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幕間 絡み合う糸

七月 十七日


蒼丸たちは意気揚々とダンジョン組合の扉を開けた。中には多くの冒険者がいて、もう夕方だと言うのに活気が消えることは無かった。

中に入ると、その瞬間、蒼丸たちは他の冒険者たちからの注目を浴びた。 騒がしい中が少しずつざわつき始めていた。


「? なんだ? 何で俺らの方を見てんだ?」


「さぁ? もしかして、パーティーの昇格ですかしら?」


「それはあるかもな」

蒼丸たちがそう話していると、一人の冒険者が蒼丸たちに話しかけた。その冒険者は三十代くらいに見え、背中に大きな盾を背負った男の人であった。


「・・・・組合に何しに来たんだ、恥晒しが」


そして、その男が二人に言い放った言葉は衝撃的なものであった。蒼丸たちはこの男と面識は全くとして無かった。それなのに、出会い頭にいきなり二人は貶されたのであった。


「??!! あ? テメェ、今何て言った?!」


「一体どういうことですか?!」


いつからか喧嘩っ早い性格になってしまった蒼丸がその言葉を聞いて、腹を立てたようにそう言った。


「何しに来たんだと言ったんだよ。犯罪者野郎どもが!」


「何だと!? テメェはいきなり喧嘩売ってんのか?!! それに犯罪者だと?! 俺が何をしたんだよ!」


蒼丸は今にも殴りかかろうとする勢いでその男へと言い放った。


「そうです! 私たちがそのような暴言を吐かれる筋合いはありませんわ!!」


「言わないと分からないのか?! お前たちが犯した罪を!!」


「ああ?!!」


「はい?」


「そうか、それほど恥を晒されることが望みか! ならば言ってやる! お前たちが仲間を殺しかけ、あまつさえその事実を偽造したと言うことをこの場にいる全員が知っている!!」


「!! は、はぁ・・・・?」


「知らないとでも思っていたのか! さっき、副マスターから冒険者たちへと伝達されたんだよ!! 『ラグナロクが重罪を犯しました』とな!!」


「はぁ!!? そんな馬鹿な!!」


「嘘だと思うのならそこに貼られている紙を見てみろ!!」


蒼丸に怒鳴った男であり、赤級パーティー『銀狼の牙』のリーダーでもある 和田 藤春が受付の隣にある掲示板にでかでかと貼られていた紙を指差した。

蒼丸は焦燥を抱えながらもその紙に書かれている内容を読んだ。


・ラグナロクのパーティーメンバーである西倉 蒼丸 、桜 つぐみ、 鬼丙 陸の冒険者資格を一年間剥奪とする。

・ラグナロクのパーティーメンバーは元ラグナロクパーティーメンバーであり被害者である刻藤 歩に賠償金として一億円を支払うこととする。


その紙に書いてある内容は自分たちの犯した罪を露呈させるのには十分であった。冒険者にとって冒険者としての資格を一年間剥奪されることはほとんど冒険者として生きる道を絶たれたようなものであった。それほどまでに重い罰であった。けれど、今回起こした事件の内容を考えれば組合から永久追放でないあたりむしろ軽い罰であった。

けれど、今の蒼丸はそんなことを考える暇も、心の余裕も無かった。


「!!!! ・・・・・・」


「何か言ったらどうなんだ!!」


その紙に書かれてある内容を見て身体が固まり、様々な考えが頭を駆け巡り、結果フリーズしてしまっている蒼丸に後ろから藤春が声をかけた。


「こ、これは・・・・、違うんだ・・! 何かの間違いで・・!」


「そんな訳がないだろう!! 俺たちはついさっき副マスターから全てを聞いたばかりだ! それに俺だけじゃない、ここにいる全ての冒険者たちがその話を聞いている!!」


「だ、第一、しょ、証拠すら無いだろ!!」


「証拠ならある。その掲示板の紙の横に貼ってあるもう一枚の紙を見てみろ」


そして、その横には、刑事である若林 拓義が麗に見せた刻藤 歩のDNA鑑定の結果もまた貼られていた。その二つは、蒼丸たちに避けようのない罰を受けろと蒼丸たちに訴えかけているようであった。


「ああああああ!!!!!!」


蒼丸は半ば錯乱したように貼られていた紙を強引に掲示板から引き剥がすと破り裂いた。

そんなことをすれば自ら罪を認めたと同義であることを考える余裕すらなかった。

つぐみは蒼丸の横で真っ青な顔をしながら、身体を震わせているだけであった。


「はぁ、はぁ・・・・、違うんだ、こんなのは間違っている・・!」


蒼丸は息を切らしながら、ブツブツとそう言っていた。さっきまでの威勢の良い態度はもう既に無かった。


「さっきまでの威勢はどうしたんだ? それとも今更、犯した罪の重さに気づき始めたわけでは無いだろうな?!」


藤春の言葉は蒼丸にとって全くの図星であった。藤春はまるで蒼丸の心の内を見透かしたようにそう言い放った。


「そ、それ・・は・・」


蒼丸は、蒼丸たちは、警察に捕まった上で、歩に復讐することを考えていた。それはつまり、自分たちが歩に対してやったことを全くと言って良いほど、悪だと感じていないということ同義であった。けれど、目に見える罰が提示された以上嫌でもその罪の在処が心の底から表面上に浮上し始めていた。

けれど、二人は認めない。人間である限り、利己的な動物である限り、罪を甘んじて受け入れる者はさほど多くはない。どうにかして逃げたい、どうにかして無かったことにしたいと思うのが大半であった。そして、それはこの二人も同じであった。

そして、その状況に至った人間が行うのは、暴れることで、その罪を上書きするか、その責任から逃げ出すかのどちらかであった。この二人の場合は後者であった。


「違う、違う、違う、違うんだァァァァァァァア!!!!!!」


狂ったように叫びながら、床に散乱した破れた紙を踏みつけながら、蒼丸は一目散に逃げ出した。


「待って、待って・・ください・・!!」


蒼丸が逃げたことによって、つぐみもまた、後を追うようにして組合から走り去っていった。

蒼丸は出て行く時に見えた大勢の冒険者の顔がとてつもなく恐ろしく感じた。冒険者たちから、感じたのが藤春のように怒りだけであったら、そうは感じなかった。冒険者たちは、怒りもあるが、それは全体のいくらであっただろうか。

間違いなく、そのほとんどの感情は、今まで華やかな出世コースを走っていたラグナロクに対しての嘲笑や、軽蔑といった蒼丸たちに対してあからさまな負の感情であった。初めて感じる他人からの明確な悪意であった。

蒼丸たちが罪を自覚し始めた瞬間であった。



マンションの一室に二人は戻ってきていた。当初の予定も忘れてただただ走って、走って、走って。ここまで逃げ帰ってきていた。もう既に陽は落ち切ってどっぷりと暗くなっていた。

帰るまでにすれ違った人たちや、同じ電車に乗っていた全ての人たちが自分たちに悪意を向けているとしか思えないほどに疑心暗鬼に陥っていた。


「はぁ、はぁ、はぁ・・・・。くそ、くそ、くそ、クソッ!!」


蒼丸は壁を叩いた。蒼丸の心のうちを、憎しみや、怒りよりもえも言えぬ恐怖が占めていた。


「どう・・すれば良いんでしょう? 私たち・・・・」


「・・・・・・・・」


実際、問題はそこであった。二人はダンジョン組合から事実上の一年間の謹慎処分を言い渡され、その上、自分たちが犯したことまで知れ渡っていた。下手すると、その情報は学校にまで広がっている可能性があった。もしそうであれば、学校は退学になる可能性が高かった。そして、もし退学にでもなってしまったら、仕事もしていない、学生でもない、ニートに近いものになってしまうということであった。プライドの高い二人はそれを許さなかった。けれど、何も出来ない今の状況を変えることは出来ず、思いを募らせることしか出来ずにいた。


七月 二十五日 午後十時

あれから一週間が経った。特に何も出来ず、何かをする気にもなれない蒼丸たちはただ時が過ぎて行くのを指を咥えて見ていた。いや、行動も制限されている今の状態では、指を咥えて見ることすら出来ずにいた。


「・・・・、なぁ、つぐみ」


「・・・・何ですか」


「俺たちは・・どうなるんだろうな・・・・」


「もう、時が過ぎるのを待つしかありませんわ・・」


つぐみはそう言ってはいるけれど、明らかに覇気が無かった。

二人はたまに家には帰るものの一週間のうちそのほとんどをこのマンションの一室で過ごしていた。

蒼丸の顎にはうっすらと髭が見えていた。

ネットでは一週間経った今でも、調べたらすぐにラグナロクに関する情報は大量に出てきていた。デマや誤報も多かったけれど、事件の核心に触れている情報もあった。けれど、そのどれを見ても蒼丸たちは以前のように文句を言う気にはなれなかった。

蒼丸は案の定、退学になった。その通知が来たのは一昨日のことであった。つぐみは、親の圧力か何かがあったのか退学になることはなく、依然休学という形になっていた。

とうとう、蒼丸は本当に何もかもを失ってしまっていた。残ったのは、大きなプライドだけであった。しかし、それも今となってはちっぽけなものになろうとしていた。


「ここにいたのか!!」


その時だった。誰かが扉を開けた。その声は一週間程聞いていなかった人物の声であった。


「陸・・・・?」


「ああ、やっと見つけたぞ」


扉を開けたのは陸であった。一週間前、警察に連れて行かれる直前に会ってから、ずっとその姿を見ていなかった人物であった。以前ならば、そのことに噛み付いていたであろう蒼丸は陸に噛み付く気にはなれなかった。


「今更何しに来たんだよ。お前も組合のやつを見たんだろ?」


「ああ、見た。だけどまだ、名誉を挽回する機会があるだろう!」


「はぁ? 今更何をやったって遅ぇだろ」


「お前たちは、ニュースを見てないのか? テレビをつけてみろ」


陸にそう促されるまま蒼丸は近くにあったリモコンを手に取るとテレビの電源をつけた。

たまたま、つけたチャンネルではニュースが流れていた。そして、そのニュースでは今日発生した衝撃的な事件について報道されていた。

それは、突如新しいダンジョンが出現し、あわや暴走をする寸前であったというものであった。


「これがどうしたんだよ」


「まだ気づかないのか? 俺たちがここを攻略すれば良いだろう。そうすれば組合も力を認めざるを得ないだろう」


「・・・・・・、! そうか・・・・! そうか・・!! その手があったなぁ!! そうだ、俺たちは天下のラグナロクだ! 俺たちをぞんざいに扱ったことを後悔させてやらねぇとなぁ!! そして、歩の野郎に借りを返してやらなぁとなぁ!!」


蒼丸はその陸の提案を聞いて、頭にずっとかかっていたモヤが取り払われるようにして、生気を取り戻していった。廃れ始めていたプライドや自尊心が再び盛り上がりを見せていた。だんだんと以前の蒼丸に戻ってきていた。時間が経つに連れて自らの身が潰れてしまうほどに重さを増加させていった罪の意識が今はどうでもいいことのように思えていた。元の心を取り戻している蒼丸にとってその罪の意識は取るに足らないこととなり始めていた。


「ああ、そうだな、陸!! お前の言う通りだ! 罪を犯したところで、それを取り消せるほどの功績を挙げれば良いだけだもんなぁ!!」


「ああ」


「ええ、そうですわね・・!」


そして、それは蒼丸だけでは無かった。つぐみもまた、少しずつ生気を取り戻していったのだった。そして、みるみるうちに、ラグナロクは精神面での復活を遂げた。


「そうと決まれば、どうやってあのダンジョンに行く?!」


「その点は大丈夫だ。俺が事前に調べておいた」


「おお!! 流石だな!」


()()()、ダンジョンについて迅速に調べ上げていて、本当に凄いですわね・・」


「まぁ、趣味のようなものだからな」


「それは置いておいて。で、何が分かったんだ?!」


「あのダンジョンに入口以外から入る道を見つけた。そこは組合の見張りもないから、容易に忍び込める」


「おお!! ってことは、これで俺たちはあのダンジョンに行けるってことだな!! これで・・俺たちを蔑んできた奴らを見返してやれるなぁ!!」


「ああ。だから、今のうちに、準備しておこう。だから、各自一度家に帰って、装備を整えてから集合をしよう」


「ああ、そうだな。ってことは、十一時くらいにまたここで集合か?」


「そうだな、俺はその程度でいいと思う」


「私もそれで構いませんわ」


「よし、じゃあ、行くぜ!! ラグナロク再始動だ!」


蒼丸は意気揚々とそう叫んだ。そして、それにつられるようにして、つぐみも珍しく声を挙げた。最後まで、二人は気付くと無かった。ただ一人鬼丙 陸だけが不敵に笑っていたことに。

そして、二人は気づかない。自分たちがどうして元の状態を取り戻せたのか。いや、いつから、自分たちの性格が()()()()()()()()()()のかを気付くことは出来なかった。


そうして、三人は一度マンションのこの部屋を後にした。そして、それぞれがそれぞれの帰路へと着いた。ただ一人を除いて。


陸は、一度二人と別れると、来た道を引き返していた。そして、ラグナロクの回復役である桜 つぐみの跡を追っていた。辺りは真っ暗で、気配を殺した陸の存在をつぐみが気づくことはなかった。

つぐみの家は府中市でも最大級の大きさの家で、流石は父が警視総監なだけはあると言った感じの豪邸であった。つぐみはそんな家で甘やかされて育った。もう十数年になる慣れた帰り道をつぐみは辿って行く。

けれど、つぐみはもう()()()()()()()()()()()()()()()()()。二度と家族と会うことすら無かった。



午後十一時 半


集合時間を三十分を過ぎても、つぐみの姿だけが無かった。気が短い蒼丸はいつまで経っても姿を現さないつぐみに苛立ち始めていた。椅子に座りながら貧乏ゆすりをしていた。


「チッ、なんであいつは来ねぇんだ?!」


陸は壁にもたれかかったまま瞼を閉じて立っているだけであった。


「クソッ、何をしてやがるんだ。あいつは!」


「どうする? 蒼丸」


「待つしかねぇだろ」


「本当にそれで良いのか・・?」


閉じていた瞼を開けて、陸は蒼丸の顔をじっと見た。


「あ? あー・・・・・・、そうだな。確かにそうかも知れねぇ。あいつは置いて先に行くか」


蒼丸はその陸の目を見るとそう言った。


「・・・・そうか、分かった。なら、連絡は俺がしておこう」


「ああ、頼むぜ」


そして、蒼丸はいつまで経っても来ないつぐみに痺れを切らし、つぐみを置いて先に二人で新宿御苑ダンジョンは向かうことを決めたのだった。

つぐみはいつまで経っても来ない。それはそのはずであった。つぐみの姿はもう府中市には無いのだから。


そして、二人は終電ギリギリの電車に乗って新宿を目指して行くのだった。




———歩たちと蒼丸の運命が今再び交わろうとしていた。そして、それは最悪の事実と共に明らかになっていくのだった。

歩たちとの因縁の邂逅まで、残り六時間半。

運命の歯車はもう動き出し、お互いがお互いに干渉し始めていた。そのことは歩も蒼丸も気づくことは無かった。それを知るのはただ()()()であった。











更新が遅くなりました。

次回は月曜日あたりに行います。



面白かったら高評価の方お願いします。感想やコメントなどもお待ちしてますのでよろしくお願いします!

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