八十話 行き場の無いこの気持ちは。
「何でっ、、何で僕を止めた! 一平!!」
僕は強引に一平の腕を振り払うと、胸ぐらを掴んだ。一平は特に反抗することなく、ただ僕を見ていた。
僕は一平の服を思い切り掴んだまま一平に叫んだ。
まるで、自分が何も出来なかったのを八つ当たりするように、ただ見ていただけだった僕が許せなくて、その捌け口を探すように。
「何で、何でっっ!! あれじゃ、二人はっっ・・・・!」
「・・・・・・・・、もう良いか、刻藤。そろそろ離してくれ」
「っ———!!」
僕は右腕を握りしめて、一平を殴りつけようとした。
けれど、一平の腕に当たる前に、僕は腕を下げた。ただ、唇を強く噛み締めて、掴んでいた服を雑に手放した。
握りしめた右手からは、爪が食い込んで血が溢れ出てきていた。
「・・・・すぐにダンジョンを出るぞ。まずは、他の生徒たちを確認しないといけないからな」
一平は冷静だった。僕が胸ぐらを掴んだことに怒ることなく、そう言った。
「・・・・・・・・。・・・・分かった」
「クロナも走るから付いてきて」
後ろで、尻餅をついたままもう誰もいない空間を見つめていた鷹郷さんへと一平が近づいて言った。
「一平・・・・なの?」
鷹郷さんはほんの少し怯えた様子だった。
「僕は正真正銘、寧楽 一平だよ。クロナ、今は時間が惜しいんだ。走れないんなら、おぶるけど」
「ううん、大丈夫。走るから大丈夫」
鷹郷さんはそう言った。すぐに立ち上がると、強引に笑顔を作った。
そして、僕たち三人は走った。何も話すことなく、ただダンジョンの出口の方へと向かって走った。
僕は、そう言えば、星桜さんと宮家さんに早く連絡しないとなぁとか暢気な事を思いながら、ただ走っていった。いや、違う。僕は暢気なことを考えていたんじゃない。ただ、今の現実から目を背けようとしていただけだった。
◆
国際通りダンジョン 一階層入り口前の階段
一平の後を追っていくと、すぐに階段の前まで着いた。時間にしてわずか十数分程度だった。
そして、そこにはクラスメイトたちが集まっていた。全員が無傷と言うわけではなかったけれど、死者はいなかった。
ルーシーたちもそれぞれが怪我を負っていた。
「歩、無事だったか!」
二班の班長で、班の人たちをまとめていた当夜が僕たちの姿を見つけて駆け寄ってきた。
「・・・・うん、僕は何も無いよ」
「刻藤君、すまない。僕たちの力不足だった。アイツらが急に消えてくれたから良かったものの、生徒たちを危険な目に遭わせてしまった」
腕と頭に包帯を巻いた高雅がそう言いながら僕に頭を下げてきた。高雅がそう言うと、その場にいたルーシーたちも僕に向かって頭を下げていた。
今この場で高雅たちを怒鳴れたらどんなに良かったことか。
そうだ、お前らの力不足だ。お前らがもっと強くて、あんな奴らに人質にされることがなければ、二人が連れてかれることは無かった、と。
自分のことを棚に上げているのは分かっている。結果的に悪いのは全て僕だ。僕の判断のせいでこんなことになった。
「・・・・・・・・いや・・・・、」
僕は口籠った。何か言おうとして、でも何も出てこなかった。
「刻藤君!!」
僕の名前が叫ばれた。それに少し驚きながら、僕はすぐに振り向いた。後ろには、少し傷ついて頬から血が出ていた奈々の姿があった。
「はぁ、はぁ・・・・! ごめん、刻藤君。報告が間に合わなかった・・・・!」
息を切らしながら、奈々はそう言った。よく見ると、奈々の顔色は悪かった。よく見ると、奈々の脇腹からは服に血が滲むほど出血していた。
「奈々! 無事だったか! 朔弥と餅次さんは一緒じゃ無いのか?」
「・・・・・・・・っ、朔弥は死んだ」
「・・・・は?」
高雅の顔色が一転した。驚くというより、信じられないといった表情をしていた。
「え? いやいや、奈々、何を言ってんだよ! 悪い冗談は———」
「今はそんな事に構ってる場合じゃ無い!! 早く生徒たちを安全な場所に向かわせないと・・・・!」
けれど、そんな高雅の様子に構う事なく、奈々はそう言い切った。高雅には、仲間が死んでも気にも留めない冷徹とでも写ったのだろうか。
「! 奈々、お前・・・・っ!」
高雅が先に歩こうとする奈々の肩を掴んだ。けれど、その奈々の顔を見て何か言うのを辞めた。
「!! ・・・・、、分かった。全員をダンジョン外に出そう。最後にもう一度だけ、聞かせてくれ。・・・・本当なんだな?」
高雅のその問いに、奈々は何も言わずにただ首を縦に振った。
そして、高雅は素直に奈々の指示に従った。
高雅は見てしまった。奈々の表情を。朔弥が死んでしまった悲しみや、仇を打てなかった怒り、何も出来なかった不甲斐なさを必死で押さえ込んで表面に出させないようにしているその表情を。
「・・・・分かった・・・・」
高雅はそうポツリと言い残して振り返ると生徒たちの方へと走って戻った。
そして、僕たちはクラスメイトたちが全員いることを確認して、すぐにダンジョンを出て行った。
◆
ダンジョンから出ると、ダンジョンの前にはさざめさんや、他の冒険者たち、そしてダンジョン組合員たちが集まっていた。
急に連絡が取れなくなった国際通りダンジョンを危惧して、さざめさんが集めたらしかった。
ただ、それは一足遅かった。
「! 刻藤! どうしたんだ! ここで何があった?! 」
僕の姿を見つけたさざめさんが一瞬で僕の元へと走って来た。そして、僕の両肩を掴んでそう聞いてきた。さざめさんは僕たちの姿を見て安心しつつ、とても焦っているようだった。
「・・・・無銘教です。クラスメイト三十三人は軽傷以上の人はいません。ただ、閃光のパーティーメンバーには死傷者が出ました。特に、奈々はすぐに治療をした方が良いかと」
僕は淡々とそう喋った。その言葉には一切の感情はこもっていなかった。
「そうか。いや? 三十三人・・・・? それじゃ足りなく無いか? 確か君たちは三十五人のはずじゃ・・・・?」
「っ・・・・、残り二人である、宮家 友里、星桜 深鈴は無銘教に攫われました。すみません、今回の件は僕の失態です」
僕は唇を噛み締めてそう言った。さっきまでのただの報告とは違って、この言葉には形容し難い感情がこもっていた。
「! ・・・・、、そうか・・・・分かった。今はダンジョン組合で待機しておいてくれ。後のことはまた連絡する」
「・・・・・・・・はい、失礼します」
「今回は君の失態じゃ無い。気に負うな」
「・・・・」
さざめさんは僕を気遣ったのかそう言った。けれど、僕はそれに反応しないまま離れて行った。
そうしてこの場をさざめさんたちに任せると、ダンジョン組合へと歩き始めた。
———歩。
(「・・・・・・・・」)
「刻藤、お前・・・・」
一平が僕の前に立っていた。少しだけ、顔を上げて、また下げて俯いた。
「ごめん、一平。今はもう何も聞きたく無い。一人にしてくれ・・・・」
「刻藤!」
僕は逃げるようにして走って行った。一平の話を聞くともせず、ただ、俯いたまま走り去った。
今すぐに一人でも二人を救いに行きたい。
けれど、罰は受けないとならない。友里と深鈴さんの護衛となっていた僕は二人を守れず、そしてダンジョン内でも失態を冒した。
下手したら、一生、冒険者として生きていけない。いや、社会的に死ぬかもしれない。
「はは、何をやってんだろ、僕は・・・・」
ダンジョンに入るまでは晴れてた沖縄の空はいつのまにか暗くなって、雨が降りそうだった。
◆
九月 十六日 午後八時
さざめさんにダンジョン組合で待機を命じられた僕はダンジョン組合の一室で動く椅子に座っていた。特に何かをするわけでもなく、ただぼーっと薄暗い部屋でずっと一点を見つめながらくるくると椅子を回していた。
突然、部屋の扉が勢い良く開いた。
「「刻藤君!!」」
扉が開くと同時にスーツ姿の男が二人入って来た。その男の人はどちらも息を切らしていた。
「・・・・、すみません。お二人とも。僕は・・・・」
扉の方を向いて、その男の人の顔を確認すると、僕は椅子から立ち上がってそう言った。
自分でもびっくりした。自分の声にこんなにも覇気が無いなんて。
「そんなことは分かっている。君が娘を守れきれなかったということは」
入って来た男の人は、悠馬さんと伸治さんだった。少し乱れたスーツを直しながら、悠馬さんがそう言った。
「すみません」
僕はただ頭を下げた。弁解しようともしなかったし、そもそも弁解をする気も無かった。
「・・・・娘は無理矢理連れて行かれたのか? それとも君が逃がしてもらうために売ったのか?」
「・・・・」
「答えろ、刻藤 歩!」
「・・・・二人は、判断しきれなかった僕に代わって、自ら進んで自分の身を捧げました」
「・・・・正直に言えば、娘を守れなかった君を恨んでいないということはない」
僕はそう言った悠馬さんを見ていた。怒られるのは怖くは無かった。むしろ、僕は怒られたかった。責められた方が今の僕にとって、心が軽くなる。だから、僕はこの二人に何かを言われるのを望んでいた。
「だがな、君を責める気は無い」
「は? な、何でですか? 僕は護衛をやり遂げることも、金級として指示をすることも、何も出来なかったんですよ?!」
「何があったかは既に聞いていた。そして、君が他のクラスメイトたちを人質に取られていたことも全て知っている」
「でも・・・・」
「甘ったれるな、刻藤!!」
僕が言い切る前に無言のまま僕を見ていた伸治さんの拳が飛んできた。そして、右頬を殴られて転んだ僕に向かって、伸治さんは叫んだ。
「娘は君に託したんだろうが! なのに、どうしてっ、どうして君は自分を責め続けている!」
「僕は、僕は・・・・」
「逃げるな! 楽な方へと進もうとするな! 信頼を裏切ろうとするんじゃない!!」
「・・・・刻藤君、君は失敗なんかしていない。君はあの状況で最善の行動を取った。君が耐えてくれたおかげで他の全員が助かったんだ」
悠馬さんが優しく、けれど強くそう言った。
「ウジウジしている暇なんて君には無い。君はこんな所で立ち止まって良い人間じゃあ無いよ」
二人は厳しいことを言った。普通に怒られて、責められた方がどんなに楽であったか。全部君が悪い、と。そう責めてくれれば僕はどんなに楽になれたのだろう。けれど、二人は僕を責めはしなかった。誰よりも悲しくて、悔しいはずなのに。
「君は、多くの人を助けた英雄だよ。だから、娘のことで気に負わないでくれ。・・・・さぁ、前を向く時間だ」
「僕は、僕はっ!!」
僕の目からとめどなく涙が溢れた。色んな感情がごちゃ混ぜになっていた。
悔しくて、腹だたしくて、悲しくて、そして、何よりもあの二人を助けたくて。
少しずつ僕に強い感情が戻っていった。
「まだ、やらなくてはいけないことが山程あるだろう? さぁ、立ちなさい」
そう言って、悠馬さんは地面で見上げていた僕の手を引っ張って立たせた。
「さぁ、いつまでもこんな所にいないで、今の自分にできることをしなさい。」
「僕はもう何度も失敗をしました! 前のダンジョンだって、結果的にみんな助かったけど、僕は失敗して! そして今回も!!」
僕は叫んだ。泣きそうな目で唇を噛み締めながらそう叫んだ。
「・・・・失敗は罪ではないと私は思うよ。人間は、失敗して、挫折して、後悔して強く成長していく。罪は、失敗する事ではなく、失敗に恐怖して過去の失敗に囚われ続ける事だよ」
悠馬さんの黒い瞳が僕の目を射抜いた。太く、強い信念が通った瞳が僕を捉えていた。
「私は、私たちは、誰が何と言おうと君を責める気は断じて無い。何度でも言う。君は君の役割というものを果たせ。それが娘に託された君の使命だろう」
「すみません、すみません・・・・!!」
僕は急に溢れた涙を必死で拭いながらそう言った。脳裏には、二人の笑顔が焼き付いていた。凄く怖いはずなのに、心配させまいと笑顔で後を託した二人の姿を。
「僕は、僕は・・・・、絶対に二人を助けたい・・・・!」
真っ赤になった眼で真剣に、強い意志を据えて僕は二人を見た。まだ、少しだけ視界は滲むけれど、二人を視界にはっきりと写した。
「ああ、そうだな。自分の心に従え、刻藤君。その為にも君はこんな所に居てはいけないよ。私たちのことは良い。君の為すべきことをしなさい」
悠馬さんは、僕の肩に手を置いてそう言った。悠馬さんの手は大きく、重かった。僕は少しずつ滲むのが直ってきた目で二人の方を向いていた。
「はい・・・・! すみません、行ってきますっ!」
僕は袖で涙を拭いて、二人に軽くお辞儀だけして部屋から走って出ていった。
二人は僕が走っていく後ろ姿をただ、見送っていた。
「・・・・、娘にはいつも上に立つものならば、他の人を助けなさいと言ってきたが、こんな事になるとはね」
ふと、悠馬さんがそう呟いた。
「・・・・、あの二人は根性も冷静な判断も出来る。どうにか耐えてくれていることを願うしか無いよ」
「・・・・そうだな。・・・・だが、苦しいものだな。どんな言葉を並べようとも、若者に、刻藤君に全てを押し付けているこの状況は」
「ああ。だから、せめて私たちは彼を最大限に支援しサポートしなければな・・・・」
「ああ」
そして、二人もまた、二人が出来ることをする為に動き始めるのだった。
まだ、歩は気づいていない。以前貰ったお守りに光が灯り、輝き始めていたことを。
◆
???
二人は暗い部屋で目を覚ました。二人とも手錠と足枷をかけられ、ほとんど身動きが取れないでいた。
二人は無銘教に連れ去られた後、ダンジョンを出た瞬間に、うなじ付近に強い衝撃を加えられた。その衝撃によって意識が飛んだ二人はここが何処なのかは全くとして分かっていなかった。
「ここは・・・・? いっ・・・・!!」
友里は辺りを見渡そうとして、首を上げると首に痛みが走った。その痛みに顔をしかめつつ、明かりがついていた牢屋の外を見た。
「ここはどこよ!」
牢屋の外に居た女へと友里はそう叫んだ。
「まだ、叫ぶ気力があるんですねぇ」
冒険者がよく着ているような服から、ローブのような物に着替えていた濱筒・・・・いや、四島 真香の姿がそこにはあった。
「まぁ、私の仕事はここまで。これで満足しました? スポンサーさん」
「ああ。これで契約は成立だ」
牢屋の外のすぐ横にあった階段から誰かが降りてそう言った。
「んじゃ、私たちは先を外しますねー。あとはどうぞ、ごゆっくりー」
真香は満足そうに頷くと、入れ替わるようにして階段の方へと歩いていった。
「お二人とも、ご無事でねー。まぁ、無理だとは思うけどサ」
牢屋で真香を睨んでいた二人にヒラヒラと手を振りながら、そう言い残して階段を登っていった。
そして、真香と入れ替わって外には、二人と鉄格子越しに、背の高い金髪をした男が二人を見下ろすようにして立っていた。
「壮観だな。天下の星桜様と、宮家様の娘たちがこうして囚われている姿は」
ズボンのポケットに手を入れたまま、男は声を出した。
「!! ・・・・、裏がいるとは思っていたけど、あんただったのね・・・・! 市山!」
その男は、市山財閥の一人息子である市山 柊鵝であった。
敵意を隠す気配も無くむき出しにしながら、友里がそう言った。友里と深鈴はすぐに気づいた。今回の一件で裏で暗躍していた存在を。
日本において、四大財閥と言われてはいるが、四つの財閥が均等の力を持っているわけではなかった。そして、市山財閥は四つのうちでは一番力が低い財閥であった。
柊鵝はそんな市山財閥で育った結果、他の財閥を抜いて、市山財閥が日本の全てを手にしようと夢見るようになっていた。
しかし、柊鵝にとってそれは夢ではなく、実現可能なものであった。IQ180の生まれ持った頭脳と目的のためなら手段を選ばない性格はその夢を現実にする為の筋書きを描いていた。そして、この無銘教でさえ柊鵝にとっては駒でしか無かった。
「どうしてですか? 市山さん」
「はぁ? こんなことされてそれが分からねぇとは。星桜の癖して、頭がまわらねぇなぁ」
馬鹿にするようにして深鈴へとそう言い放った。
「・・・・無銘教と手を組むなんて堕ちたものね」
「あ? 手を組む? それは違うな、協力してるんじゃない。俺が使っているんだ。決して平等なんかじゃない、無銘教でさえ、俺にとっては駒の一つでしかない」
「それを堕ちたって言ってんのよ。何が駒よ。結局、自分だけじゃ何も出来ないからそう言って、自分を優位に見せたいだけでしょ」
柊鵝が牢屋の鉄格子を足の裏で蹴った。強く蹴られた鉄格子からガシャンと大きな音が部屋全体に響き渡った。
「おい、宮家。自分の状況を鑑みて発言しろ? あまり調子に乗るなよ、クソガキ」
少し身体を屈めて静かに柊鵝がそう言った。けれど、目の奥で二人を強く威圧していた。
「あんたが何を言った所で怖くなんて無いのよ。私たちはもうとっくのとうに覚悟してる。後のことは歩に頼んだしね」
「フン、その強がりもいつまで続くのか見ものだな」
鉄格子から足を離して腕を組見ながら、裸足で地面に座る二人を見下ろした。
これからどうなるか分からないお先真っ暗な状態でも弱気を見せない二人に柊鵝は少しイラついていた。
「市山さん、無銘教がどんなことをしたか知った上で、手を貸したんですね?」
「当たり前だろう。非道いとでも思ったか? 生憎、これが俺のやり方だ。下の者どもがいくら犠牲になろうと俺には関係が無いしな」
「最低ですね。人としても、上に立つものとしても」
「本当ね。そんな指導者に誰がついて行くなんて言うのかしら?」
二人はどこまでも強気にそう言った。それは、弱気になってしまう心を表面化させないように必死になっていた裏返しでもあった。
「はんっ、お前らが勝手に夢を見るのは勝手だが、それを俺に押し付けようとするなよ。・・・・本当に、お前らは俺をイラつかせる。良いだろう、少し予定が早まるが・・・・、お前らのその心を完全に叩き壊してやる」
柊鵝がそう言って、指をパチンと鳴らした。
柊鵝が指を鳴らすと、すぐに、ライトが壁にかけられている階段を数人の男が降りてきた。四、五十代の男たちは、お世辞にも綺麗とは言えない格好で少し臭いがするほどであった。
「お呼びですかい? ボス」
柊鵝に近づこうとした男たちから避けつつ、柊鵝は鼻と口にハンカチを当てながら話した。
「ああ。命令だ、こいつらの心を壊せ」
「良いんですかい、ボス?! こんな上玉を!!」
一番後ろで前歯が殆どない男が興奮しているのをリーダー格のような男が制止した。
「やり方は?」
「お前たちに任せる。拷問でも犯すでも、調教するでも何でも良い。お前たちの好きなようにしろ」
「了解しやした。ボス。それじゃあとことんやってやりますよ」
柊鵝に一度頭を下げた後、男は牢屋の中を見た。牢屋の中で鎖に繋がれた友里と深鈴をじっくりと観察しながら、男は舌なめずりをしてニチャアと笑った。
「さて、お前たちはいつまで正気を保っていられるか?」
牢屋の扉がギィィと不快な音を立てながら、開いた。男たちは身を屈めながら小さいその入り口から続々と中へと入っていった。
「こんな上玉は久々だ。俺はまずこの髪の長い娘をやる。お前たちはもう片方を好きにしろ。ああ、だがまだ壊すなよ? 楽しみが減っちまうからなぁ!」
リーダー格の男は、そう言って深鈴の方へと近づいていった。
今まで、必死に自分の心に嘘をついて、虚勢を張ってきた二人でもいざこの状況を目の当たりにすると、少しずつ恐怖が漏れ出ていった。
深鈴の目から不意に涙が溢れてしまうほどだった。
「おいおい泣くのは早ぇぜ? まだ何も始まってないんだからよぉ? それに、すぐに気持ち良くなるんだから泣くんじゃねぇよ?」
逃げられない部屋で、深鈴は、壁に背中を擦り寄せた。近づいてくる男から逃げようとしたけれど、すぐに壁にぶつかってしまった。それに、抵抗をしようとしたけれど、そもそも力の強さが負けて、なおかつ両手両足が封じられた状態で、抵抗が出来るわけがなかった。すぐに両手を抑えられ、抵抗が出来なくなった。
そして、それは友里も同じだった。深鈴と違って、三人の男が近寄ってくるこの状況に友里もまた、壁際へと追いやられて、両手両足を男たちに抑えられていた。
「ねぇ、兄ちゃん! は、早くやっちゃおうよ!!」
両腕を力づくで抑えていた前歯がなく、小太りした男が汗をかきながら、そう言った。
「馬鹿言え、まずは俺からだ。お前は一番最後だ」
「ず、ずるいよ兄ちゃん!」
「そう怒んなって、恵三。どうせ逃げやしねぇんだから、慌てんなよ。ちゃんと、抑えておけよ」
「そっか、そうだよね、兄ちゃん! 俺、ちゃんと抑えとくから、はやく、はやくっ!!」
恵三と呼ばれた男はそう言われて、更に友里の腕を掴む力を強くした。
「俺としちゃ、もっとゆっくり楽しみてぇが弟がこう言うんでな、お嬢ちゃん、覚悟は良いかい? まぁ、覚悟出来てなくても関係はないんだけどな」
そう言うと、男はニヤニヤと笑ってさらに近づいた。左手で持ったナイフを友里の服へと近づけていった。
「いやっ・・・・!!」
そうして、殆ど身動きが取れない二人は目を瞑った。せめて、これから起こる事を自分の瞳に映さないように。せめて、どんなことが起きるとしても、見えないように。
そうして、男たちの手が二人の服へと触れた。
「ハハハ、二大財閥の令嬢が良いようにされている姿はとても気分が良いな!! 覚悟しろ、お前らが二度とまともには戻れないようにしてやるからなぁ? ハハハハッ、アハハハハハ!!!!!!」
上機嫌で柊鵝は高々に笑った。眼下で友里と深鈴が襲われかけているこの状況を見ながら。
◆
ダンジョン組合 沖縄支部
歩がある人物を探して走り回っていた。支部とはいっても、地下三階から地上五階まである広さで、一人を見つけ出すのは、中々に大変であった。
だからこそ、歩はまだ気づかない。自らの異空鞄の中で、以前舞から貰っていたお守りがさっきよりも俄然強く光り輝いていることに。
更新が遅れてすみませんでした。次こそは、日曜日までには行います。
本編の補足ですが、柊鵝の年齢は二十一で、深鈴や友里たちとは少し歳が離れています。深鈴たちとは違って、既に市山財閥のトップです。元々トップだった父親を引き摺り下ろして、二十歳という若さで市山財閥を取り仕切っています。スペックは高いですが性格が非道いのであまり良い噂を聞かない人として有名です。
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