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六十話 会いたかったのは、

暗い一本道を歩いていく。直立した石壁が無言のまま僕たちをじっと見つめているようだった。いつもは何も感じないそれが今はどうしようもなく不気味に感じるほどだった。

暗闇に目が順応してきたのか、少しずつ辺りが明るく感じていった。それでも、自分の近くが見られるようになった程度で依然暗いことには変わりなかった。


「ノア、いる?」


僕は既に透明化を行なっていて、暗闇に関係なく見えないノアを呼んだ。


「ああ、いるよ。心配しなくて大丈夫」


ノアは僕のすぐ後ろからそう声をかけた。


「そっか、なら良いけど」


それだけ言うと、僕たちはまた無言になって先頭を歩くレナの背中をかろうじて見ながら先へと進んでいく。

歩いていくと、少しずつ明かりが強くなっていった。暗闇に慣れてきた目に光は眩しすぎた。目を細めながら、光がいっそう強い場所へと僕たちは抜けた。


「何だろ、ここ」


一本道を抜けてたどり着いた場所は、円形のような形をした場所でまるでコロッセオのような場所だった。地面には少し赤みを帯びた砂でできていた。歩くたびにザクッという音がした。


「分からない。だから二人とも、注意して行こう」


僕たちはちょうど向かい側にある道へと警戒しながら歩いて行った。

少しずつ歩いていくと、突然天井に穴が空いた。そして、その穴の中心から、何かが僕たちの目の前へと落ちてきた。

黒い髪と、服の袖から見える腕は白い肌をしていた。


「な‥‥、なん・・・・で?」


その何かを見て、レナの体が震え出した。その声には動揺と、恐怖と、様々な感情が入り混じっていた。

砂の地面に着地した何かはゆっくりと立ち上がった。()()姿()()僕にも見覚えがあるものだった。

そして、そいつは伏せていた顔をゆっくりと上げた。()()()()()()()()()()()()()()()


「なんで、何で‥‥、姉さんがここにいるんだよ!!」


僕は叫んだ。上げた顔は姉さんと同じだった。目の前の僕たちを虚ろな目で見ているこの人は姉さんに似ているとかじゃ無い、姉さんその者だった。

色んな思考が僕の頭を駆け巡った。けれど、その誰もを姉さんは既に『死んでいる』という事実が否定し尽くしている。

だけど、そんな事実があるのに、今目の前にいるこの人は姉さん以外には考えることが出来なかった。そして、それはレナも同じだった。だから、僕たちはその場を一歩として動くことが出来ずにいた。


「歩・・・・、レナ‥‥?」


そんな中で姉さんが口を開いた。


「そうだよ、姉さん・・・・」


「瑞稀‥‥!!!!」


懐かしい姉さんの声は僕とレナの目に涙が溢れるのに充分すぎた。すぐに、頬を溢れた涙が伝っていくのを感じた。


「姉さん!! たくさん言いたいことはあるけど、生きててくれて、良かった・・・・・・!!」


僕は泣きながら、姉さんに近づいて行った。


「歩・・・・、レナ‥‥、早く、逃げて・・・・!」


それとは正反対に姉さんは苦悶の表情を浮かべながら、胸を抑えていた。


「姉さん・・・・?」


「早く、逃げな‥‥さい!!」


姉さんが強い口調でそう叫んだ。その時、後ろで物音がした。振り返ると、もうそこに僕たちが進んできた一本道の姿は無かった。そして、前にあった一本道も消えてしまっていた。残っているのは苦しんでいる姉さんと僕たちだけだった。


「道が、消えた?!」


「ああ、もう・・・・だめ、抑えきれ‥‥ない‥‥!!」


姉さんがそう言った直後、大気を震わせるほどの圧倒的な電力が姉さんの身体から発せられた。全身に電気いや、雷を鎧のようにして纏わせた姉さんがそこにはいた。圧倒的な電力は砂を、大気を媒介として、僕たちにはっきりと体感させていた。


「二人とも‥‥、私を、殺して‥‥!!」


涙を流しながら、姉さんはそう言った。そして、姉さんは僕たちへ襲いかかってきた。


「なんで、姉さん、やめてよ!!」


「歩、私を殺して‥‥! そうしないと、貴方たちを殺しちゃう!」


僕は迫り来る姉さんに鬼月を向けるのを躊躇った。だから、受け止めることは出来ずに、攻撃を転がって躱すことしか出来なかった。

姉さんは僕を攻撃して、そのまま横にいたレナへと襲いかかった。

けれど、レナは受け止めようとも、躱そうとすらしていなかった。ただ呆然と立っているだけだった。だから、電気を纏った姉さんの拳がレナの右頬に直撃した。そのままレナは身体ごと吹き飛ばされ、砂の地面の上をバウンドしながら転がった。


「レナ!!」


姉さんは電気を纏った身体で異常なほどに速いスピードで倒れているレナへと走った。


「封印!」


僕は即座に姉さんの正面の大気をその場に封印した。見えない壁に衝突した姉さんはその足を止めて、後ろを振り返った。姉さんは涙を流しながら、僕の顔を見ていた。

僕は鬼月を鞘から引き抜けなかった。いつもは軽いと思える刀が、今は果てしなく重く感じた。僕は柄を掴んだまま姉さんを見ているだけだった。刀に震えが伝播していた。

そして、ただ見ているだけだった姉さんが一瞬で加速し、僕の目の前にまで接近した。

直感で感じた。この攻撃はやばいと。まともにくらったら、腹に大穴が空くような悪寒がした。

しかし、ここまで接近されていたら、もう刀で受け止めるしかない。封印は、ある程度の威力があれば破壊されてしまう。だから、この場で封印を使っても、姉さんの攻撃には耐えることが出来ないのは明白であった。


「もう‥‥、楽にして・・・・!!」


姉さんの声が聞こえた。いつも優しくて、芯が強くて、心も、肉体も強い姉さんが弱音を吐くのは、ましてや、『楽にして』という言葉が姉さんから発せられるなんて想像できないことであった。

僕は姉さんの攻撃を受けた。圧縮された電気によって、身体中がビリビリとしていた。そして、レナと同じように僕は砂の上を転げ回った。

しかし、僕の右腕には刀が、鬼月が握られていた。僕の腹に大穴は空いていなかった。僕は鬼月を持って、立ち上がった。


「姉さん・・・・、分かったよ。今、楽にするよ‥‥」


僕はやっと決心をした。

姉さんをこの手で、殺す決断をした。僕は鬼月を両手で握ると、電気を纏った()()()()()へ刃先を向けた。

レナの方を見ると、まだレナは砂の上に寝ていた。


「レナ!!!! 起きろ!! ()()()()()()だよ! でも僕一人じゃちょっと荷が重い! だから、僕と戦え!!」


僕は姉さんをモンスターと叫んだ。姉さんと言ってしまったら、もう僕はこれとは戦えなくなってしまうから。

目の前のモンスターは僕がレナに叫んでいてもお構いなしに襲いかかってきた。鬼月を抜いてから、躱すのも楽になった。ただ、受け止めたら、刀越しに感電してしまうのが難点だった。僕はなんとか攻撃を逸らしながらレナへと叫び続けた。


「このモンスターは『もう楽にして』と言った!! そんなことを聞いたら、悩んでいる暇なんて無いだろ!! 戦うしか無いんだ、無いんだよ!! 一緒に戦うと言ったあの言葉は嘘だったのか!!」


レナはゆらゆらと立ち上がった。ノアの回復が完全に間に合っておらず、右頬が少し赤く腫れていた。


「いい加減、覚悟を決めろ!! やるしか無いんだ、僕たち自身でこのモンスターを止めるんだ!!」


「あああああ!!!!!! やる、やるよ!!」


レナは涙を拭って力強く前を向いた。その瞳には、もう迷いは無かった。

レナも、覚悟を決めた。姉さん、このモンスターを倒すことを。


「・・・・、そうでこなくちゃね」


僕は攻撃を逸らして、体勢を崩したさせた隙に、レナのもとへと移動した。


「やるよ、レナ」


「うん」


「ノアもいけるよね?」


「もちろん」


姿は見えないけれど、隣からノアの声が聞こえた。多分、ノアは今僕の真横にいるのであろう。


「よし、いくよ、二人とも!」


僕は一度頷いて、鬼月を目の前の電気を纏ったモンスターへと向けた。

そんな姿を見て、目の前のモンスターは少し笑った。

そして、一瞬にしてそのモンスターは僕たちと距離を詰めてきた。


「クッ!!」


何とか攻撃を鬼月で受け止めた。刀身を伝って柄にまでピリピリという電気が感じられた。

僕が受け止めている間に、真横から、レナの拳が飛んできた。

けれど、すぐさまそのモンスターは拳を躱してしまった。


「速いな・・・・」


「うん。でも、反応できない程ではないでしょ?」


「それはそうだけど。ところでレナ、感電しない方法ってある?」


「ないね。でも、歩君の刀とかだったら、刀身とかが血とかで濡れたりしない限りは死に至るような感電はしないと思うよ」


「でもレナは感電するんじゃ?」


「私は、長い間触り続けたりしなければ何とかはなると思う」


「なるほど。じゃあレナ、僕の攻撃に合わせて」


「オッケー」


今度は僕たちが先に動いた。帯電するモンスターへと駆け出した。


「柳生新陰流 二式 神速」


僕は走りながら鬼月を鞘に納めると、一瞬で抜刀し斬りかかった。けれど、神速は奴に掠ることすらせずにただ空を斬った。奴は神速をやすやすと躱した。けれど、躱している限り、どうしても隙は生まれてしまう。そして、それをレナは見逃さない。


「レナ!!」


「分かってるよ!!」


まだ着地していない奴へとレナは殴りかかった。その瞬間、奴から今まで以上の高電圧で放電された。身体中から排出されたその電気はさながら稲妻のようであった。

レナは攻撃することを諦め、電気を躱した。そして、追撃を狙っていた僕も引かざるを得なかった。


「何だよ、あれ・・・・!」


「攻撃が出来ないね」


「それに、あれじゃ死角からの攻撃も意味が無さそうだね」


「どうする? 歩君」


「レナ今まで通り、接近戦をして。僕は色々試して見る」


「オッケー。任せたよ」


奴に動きがあった。放電が終わったと思うと、その放電によって発せられた雷のようなものをおもむろに掴んだ。そして、左手には弓のようなものが握られていた。その弓に掴んだ雷をあてがうと、僕たちめがけて撃った。矢のようになった稲妻が超高速で襲いかかった。


「うわっ!!」


僕は間一髪のところで倒れるようにしてそれを避けた。それが掠った僕の額は傷口が焼かれ、血が流れてくることは無かった。ただ、斬られたような痕とそれと同時に焼かれたような傷が残った。


「あんなの撃って来んのかよ」


奴は握っていた右手を広げた。広げた右手の前に一本の雷が作られていった。そして、それを奴が掴むと、その雷は少しずつ変形して、まるで刀のようになった。


「マジかよ」


そして、刀を持った奴は、僕の目の前へと圧倒的な速さで移動した。だんだんと速くなってきていた。少しずつ、奴の動きを捉えきれなくなってきていた。

僕は電気で作られた刀を鬼月で受け止めた。その刀は高密度なのか、刀以上の硬度を持っていた。

刀越しに見える奴の目は虚だった。何を思っているのか、考えているのか何も分からなかった。

いや、()()()()()()()()()()・・・・?


「ぐうっっっ!!」


そんな思考は一瞬で吹き飛んだ。受け止めた奴の攻撃は重かった。だいぶ成長はしたとは思っていけど、それでも押し負けるほどの強さだった。むしろ、押し負けるというよりかはもはやギリギリで僕が耐えているようなものだった。

鬼月が押されて、刀の峰が僕の首へだんだんと近づいていた。


「離れろ!!」


レナが横から奴の顔へ殴りかかった。奴は、柄から右手を話すと、レナの拳を受け止めた。そして、僕には片手で依然として反抗できないほどの力をかけながら、レナをぶん投げた。


「柳生新陰流 三式 昇覇」


僕は片手で重心がずれた瞬間に昇覇で何とか逸らした。


「柳生新陰流 複式 虚爪・五連」


僕は姿勢を直して、斬撃を五つ飛ばした。五つの斬撃のほとんどが躱され、迎撃された。けれど、その内の一つは奴の身体を捉えた。そして、奴の腹へ虚爪をくらわせたのだった。

けれど、身体に纏っている電気が鎧のようになっているのか、特にダメージになっている様子はなかった。


「クソッ、電気が邪魔すぎる!!」


「あれは、雷姫(らいひめ)っていうものだよ。だいぶ強化されてるけど」


愚痴を吐いていると、吹き飛ばされたレナが戻って来た。レナに怪我は無かった。いつの間にか、僕の額の傷も消えていて、ノアが回復してくれているようだった。


「雷姫?」


「身体に常に電気を纏わせて、攻撃全てに電気を纏わせたり、異常なほどにスピードを上げたりするものだよ。でも、あんなに力が強くはならないはずなんだけど・・・・」


「レナ、気をつけて。単純な力だけでも、僕は勝てない。押し返すのも多分無理。せいぜい逸らすくらいが限度。それに、電気で攻撃も生身での防御もしずらい」


「力に関しては、アイツが強いのは確かだけど、歩君も本来の力が出せたないからだと思うよ。刀を伝ってくる電気のせいで力が入りにくいんだよ。まぁ、それは私もなんだけど」


「じゃあ、やっぱりあの電気をどうにかしないとってことか・・・・」


「うん。なんか打開策とかある?」


「あるっちゃあるけど、だいぶ危険だよ。僕も、レナも」


「じゃあそれでいこう。生憎、私は打開策は持ち合わせていないからね」


レナは即答でそう答えた。レナの目に一切の不安も恐怖も無かった。


「分かった。じゃあ、どんなに僕が危なくなったても、絶対に助けないで。あと、隙は見逃さないで」


「分かった。ただ、気をつけてね」


「それはもちろん」


「フッーー、、私も本気でいく」


「分かった。レナも気をつけて」


「うん。空間跳躍(パラドックスリープ):モード リミットオーバー」


レナがそういうと、身体がびくんと跳ねた。


「いくよ、歩君」


僕とレナは、刀を両手で持って僕たちを見ている奴へと走り出した。



次回の更新は火曜日までに行います。



面白かったら高評価の方お願い致します。感想やコメントなどもお待ちしてますのでよろしくお願いします!

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