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六十四話 前夜祭

新宿御苑ダンジョン


急いで新宿御苑へと向かうと、そこには既に冒険者たちが集まっていた。空気は少しピリついており、緊張状態が走っていた。


「ピリついてるね・・・・」


「うん。龍羽さんたちの話だと、ここは最低でもゴールドダンジョンらしいからね。・・もし暴走でもしたら。下手すると・・、東京が破壊される可能性すらあるからね」


「歩、レナさん。二人とも大丈夫ですか? 疲れとか。武器に関しては、僕はどうにも出来ないですけど」


「うん、僕は大丈夫だよ。鬼月は折れてはいるけど、一応使えるから。でもレナは?」


「私も大丈夫。双剣はまだあるし。まぁ籠手は使い物にならないけど」


しばらくして、龍羽さんたち組合の幹部の人たちも現地に到着した。


「冒険者はどの程度集まっている?」


「招集した約七割が集結しています! ただ、金級冒険者は殆どが遠征をしており、すぐには集まれません!」


龍羽さんは先に着いていた組合の役人へと問いかけた。


「そうか・・、、まだ足りないな・・」


「しかし、今動かせる分は総動員しています!」


「・・やるしかないようだな・・。すぐに今集まっている冒険者をここに呼んでくれ」


組合の役人はその言葉を聞くと、すぐに行動に移した。

しばらくして、龍羽さんのもとに冒険者が集まった。


「よく聞け、冒険者ども!! このダンジョンは暴走の可能性が高い! 特に細かいことは言わない! お前たち、死ぬな! そして、この地を守れ!!」


「「「オオオオオオオオオオオ!!!!!!」」」


龍羽さんは冒険者たちに向かって叫んだ。拡声器を持っているわけでもないのに龍羽さんの声はよく響いた。

その時だった。まるで地震が起こったように、地面が大きく揺れた。そして、その揺れはダンジョンから発せられているようであった。


「この揺れは・・!?」


「ダンジョンからだよ・・。暴走・・するかもしれない・・!」


より一層、揺れが大きくなった。少しして、揺れが収まった。そして、新宿御苑のダンジョンからモンスターが現れた。

けれど、現れたのは大量のモンスター。・・・・ではなく、一体だけであった。


「あれは・・・・!!」


「まずい・・!」


「ギャアアアアア!!!!」


ダンジョンから地上へと出てきたモンスターが大きく叫んだ。そのモンスターは大きな翼を持ち、紅い身体を持つ竜であった。全長は十メートルを超えるほどの巨躯であった。

そのモンスターは見るからに危険であり、地上で暴れられたら、間違いなく、東京に大打撃を与え得る存在であるのは明白であった。


「冒険者ども! 力の見せ所だ!! 行くぞ!!!!!!」


龍羽さんが叫んだ。その声に導かれるように冒険者たちはその竜へと走り向かっていく。龍羽さんは竜の姿にすくんだ冒険者たちを奮い立たせるように力強く叫んだ。

その巨躯へと大勢の冒険者が向かっていく。


「オオオオオ!!!!!!」


刀や剣を使って身体を斬りつけていった。けれど、よほどその表皮は硬いのかまともに斬れてはいなかった。

そして、その竜もいつまでもただ立っているだけではなかった。


「ギャアアアアア!!!!」


翼を大きくはためかせるだけで風圧が起こり、その風圧は人を飛ばすことができるほど強力であった。


「怯むな! 畳み掛けるぞ!!」


龍羽さんは後ろから銃のようなものを取り出すと、竜へと発砲した。

龍羽さんの撃った弾丸はただの弾丸とは思えなかった。速度もそうだけど、何より驚くべきなのはその威力であった。剣で傷一つつかなかった表皮にその弾丸は容易く傷をつけた。

龍羽さんはなおも銃弾を撃ち続けたていた。


「すげえ、龍羽さん」


「あの人も金級だからね」


「・・僕たちも負けてられないね」


「そうだね」


そして、龍羽さんのその姿に感化されたように冒険者たちがまた走り向かっていく。僕たちも竜へと走り出した。その姿を見た竜の肺が大きく膨らんだ。


「気をつけろ!! ブレスが来るぞ!!」


冒険者たちが後ろへと聞こえるように叫んだ。

次の瞬間、竜は口を大きく開くと、そこから大きな火の玉が放出された。

冒険者たちは足を止めるものや、仲間であろう盾持ちの後ろへと避難していた。

けれど、僕は足を止めることはなく、むしろ竜へと加速していった。


「おい、死ぬぞ!! 避けろ!!」


その側から見たら無謀と思える行動に冒険者が叫ぶ。


空間停止(ターンオン)!! 止まれぇぇえ!!」


僕はその巨大な火球へと封印を使った。封印はその巨大な火球にも適用してくれた。空中で、地面に当たる前に火球は動きを止めた。


反転(アンチ)!!」



そして、僕はそれだけにとどまらなかった。

更に、その火球の向きを反転させた。つまり、僕たちへと向かった火球をそれを吐き出した竜へ向かって撃ち出した。


「!! ゴアアアアアアアアアアアア!!」


竜は躱すことができないまま、その一瞬で起こったカウンターを顔面でうけた。流石の竜も、自分の攻撃をもろに直撃したら、ただでは済まない。身体がぐらつき、倒れた。


「今だ!! 行くぞ!!!!!!」


そして、龍羽さんがやったように僕は声を荒げて叫んだ。冒険者が僕に続くように竜へと向かう。レナも双剣を取り出して竜の全身に斬りかかった。

同じところをなんだも攻撃すれば、硬い装甲でも傷ついて、ダメージを負っていく。竜の身体は少しずつ傷がついていった。鱗が剥がれ、表皮を斬り裂いていく。けれど、流石は竜と言うべきか、そのままやられてくれるほどヤワじゃない。攻撃を受けて倒れつつも、尻尾や翼で牽制をし続けていた。

羽虫とも思えるような存在に攻撃をされ続けた竜は怒り出していた。そして、立ち上がるまでにそこまで時間は要さなかった。

けれど、


「お前たち、離れろ! これで決める!!


そう叫ぶ後方の龍羽さんの手にはさっきまでのリボルバーのようなものから、スナイパーライフルのような巨大な銃身を携えていた。竜が立ち上がるのと同時に冒険者は少し距離を取った。

龍羽さんの黒い銃身から、音が発せられ始めた。そして、銃口から一つの弾丸が放出された。高速で竜へと迫るその弾丸は一直線に大気を切り裂いていく。


「これで終わりだ、竜!!」


回転しながら弾丸は立ち上がった直後の竜の眉間に直撃する。。表皮で弾丸が高速で回転しながら進み続ける。そして、ガラスを突き破るように弾丸が竜の脳天を貫いた。


「グガァァァァァァァア!!!!!!!!!!」


脳天を貫かれた竜は足掻くように尻尾を唸らせた。地面が割れ、尻尾が冒険者を襲った。

けれど、その悪あがきも長くは続かなかった。気合いだけで少しの間耐えているに過ぎなかった。だから、遂に身体が痙攣するように一度跳ねると、地面へその巨躯が落ちた。そして、その動きを停止させた。紅い瞳から光が消えた。それは、その生物の生命活動の停止を物語っていた。


「マスターが竜を倒したぞ!!!!!!」


誰かがそう叫んだ。


「ゥオオオオオオオオ!!!!!!」


その声に続くようにして、冒険者たちが武器を高らかに掲げて叫んだ。


「何今の?! 龍羽さん、すげぇ!!」


「流石だよね・・、それより、もう、暴走は終わった・・・・?」


ダンジョンからは竜が一体出てきた以外特に他のモンスターは現れなかった。竜が出てきた以上、ダンジョンが暴走しているのは明白ではあったけど、ここから、どうなるのかはまだ分からなかった。



それからしばらく時間が経った。けれど、ダンジョンからモンスターが追加で現れる気配は無かった。


「マスター! ダンジョンの危険値が減少しました。ひいては、もう暴走の可能性も著しく減少しました」


「! そうか、分かった」


龍羽さんは組合員からのその言葉を聞くと、冒険者たちをもう一度集めた。


「お前たち!! お前たちの尽力あってダンジョンの暴走の危険は殆ど無くなった!! 今この場で、解散とする!! 協力を感謝する!!」


「ゥオオオオオオオオ!!!!!!」


「既にこちら側でここにいる全員を把握している! よって後日、それぞれに報奨金が渡される! ダンジョンの暴走を食い止めるのに協力してくれたことを心から感謝する! 以上だ!!」


「ゥオオオオオオオオ!!!!!!」


龍羽さんの声は響き渡った。既に、辺りは暗くなり始めていた。冒険者たちは、街頭で照らされた道を歩きながら、帰り始めていった。


「お前たちも、良くやってくれたな。特に歩、竜を転倒させたのは凄かったな」


僕たちは、帰る前に龍羽さんのもとに呼ばれていた。


「ありがとうございます。でも、龍羽さんもあの竜を一撃で葬るなんて・・!」


「まぁ、今日は物資もあったし、お前たちのお陰でだいぶ力を溜めることも出来たからな。これがダンジョンの中だったら、こうもいかないさ」


「それにしたって凄いですよ。どんな能力を使ったら、そんなことが出来るんですか」


「ん? ああ、言ってなかったか。俺の能力は弾丸(バレット)製造(インフィニティ)というものでな。さまざまな能力を持った弾丸を創り出せる。まぁ、素材が無いと弾丸は造れないんだがな。それに、あの竜を葬れるだけの威力を持った物を創ろうと思うと力を溜める時間も必要だしな」


「凄いですね・・」


「龍羽さん、これで本当に終わりだと思う?」


「・・・・、正直なところは分からない。銀級以上の冒険者のみには、まだ残ってもらっているしな」


「ダンジョンはまだ全然理解しきれてないからね・・」


「ああ。だがしかし、とりあえず今のところは、大丈夫と言える。ひとまず休息をしよう。特にお前たちは、連戦だろう」


「そうだね、そうするよ。でも、また異常があったら、すぐに呼んで。二人とも、いける?」


「もちろん」


「僕も、いけます」


「ハハ、そう言ってくれると頼もしいな。期待している」


「「「はいっ!」」」


そして、僕たちもまた他の冒険者たちと同じように帰路へと着いた。

しかし、今日最大の衝撃は、ダンジョン暴走未遂では無く、()()()()であった。



ダンジョン組合本部


副マスターも、マスターも幹部も出払った本部。そこには、受付などを行える程度の戦闘員では無い人たちのみが残っていた。それも、少数で、二桁にも満たない程の人数であった。

しかし、とは言っても全く戦えないわけでは無い。全員が護身術は覚えており、ある程度であれば戦うことも出来る人たちであった。


———しかし、それは数時間前のこと。

今、その本部に人はただ一人として残っていない。

そこに残っているのは、散らばった書類、壊れた電球、無造作に置かれた手紙、大きな血溜まりだけだった。

誰もいないその場を割れたガラスから風が吹き抜けていった。壊れた電球が暗い組合を微かに照らしていた。



七月 二十六日


「どういうことですか?! 組合が襲撃されたって!?」


「龍羽さん、何があったの?」


僕たちは、荒れた組合本部に訪れていた。僕たちはあの後、とりあえず、いろいろなことは置いておいて、疲れを取るためにもそれぞれの家に帰った。そして帰るとすぐに僕は眠った。

次の日僕はレナからの電話で目を覚ました。電話越しのレナは動揺して焦っているようだった。そして、組合が襲撃されたということをレナから聞いて組合へと急いだ。途中、ノアとも合流して三人で集まって今へと至った。


「どうもこうも、見た通りだ。何者かが俺たちのいない間に組合を襲い、組合員数名を殺害した」


龍羽さんは怒りを押し殺すようにしながらそう言った。


「でも・・、誰が・・・・? こんなことをして、何の徳が・・?」


「これを読め」


龍羽さんは一つの手紙を僕たちへと投げた。僕はそれを取ると既に切られた封から中身を取り出して広げた。



———拝啓、刻藤 歩。

新宿御苑ダンジョンで待つ。来ないのなら、お前たち以外の人間を襲い続ける。期限は明日までだ。

必ず、来い。


赤い文字でそう書いてあった。インクではなく、その赤い文字は血のようであった。微かに血の鉄分のような匂いが手紙に移っていた。


「・・・・・・、これ・・は・・!」


「しかも、この文字まさか、被害者の血を使って・・?!」


「ああ、何処の馬の骨だか知らないが、随分と舐めた真似をしてくれたな・・!!」


温厚そうな龍羽さんでも怒りを隠し切ることができていなかった。龍羽さんが掴んでいた机が割れたような音がした。

僕は手紙を読んで口を抑えていた。僕はこの文字に見覚えがあった。手紙には書いた人物の名前は書かれていなかったけれど、心当たりがあった。


「・・・・・・・・、この文字・・」


「何か知っているのか? 歩」


僕の隣から内容を読んでいたノアがそう聞いてきた。


「これ・・、多分陸の字だ・・・・!」


「陸って、奥多摩ダンジョンにいた不気味な剣を持ってたあいつのことか?」


「・・・・うん。パーティーが同じだった頃に何度も陸の字は見たから。その時の文字とよく似てるんだ、これは」


「ということは、あそこにラウスト=バラックもいるってことか」


「龍羽さん、僕は新宿御苑ダンジョンに行きます」


「もちろん私も行くよ。歩君」


「僕もだよ」


「でも・・・・」


「はーい、それ以上は言わない! 何度も言ってるでしょ? 私たちはパーティーなんだよ。とっくの昔から、私は覚悟してる」


「僕は、レナさんみたいな理由はないけど、友達の力になるのに細かい理由なんて要らないだろ?」


「・・・・、ありがとう。二人とも」


「ダメだ」


「何でですか!」


「今のお前たちを行かせたら、多分戻ってくることはないからだ」


「でも・・!!」


「話は最後まで聞け。あくまで、それは今の話だ。お前たち、特にレナと歩。お前たちは武器が壊れてるんだろう?」


「「!!・・・・はい」」


「だから、まず装備を整えろ。組合はお前たちを全力で支援する。また襲撃が無いとは言い切れない以上俺はお前たちについて行くことはできない。だから、八城を連れて行け。お前たちの力になる筈だ」


「そういう事っス。よろしくお願いします」


そう言いながら、八城さんが階段をドアを階段から降りてきた。


「そして、お前たちに、組合マスターである俺からの直々の依頼だ。新宿御苑ダンジョンの攻略及びラウスト=バラック、鬼丙 陸の討伐又は捕縛を命じる!」


「「「はい!」」」


僕たちは龍羽さんの依頼に応えた。


「お前たちは武器を直すところはあるか?」


「僕は一応はあります」


「私もあるよ。というか、私と歩君は同じところだね」


「そうか、もし明日までに間に合わないなら言ってくれ。武器を用意する」


「分かりました」


「新宿御苑ダンジョンに向かうのは明日の明朝六時だ。良いな、三人とも?」


「はい」


「八城、お前もそれで良いな?」


「大丈夫っス」


「よし。レナ、お前は分かってはいるだろうが、八城とも連携などの話し合いはしておけ。そして、何か不備があったら言ってくれ。最大限援助する」


「あの、龍羽さん。そういえば師匠はいないんですか?」


僕は疑問に思っていたことを聞いた。竜の討伐のときから師匠の姿は昨日から無かった。


「ああ、アイツは別の用事があってな。お前たちが奥多摩ダンジョンにいた時に外国へ行った」


「外国ですか?」


「ああ、イギリスにな。仮にも黒級であるしな。外国でも仕事があるんだよ。本当は忙しい身だからな。むしろ最近忙しく無かったのが珍しいほどだ」


「そうだったんですね・・」


「ああ。だからアイツの助けは無いんだ」


「そうなんですね・・」


「だが、アイツがいなくても、俺たちは十分に強い。そして、お前たちはもう既に大きな壁を乗り越えている。自信を持て」


「はい、そうします・・!」


「ああ。明日は頼んだぞ、四人とも」


「「「「はい!」」」」



———マスター室


ダンジョン組合は入口だけでなく、マスター室もまた荒らされていた。


「クソッ!! 不甲斐ない・・!!」


龍羽は机を思い切り殴った。机は殴られたところが陥没して割れた。


「すまない、八人とも。あの四人が必ず仇を討つ。だからゆっくりと休んでいてくれ・・。すまなかった」


龍羽は一人、今回の騒動によって殺害された八人の組合員へと追悼の意を示した。龍羽はよくできた人であり、マスターだった。龍羽は全組合員を家族だと思うほどに大切にしていた。だから今回の事件についても、激しく悲しみ、激しく怒った。そして、龍羽は自分の手でけじめをつけたいのを必死に堪えてその思いも全てを歩たちに託したのだった。


「頼んだぞ・・、四人とも・・!」



東京都 府中市 鍛冶屋ヘファイストス


「これはまた、凄いことになってるね」


「直りますか? 鬼月は」


僕はヘファイストスの店主である白銀(しろがね) (まい)こと舞さんに折れた鬼月の刀身を見せていた。

あの後、一度ノアと華さんと別れると、僕たちは二人でヘファイストスへと来ていた。

店の外では既に籠手を新しく買ったレナと妹であるみのりさんがまたこの前のように話していた。


「ああ、もちろん。直るよ。今すぐに直しても良いかな?」


「そんなにすぐ直るものなんですか?!」


「普通は無理だけど、この刀は特殊だからね。ほら、自己再生の能力を付与させてあるから。直すのも簡単ではあるんだよ。じゃあ少し待っててくれ」


そういうと、舞さんは鬼月を持って店の奥へと戻って行った。

それから十数分して、舞さんが戻ってきた。


「よしっ、終わったよゼロ君! もうこれで元通りだ」


舞さんはそう言って綺麗に一本に戻った鬼月を机の上に置いた。

美しい鬼月が戻ってきたのだった。


「また、ダンジョンに行くのかい?」


「・・・・、はい。明日」


「そうか。私は鍛治子だから、あまりダンジョンについてはよく分からないが気をつけてな」


「はい! あと、僕の名前は無明 ゼロじゃ無いんです」


「・・・・じゃあどういう名前なんだい?」


「刻藤 歩と申します。嘘をついていてすみません!」


「フフ、君は素直な子だね。そんなことで怒ったりなんてしないさ。むしろ、真実を自分から言ってくれて嬉しいよ」


舞さんは微笑んでそう言った。


「すみませんでした」


「良いよ、ゼ・・、歩君。それじゃあ気をつけて行ってくるんだぞ」


「はい!!」


「今後ともヘファイストスを御贔屓に」


舞さんは小さく手を振りながら、僕を見送った。

店の外ではレナにみのりさんが抱きついていた。


「お姉ちゃん、気をつけてね」


「うん」


僕が店から出てきたのに気づいたみのりさんはレナからずっと離れると僕に向かって話しかけてきた。


「お姉ちゃんをよろしくお願いします。ゼロさんもお気をつけて」


「はい。あと、みのりさん。僕の名前は無明 ゼロじゃなくて、刻藤 歩と言います。騙していてすみませんでした」


「! ・・・・そうですか。でも、歩さん? はお姉ちゃんの敵じゃないんですよね?」


みのりさんは少し驚いたようだったけれど、すぐに元に戻ると、そう言った。


「それはもちろん」


「それなら良いです。だから、騙していたなんて罪悪感を感じる言い方はやめてください」


「そうだよ、歩君。みのりもこう言ってるんだしね」


「歩さん、お姉ちゃん、気をつけてくださいね」


「うん」


「はい」


「行ってらっしゃいませ!」


そして、僕たちはヘファイストスを後にした。


僕たちはもはやトリックスターのミーティング場所となりつつあった僕の家へと向かった。


「二人とも!」


家の前には既にノアと華さんが着いていた。


「ごめん、今開ける」


僕は駆け足でドアに駆け寄ると鍵を開けてドアを開いた。


「入って良いよ」


「「「お邪魔します」」」


そう言うと、三人は家の中へと入って行った。少し後から、リビングへ行くと、三人とも姉さんたちの仏壇に挨拶をしていた。


「ありがとう」


「挨拶はしないとねー」


「というか八城さんも姉さんのことは知ってるんですか?」


「華で良いっスよ。うん、そこまで関わりが深いわけではないけど知ってはいるっスよ」


「ありがとうございます」


「敬語じゃなくて良いよ。私レナとタメだし。って、なんでそんな嫌そうな顔をしてるのかな? レナは」


「別に、嫌な顔なんてしてないよ」


「・・・・、まぁ、良いや」


「なんでレナは苦手そうにしてるの?」


僕はこそっと小さな声でノアに聞いた。


「僕も詳しくは知らないけど、レナさん曰く『何か私とは合わないんだよねー』ってさ。まぁ、共闘してる時は普段のが嘘と思えるほどに息ぴったりなんだけどな」


「あー、要するに、同族嫌悪みたいなのに近いのかな?」


「さぁ? 詳しいことは分からん」


「歩君、何をコソコソ話してるの?」


「え、ああ・・いやー、何でもないよ」


「・・・・・・」


「さっ、そんなことより新宿御苑ダンジョンのことについて色々話しておこう。僕は華さんの能力とかもまだ知らないしね」


僕は強引に話を途切らせた。少し無理矢理ではあったけど、なんとか話題を逸らしたのだった。


「・・、そうだね。話しておこっか」


「じゃあ、改めまして、ダンジョン組合 副マスター直轄部隊所属 隊長の八城 華っス。新宿御苑ダンジョンではよろしくお願いしますっス!」


そしてそこから、僕たちは明日の新宿御苑ダンジョンについて多くのことを話し合っていくのであった。



新宿御苑ダンジョン デッドエンド


白衣を着た男、ラウスト=バラックが黒いコートに身を纏った鬼丙 陸と暗い道を歩いていた。


「アイツはくると思うか?」


「・・・・、ああ。必ず来るだろう。他人を見捨てることが出来ないからな。アイツは」


「よく知っているな。この前はあんなことを言っていたが、その実よく理解をしているようだな」


「・・・・フッ、冗談はよせ。理解する気もない。理解したくもない」


(「・・・・・・、気づいていないのか、それとも気付きたくないのか。どちらにせよ、人間は鬼になりきることは無理だということか・・」)


二人は暗い道をなおも進んでいく。歩いていくと、光が増した大きな部屋へと出た。


「アイツ、いや、アイツらはどんな顔をするか・・・・! ああ、楽しみだ。身体がうずうずとする。科学者として、研究の成果を試せるのはいつになっても楽しいものだな・・!」


ラウストはその部屋にあった薄緑色の液体が満たされたポッドを見てそう言った。その顔には悍ましい笑顔が張り付いていた。嫌悪をすることを通り越して、その笑顔は見る者に恐怖を与えるものであった。


「ああ・・・・、早く、早く・・!!」



七月 二十七日 午前五時半


僕たちは新宿御苑ダンジョンに向かう前に最後にダンジョン組合を訪れていた。


「四人とも、覚悟は良いか?」


僕たちは首を縦に振って応えた。


「頼んだぞ。新宿御苑ダンジョンを攻略して来い!」


「「「「はい!!」」」」


その時、ダンジョン組合の入り口を雑に開いた音がした。後ろを振り返ると、そこには眼鏡をつけた男の人が立っていた。


「なんとか間に合った!! 刻藤君!」


その声はこの前の会議の時にはいなかった雅国(まさくに)さんのものであった。


「雅国さん、どうしたんですか?」


「君が、今日新宿御苑ダンジョンに行くと聞いてね。急いで、頼まれていたものを完成させたんだよ。だからそれを渡しに来た」


雅国さんはそう言うと、肩に掛けていたバッグをごそごそと漁った。そして、その中から、一つの黒い腕輪のようなものを取り出した。


「刻藤君、君は鬼のお面を持っていたよね?」


「はい」


「それを出してもらえるかな?」


「あっ、はい。分かりました」


僕は異空鞄の中に入れていた黒いオーガが持っていたお面を取り出した。


「少し借りても良いかい?」


「はい」


僕はそのお面を雅国さんに手渡した。お面を受け取った雅国さんは腕輪をお面にかざした。

その瞬間、黒い腕輪が液状になるとお面を覆い隠していった。そして、お面の全てをコーティングするようにしてその液体がお面を覆い隠した。


「よし。刻藤君、これが君に頼まれていた物だ。受け取ってくれ」


雅国さんはそう言って、お面を僕に返した。


「その仮面を今着けてくれないか?」


「分かりました」


僕は仮面を顔につけた。その瞬間、仮面を覆っていたものがすぐさま僕の身体を包んだ。そして、それは黒一色の服となって僕の身体を纏った。頭が全て隠せるフードと、制服のような首が丸々隠せる襟がついたコートが僕の身体を纏った。


「何が起こったんですか?! これ」


僕は僕がどうなったのか分からなかった。ただ、手には手袋を嵌めているような感覚があった。


「歩、凄いな・・、それ。仮面ラ●ダーみたいになってる・・!」


鬼のお面をつけていても外を見ることの邪魔にはならない。仮面越しに、僕の腕や手を見ると、真っ黒なものが全身に纏われていた。


「仮面を外せば元に戻るよ」


仮面を外すと、雅国さんが言った通りに身体を纏っていた黒いものは仮面に収束されていった。


「その防具は、衝撃や、斬撃など、ほぼあらゆる攻撃を無効化、もしくは軽減してくれる。そして、君だけが使える君専用の防具だよ」


「ありがとうございます!! 雅国さん!」


「いやいや、冒険者を支援するのが僕たちの仕事でもあるからね。これからすぐにダンジョンに行くのかい?」


「はい」


「そうか・・。なら、気をつけて。どうか、無事に帰ってきてくれ。君たちが無事に帰ってくるのを願っているよ」


「「「「はい!!」」」」


「刻藤君、君にはもう一つだけ。お面に出力を換えるための小さい装置がある。その装置を使えば、身体に多大な負担を強いる代わりに、数分だけではあるけど、莫大な力を引き出せる。使われないのか一番良いけれど、もし万が一そう言う場面があったら、慎重に使ってくれ」


雅国さんが耳打ちをするように他の三人には聞かれないようにしながら、そう言った。


「! ・・・・、分かりました」


「よし。じゃあ頑張って!」


「はい!」


「四人とも、何度も言うが、くれぐれも気をつけてくれ! そして、またここで会うことを祈っている!」


「「「「はい!!」」」」


「金級冒険者パーティー『トリックスター』!! 新宿御苑ダンジョンを攻略して来い!!」


「「「「はい!!!!」」」」


僕たちは叫ぶようにして、それに応えた。

そして、僕たちは遂に新宿御苑ダンジョンへと入っていくのだった。



———世界の流れはこの事件から大きく変わっていくのだった。



更新が遅くなりました。次回は水曜日か木曜日に行います。

そして、次回は本編に深く繋がってくる幕間を書くつもりです。一応、蒼丸サイドの話になります。


歩の姉の遺体などは今は、ノアの異空鞄から出して、違うところで保存されています。歩たちは、いろんなことが終わってから、葬式をしようと考えています。その辺のことも後々書いていきます。ただ、今は違うところで保存されていると思っておいてください。


面白かったら高評価の方お願い致します。感想やコメントなどもお待ちしてますのでよろしくお願いします!

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