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六十六話 善の在り方

すぐに終わらせるとは言ったものの、依然、つぐみであった者のあの見えない壁は脅威であった。あの壁がある限り、アイツに攻撃することはおろか触れることすら出来ない。

一応、僕はつぐみの能力の弱点は知っている。一つは、時間に制限があること。二つ目は、ミサイル級の攻撃は一回までしか耐えることが出来ないということ。そして、最後に、その能力を使っている間は動くことが出来ないということであった。けれど、それはつぐみの能力の話。目の前のコイツがつぐみと全く同じであるという保証はどこにも無かった。


全弾乱れ打ち(マニュアル):ショット!!」


華が後ろからさっきは同時に撃った弾丸を今度は散弾銃を撃つように全体に当たるように撃った。けれど、同時に撃った時と結果は変わらなかった。

華の能力は魔弾(バレット)(グングニール)というもので、自分の拳よりも小さいものならばなんでも撃ち出すことが出来る能力だと言う。撃ち出す際に特に指鉄砲の形をしていなくても撃ち出せるけれど、その形をしていた方が狙いが定まりやすいと、昨日、華自身の口から聞いた。華の撃ち出す弾丸は強力ではあるが、ミサイルほどに強いわけでは無かった。だから、見えない壁が割れる気配は一向に無かった。


「本当に堅いっスねぇ!!」


「華はそのまま後ろから撃ち続けて!」


「了解っス!」


「レナ! 僕たちは近づくよ!!」


「オッケー!」


僕たちは、アイツヘと接近した。けれど、すぐに身体がそれよりも先に進まなくなった。僕はそこから一歩離れて鬼月を構えた。僕は、雅国さんに改造してもらったこのお面を付けてから、いつも以上に身体がよく動いていた。力も速さもいつもよりも出ていた。いつもの自分の力をこの装備が強化してくれていた。そんな身体で、僕は壁に向けて、腕を引き絞った。


「柳生新陰流 四式 冥突!」


僕とレナはその壁に向かって攻撃を放った。けれど、僕の冥突も、レナの攻撃もどちらも弾かれてしまった。レナの腕にはヘファイストスで新調した籠手がつけられていた。

アイツへと視線をやると、ぽっかり空いた空洞が僕たちの方をじっと見つめていた。そして、全く動かなかったアイツがまた口を大きく開けた。


「キャァァアガササカァアガアタカカカアア!!」


耳障りな叫び声を轟かせた。アイツはあろうことか僕たちへと襲いかかってきた。


「二人とも、今!!!!」


僕は二人へ叫んだ。アイツが動いたのならば、もう能力は発動されていない。だから、僕たちは一斉に攻撃を放った。


「柳生新陰流 二式 神速」


さっきよりも攻撃がコイツのもとに近づいた。

しかし、近づいただけだった。確かに、さっきよりも攻撃は通った。けれど、アイツの身体の数センチ前で鬼月が止まった。僕だけじゃない、レナも、華の攻撃もまた数センチ前で何かに弾かれてしまっていた。


「なっ・・!!」


そして、攻撃を弾いたコイツは、接近していた僕とレナに手を伸ばした。けれど、それは別段速いわけじゃなかった。だから、僕たちにとって躱すことは容易であった。


「クッ・・・・・・!」


アイツの攻撃を躱した僕たちは一旦、華のところまで後退した。


「どう言うこと?! あれ!」


「つぐみの能力は動いたら使えなくなる・・・・。だけど、アイツは範囲こそ狭くなってたけど、動きながらでも見えない壁を使えるっぽいね・・」


「そんなの攻撃が通らないじゃないっスか!」


「いや・・・・」


「何かあるの?」


「僕の能力を使えばいけるかもしれない」


「と言うと?」


「この前判明したんだけど、僕の封印は、封印してる時にエネルギーはそのままになるんだよ。で、そのエネルギーの方向性と、エネルギーに別のエネルギーを強制的に封印できるんだよ」


「・・・・つまり?」


「えーっと、要するに僕の斬撃に、その上から更に斬撃の力とかを付加して、ミサイルレベルの力を強制的に引き出せるってこと」


「なるほど、じゃあ、それを使えば・・・・!」


「とは言っても、ちょっと時間がかかるんだよね。エネルギーにエネルギーをぶつけたら、浸透するまでに時間が少しかかるんだよ」


「そんなことなら、大丈夫。私が引き付けるよ」


「でも、レナ一人で大丈夫なの?」


「速さで勝てるからね。いけるいける」


「私もレナと一緒に引きつけておくから、歩はその、エネルギーを溜めることに集中するっス!」


「・・、分かった。じゃあ二人とも、よろしく」


「任せて」


「任せるっス」


そう言うと、二人は僕よりも前に出ていった。特に、レナは単身でアイツの元へと突っ込んでいった。けれど、相変わらず、アイツに攻撃はまともに当たっていなかった。


「柳生新陰流 複式 虚爪」


僕は目の前に一つの斬撃を繰り出した。そして、その斬撃が飛んでいく前に、宙に封印を施した。


「フーー、柳生新陰流 六式 龍巣、五式 虎爪・裂」


僕は一息つく暇もなく、異なる斬撃を虚爪の上に放った。そして、封印を施された異なる斬撃同士が徐々に混ざり合っていった。龍巣を撃ったけれど、この装備の力も関係して、反動は気にするほど大きくは無かった。

レナたちはずっとアイツの気を引きつけてくれていた。アイツはさっきまでの棒立ちから打って変わり、あの耳障りな叫び声を上げながら、レナたちに襲い掛かっていた。けれど、アイツの攻撃はレナに当たることは無かった。レナのスピードについて行けていなかった。どうやら、身体能力はつぐみとさほど変わらないようであった。

つぐみは、能力的にも前線で戦うようなタイプでは無かった。だから、身体能力は人並み以下であり、単純な力勝負だったら、僕たちが負けるはずは無かった。

そして、遂に僕の異なる三つの斬撃が浸透しきったのだった。


「柳生新陰流×封印 極砲玉(ザ・バースト)


混ざり合った斬撃が一つの弾丸のような形に変形した。


「華!! これを撃って!!」


「今、行くっス!!」


華はすぐに意図を察したのか直ぐに僕の元へと走ってきた。そして、宙に止まったままの極砲玉を前にして、右手で指鉄砲を作った。そして、レナと戦っている最中のアイツに狙いを定めるように、片目を瞑った。


「レナ、後ろに下がって!!!!」


華が撃つ直前に僕はレナへとそう叫んだ。


「行くっス! 一点集中撃ち(ターゲット):シングルバースト!」


そして、華が指鉄砲を引くと同時に、僕は封印を解除した。その直後、そこから放たれたものは弾丸などと言う生易しいものでは無かった。超高威力と超高速度を併せ持ったもはや兵器とも呼べるものがアイツへと一直線に飛んで行った。

自分から距離を取ったレナへと走り出していたアイツの元に着弾した。爆発が起こったわけでは無かった。けれど、アイツから離れた僕たちにさえ届く風が吹いた。あの見えない壁は確かに攻撃は弾く。けれど、空気までも弾くわけじゃない。だから、自分の身体のすぐ近くに壁を出していたのなら、身体ごと吹き飛ぶのも当たり前だった。

アイツは、轟音と共に、一つの柱を貫通し、先にあったもう一つの柱に直撃した。柱はクレーターのように陥没していた。

僕は既に走り出していた。

柱に直撃して、動かなくなったアイツへと僕は走り出していた。アイツの見えない壁が割れているのなら、少しの間、アイツは新しい壁を出すことは出来ない。見えない壁は、一度壊されると、もう一度出すのに時間を要する。だから、僕たちは間髪入れずに追撃を行う。


「ッッああアア!!!!!!柳生新陰流 二式 神速!!!!!!」


僕は納刀した鬼月を思い切り引き抜いた。柱に埋もれるようにしていたアイツの首へ向かって鬼月を力の限り振り抜いた。今度はアイツの身体に刃が届いた。身体に見えない壁が纏われていることは無かった。首を確実に捉え、そして、首を刎ね飛ばした。

アイツの、いや、つぐみの首が宙を舞った。


「あ・・・・リが・・と・・ォ・・・・」


宙に舞った首がそう呟いたように聞こえた。罪の意識から()()()()()の僕の幻聴かもしれないけれど、そう聞こえた。

僕の手でつぐみを殺した。でも、蒼丸が戦えない以上、これは元とは言え、パーティメンバーである僕がケリをつけるべきだと思った。

首を切られたつぐみの身体は前のめりになって地面に伏した。つぐみの体から血は一滴も流れなかった。鬼月にも血は一滴として付着していなかった。

つぐみのことを憎んでいたけれど、この姿になっているのを見て、気分が良くなるなんてことは無かった。


「・・・・、せめて、安らかに・・」


僕は鬼月を鞘に納め、お面も外してしまった。蒼丸は未だに腰を抜かして地面にへたりこんでいた。


「ノア、異空鞄に入れておいてくれる?」


「でも、良いのか?」


「うん。お願い」


「分かった」


そう言うと、ノアは異空鞄の中につぐみの遺体を入れた。そして、ノアが遺体を入れ終わると、隣にあった柱に穴が空いた。そして、その穴は、下に続いている階段があった。

レナたちが僕の元へと近づいて来た。


「・・。歩君、大丈夫?」


「・・・・、うん。大丈夫だよ。それより、レナは怪我無い?」


「うん。大丈夫だよ」


「歩、西倉 蒼丸はどうするっスか? このまま置いておくっスか?」


「・・・・・・、いや、連れて行こう。もし、蒼丸も陸にやられる可能性があるし」


「・・・・、そうっスか」


「それで良いかな? 三人とも」


「歩が決めたことなら私は文句はないっス」


レナもノアも華の意見と同じだった。僕は未だ地面に座ったままの蒼丸へと歩いて行った。


「蒼丸」


「ひっ・・。お、俺も・・こ、殺すのか・・?」


蒼丸は精神的に弱くなっていた。小学校までの蒼丸はこんな感じだった。気が強い訳でもなく、普通の優しい人間だった。変わり始めたのは、中学校で陸と会ってからだった。だんだんと弱かった自分を覆い隠すようにして、厚い外面が形成されていった。そして、いつからかそれが蒼丸の元の性格を塗り替えて、本当の性格になっていってしまった。


「・・・・蒼丸、お前を殺すつもりなんて無い。本当ならお前がどうなっても心底どうでも良い。だけど、お前もまた改造される可能性が無いと言い切れないからな。もし改造されでもしたら面倒だから、お前を連れて行く。良いな?」


僕は威圧をするようにして、強めにそう言った。今言った言葉はほとんど本心であった。蒼丸のことは今もなお恨んでいるし、許す気はない。好きな反対は無関心というけれど、まさにそのような状態であった。蒼丸のことは心底どうでも良かった。


「わ、分かった・・・・」


頷くしかない蒼丸を強制的に頷かせた。


「早く立て」


強引に立ち上がらせると、僕は三人の方を向き直した。


「もう行ける?」


「僕は大丈夫だけど。レナさんたちは休まなくて良いんですか?」


「私はー、大丈夫かなー」


「私も別に疲れてないっス」


「よし、じゃあ行くよ」


そうして、僕たちは新しく柱から現れた階段へと向かって行くのだった。


新宿警察署


「若林先輩はどこにいるか知りませんか?」


「拓義? ・・・・そういえばここ一週間くらい見てないな。どこに行ったんだ? アイツは」


病院に若林 拓義(たくよし)が来た時に一緒に来ていた女性の警察官である真我(しんが) 真子(まこ)滝朝(たきあさ) (あらた)に尋ねていた。真子は、拓義の現バディであり、後輩であった。拓義の姿は一週間前程度から見えなくなっており、連絡しても既読すら付かない状況であった。


「本当にどこに行ったんですかね・・?」


「まぁ、アイツのことだ。また何か違う事件でも追ってるんじゃないのか?」


拓義は割と自由奔放タイプであり、あんまり規則を守ることは無かった。時々、ふらっと姿が見えなくなってまた現れて手柄を取っているなんてことは今までに何度もあった。けれど、今まで一回も連絡が途切れることだけは無かった。


「そう・・だと良いんですけど・・・・」


「すぐにまた手柄を取ったぞとか何とか言って姿を現すだろ」


「・・そうですね・・」


新はソワソワしている真子に不安を感じさせないようにそう言った。けれど、真子は胸騒ぎが治らなかった。ずっと、嫌な予感がしていたのだった。そして、その胸騒ぎは()()()()として当たってしまうのであった。


「若林先輩は戻って・・来ますよね・・!」


「ああ」


人知れず拓義の机に置かれていたコップにヒビが入っていたのだった。



新宿御苑ダンジョン 二階層


僕たちは特に休憩を取ることはないまま階段を降りきっていた。

二階層は一階層とは違い、何個も分かれ道がある所ではなく、ただ眼前に大きな部屋が広がっているだけであった。

そして、僕たちがその部屋の中に入った瞬間、階段には戻れなくなってしまったのだった。階段が消えた訳じゃない。けれど、それ以上階段まで近づくことが出来ないのであった。


「これ、ラウストの仕業か・・?!」


「かも知れないね・・。奥多摩でも、こんな感じだったし・・!」


「ノア、下がってて」


その瞬間だった。突如として、僕の身体が光った。


「?! 何だこれ?!」


「歩!!」


「あゆ・・!!」


レナが言い終わる前に、僕の身体が完全に光に包まれた。そして、眩しさに目を細めた。目を開けると、周りにみんなはいなかった。ただ、僕だけがさっきまでとは別の違う大きな部屋にいた。


「みんなは?!」


「ここには君だけだよ。刻藤 歩」


聞き覚えのある、忘れたくても忘れられない奴の声が部屋に響いた。


「お前は、ラウスト・・!!!!」


白衣を着た男が目の前に現れた。その隣にはボロボロのコートとフードのようなものをつけた人が立っていた。


「ああ、二日ぶりだな」


「テメェ!!!!」


「おっと、いきなり殺意が全開だな」


「みんなをどこにやった!!」


「ああ、それは気にしなくて良い。ここに転移させたのはお前だけだからな。他の奴らには()は何もしていない」


「! 陸はどこに行ったんだ!」


「分からないか? 俺は、お前以外には手出しはしないと言った。なら、誰が奴らを消すんだ?」


「!!」


「理解したな。今頃、あいつは、奴らの元に現れているだろうな。それよりも、どうだった?」


「は? 何のことだ」                                                                         


「何って決まっているだろう。自らの手で桜 つぐみを殺した感想だよ」


ラウストは痛いところを突いてきた。実際、つぐみをこの手で殺したということは、少なからず僕の心に傷をつけていた。


「‥‥特に、何も」


「ハハ、嘘をつくなよ、刻藤 歩! 少なからずお前は罪の意識があるんだろう?! お前はそういう人間だからな!! 自らを陥れた人間の不幸にも心を痛めてしまう。お前のような者をなんて言うか知っているか? 偽善者というんだ」


「‥‥黙れ」


「お前の姉とは違って、随分と早く殺せたもんだよなぁ!? お前の姉の時は今回と違って、グダグダと考えていたのにな!!」


「うるさい」


「結局、何を思おうと人の心根は簡単に変わらないんだよ。人は無意識的に命の価値をつけているんだよ! いい加減その事を受け入れろよ、刻藤 歩!桜 つぐみの有様に心を痛める一方で、殺すと言う選択は即決するというその相反する矛盾をな! 」


「‥‥うるせぇ、黙れ!!」


「さぁ、現実から目を逸らすなよ? 刻藤」


ラウストはそう言いながら、隣で立っていた人のコートとフードを外した。仰々しいマスクのような物をつけた人が立っていた。


「!・・嘘・・だろ・・?」


その姿はあまりにも似ていた。ある一人の警察官に。母さんに助けられたと言って、僕のために動いてくれた男に。目は赤く光っていた。もうその本人の意識はあるのかは分からないけれど、ただじっと僕のことを見ていた。


「刻藤。これが現実だ! お前の身の回りの者を俺は重点的に狙っていた。お前が、全ての原因なんだよ!! はは、ははははッッッ!!!!」


ラウストは腕を広げて高らかに叫んだ。


「———さぁ、戦いの始まりだ」


僕へ向かって、ラウストと一人の元警察が走り出したのだった。

次回は明日更新します。

次で年内最後の更新となります。


面白かったら高評価の方お願い致します。感想やコメントなどもお待ちしてますのでよろしくお願いします!

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