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七十八話 ハロー、悪夢。

九月 十六日 午前六時


修学旅行三日目。僕はみんなと違って、一足先に沖縄のダンジョン組合に来ていた。

僕は今回、ダンジョンを経験する側では無く、警備と生徒たちの補助役としてダンジョンに向かう。そのために、他の生徒たちとは別に先にダンジョンの点検等をするのだった。

ダンジョン組合に入ると、まだ朝早い時間なのに、中にはそこそこの数の冒険者が集まっていた。

受付をすると受付嬢の人が少し驚いた顔をした後に少々お待ちくださいと言われたのだった。

僕は言われた通りに組合の中でダンジョン情報などを見ながら待っていた。


「おい、ここはお前みたいなガキが来るとこじゃねぇぞ?」


静かに待っていると、後ろからそんな声をかけられた。振り返ると、ガタイの良い男が僕を見ながらそう言っていた。


「おい、無視か? それとも怖くてびくついちまってんのか!?」


周りを見たけれど、誰もこの男を止めようとはしていなかった。何故だか知らないけれど、受付嬢ですら見て見ぬふりをしているようだった。

どんな組合だよ・・・・、頭イカれてんのか・・・・?


「はぁ・・・・」


僕がため息を吐くとその男は少しイラついたように僕の胸ぐらを掴んできた。


「テメェ、俺を舐めてやがんのか?!」


「・・・・どうでも良いので、この手を離してください」


「チッ、テメェみたいな奴は痛い目をみないと分からねぇようだ!」


そう言って、右腕を振りかぶると僕を殴ろうとしてきた。

これは正当防衛が成立してるよね・・・・?

僕は男の振り上げた拳が僕に当たる前にその男の鳩尾に鋭い打撃を打ち込んだ。僕の胸ぐらを掴んだ腕が緩み、少し前に倒れたところで、男の背後に回り込んで腕を背後に回して極めた。

そして僕は流れるようにして自分より大きいこの男を床に倒したのだった。男は床に倒れてもがいていたけれど、強く腕を握ってより極めると抵抗しなくなった。


「いだだだ・・・・!!」


ギリギリと締め上げると苦痛の声をあげていた。


———対人も強くなったものだな、歩。


(「刀を持っていない時の戦いも少しは師匠から教えられましたからね」)


———というか、今どきこんな馬鹿がまだいるとはな。


(「でも、この人僕を傷つけようとはいていないような気がするんですよね・・・・」)


「すまない、刻藤くん。その手を離してやってくれない?」


男の背中に乗りながら、腕を極めていると受付の方から人が歩いて来た。見ると、他の冒険者たちはその女の人に道を開けていた。


「・・・・貴女は?」


「アタシはダンジョン組合沖縄支部のマスター兼金級冒険者の街中 さざめだよ」


僕はその女の人がそう言ったのを聞いて背中から退いて、極めていた腕を離した。床に伏していた男の人はすぐさま立ち上がって腕の動作を確認するようにぐるぐると回していた。


「ごめんねー、刻藤くん。君を試すような真似をして。燐人(りんと)もごめんね、そんな役割を押し付けちゃって」


さざめさんはいきなりそうやって僕に謝って来た。


「いえ、私は大丈夫です。むしろ、すみません。あのような大根役者で・・・・」


「! ・・・・どうして、こんなことをしたんですか?」


「百聞は一見に如かずって言うでしょ? アタシは自分で君の実力を見てみたかったのさ。・・・・もうしないからそんなに警戒しないでくれ」


「・・・・で、どうでした?」


「素晴らしいものだよ! 銅級ではあるけれど、体格も体術もあるこの月間(つきま)燐人を一方的に下したんだからね」


「刻藤さん、先ほどはすみませんでした」


月間と呼ばれたガタイの良い男がそう言って僕に頭を下げた。


「いえ、大丈夫ですよ。・・・・ああ、だから組合の人が誰も騒いでいなかったんですね」


僕は月間さんの謝罪を受けながら、さっきまでの組合の無関心さの理由に気づいてそう言った。


「そう言うこと。まぁそこに関してはあからさま過ぎたけどね。さーて、君の実力も測れたことだし今日の事について話そうか」


「? ここで話して良いんですか?」


一応、大事なことであるはずなのに、他の多くの冒険者がいる中で話すことに僕は疑問を持った。


「ああ。今この場にいる冒険者は全員何処かしらのダンジョンの警備につく者たちだからね」


「成る程」


周りを見ると、既に他の冒険者たちは椅子に座りながらさざめさんの方を見ていた。


「刻藤くんも適当に座ってね」


そう言われて、僕も他の冒険者たちと同じように近くにあった席に着いた。


「んじゃ、ここからは真面目な話。君たちは分かっていると思うけど、半月前から沖縄内で失踪事件が起きてる。冒険者、一般人に関係無くね。そんな中で、今日は高校生たちの警護だ。全員警戒、準備は十分にした上で挑んでくれ。良いね?」


さざめさんがそう言うと、冒険者たちは真剣な眼差しをしながら、頷いていた。


「それと、今回は君たち全員に通信機を持たせる。全ての通信機に繋がっているから異常があったら、すぐに使ってくれ。そして、報告もこれを使って行ってくれ。そして、もし万が一無銘教と思わしき者と遭遇した場合、絶対に戦うな。これは命令だよ。奴らと遭遇したらすぐさまそこから逃げて。・・・・それに関してはアタシより刻藤くんから言ってもらった方が良いかな?」


「え?」


さざめさんが不意に僕を当てた。そして、僕を椅子から立たせると、さざめさんの横に立たせた。


「無銘教のことだけ、少し良いかな?」


「分かりました。・・・・今、さざめさんが仰ったように無銘教と戦うことは避けてください。強いからとかじゃ無くて、純粋に危険だからです。無銘教と戦って命の保障は出来ません。そして、最悪の場合、そのダンジョン全てを相手にしなきゃいけなくなる可能性もあります。だから、どうか気をつけてください」


「って言うことだ、全員理解したね?」


「「「「はい!」」」」


僕が頭を下げてそう言うと、さざめさんが座って話を聞いていた冒険者たちに声を掛けた。

さざめさんの言葉に冒険者たちは低い大きい声で肯定したのだった。


「よし、それじゃあ各自担当するダンジョンへ移動してくれ!」


そうして、さざめさんがそう言うと、冒険者たちは少しずつ椅子から立ち上がって、受付嬢から無線機を受け取ると組合から出て行った。


「さて、刻藤くん。君が行くのは国際通りダンジョンだったよね?」


「はい、そうです」


「ああ、それと敬語はいらないよ。君は金級なんだしね。下手に出過ぎるのは良くないしね」


「・・・・分かった。それでどうしたの?」


「君と同じダンジョンに行く予定の冒険者たちと会っといてほしいなぁと思ってね」


そう言って、通信機を取って外に出ないで話していた冒険者たちをさざめさんが呼んだ。

呼ばれるとすぐにその六人の冒険者たちが僕たちの元へと歩いて来た。


「紹介するねー。右から、阿武(あぶ) 高雅(こうが)文凱 (ぶんがい )凛里(りり)巻羽(まきば) 奈々(なな)、ルーシー・トーリャ、鴻毛(こうもう) 朔弥(さくや)餅次(もちつぎ)遼山(りょうざん) だよ」


さざめさんがそう紹介してくれた。全員僕より年齢が上で、大人びていた。


「刻藤 歩です。よろしくお願いします」


「刻藤くん、敬語・・・・」


「あっ、よろしく」


小さい声でさざめさんが僕にそう言って来た。だから、僕は少し慌てて言い直したのだった。


「ちなみに、餅次君以外は銅級で、餅次君だけ銀級だよ」


「・・・・よろしく」


少し掠れた声で餅次さんは僕に軽い会釈をして来た。


「「「「「よろしくお願いします」」」」」


そして、他の五人は声を揃えてそう言って来た。どう考えても年下の僕に五人は恥じらう事なく頭を下げていた。


「私たちは五人パーティーの閃光です。東京で新たに金級になった刻藤さんのことは前々から伺っていました。今回は同じ仲間として戦えて光栄です」


閃光のリーダーだと思われる巻羽さんが僕の顔を見ながらそう言って来た。


「いや、敬語とか辞めてよ。僕は年下だし。あまり良い気はしないし」


「そうですか・・・・分かりました。それなら普通に喋るわ」


「うん。それでよろしく」


フランクな口調になった巻羽さんはにっこりと微笑んで右腕を差し出して来た。僕も右腕を出して僕たちは握手を交わしたのだった。


「それじゃあ、ダンジョンに行こっか」


僕も他の冒険者たちと同じように受付嬢から無線機を貰うと組合の出口へと向かって行った。


「・・・・さて、私も準備をしておきますか・・・・。念には念を入れておかないとね」


僕たちを見送ったさざめさんは伸びをした後、組合のマスター室へと戻って行ったのだった。


午前 七時


ダンジョン組合を出た僕たちは一組と合流する前に国際通りダンジョンに来ていた。ダンジョンの異常確認と、安全、そして誰が何処で警護に当たるかを決めるためだった。

僕たちは軽い打ち合わせをダンジョン前でした後に、一度ダンジョンの中へと入って行った。僕に取っては割と久しぶりのダンジョンだった。ここ最近はトリックスターとして活動も、一人でダンジョンに行くことも出来ていなかった。

少し緊張感を持ちながら、ダンジョンへと足を踏み入れた。


「・・・・いやー、余裕だったなぁ」


「うん。完全勝利」


閃光のメンバーである朔弥が手を頭の後ろで組みながらそう言った。そして、杖を持った片目が隠れた女性である凛里がそう同意していた。

ダンジョンに入ってから一時間も経たないうちに僕たちはダンジョンのボス部屋まで辿り着き、ボスを倒したのだった。

ボスを倒したとは言っても、このダンジョンが消えることは無い。このダンジョンは二重ダンジョンでは無く、後天的に消滅しないようになっているダンジョンであった。

いくつかの低ランクのダンジョンでは、ボスが倒されてもダンジョンが消えないように工夫されている。宮家財閥、星桜財閥、狐丸財閥が共同して作り上げた魔道具によって、ボスモンスターをコピーするように出来ている。つまり、ボスモンスターが倒された瞬間に同じ個体がコピーされ、ダンジョンが保たれ続けると言うシステムだった。

コピーされたモンスターは一定時間が経った後にボスモンスターとしてボス部屋に現れるようになっていた。


「出てくるモンスターも異常は無かったっすねぇ」


モンスターの情報が書かれた手帳をパラパラとめくりながら、高雅がそう言った。


「そうね、あとは誰が何処を見ておくかだけど・・・・」


ルーシーが顎に手を当てながら考えていた。

国際通りダンジョンは全部で三階層から成り、一階層毎に大きい訳でも無い、至って普通の危険度の低いダンジョンだった。


「多分、学生でもコボルトだとかオークぐらいなら危険は無さそうよね。歩から見てそこら辺は大丈夫そう?」


考えていたルーシーが僕の方を向いて尋ねて来た。


「うーん、まぁ個人差はあるけど班として戦うなら問題ないかな。ただ、三階層とボス部屋はみんなにはちょっとキツイかな」


僕は少し考えた後に、ルーシーに向かってそう言い切った。


「まぁそうよね。なら、一階層と二階層に重点的に人を置くべきね」


「うん。あー、でも僕は班員として行動するから、頭数に入れないでおいて」


「分かってるわ。それじゃあ、一階層は私と高雅と凛理。二階層は奈々と餅次さん、そして三階層が朔弥でいきましょう」


「うえー、俺一人かぁ」


「文句言わないの。閃光の中で貴方が一番強いんだから」


「へいへい、まぁちゃんと仕事はしますよ」


「餅次さんはこれで大丈夫?」


「問題無いよ。これで行こう」


「他も、これで異論はない?」


「ひ、一人じゃないから私はこれで良いよ」


「私もだ。異論は無いよ、ルーシー」


何故かびくつくように少し震えながら凛里がそう言った。それを追うようにして、奈々も異論が無いことを言っていた。


「よし、じゃあこれで決定ね! うーん、思ったより時間が余ったわね・・・・」


ルーシーが手を叩いた後に、左腕につけていた腕時計に目を向けた。ダンジョンの確認が意外に早く終わり時間が空いていたのだった。

一組と合流する時間は九時十五分で、まだ一時間半程度時間があった。


「僕は先に抜けるよ。一度学校の方に戻らないといけないし・・・・」


「オッケー。じゃあ、私たちも何処かで時間を潰してるね。餅次さんは?」


「・・・・俺も少し行くところがある。だから、また後で」


「じゃあ、時間まで自由ってことで」


そうして、僕たちは一旦別れたのだった。


『異常・・・・と言うより違和感が発生しました』


黄印学園の生徒たちはそれぞれが朝食を食べ終わり、各自の部屋でこの後すぐのダンジョンへ行くための準備をしていた。

そんな中、同室の僕がいない一人になった部屋で一平はスマホで連絡をしていた。


『どういった?』


『言葉にしにくいのですが、担任の先生に少し違和感が・・・・」


「・・・・担任の監視を強めておけ。もし、万が一があった時は速攻で仕留めろ。周りの目は気にするな。最悪、正体がバレても良い』


『了解』


スマホを放り投げてベッドに横たわって、一平は天井を仰ぐのだった。


「ほんっとうに、めんどくさい・・・・」


そう呟いて、勢いよくベッドを飛び降りてダンジョン、もとい色々な準備を始めるのだった。


九時十分


クラスに何事も無く合流した僕は国際通りダンジョンへと戻って来ていた。


「はーい、それでは補助に当たってくれる冒険者たちに挨拶をしましょう。刻藤君も前に出てください」


濱筒先生がそう言って、僕を呼んだ。そして、僕を合わせた七人の冒険者が前に立った。そして、一人ずつ紹介をした後、僕たちはダンジョンに入る前の最終確認を行なっていた。


「閃光、さっきの確認の通りで。それと、餅次も」


僕がそう言うと、みんなは頷いた。こう言う場所ではランクが高い人が指揮権を持つ。あまりこういうことは好きでは無いけれど、こういうのは冒険者として重要なことだった。だから、僕はこの場の責任者のような存在であった。そして、指揮権が僕にあるということはつまり責任も僕にある。

表面には出していないけれど、僕はだいぶ緊張していた。


———気負うな、歩。責任はある。だが、責任を深く考えるほど動きが悪くなっていくぞ。君はそう言うタイプだからな。


(「分かってます。・・・・ちょっと怖いですね、みんなの命を僕が握っていると考えると・・・・」)


———君一人じゃないだろう。クラスメイトや、他の冒険者だっているんだ。だから、一人で背負い込むな。仲間を信じろ。


(「・・・・はい」)


———頑張れ、歩。


レティアがそう優しく僕に言った。僕は少しだけだけど、前向きに考えていくのだった。


そして、九時三十分。僕たちはいよいよダンジョンへと入って行くのだった。


「やっぱり、教科書と実際に見るのでは全然違いますね」


班に合流して僕たちの班もダンジョンの中へと入って行った。下に続く階段を歩いていると深鈴さんが歓喜したようにそう言った。

ダンジョンの中から、各班毎に行動をする。競うものでは無いし、限界を感じたら、すぐに引き返して良い。そして、危険を感じたら、すぐに逃げる。それがルールであった。


「歩君はいつも、こういうところに行ってるだもんねー。すごいよ、本当に」


「ううん、僕一人の力じゃ無いから。僕は色んな人に助けられてるから」


「それでもだよー。刻藤君めっちゃ強いじゃん」


「・・・・そう言ってくれると、嬉しいよ」


鷹郷さんはそう言って無邪気に僕を褒めてくれた。純粋にそれは嬉しく僕も笑い返したのだった。


「ち、ちょっと怖いよね。だ、大丈夫かな?」


「うーん、多分大丈夫だと思うよ。一平も、鷹郷さんもみんな強いし。このダンジョンに通用する力はあるよ」


僕はダンジョン講座の授業を思い返しながらそう言った。一平は風の能力。鷹郷さんは炎の能力で、火力も申し分無かった。友里と深鈴さんは直接モンスターを倒せる能力では無いけれど、二人とも素の力が強く、二人とも黒帯レベルの武道の心得を持っていた。


「そうかなぁ? 歩君に言われると、嬉しいねー」


「でも、大丈夫でしょうか? 私たちは直接モンスターを倒せるわけじゃ無いですから・・・・」


友里が少し心配そうにしながら、そう言った。


「でも、宮家さんも普通に強いですよ。だから、そんなに心配する必要はないんじゃ無いですか?」


「そうですよ、友里。直接倒せなくても、身を守ることは出来ますし。考えすぎは良くないですよ」


「・・・・それもそうね」


そんなことを話していると、階段が終わり一階層へと僕たちは辿り着いた。

一階層は自然豊かなところで、木が生い茂り、よく晴れた階層だった。


「うわー、暑ーい! 外も暑かったけど、ここもだいぶ暑いねー!」


初めてのダンジョンに鷹郷さんはテンションが上がっているようだった。鷹郷さんだけで無く、友里も意外にも深鈴さんもはしゃいでいるようだった。というか、僕たちの班だけで無く、他の班の人たちもテンションが上がっていた。いつも通りなのは僕と一平だけだった。


「一平ははしゃがないんだね」


「は、はしゃぐより緊張しちゃって・・・・」


「まぁダンジョンだしね。でも、緊張しすぎると身体が強張るから、リラックスして行こう」


「う、うん」


そして、はしゃぐ三人を宥めながら、僕たちは先へと進んで行った。

少し歩くと、気配がした。僕は指輪から鬼月を取り出して構えた。


「歩君、何かいるの?」


「うん、いる。みんな気を付けて」


僕たちがそうして警戒していると、茂みの中から、兎のモンスターが飛び出して来た。


「えっ、可愛い・・・・」


鷹郷さんがそう言って迂闊に近寄ろうとしていた。


「鷹郷さん、離れて。見た目は兎でもれっきとしたモンスターだから」


僕がそう言って引き止めると、鷹郷さんはハッとしたようにしてすぐに身を引いた。


「ご、ごめん歩君」


「・・・・僕は危なくなったら助けるから。あとは頑張って」


僕はそう言い残して、鬼月を鞘に戻して一番後ろへと移動した。


「え?!」


僕がそう言い放つと、友里たちは驚いて後ろを振り返った。僕が倒すと思っていたのか、驚いている様子だった。


「いや、僕が倒したら意味が無いからさ」


「・・・・それはそうですけど・・・・」


「大丈夫、みんななら絶対倒せるから!」


僕がそう言うと、みんなは突進の構えをしている兎へと目線を戻した。

そして、すぐに兎は一番先頭にいた鷹郷さんへと狙いを定めて飛び掛かった。


「炎色:青!!」


鷹郷さんが少し後退りしながら右腕を兎に向けた。そして、右手から青白い色をした炎が飛び出て来た。

すばしっこい兎でも空中で動きを変えることはできない。一瞬にして進路に現れた炎に兎は突っ込んでいった。


「ミギャアアア!!!!」


炎に飛び込んでしまった兎はそう叫ぶと、こんがりと焼けて地面に落ちた。地面に落ちて動かなくなってなお、炎は燃え続けていた。

鷹郷さんの能力は炎色(フレイムチェンジ)と言うもので、温度と色が違う炎を自在に出すことが出来る。ただし、普通の炎色反応とは違って、色ごとにその特性が少し変わっている。例えば黄色であれば炎に電気の特性が混じっている。例外として青色だけは水や氷の特性が混じっているわけではなく、普通の炎と同じように千五百度程度の温度をした炎であった。


「え・・・・、これって・・・・!」


「うん、倒せてるよ。おめでとうー!」


僕は後ろでそう言った。


「・・・・、、やったぁぁぁ!!!!」


鷹郷さんは僕がそう言ったのを聞くと、ジャンプしながら喜んでいた。


「凄いです!!」


「一瞬で倒してちゃって、凄ーい!!」


嬉しそうにしている鷹郷さんに少し興奮気味に深鈴さんと友里が近づいて行った。

二人とも今の姿に目をキラキラさせていた。普段の二人のイメージから考えられないほどに、無邪気に喜んでいた。

ただ、これで終わりじゃ無い。モンスターは剥ぎ取りと魔石の回収をしないといけないのだった。


「・・・・じゃあ、鷹郷さん。剥ぎ取りもしようか」


「え・・・・・・」


表情が一転して鷹郷さんは固まった。


「わたし・・・・が・・・・? 剥ぎ・・取り?」


「うん。辛いとは思うけど、頑張ろう? これが冒険者だからさ」


「うー、、分かった、頑張る」


「うん!」


僕は小刀を鷹郷さんに渡した。鷹郷さんは恐る恐る小刀を受け取ると焼け焦げた兎へと近づいて行った。


「やり方は分かるよね?」


「うん、頑張る・・・・」


そうしてそれから十分くらいの時間をかけて剥ぎ取りを終わらせたのだった。生物の身体にズブズブと小刀が入っていく感触は初めてだとキツかったと思う。それに、魔石を取るのに苦労して内臓を見てしまうのも辛いと思う。

だけど、鷹郷さんはやり切った。ちゃんと剥ぎ取りをやり切ったのだった。


「こ、これで良いよね?」


「うん。よく頑張ったね、鷹郷さん」


鷹郷さんはそれを聞くとホッとしていた。足は少し震えて手も震えていた。


「鷹郷さん、立てる?」


「・・・・うん、もう大丈夫」


鷹郷さんはまだ震える足で立ち上がりながら、そう言った。

さっきまではただ無邪気に楽しそうだった三人も、今は過酷さを見て真剣に戻っていた。辛いとは思うけど、これがダンジョン。僕たち冒険者はもう慣れてしまったけれど、この残酷さと恐怖がダンジョンの本質だった。

だからこそ、高校生の早い段階から現状を目の当たりにするための授業だった。


「よし、じゃあ先に進もっか」


僕たちは気を引き締めて更に先へと進んで行くのだった。


国際通りダンジョン 三階層


「はっ・・・・、はっ・・・・!」


三階層で警備に当たっていた朔弥が息を切らしながら走っていた。恐怖と疑問が入り混じった感情が顔に張り付いていた。手には無線機を抱えていたけれど、何故かどの無線機とも通信が出来なくなっていた。


「早く、伝えないと・・・・! 三階層・・・・いや、このダンジョンは・・・・ぐぅッッ!!」


走っていた朔弥の背中に何かが突き刺さった。同時に、朔弥はその衝撃と痛みで転んでしまった。


「ダメですよ〜、そんなことをしちゃ」


朔弥の背後からから、何本ものナイフを手に持った少年が現れた。朔弥はその姿を見て尻餅をつきながら後ろへ下がろうとしていた。


「お前は・・・・何なんだ?!」


恐怖を浮かべながら、朔弥はその少年に聞いた。


「さぁ〜? 何でしょうね〜?」


少年は口角を吊り上げて笑いながら朔弥へと近づいて行った。


「それでは、さようなら〜」


少年は朔弥の顔面目掛けてナイフを投げつけようとしていた。


「・・・・お前がな・・・・!!」


その瞬間、少年がナイフを投げる前に少年の後ろにあった岩のようなものが少年めがけて突っ込んだ。


「!!」


朔弥の能力は念道(フリームーブメント)と言うもので、自分が触れて目視しているものを動かすことが出来る。動かせる数に制限は無い代わりに重さは二トンまでが限界であった。そして、動かすためには体力を使う。だから長時間動かし続けるのは無理であった。

朔弥は完全に少年の死角から岩石をぶつけた。そして、間髪入れずに大量の岩石を少年へとぶつけた。幸い、三階層は岩が多い階層で、朔弥の武器は大量にあった。朔弥は体力が持つ限りぶつけ続けていた。


「はぁ・・・・、、、、はぁ・・・・、、ゴホッ、ゴホッ・・・・!!」


さっきよりも息を切らしながら、朔弥は伸ばしていた腕を下げた。朔弥の顔には大量の汗が出ていた。

少年が立っていた場所は大量の岩石によって埋め尽くされ、その姿は岩によって隠されて見えなくなっていた。


「ぐっ・・・・、、今の内に・・・・、え・・・・¿¿」


朔弥がそうして、背中に刺さったナイフを一息に引き抜いて、ゆっくりと立ち上がった。そして、上に続く階段に向かおうと振り返った瞬間、景色が反転した。

朔弥の景色が上下左右逆さまになった。視界がぐるんと回って地面へと()()()()()()

朔弥の瞳には、反転になった世界といつの間にか前に立っていた潰されているはずの、狂気に笑う少年の姿が映っていた。


「? ・・・・・・・・!」


痛みに気づく前に意識が薄れて行った。そして、最後にやっと気付いた。自分の頭と胴体が分かれていることに。朔弥の頭だけが地面に落ちて行った。

朔弥の眼は開いたまま虚になっていった。光が薄く消えていった。


「みん・・・・な・・・・、、、、死・・・・に・・・・たくな・・・・・・・・」


地面にゴンっと鈍い音がして、血溜まりが広がっていった。落ちた朔弥の頭が地面を転がった。


「ヒヒッ・・・・! クヒヒヒ・・・・!!!!!! キャハハハハハハハ!!」


少年は短剣に付いた血を舐めながら、そう笑っているのだった。


「ふぅ・・・・。・・・・さぁ、上に行こ〜」


ひとしきり笑って少年は血のついた短剣をしまってゆっくりと階段を登っていくのだった。


着実に、歩たちへと悪夢が近づいていた。

更新が遅くなりました。すみません。

次回は、土曜日までに更新できるようにします。

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