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七十二話 うっぜぇ奴等

そして、僕たちは、新谷派たちとは反対側の決闘場の端に立っていた。

決闘場は、どこにでもあるというわけではない。この黄印学園は普通科と、進学科の二つがある。そして、その進学科の方には、星桜財閥と宮家財閥の娘さんたちが所属している。だから、その財閥がこの学校のグラウンド二つに決闘場を設置してくれたのだった。決闘場の中では、死ぬ事は基本的には起こらない。決闘場自体がその中にいるものの命に関わるダメージを肩代わりしてくれるのであった。一つの決闘場を作るためにかかるお金は一億を超えるらしい。

そんなものを二つも作れるのはさすが財閥というところであった。


「両者、準備は良いか?」


和旗先生が決闘場の真ん中で僕たちを交互に見た。


「はい。茉莉さんも大丈夫?」


「う、うん。私もいけるよ」


「俺たちも行けるぜぇ! さぁ、早く始めろ!」


反対側で新谷派がそう叫んだ。その顔には僕を挑発しているのかにやけた笑みが張り付いていた。

決闘場の周りに人が集まって来た。近くには、湊月さんの姿もあった。


「茉莉! 頑張って!!」


「が、頑張るよ・・・・」


茉莉さんが湊月さんの応援に応えた。


「・・・・両者共に、構えろ! 勝利条件はどちらか一方が戦闘不能になる、もしくは参ったと言わす事だ! それでは、始め!!」


和旗先生が決闘場から飛び降りると共に、腕を勢いよく振り下げた。


「迅!! 行って!!」


「覚悟しろ! 刻藤!!」


和旗先生が叫んだ瞬間、新谷派が走り出した。決闘場は、縦百メートル、横百メートルの正方形。その正方形の端に立っていた僕たちへと新谷派はぐんぐんと近づいて来た。

確か、新谷派の能力は連撃(バースト・ストライク)というもので、最大四回の攻撃を同時に与えることができるというものだったはず。つまり、まともに食らったら、たった一発だけでも四回の攻撃を食らったのと同じになる。

それにしても、思ったよりも足が速いな。あんなに速かったっけ?


「茉莉さん!」


「わ、分かった!」


僕がそう言うと、茉莉さんはその意図を汲んだのか手を前に出した。そして直後に、僕たちの前に少し濁った透明な板のようなものが現れた。


「こんなんで止められる訳ねぇだろ?!」


新谷派はその板に思い切り殴りかかった。一度殴っただけで、板が何度も揺れた。


「ごめん、刻藤君。すぐ破られちゃう・・!」


茉莉さんが言う通り、その板が壊れるのにそう時間はかからなかった。

二、三発殴ると、板に亀裂が入り、砕け散った。


「おら、殴られろ!!」


新谷派は僕へと拳を振りかぶった。


「茉莉さん、少し我慢して」


「えっ? きゃっ・・・・!!」


僕はすぐ横にいた茉莉さんを抱えて、新谷派の攻撃を躱した。


「なっ、、速・・・・!!」


新谷派は僕が避けれるなんて思わなかったのか、拳をすかしてひどく驚いているようだった。

僕の狙いは新谷派じゃ無い。未だ、最初の位置で立っている八木田の方だ。

八木田の能力は完全なサポート系だった。確か、名前が生体(インサイド)電流(ストリーム)というもので、人間や、動物の身体の中を流れる電流をその対象に触れる事で操作できるというものだった。多分、新谷派の足が速かったのもその能力のせいだと思う。

だから、僕は新谷派よりも先に、八木田を狙ったのだった。


「何で私の方に!?」


急に接近して、八木田は驚いているようだった。というか、そもそも、新谷派の攻撃を避けられるとなんて思わなかったようだった。


「いやっ・・・・! 私に近づくな!!」


「茉莉さん、耐えててね・・・・! 二式 神速」


八木田は僕に触れようと腕を伸ばした。けれど、僕はその腕を弾き飛ばすと、木刀の柄に手をかけた。そして、勢いよく木刀を抜刀すると、なるべく手加減をして、神速を打ち込んだ。

威力は手加減したけれど、それでも八木田は神速を躱す事なんて出来なかった。いや、躱すどころか、反応すらも出来なかった。

神速がお腹に直撃すると、決闘場の舞台の上を転がった。そして、仰向けに倒れたまま気絶したのか、動かなくなった。

八木田が気絶したのを見ると、僕は抱えていた茉莉さんを下ろした。


「ごめんね、大丈夫だった?」


「う、うん。大丈夫。と、刻藤君こそ、私を担いで戦って大丈夫だったの・・・・? 私、お、重かったんじゃ・・・・」


「いや? 全然軽かったよ?」


「その、あ、ありが———」


「テメェ!! 人の女に手を出しやがってェェェ!!」


茉莉さんがそう言おうとしていると、新谷派は地面を転がった八木田の姿を見て、激昂して、叫んだ。新谷派はまた僕に向かって走り出した。八木田が気絶した事で、生体電流によるドーピングが切れたのか、スピードが明らかにさっきよりも遅くなっていた。まぁ、ドーピングした状態でも当たる事はないし、ましてや、今はドーピングが切れ、そこに加えて激昂した事で動きが単調になっていた。僕は茉莉さんを巻き込まないように前に出て新谷派の攻撃を躱し続けた。単調になった攻撃を躱すのは今の僕にとって赤子の手を捻るほどに簡単であった。


「くそっ、ちょこまかと・・・・!!」


攻撃が掠りもしないこの状況に新谷派はイラついていた。そして、そのイラつきがさらに新谷派の動きを単調にさせていた。


「もう、終わらせよう、新谷派。 五式 虎爪」


「ふざけんじゃねえ! カスの癖に・・・・!!」


新谷派へと虎爪を放った。新谷派は割と背が高く、筋肉が多い。だから、手加減した神速だと一撃で終わらせられないと思った。だから、今度は手加減してもそこそこの威力を出せる虎爪を放った。

新谷派が僕に殴りかかると同時に、カウンターのようにガラ空きの胴体にぶつけた。新谷派の拳が僕に当たる前に、新谷派が吹き飛んだ。


「ガアッッ・・・・・・・・!!!!」


図体のでかい新谷派もまた、決闘場の地面を転がった。少し力が入りすぎて、新谷派の身体は地面を何回かバウンドしていた。


「しょ、勝者、刻藤•白吹チーム!!」


少し遅れて、和旗先生が決闘場の上に上がって右腕を高く上げた。そして、見ていた周りの生徒たちから大きな歓声が上がった。

僕は茉莉さんの元へと駆け寄った。


「怪我は無いよね?」


「うん」


腰が抜けているのか、地面にへたりこんでいた茉莉さんに手を出した。

少し戸惑ってから、茉莉さんはその手を掴むと、立ち上がった。


「あ、ありがとう・・・・。刻藤君」


「どういたしまして」


立ち上がると、茉莉さんは少し走って決闘場を降りていった。

新谷派たちの方を見ると、和旗先生が倒れている八木田と新谷派の元へと駆け寄っていた。そして、仰向けに倒れた八木田に手に持っていた小さな容器の中身をバシャとかけた。


「大丈夫か? 八木田」


「う・・、ううん・・・・」


すぐに、気絶していた八木田がゆっくりと身体を起こした。

あの小さな容器の中身はポーションであった。ポーションは飲まなくても、身体に浴びるだけで効果を発揮する。ただ、その代わりに回復薬よりも効果は小さいというものであった。


「ひっ・・・・・・・!!」


起き上がった八木田と目が合った。僕を見ると、八木田は小さくそう声に出すと、すぐに目を逸らした。


———コテンパンにやったなぁ、歩。


(「ちゃんと手加減はしましたよ」)


———まぁそうだが。けれど、『一撃で気絶させられる』と言うのは冒険者でも無いただの高校生にとってはトラウマになる事だろう。それに、少しは私怨も入っていただろう?


(「・・・・、まぁ少しは。仮にも僕はいじめられていましたからね」)


–———・・・・何にせよ、あそこまで力の差を見せつけられたら、もう君に突っかかることも無いだろう。


(「そうですね」)


その時だった。虎爪を食らって気絶しているはずの新谷派が立ち上がった。和旗先生はまだ、八木田の方にいて、新谷派にポーションを使った様子はなかった。


「と、刻藤・・・・、テメェ・・、俺にこんな怪我をさせやがって・・・・! お、俺の親父は市山財閥の幹部だ。お前如き、ど、どうとでも出来るんだ・・! それに、お前だけじゃ無い! お前の仲間もだ・・・・! 俺に、こんな事をした事を後悔しろ・・・・!」


新谷派は僕へ指を差しながら笑いながらそう言った。


「は?」


意味が分からない。自分から喧嘩を売っておいて、そんな事が罷り通るわけが無い。だけど、財閥が持つ権力は思っている以上に大きい。それに、市山財閥は他の財閥とは違って裏の、違法な事にも手を出していると聞く。

もしかしたら、新谷派が言っている事が本当に起こるかもしれない。それに、僕だけじゃなくて、レナやノアたちにも危害を加えてくるかも知れない。

僕はそんな事を許すわけにはいかない。

僕は少しイラついた。いや、だいぶイラついた。


「分かってんのか刻と———」


僕は新谷派が言い切る前に、一瞬で新谷派の元へと移動した。僕の手に握られていたのは木刀ではなかった。僕は指輪から取り出した鬼月を握っていた。


「殺すぞ、新谷派。もし、そんな事をしてみろ・・。その時は脅しでは済まさないからな・・・・!!」


僕は新谷派の首元に抜き身の鬼月を突きつけながら全身から殺気を放った。鬼月の刃が新谷派の首元に触れて薄皮が斬れて血が流れた。


「ひっ・・・・!!」


新谷派が怯えた声を出した。

僕が何回も死線を潜り抜けて、強くなった事でプレッシャーも強くなっていた。空気が重くなるほどのプレッシャーを僕は新谷派に真正面からぶつけた。

蛇に睨まれた蛙のように新谷派は固まり、地面にへたりこんだ。身体がビクビクと震えていた。


「いいな? 手を出したらお前の命は無いと思え・・!!」


僕はそう言うと、鬼月を鞘の中に納めた。そして、踵を返すと僕は決闘場から降りていった。

決闘場の様子を見ていたクラスメートたちはその起こった事に言葉が出ないようだった。

確かに、少し前まで何も出来なかった奴が、あんな動きをするのを見たら、頭が真っ白になるのも無理は無かった。



「へぇー、あのお方が。刻藤 歩さんですか・・・・」


校舎のある教室の中では、今のこの一部始終を見ていた者がいた。


「・・・・どうにか、手に入れられないかしら・・・・?」


その女性は少し微笑んだ後、また前を向き直したのだった。


———怯えられてるな、歩。さっきまでとはえらい違いだな。


(「しょうがないですよ。あそこまで殺気を出して脅しているのを見たら、怖がりますよ」)


———・・あんまり気にしていないんだな。


(「まぁ、みんなから拒絶されるのは慣れてますし」)


———・・・・。そうか。


レティアはただ一言だけそう言った。


「先生、僕は早退します」


八木田の元にいて、今の事を間近で見ていた和旗先生に近づいて行った。


「わ、分かった。灯、いや縞中先生には俺から伝えておこう」


「すみません。ありがとうございます」


僕は和旗先生にそう言って、第二グラウンドを出て行った。


「と、刻藤く———」


第二グラウンドでは、また呼び止める事ができなかった臆病な性格をした女の子が伸ばした腕を引いたまま、僕の背中を見ているのだった。


そして、教室に行って自分の荷物を取ってから、僕は六時間目をサボって家に帰ったのだった。


家に帰ると、レナが急いで二階から降りてくる音が聞こえてきた。


「歩君? 早いね、今日は」


「うん。ちょっとね」


「? 何かあったの?」


「・・・・ちょっとね」


僕はなるべくレナと目を合わせないようにしながら、リビングへと向かって行った。


「・・・・、絡まれたとか?」


「!?」


僕は思わず、振り返って、レナの顔を見た。


「おっ、その顔は当たりだね?」


「・・・・、、そうだよ。復帰早々絡まれたよ。しかも、タチの悪いヤツに」


そして、僕は今日起こった事をレナに話した。


「ふーん、市山財閥ねー。その新谷派だっけ? そいつの親が市山財閥の幹部でも手出しは出来ないと思うけどねー」


レナはソファに座ってクッションを抱きながら、僕にそう言った。


「そうかもしれないけど」


「まぁでも、やり方はあんまり良く無いけど、脅したんなら特に下手な事はしないでしょ。それに、金級冒険者に喧嘩を売って、良い事一つもないしねー」


「やっぱ学校行くべきじゃなかったかなぁ? いじめを止めなかったクラスメートも、僕を嘲笑ってた人たちも手のひらを返したように集まってきてさ」


「それ関しては仕方が無いよ。弱い者を排除して、強い者に媚びるのは人間の習性だからねー。まぁ、本当に嫌なら学校に行かなくても良いと思うけど。まぁ、結局のところは歩君次第だからね」


「うーん」


正直なところは僕はやっぱり学校にそこまで良い感情は持たなかった。急に手のひらを返してきたこともそうだし、新谷派たちに突っかかってこられたのも含めて今日はひどい一日だった。でも、陽や茉莉さんとか全員が全員嫌なわけではなかった。それに、授業も少しは楽しかったし。


「まぁ、先生にも言っちゃったし、卒業までは頑張って行くよ」


「そっか。じゃあ、歩君は今日何が食べたい? 好きなものを作ってあげるよー」


「いきなりどうしたの? まぁでも、食べたいのはオムライス・・・・かな」


「じゃあ、夜ご飯はそれで決まりだねー」


「・・・・、ありがとう、レナ」


レナは僕を気遣ったのか、話を早々に切り上げた。いつも、レナには助けられていた。それはダンジョンの中でも、精神的な事でも。レナの存在は僕にとって不可欠なものになっていたのだった。



八月 三十日


僕は変わらず学校に来ていた。

昨日の夕方に僕が早退したのを聞いてか、また縞中先生が家に来た。僕が学校に行くと言う旨を伝えると、縞中先生は安心をしたようだった。


「もし、今回のような事があったら、今度からは俺たちに伝えてくれ。こちら側でできる限りの対処をする」


先生は既に新谷派の件も知っているようだった。今まで、教師側としても、財閥の幹部に逆らうことはできず、新谷派らの横暴を容認するしか無かった。けれど、今回の一件から財閥関係者に関する態度への改革について進められているらしい。

まぁ今更って感じではあるけれど。

それでも、少しでも環境が変わろうとしているのは良かった。


「ありがとうござます。縞中先生」


「よしてくれ。むしろ、今まですまなかった」


そう言うと、先生は僕に向かって頭を下げた。

プライドや教師の立場もあるだろうにこうやって頭を下げているのを見ると、やはりこの先生はよく出来た人なんだろう。


「いえ、大丈夫ですよ。それより、これから残り半年間、よろしくお願いします」


「ああ。よろしくな、刻藤」


そう言って、先生は帰って行った。

そうして、先生にもちゃんと行くと言う意思は伝えて、学校に来ていたのだった。


今日は昨日とは違って、学校に来ていきなり色んな人から話しかけられることは無かった。

教室に入ると、僕の姿を見て、少し教室がざわついていた。


「歩、ちゃんと来たんだな」


突然、僕の肩を誰かが組んできた。


「陽か、驚いたよ」


「わりー、わりー。みんな心配してたんだぜ? またお前が学校に来なくなるんじゃ無いかってな。新谷派をぶっ飛ばしたんだって?! 俺もその現場を見たかったなぁ!」


陽は明るくそう言い放った。僕はチラッと新谷派の席を見ると、まだ新谷派は来ていないようだった。


「ちょっとやり過ぎたような気がするけどね」


「そんな事ねぇだろ。歩はアイツにもっと酷いことされてるんだしな。まぁ、あれくらいなら良いだろ。それにアイツにとっても良いお灸になったろ」


スピーカーからチャイムの音が鳴った。チャイムが鳴ってすぐに、縞中先生が扉を開けて入ってきた。


「おい、お前たち席につけー!」


「へーい」


陽は僕の肩から腕を離すと、席に戻って行った。僕のことを見ていた人たちも同じようにすぐに席へと戻って行った。


「刻藤、お前も席につけー!」


少し立ち止まっていると、縞中先生がそう言った。

僕はハッとして急いで自分の席へとついたのだった。

そして、学生の一日が始まったのだった。


これから、僕たちの物語は加速する。財閥をも巻き込んで大きな事件へと発展して行くのだった。けれど、それはまだ歩たちの知る余地は無かった。


更新が遅くなってしまいすみませんでした。次回は水曜日までに行います。もしかしたら幕間を書くかもしれないです。


面白かったら高評価の方お願い致します。感想やコメントなどもお待ちしてますのでよろしくお願いします!

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