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七十三話 勧誘

「こちらに、刻藤 歩さんはいらっしゃいますか?」


放課後、僕が陽と話していると、僕たちの教室に訪れる人がいた。


「?」


「なんか呼ばれてるな、歩。行ってこいよ」


「どうせ、また昨日とかと同じような人たちでしょ・・・・」


僕はため息を吐いてダラダラと立ち上がると、教室のドアへと向かった。ドアの前は少し騒ぎになっていた。


「僕が刻藤ですけど、どうかしましたか? ・・・・?!」


ドアにいたのは僕たちと同じ制服を着ているはずなのに、そこはかとなく上品さを感じる女性であった。ただ、もの凄くスタイルが良く、美人であった。そして、僕はその顔を見て、騒ぎになっている理由にピンときた。この人は、四大財閥の一つである星桜財閥の代表取締役社長の一人娘である星桜(せいおう) 深鈴(みすず)であったのだった。この学校でも、いや社会的に見ても超有名な人であった。


「率直に言いますね、刻藤さん。貴方、私の父に会っていただけませんか?」


僕がその事に驚いていると、目の前の星桜さんはそんな僕の様子に全く気にする事なくそう言い放った。


「へ?」


いきなり、とんでもないことを言われた。この人は、そんな事を恥ずかしがるそぶりを全く見せずそう言った。すぐに、その事を聞いたクラスがざわついた。


「と、と、刻藤君が・・・・?! しかも、星桜財閥の御令嬢と・・・・?!」


「茉莉?! ちょっと! しっかりして!!」


窓際で茉莉さんが倒れた。それを近くで話していた湊月さんが支えていた。


「詳細は追って連絡いたしますので。それではご機嫌よう、刻藤さん」


「あの、ちょっと待ってください! ど、どう言う事ですか?」


「? どう言うこと、とは? 私はただ父に会っていただきたいだけですよ? それとも、父とお会いになるのは嫌・・・・でしたか?」


そう言うと、星桜さんは少しシュンとして僕を見て来た。


「いや、そう言うわけじゃ無いんですけど・・・・」


「それなら、心配は要らないですね。それではまた後日、お会いしましょう」



星桜さんはそう言って微笑むと、僕にもう一度挨拶をしてから、行ってしまった。


「スッー。・・・・どう言うこと?」


僕はまだ頭が混乱したまま、自分の席へと戻って行った。クラスの中は未だ騒いでいた。


「あの、星桜財閥の御令嬢、直々に来るとはなー。びっくりした?」


陽が軽い口調でそう言って来た。


「びっくりどころか、頭が真っ白なんだけど」


「まぁ、あんな大物にいきなり父に会ってくれ、なんて言われたらそうなるよな」


「でも、財閥から呼ばれるなんてどう言うことだろ?」


「そんなの、スカウトだろ。力ある若者を自分たちの手駒にしたいと思うのは当たり前だと思うぞ? あっ、でももし歩があの御令嬢と付き合ってたりでもしてたら話は変わるけど」


「んなわけ無いでしょ。僕が付き合ってる、ましてや財閥の御令嬢となんてあるわけが無いでしょ!」


「まぁそっか。なら、スカウト一択だろ」


「スカウト・・・・」


———良い話じゃないか。私にも昔はスポンサーがいたしな。


(「レティアは、狐丸(こま)財閥でしたっけ?」)


———ああ。すぐにぼったくろうとしてくる女狐だったがな。


(「・・・・。まぁでもまだスカウトって決まったわけじゃ無いですし」)


———確かに、それもそうだな。


「嫌なん?」


「嫌ってわけじゃ無いけど、気後れって言うかさ」


「ふーん。まぁそこら辺のことはよく分からねぇわ。俺は、冒険者志望じゃ無いし」


陽は冒険者志望では無く、警察志望であった。だから、陽は昨日のダンジョン講座の授業にもいなかったのだった。


「まっ、これはお前のことだし。ゆっくり考えれば良いんじゃね? じゃあ、俺はそろそろ部活だから。また明日」


「うん、頑張ってねー」


陽は椅子から立ち上がると、机の上に乗せていたバッグを持って教室から出て行った。

陽はサッカー部のキャプテンであった。黄印学園サッカー部は割と強豪であり、大学受験を控えた三年生もまだ部活に参加しているのであった。


「まだこちらに、刻藤さんはおられますか?」


「? また、星桜さんかな?」


また、僕の名前が呼ばれた。教室のドアへ近づくと、そこにいたのは星桜さんでは無かった。星桜さんと同じようにびっくりするほどの美人であった。その人は、黄印学園に通っている二つの財閥の御令嬢のうち、もう一つの宮家財閥の御令嬢である、宮家(みやいえ) 友里(ゆうり)であった。


「ど、どうしましたか?」


「あの、刻藤さん。私の父と会ってくれませんか?!」


宮家さんは僕の手を取るとそう言って来た。流石に、美人の上目遣いは威力が高かった。


「あの、さっき星桜さんにも同じこと言われてしまったんですけど・・・・」


「! 深鈴から言われましたか?」


「はい」


「チッ・・・・。・・・・でも、まだ契約はして無いですよね?」


僕は聞き逃さなかった。宮家さんが小さく舌打ちをしていた事を。


「は、はい。契約とかはまだです」


「分かりました。それなら、まだ大丈夫ですね。明日くらいには、詳細が届くと思うので、宮家財閥にもお越しくださいね」


「はい、分かりました」


「それでは。お時間取ってしまいすみませんでした」


そう言うと、宮家さんはぺこりとお辞儀をして、行ってしまった。


———色んな方面で大人気だな。


(「・・・・。金級ってみんなこんな感じなんですかね?」)


———金級だからと言うよりかは、君だからだろう。金級になる前にやった事が大きかったからな。最大級の銀級ダンジョンを攻略し、指名手配されていた人物を倒し、新しくできたダンジョンも攻略したら、注目は浴びるだろう。


(「でも、どうしましょうかね? この状況」)


———レナたちに聞いてみれば良いんじゃ無いか? ノアやレナも君と同じように勧誘はされていると思うしな。


(「そうですね・・・・。そうします」)


星桜財閥と宮家財閥から、勧誘をされたこの状況を見て、クラスはさっきよりもさらにざわついていた。僕は、帰る支度を済ませると足早に教室を離れていった。


「ふーん、そんな事があったんだねー」


僕は家に帰ると、さっきあった事をレナに話していた。


「僕のとこにもその二つの財閥が来たな」


リビングで携帯でビデオ通話を繋ぎながら、僕たちは話していた。


「やっぱり、ノアのとこにも来たんだね」


「うん。で、どうすんの?」


「うーん、とりあえず、誘われたからには、行かないとまずいよね?」


「それはそうだねー。まぁ、私はもう狐丸財閥の勧誘を受けちゃってるからなぁー」


レナは金急になってから少しして、狐丸財閥に勧誘を受けて、契約をしていたらしい。


「パーティーメンバーが違う財閥と契約してても良いもんなの?」


「それは大丈夫だよー。あくまで、個人の契約だから。パーティーメンバーが全員違う財閥と契約してるパーティーなんて沢山あるしね」


「そんなもんなのか。うーん。とりあえずノア、今度一緒に二つの財閥に行かない?」


「分かった。んじゃ、また詳細の連絡が来たら、僕にも伝えてくれ」


「分かった。ごめんね、忙しそうなのに」


「大丈夫。じゃあまた」


そう言うと、白衣を来ているノアは通話を切った。

ノアは何かを研究してるのか、開発してるのかは分からないけどもう六時を過ぎるのに、研究室のような場所にいるようだった。


「ノア君、忙しそうだったねー」


「うん。でも、元気そうではあったから、良かったよ」


「そっかー。歩君たちは星桜財閥か、宮家財閥と契約するのかー。あーでも、宗一郎さんは星桜財閥だから、歩君も?」


「分からない。まずは行ってみないと」


「まぁそうだねー。私は応援しかできないから、まぁ頑張ってよ」


「うん」


そうして、僕たちの時間は過ぎていくのだった。


九月 一日


僕は、新宿駅で人を待っていた。少し前まではなんとも無かったのに、今じゃマスクと帽子をつけて変装していないと、沢山の人が寄ってくるようになってしまっていた。僕はなるべく目立たないようにしながら、携帯をいじっていた。


「歩。ごめん、待たせた」


「いや、大丈夫。ついさっき着いたばっかだし」


携帯をいじっていると、僕の肩を叩いてきた人がいた。そこに居たのは、僕と同じように変装をしたノアであった。


「じゃあ行こっか」


「ああ」


昨日、僕とノアのもとに星桜財閥と宮家財閥から、正式に招待状が届いたのだった。内容としては、予想通り勧誘についてだった。

その際、二つの財閥が僕たちを狙っている事をお互いが知っていたらしく、二つの招待状には同じ場所で会合するという事が書かれてあった。財閥同士派仲が良いわけでは無いため、割と異例な事であった。

僕たちは、昨日二人で話し合うと今日その場所へと向かっていたのだった。


「それにしても、二つの財閥が同じ場所で会合なんてね」


「お前と組んでから非日常が多過ぎて、もはや驚かなくなってきたわ」


「アハハ、そう言えば、ノアって大学生だったんだね」


「うん。別に行く気は無かったけど、教授に死ぬほど勧誘されたから」


「でも、年齢は僕と同じでしょ?」


「うん。まっ、天才ってやつかな」


「アハハ、頼りにしてるよー」


「・・・・ちょっとは突っ込んでくれよ。僕がただ嫌な事言ったみたいになるじゃんか」


そんなたわいない事を話しながら、僕たちは会合場所である闘技場への入り口へと着いた。

闘技場(コロッセオ)は、決闘場の上位互換となる施設で、死に至るダメージだけで無く、その場の戦闘で起こったダメージ全てを肩代わりしてくれるというものである。ただし、戦闘する前にバッヂのようなものが渡され、それが割れると戦闘不能になるというものであった。

僕たちは、闘技場の入り口に立っていた門番のような人たちに昨日貰った招待状を見せた。

招待状を見ると、門番の二人は急いで、頭を下げると、中へと案内した。僕たちは中に入る前に小さい更衣室のような場所でいつもダンジョンに行く時に来ている服装に着替えさせられた。


「少しここで、お待ちください。もう少しで、星桜様と、宮家様がお越しになると思います」


僕たちを案内した人がそう言って、頭を下げてから、戻って行った。


「ところでノア。何で僕たちこの服装で、闘技場の中心にいるの?」


「そんなの僕が聞きたいよ。これから闘わせられんの?」


「まさか、そんな事は無い・・・・よね? だって僕たち勧誘されに来たんだよね?」


「刻藤君、 ライヘンドア君、今日はよく来てくれた」


僕たちが話していると、闘技場の入り口からいくつかの足音が響いてきた。


「ん? 宮家はまだ来てないのか?」


黒いスーツに身を纏ったその人は、辺りを見渡してそう言った。黒いスーツの人の隣には、一昨日、僕の教室に来た星桜 深鈴さんの姿があった。


「今、来たぞ」


その黒いスーツの人の後ろから、グレーのスーツを来た人が歩いてきていた。

その隣には、宮家 友里さんの姿もあった。

そして、宮家財閥と、星桜財閥の人たちが僕たちの方へと近づいてきた。


「さて、役者も揃った事だ。まずは自己紹介からしようか。私は星桜財閥、現代表取締役社長の星桜 伸治(しんじ)だ」


「私は宮家財閥、現代表取締役社長の宮家 悠馬(ゆうま)だ」


そう言うと、日本の財閥のツートップが僕たちにそう言った。


「僕は、金級冒険者かつトリックスター、リーダーの刻藤 歩です」


「同じくトリックスターメンバー、銀級冒険者のノア・ライヘンドアです」


失礼が無いように、僕たちも敬語を使いながら、そう言った。


「あー、そんなに畏まらなくて良いよ。私としては、長い付き合いにしていきたいからね」


「あ? 何もうテメェらが取ったつもりでいんだよ?」


「お? 喧嘩売ってんのか?」


目の前にいるのは本当にツートップなんだろうか。いきなり、フェイスオフ状態になり始めていた。話し合いどころでは無いような気もした。けれど、そんな状態の父親二人を娘が必死に止めていた。


「あの、何で僕たちは闘技場に?」


「ん、そう言えばまだ言っていなかったか」


睨み合いを中断して、少し乱れたスーツの襟を直して、僕たちへと向かい直した。


「早い話しが、君の実力を確かめたい、と言う事だ。残念ながら世間では、君に対して良い意見ばかりでは無い。当然君の活躍に異議を唱える人も多くいる。だから、この際君の実力をはっきりと見せて欲しい」


「・・・・、成る程。じゃあ僕はどうすれば良いですか?」


「・・・・、君は怒ったりはしないんだな」


星桜さんは少し呆気に取られたようだった。

確かに今星桜さんが言った事は受け取りようによっては僕に対して侮辱とも感じ取れる内容だった。

まぁ、これをレナが聞いてたら掴みかかりそうな気はするけど。


「? 怒っても意味ないですし。それに、つい最近まで最弱クラスだった奴が金級になったりしたら、疑いますしね。それで、どうすれば良いんですか?」


「君には、私たちがあらかじめ選んでおいた冒険者と戦って欲しい。どうかな?」


「分かりました。今から・・・・ですよね?」


「ああ。・・・・そう言うわけだ。姿を現してくれ」


「って言うわけで、これから君と戦う男だ。よろしく!!」


貸切になっている闘技場の客席から、誰かが飛び降りた。ズシンと重い音がしてから何ともないようにして、僕たちの元に歩いてきた。

そして、そう言いながら僕へと手を差し出してきたのは金髪と青い瞳をした男性だった。ガタイが良く、服の上からでも筋肉が分かるほどだった。そして、その男はこれの場にいる誰もが、いや全世界で知られる超有名な人だった。

今、僕たちの目の前にいるこの朗らかで陽気な人は、現最強冒険者であるイギリスの黒級、ハインツ=S=インフェルノ、その人であった。


「?!? ハ、ハインツ=S=インフェルノ?!」


「俺の名前を知ってたのか! よろしくな、ルーキー!」


そう言うと、ハインツは僕の手を取って、握り締めてきた。

僕は目を擦った。けれど、目の前の黒級は消える事はなかった。これは間違いなく現実であった。

ノアを見ると、ノアも僕と同じように驚いていた。


「さぁ、ルーキー! 戦おうか!!」


ハインツは掴んだ僕の手を離すと、代わりに手のひらサイズのバッヂを投げてきた。


「細かい事は後だ。まずは、目一杯戦いを楽しもうぜ!!」


ハインツを見ると、既に自分の胸元にそのバッヂを付けていた。


「そういうわけだ、刻藤君。存分に戦ってくれ。私たちは客席で観ている。ライヘンドア君、君も客席へ」


「僕は戦わないんですか?」


「君の能力は戦闘系では無いだろう?」


そう言うと、星桜さんたちは僕たちを残して客席へと向かって行った。


「・・・・分かりました。歩、存分にかませよ」


「・・・・うん!」


ノアは、僕の胸にドンと拳を当ててから、その跡を追って行った。僕は、肺に残った空気を大きく吐き出した。そして、集中した目つきで、ハインツを見た。


「覚悟は良いみたいだな。良い目だ、ルーキー! さぁ、実力を見せてみろ!!」


ハインツはドンと重い音で自分の胸を叩いて、高らかに叫んだ。

二度目の黒級との戦いが幕を開けるのだった。



二日も更新が遅れてしまいすみませんでした。次回は少し間が空いて、ニ月の二十七日です。


面白かったら、高評価の方お願い致します。感想やコメントなどもお待ちしてますのでよろしくお願いします!

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