んだ。
【!! すぐに行く】
手短に伝えると、一平は驚いた様子でそう答えた。
そして、一分もしないうちに一平は厨房に来た。
僕たちは従業員に当たらないように最大限の警戒をしながら、ドアの前に立っていた。
ドアは一度閉めると元に戻るのか、開けると元の路地裏になっていた。
【どこにある? その入り口は】
【今、開ける】
僕はそう言うと、目の前のドアノブをさっきと同じように回した。
【良い? 一平。せーので行くよ。1・・・・、2・・・・、せーのっ!】
僕たちはタイミングを見計らってから、扉を開けると中へと飛び込んだ。
中はさっき見た通路に変わっていた。
後ろの扉が閉まったあと、ガチッともう一度施錠される音がした。
「凄い・・・・。本当に入り口になってた」
マントを脱ぎながら一平がそう言った。僕もマントを脱ぐと一平に手渡した。
「でも、何で分かった? こんなの分かりようが無いでしょ・・・・。特にあの決まった動作なんて・・・・」
「・・・・いや、勘だよ。偶々としか言いようが・・・・」
僕はまた、レティアのことは言わずに一平にそう言った。
けれど、一平は何かを隠しているのを薄々気づいているようだった。
「・・・・、、まぁ良いや。今はそれよりも」
「うん、分かってる。早く二人を助けないと」
そして、僕らは急いだ。幸い、ここら辺に人の気配は無かった。だから、警戒はしつつも僕たちはこの通路を走って行った。
『主人、近くなって来たです。ただ、もう少し下です』
「分かった。結界はあとどのくらい?」
『・・・・、もうギリギリです。十分・・・・、いや七分くらいが限界です』
「分かった。あと少しだけ耐えて」
『はい』
◆
歩たちと別れたあと、レナたちもまた林を抜けてスラム街のような場所へと移動していた。
スラム街は治安がいいわけでは無かったけれど、五十人ほどいる冒険者の集団に喧嘩を売るほどでは無かった。
レナたちは特に問題がないまま目的地へと向かっていた。
「レナさん、無銘教ってことは、鬼丙 陸がいますよね・・・・」
「・・・・うん。アイツには、借りを返さないといけないしね。もし戦闘になったら、サポートは頼んだよ」
「はい、それはもちろん。・・・・歩は大丈夫ですかね? また、いろんなものを必要以上に背負って躊躇しないですかね?」
「そこが歩君の良いところで悪いところなんだよね・・・・。まぁでも、大丈夫だと思うよ。多分、歩君の中でだんだんと纏まってきたんじゃないかな? 少しずつ、少しずつだけど自分の中で答えが出せて来てるんだと思うよ」
レナはさっきのことを思い返しながら、そう言った。
レナは僕に何か言おうとしてやめた。それは、僕の顔を見て、もう心配無いと思ったからだった。僕は少しずつ答えを出した。その場だけしのげるような薄っぺらい答えじゃ無くて。ちゃんと自分が納得できる、嘘偽りのない答えを。
「・・・・レナさんがそう言うなら、心配無いですね」
「うん。だから、私たちも頑張ろう、ノア君」
「はい!」
「うーん、やっぱりパーティーなだけあってお互いに信頼してるんだねぇ」
そう言いながら、沖縄のダンジョン組合のマスターである街中 さざめが二人にそう話しかけた。
「良いパーティーだよ、君たちは。良かったね、レナ」
「本当に良かったですよ。そう言うさざめさんはパーティー組まないんですか?」
「アタシはソロが向いてるのさ、性格的にね」
レナとさざめさんは既知の仲であるようだった。まぁ、確かに二人とも金級の冒険者だし、お互いにコネクションがあっても何ら不思議では無かった。
「・・・・さざめさん、大丈夫ですか?」
「何がだい?」
「いや、ピリピリしてますから」
「・・・・隠してたつもりだったんだけどねぇ。正直、最高にアタシはイラついてるのさ。沖縄の人が、冒険者が殺されて。はい、そうですかって黙っていられるほど出来た人間じゃないからねぇ」
そう言いながら、さざめさんは握った右手を左の掌にバシッと当てた。
「・・・・思いは皆んな同じですよ。アイツらを潰すためにここにいるんですから」
さざめさんだけじゃない。ここにいる冒険者はダンジョンに近づくにつれてどんどんと殺気がその瞳に強く映し出されていた。
「ああ、そうだね」
「・・・・止まれ」
そう話しながら歩いていると、先頭を歩いていた鞍馬さんが合図をして全員を止めつつ、物陰に姿を隠させた。
「目の前に見えるあの穴だ」
鞍馬さんがそう指し示すところを見ると確かに、なぜかぽっかりと大きな穴が空いている場所があった。
「周りにいる奴らは一般人ではない。全員、無銘教関係の者だ。三十秒後、ここにいる全員で突撃、及び壊滅させるぞ。良いな?!」
確かに、穴の周りには、ホームレスのような姿をしている人が十数人ほど散らばっていた。
そして、全員が一斉に頷いた。ある者は、仇を取るために、ある者は平和を願ったために、ある者は、怒りの為に。
そして、、
「壊滅させるぞ、無銘教!!」
三十秒。ここにいる全ての冒険者が飛び出した。それは、もはや災害とも呼べる勢いだった。銅級以上の冒険者五十名が一斉にその暗く大きな穴へと走り出した。穴の周りには散らばっていた者たちは、殆ど何も出来なかった。
暗い夜に突如として現れた大波に、声も出すことを出来ないままその者たちは呑み込まれた。
そして、無銘教を潰すために、穴へと入っていくのだった。
◆
猪肉餐馆 地下
僕たちは通路を走って行った。そして、分かれ道の手前で人の気配を感じた。
「歩、誰か来てる」
「分かってる。だけど、そんなのにいちいち構ってられない!」
僕は動きを止めようとしていた一平に見向きもしないままに、分かれ道の方へと走り続けていた。速度を落とす気は今の僕にさらさら無かった。
そんなことをすれば、鉢合わせになるのは目に見えていた。
「!! お前!」
「二式 神速」
けれど、それは問題にはならなかった。僕は視認した瞬間に、少しとして躊躇をすることなく、鬼月を振った。
顔に刺青が入ってスーツを着たスキンヘッドの男の首が落ちた。少し間が空いたあと、身体がよろめいて地面に伏した。
多分、これは市山財閥の人間だろう。
「歩、・・・・。いや、ありがとう。先に行こう」
「うん」
僕は血が表面に薄くついた鬼月を振って血を落として鞘にしまった。
「歩、右に行くぞ。こいつが右から来たと言うことは、こっちにある可能性が高い」
そして、僕は一平の言ったことに同意すると、分かれ道を右に曲がって走り出した。
◆
猪肉餐馆 地下二階
僕たちは分かれ道を右に曲がったあと、しばらく走ると、下へ続く階段を見つけた。
僕たちの進んだ道は血に濡れて、真っ赤に染まっていた。
至る所に事切れた沢山の人形が横たわっていた。
「はぁ・・・・、階段の前にあんな部屋があるとは・・・・。歩、大丈夫か? 僕の三、四倍は斬ってたけど」
僕たちのいる階段の前には一つの大きな部屋があった。そして、その部屋の中には、市山財閥の関係者思われる人たちが多くたむろしていた。大体四十人程度の数の男たちがそこにはいたのだった。僕たちはそれを全て斬り伏せて階段の前に立っていた。
「・・・・、、大丈夫だよ。むしろ、一平の方が大丈夫?」
「僕は大丈夫。歩が大丈夫なら、すぐに行くよ?」
「うん。先に行こう」
僕たちはひと息つく暇もないままに、階段を駆け降りて行った。
一平は、少し不安と、恐怖が混じった感情で僕を見ていた。
一平はさっきの戦闘・・・・、いやもはや虐殺を間近で見ていた。相手に反抗をほとんど許す事なく一方的に嬲り殺しにしていく僕の姿に少し恐怖を抱いていた。
「どうしたの? 一平」
「いや、何でもない」
◆
猪肉餐馆 地下二階
「ねぇ、お姉ちゃん。俺たち迷った?」
「・・・・・・・・」
「ねぇ。さっきあんなにドヤ顔で言ってたのに・・・・」
「・・・・、しょうがないじゃない! ここら辺、殺風景な上に何も無いんだもん! 今どこにいるのか全く分からないのよ!」
「はぁ・・・・。お姉ちゃんの方向音痴ときたら・・・・」
「うー! ・・・・でも、本当にどうしよう・・・・」
二人組のうちの女の子の方ががっくりと肩を落としながら、落ち込んでいた。
「とりあえず、来た道を戻るしか無いんじゃ・・・・」
「! ・・・・静かに。何か音がする・・・・」
少し背の高いポニーテールの姉が背の低い弟にそう言った。
二人がいる場所は、歩たちが階段を降りて走っている先であった。
「へぇ、俺たち以外に誰か来た?」
少しふざけていた二人は途端に真剣になった。どこから取り出したのか、両手には短剣のようなものが二振りずつ握られていた。
「そりゃ、まだいるよね。じゃあ、さくっと殺しちゃおっか」
「そうね。すぐに下への道を見つけないといけないしね」
そう言うと、二人は溶けるようにしてその場から消えた。
二人は静かに、そして気配すらも掴ませないままに獲物を待つのだった。
◆
「付喪神、まだ下? それともこの階?」
『この下の階です。段々と気配が強くなってきたです』
僕は左腕にしていた時計をチラッと見た。さっき付喪神に聞いた時から、すでに四分ほどが経過していた。残りは、もう三分ほどしか無かった。
「分かった。二人がどこにいるか分かるようになったら、教えて」
『分かりました』
(「時間が・・・・!」)
少し僕の中で焦りが生まれ始めていた。だけど、こんな状況だからこそ、冷静にならなければならない。僕は焦る気持ちを心の底に沈めながら、進んで行った。
そして、冷静になった事で僕の命は助かったのであった。
今でも時々思う。あの時、焦ったまま進んでいたら、間違いなく僕の命は無かったと。
———結界が消えるまで、残り三分。捕まる前と同じ状態で二人を助けることが出来るタイムリミットであった。
更新が遅くなってしまいすみませんでした。
これからはなるべく三日に一回か、一週間に一回は更新できるようにします。
次の更新は木曜日になると思います。
一応、本編の補足として。本編で初登場した姉弟は、歩たちとは違った入り口から入ってきてます。深鈴と友里が囚われている場所へつながっている入り口は複数あります。そのため、歩たちが通った場所では無いところから来てます。それと、姉の方向音痴はとんでも無いです。地図も読めません。多分、「新宿駅から出て都庁まで来て」と言われたら、丸一日は掛かります。それくらいの極度の方向音痴です。
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