七十九話 バイバイ
午前 十時
僕たちは未だ一階層にいた。戦闘に苦戦しているわけではないけれど、主に剥ぎ取りで時間を食っているためだった。
とは言いつつも、友里も深鈴さんも何とか剥ぎ取りを終わらせて、着実に進んできていた。それに、みんなの力を考えればこのダンジョンのボスも特に危なげなく勝てるほどだった。
「じゃあ、一回ここで休憩しよっか。僕が見張りをしておくから、休んでて」
僕は指輪にしまった鬼月を取り出しながら、みんなに向かってそう言った。
「でも、良いんですか?」
「うん、僕はここまで何にもしてないしね。これぐらい大丈夫だよ」
「そうですか? それなら・・・・」
「うん、僕のことは気にしないで休んでて」
僕はそう言って、みんなから少し離れたところで、辺りを見渡していた。
少し開けた場所で僕は、みんなにモンスターが近づかないように周囲を見つつ、みんなを中心に円状に歩いていた。
中心にいるみんなは、それぞれが飲み物を取り出しつつ、地面や岩の上に腰を下ろしていた。
———今の所は順調だな。
(「そうですね。このまま終われば最高ですね」)
———そうだな。
そのまま周りを歩いていると、少し遠くに狼がいた。地面に鼻を向けていた狼は匂いで見つけたのか僕たちを視認したのかは分からないけれど、顔を上げて僕たちの方を見ていた。
そして、顔を上げてすぐに僕たちへ向かって走ってきた。
「五式 虚空・二連」
猛スピードで向かって来る狼に向かってバツ印に虚空を放った。狼は虚空を躱すことが出来ずに、直撃した。ギャウッと唸った後、首元から大量の血を流して地面に倒れた。
「ふぅ・・・・」
僕は鬼月を鞘に納めると、絶命した狼の元へと寄っていった。素早く解体して魔石と牙を取ると、僕はまた周りを歩き始めたのだった。
そして、それから十分程して僕はみんなの元へと戻って行った。
「じゃあ、そろそろ動こっか。二階層を目指して頑張ろう!」
既に用意を終わらせていたみんなは僕のその言葉に頷いた。
◆
国際通りダンジョン 二階層
歩たちが休憩を終わらせて再び動き出した時、二階層でも事件が起こり始めていた。
既に、七つの内、二つのパーティーが二階層に辿り着いていた。
「二階層になると、全然景色が変わるね!」
一階層は平原と林が混ざったような景色で、二階層からは洞窟のような景色になっていた。生徒たちはその景色の変わりように驚愕しつつも、楽しんでいた。
「と言うか、思ったより早く二階層に行けたねー! この調子だったら、ボスも余裕そうだよね」
「うん!! だからもっと早く行こう!」
この生徒たちの実力的には、このダンジョンは物足りないようだった。現に、現れたモンスターたちに苦戦する事はなく、順調に進んで来ていた。けれど、このダンジョンは普通では無かった。
既に、朔弥を殺した少年が二階層へと上がってきていた。
「? 誰かいない?」
パーティーの一人が誰かを見つけて、そう言った。
「どこ?」
「ほら、あそこ」
そう言いながら、洞窟の影になっていた暗い部分を指差した。
指差した場所には確かに人のような形をしたものがいた。
「モンスター・・・・かな?」
パーティーは警戒体勢を取りつつ、その人の形をしたものへと近づいて行った。
そして、だんだんとその形が見えてきた。パーティーが全員で近づいていもそれは全く動こうとしていなかった。それもそのはず、そこにあったのは、首の無い朔弥の遺体だった。
「!! これ・・・・!」
「キャアアア!!!!!!」
パーティーにいた女の子がそう叫んだ。パーティー内に動揺が走った。死体を見てある人は腰が抜けて、ある人は絶句していた。
そして、狂人はそのパーティーの背後から近づいて来ていた。
「これって、冒険者の人・・・・だよね・・・・?」
「何で・・・・? どう言うこと?!」
「見ての通り、死んでるんですよ〜」
朗らかな声が背後から響き渡った。その声がした瞬間に全員が後ろを振り返った。
後ろには、朔弥を殺した張本人がニコニコと笑いながら、立っていた。
「ど、どう言うことですか・・・・?」
「見ての通り、死んでるんだよ〜。えーと、生徒は生け取り・・・・だっけ? ・・・・まぁ、良いか〜」
「は? あ、あなたは冒険者じゃ無いんですか・・・・??」
一人が怯えながら、震える声でそう聞いた。
「え〜? あー、勘違いさせちゃったみたいですかね〜? 僕は君たちを助けに来たわけじゃ無いですよ〜。むしろ、その逆だね」
「え? それって・・・・」
生徒たちは気づいた。この目の前に立っている少年は、冒険者じゃ無い。モンスターでも無い。だけど、自分たちの命を脅かす存在だと言うことに。
「ああ、気づきましたか〜。そこにいるのを殺したのも僕ですよ〜。まぁ、この情報は冥土の土産にどうぞ〜」
そう言うと、朔弥を殺したときのように口角を吊り上げながら、走り出した。
「に、逃げろ!!」
そう叫んだ。その瞬間に、パーティーは全員が少年に背中を見せて走り出した。しかし、腰を抜かした女の子が逃げ遅れてしまっていた。目には涙を浮かべていた。
「いやっ!! 来ないでっ!!!!!!」
そして、叫びながら、少年の進路を阻むように手を伸ばして目を瞑った。
「ヒヒッ! それでは、サヨウナラ〜」
少年は心底嬉しそうに笑いながらナイフを振り下ろした。
「座標交換!」
腰を抜かした女の子に刃が振り下ろされた。しかし、その刃が当たる前に違う声が響いた。
そして、その声が響くと、女の子が一瞬にしてその場から消え去った。
女の子の首筋目掛けて振ったナイフは空を斬った。
女の子はその場から瞬時に移動して、声を発した男の後ろにいた。
「は?」
「何とか、間に合ったな」
「・・・・、誰ですか〜? 僕の楽しみを邪魔したのは・・・・」
少年が声のした方を見つめた。そこには、銀級冒険者の餅次 遼山と、閃光のリーダーである巻羽 奈々の姿があった。二人とも、その少年を睨みつけていた。
「思ったよりも早いですね〜。もっと時間がかかると思ったんですがね〜?」
「お前がっ! 朔弥を殺ったんだな?!」
「朔弥かどうかは分かりませんが、そこの死体のことならそうですよ〜」
言葉に怒気が籠る奈々の言葉に少年は悪びれる気もなく、そう答えた。
「それで、どうするんですか〜?」
「そんなの、お前をっ・・・・!」
そう叫ぼうとした奈々を遼山が制止した。遼山が制止していなければ奈々はその少年に飛び掛かる勢いだった。そして、そうしていれば間違いなく犠牲者は二人になっていた。
「君は、生徒たちを安全なところまで連れて行け。そして、刻藤君と組合にこの事を伝えろ」
遼山は淡々とそう言った。この場は銀級である遼山の方が権力があった。だから、奈々は嫌でもその指示に従わなければならなかった。
そして、理由は不明だけれど事前にもらった無線機が反応していなかった。だから、この起こったことを直接知らせる必要があった。
ただ、朔弥はもともとパーティー内で持っていた簡単な連絡を取り合うことができる魔道具で奈々に異常を知らせていたのだった。そのおかげで、遼山と奈々はギリギリで生徒を助けることが出来ていた。
「っ・・・・!! 分かりました」
唇を噛み締めて奈々はそう絞り出すようにしてそう答えた。復讐したい気持ちを必死で堪えて奈々は生徒たちの方へと駆け寄って行った。
「あれ? 僕を・・・・何でしたっけ〜?」
生徒たちの方へと向かった奈々に挑発するようにそう言った。
「黙れ、お前の相手は俺だ」
「・・・・、嫌ですね〜。貴方はそこそこ強そうだ。僕は弱いものいじめがしたいだけ何ですけどね〜」
ゆっくりと遼山の方を見ながら、そう言った。
「お前、闇組合の人間だな? 確か、名前はバーター・ギルドレイだったか」
闇組合は政府非公式の存在の組合のことだった。ダンジョン組合とは違って、ダンジョン攻略のための組織ではなく、人殺しや、誘拐などの犯罪行為を主とした組織だった。闇組合は存在はしているが、その構成員や、支部などほぼ全てにおいて不明とされていた。
しかし、そんな中でも、有名な奴らはいた。そして、バーターはその有名な人物の筆頭であった。
「! 嬉しいですね〜。名前を知られているなんて」
「確認されているだけでも百人殺し、推定でも五百人は殺している一級犯罪者だからな。最近はその情報も聞かなくなっていたが」
「僕のファンですか〜? そんなに細かいことまで覚えていて」
「ああ、血の涙が出そうな程にな。やっと、借りを返せる」
「? ・・・・どこかでお会いしましたっけ〜?」
バーターは遼山をじっくりと見た。しかし、それでも記憶にないのか首を傾げていた。
「・・・・さぁな」
「まぁ、良いです〜。どうせ殺すだけなので」
バーターはそういうと、一瞬で距離を詰めて来た。低くした姿勢から遼山の腹へとナイフを振った。
「座標移動」
しかし、遼山は少しも臆する事は無かった。そして、さっき女の子がその場から消えたように遼山の身体もまた一瞬にしてその場から移動していた。
「チッ・・・・。嫌ですね〜、強い人は嫌いですよ〜」
「それは良かった。お前に不快感を与えているのなら、この上なく楽しいと思えるよ」
奈々が素早く動いたおかげで既にこの場に生徒たちの姿は消えていた。
「行動が早いですね〜。貴方をすぐに殺さないと追いつけないじゃ無いですか〜」
「すぐに殺せるとでも?」
「・・・・それは自信過剰ですね〜。僕が殺せないとでも?」
二人のプレッシャーがぶつかり合った。遼山は強く睨みつけ、バーターもまた顔から笑みが消えていた。代わりに鋭い眼光で遼山を見ていた。
一瞬で動いた。バーターが遼山の完全な死角へと移動した。遼山の背中に目がついていない限り、否、目が付いていても躱せない一撃だった。
ナイフが遼山のうなじに突き刺さろうとしていた。
「そんなもので殺せるわけが無いだろうが」
突如、ナイフの先端が消え去った。遼山は一瞬で後ろを向くとバーターのナイフを持っていた右腕を左腕だけで掴むと右腕でバーターの顔面を殴りつけた。
「ぶっっ・・・・!!」
空中で顔面を殴りつけられたバーターは後ろに飛んで、地面を転がった。鼻からはボタボタと血が出ていた。
「ヒヒッ、、久しぶりですね〜。こんなに良いパンチを貰ったのは〜」
曲がっていた鼻を強引に元に戻してバーターは笑っていた。
「あー、思い出しました〜。確か四年前でしたっけ〜? 確かに、貴方とはお会いしてますね〜」
「ああ、そうだ。お前に会いたくて仕方が無かったよ。ずっとお前につけられた傷が疼くからな・・・・」
そう言いながら、遼山は自分の胸をさすっていた。
「それはそれは、大変ですね〜。でも、もうそんな疼きは消えますよ〜。今度はちゃんと始末してあげるので〜」
鼻から血が止まると、バーターは先端が消え去ったナイフを地面に投げ捨てた。
新しく懐から短剣を取り出すと、今度は両手に短剣を持ったのだった。
「せめて、ちゃんと恐怖して死んでくださいね〜?」
「・・・・、今度こそ、お前を殺す」
二階層でバーターと遼山の激闘が始まったのだった。
◆
国際通りダンジョン 一階層
二階層で激闘が始まった一方で、一階層にもまた脅威が近づいていた。
「もうちょっとで二階層に行けるね!」
「うん、順調だね。だけど用心はちゃんとして行こう」
僕たちはもう少しで二階層へ続く階段まで辿り着くというところまで来ていた。
———歩、連絡はついたか?
(「それが、電波が悪いのか分からないですけどついている気配が無いんですよね」)
———何か、起こっているな。
(「・・・・かも知れないです」)
———大丈夫か?
(「大丈夫です」)
———忠告だ。自分の命を軽く見るなよ、歩。
(「・・・・はい」)
「歩君、大丈夫? 疲れた?」
「え? ううん、全然大丈夫。さぁ、気を付けて行こう!」
僕は鷹郷さんがそう聞いて来たのを明るく笑顔で返した。
「・・・・・・・・」
一平は何も言わずに、横目で僕を見ていた。
「そうですね、気を付けて行きましょう!」
そして、僕たちは更に進んで行った。けれど、僕が不安になるのと裏腹に、特に異常は起きなかった。ただ、無線機が使えなくなった以外に別段何かが起こりはしなかった。
(「僕の考えすぎ・・・・ですかね?」)
———どうだろうな。
「皆さん、ここに居たんですねー」
その時、後ろから声がした。その声は濱筒先生のものだった。
ダンジョン講座の免許を取得するためには、赤級冒険者の資格が必要だった。そのため、濱筒先生もまた、僕たちと同じように生徒たちの警備に当たっていたのだった。
「? どうして先生がここにいるんですか?」
僕は一歩後ろに下がってそう尋ねた。濱筒先生の担当する場所は二階層のはずだった。そして、ほんの少し、微かに先生からモンスターとは違った血の匂いがしていた。
「本当に濱筒先生ですか?」
鷹郷さんたちを後ろに下がらせて、一平が前に出てそう聞いた。
「何を言っているんですか、二人とも。私は正真正銘、君たちの担任の濱筒 三夏ですよ」
「・・・・じゃあ、何でその生徒を傷つけたんですか?」
「・・・・・・・・」
先生は何も言わなかった。ただ、無言で僕たちへ腕を伸ばした。その瞬間、先生の爪の先から糸のようなものが僕たちへと射出された。
「っ!!」
僕は鬼月でその糸を斬り払おうと振った。
———受け止めるな! その糸に鬼月で触れるな、歩!
「!! 一式 虚空」
僕はレティアの忠告通りに瞬時に虚空を撃ち出した。
僕はその糸に触れる事なく、全てを斬り払った。
「刻藤、よく刀で受けなかったな」
「! うん」
急に口調が変わった一平に少し驚きながらも一平にそう答えた。
「濱筒先生の能力は粘性糸というもので、その言葉の通り粘性が強い糸を放出する。だから、刀で受けていたら、奪われていた」
「あっぶな・・・・」
(「ありがとうございます、レティア」)
———ああ。
「流石は、金級冒険者と史上最年少の暁月の構成員ですね」
「何でですか、先生! 何で貴女が!」
僕は吠えた。先生が僕たちに危害を与える理由が分からなかった。あんなに生徒たちのことを考えていた濱筒先生がこんな事をしている理由が分からなかった。
「刻藤、あれは先生じゃ無い。おい、そろそろ正体を現せよ。どうせ、お前は無銘教だろ?」
一平は無銘教のことを知っているようだった。僕を制止させて、一平が濱筒先生に聞いた。
「キヒッ! ああ、その通り。アタシは濱筒じゃあない。どうして分かった? この姿をしてるだけで他の奴らは疑いもしなかったっていうのに」
それを聞くと、濱筒先生は笑い出した。その笑い方は濱筒先生の声をしただけで濱筒先生のものでは無かった。
「・・・・職業病と、勘だよ。お前は濱筒先生と雰囲気が違う。お前は人殺しの雰囲気だ。それも一人、二人じゃない数十人は手に掛けてるだろ?」
「ハハハハ!! そこまで気づくとはね! そうさ、アタシは無銘教の四島 真香だ」
濱筒先生・・・・では無く、四島はそう高らかに笑いながらそう言った。
「生徒も殺したのか?」
「んにゃ、まだ殺してないさ。まぁ、そっちの態度次第では殺すけどね?」
濱筒先生の顔をした誰かが鋭い眼光で僕たちを見てきた。
「っ・・・・! 要求は何だ」
「そうだねー。星桜 深鈴と宮家 友里ってやつを貰おうかね。もちろん、君たちは反抗しても良いよ。まぁその時は他の生徒たちの命は保証できないけどね」
「そんなこと・・・・!」
「まぁ、決めるのはアタシじゃあない。君だよ、刻藤 歩。生徒を取るか、この二人を取るか。君が決めるんだ」
「そんなのっ・・・・!」
「そんなの一択じゃない。私たちが身代わりになるわよ」
「友里ちゃん・・・・!」
後ろにいた友里がそう言った。掴んでいた鷹郷さんの手を離して、友里はそう言った。
「友里・・・・」
「そんなの簡単なことじゃない。私たち二人で他の三十三人が助かるなら安いものよ。それに、上に立つ者が下の者を守らなくてどうするのよ」
「でも、そんなこと・・・・!」
「刻藤さん、良いんですよ。友里の言う通りです。その代わり、ちゃんと他の皆さんを守ってくださいね」
友里だけじゃ無かった。深鈴さんもまた、友里と同じようにそう言った。
「って言うことよ。ほら、私たちを連れて行きなさいよ」
「キヒヒッ! お嬢さんたちは判断が早いね! 刻藤 歩、君は女の陰に隠れて何も出来ないのかな?」
「刻藤、キレるなよ。ここは一旦引け」
「でも、でもっ!! 友里と深鈴さんが・・・・!」
「・・・・今は引け!」
一平は僕の腕を掴んでそう言った。僕の腕を掴む一平の力は強く、簡単に振り解くことが出来なかった。
「それじゃあ、二人はアタシたちと来てもらおうかねー」
「それでは、さようなら。刻藤さん、すみませんでした」
「じゃあね。あとは頼んだわよ、歩」
二人は僕たちの後ろから歩いて前に出て行った。
僕は一平に半ば羽交締めのようにされて二人が行ってしまうのをただ見ることしか出来なかった。僕はただ彼女たちへ届かない腕を伸ばしていた。
二人は怖いはずなのに、逃げたいはずなのに僕たちに振り返るとその顔は笑顔だった。
「君たちはそのまま出口はと行け。他の生徒たちもそこに居る。それじゃあねー、女すら守れないお二人さん」
四島は手を振りながら楽しそうに笑いながらそう言った。
そして、四島の元へと歩いて行った二人は、四島とともにその姿を一瞬にして消したのだった。
◆
国際通りダンジョン 二階層
「はぁっ・・・・、はぁっ・・・・、、」
遼山は息を切らしながら、両腕につけたトンファーを構え直した。
「・・・・どうした? お前にしては時間がかかっているじゃないか。俺はまだ死んでないぞ?」
「チッ、いらつきますね〜、貴方は」
根本から折られた短剣をまた放り投げ、千切れかけていた服を破きながらバーターはそう言った。
「まぁ、でも貴方は体力の限界が近そうですね〜? そろそろ、殺してあげますよ〜」
バーターは恍惚とした表情を浮かべて笑いながらそう言った。バーターは懐から、新しい武器を取り出していた。ナイフでも、短剣でもなく、二本の棒のようなものを取り出した。
「貴方には見せてあげますよ。僕のこの武器を」
バーターは二本の棒をくっ付けた。くっ付けられた棒は一本の長い柄となり、先端には大きな鎌が付いていた。
ブオンとその鎌を振って、バーターはそれを片手で持った。
「座標交換」
先端の鎌が後ろを向いた瞬間にバーターの位置が遼山の目の前まで移動した。
そして、トンファーをつけた右腕でバーターの顔面めがけて振り上げた。
「そんなのは通用しませんよ〜」
バーターの鎌を持つ腕がミシミシと音を立てた。そして、遼山の拳が当たる前にバーターの鎌が遼山の脳天目掛けて振り下ろされた。尋常じゃ無いほどの速さでバーターは鎌を振り下ろした。
「くっ・・・・! 座標移動!」
遼山の頭に鎌が当たる寸前で遼山はその場から消えた。遼山の身体はさっきまでバーターがいた場所に移動していた。さっきまで遼山がいた場所には、斬られた髪が落ちていた。
「はぁっ、、はぁっっ・・・・!!」
遼山は苦しそうに咳き込んだ。目立った外傷は無いが、遼山は身体中に汗をかいて、息が上がっていた。
「もう、そろそろその転移も出来なそうですね〜?」
「・・・・さぁ、どうだかな」
「強がりもい・・・・は?」
鎌を肩に乗せながら少しずつ歩いてきたバーターが足を止めて耳元を押さえた。
「・・・・チッ、分かりましたよ〜」
少しの間そうしていると、突然バーターは鎌を元の二本の棒に戻した。
「はぁ・・・・。すみませんね〜。もう撤収しないといけないようなので〜」
「! ふざけるな、バーター。どこに行くつもりだ」
「・・・・良いじゃないですか〜、貴方にとっては。命拾いしましたね〜。まぁ少しの間ですけど。貴方は完全に覚えました〜。すぐに殺しに来てあげますから〜」
棒をしまうとバーターは遼山に手を振った。
「座標移動」
遼山が一瞬でバーターの前に移動した。そして、左腕でバーター目掛けて殴りかかった。
「では、さようなら〜」
しかし、遼山が殴る前に、バーターはその場から姿を消してしまった。遼山は思い切り空振ると、そのまま地面に倒れ込んだ。
「くそっ、くそっ、くそくそくソクソクソッッ!!!!!!」
そして、遼山は力の限り地面を叩いた。叩かれた地面は表面がひび割れ、少し陥没していた。
「ァァッッッッツ!!!!!!」
生きている者は一人しかいないこの場所で、遼山の声にならない叫びが響いた。ただ、虚しく響くだけだった。
◆
九月十六日。この日の事件は、これから後の世の教科書に載るほどの大事件へと繋がっていく。
これは、それの序章にしか過ぎなかったのだった。
更新が遅くなりました。次回は多分、金曜日です。
そう言えば、作者の僕は大学には無事、合格しました。ありがとうございます。
更新する期間が時々空いてしまうかもしれませんが、これからもよろしくお願い致します。
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