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五十九話 序章

七月 二十五日 午後十二時半


ノアの言う通り、耐熱剤の効果が完全に切れる前に階段へ入っても、耐寒剤の時のように感じることは無かった。


「ねぇ、レナ。ボスの前に休憩してから行かない?」


「それはもちろん。流石に休みなしで行ったら危ないからね。それに、もうお昼だし」


「ここってゴールドダンジョンではあるけど、他とは違って休憩できるような大きい空間とかって無いよね?」


「うん。無いよー。だから今回はここで休憩するしか無いね」


「やっぱりかー。しょうがないっちゃしょうがないけど、あってほしかったよね」


「まあ、その分ボス以外のモンスターはそこまで強いって訳じゃ無いからマシだけどな」


「それはそうだけどさぁ」


「無いものはねだっても仕方ないし、切り替えて階段だけどしっかり休もうよ」


「そうだね」


「あー、でも、確かに大きい空間がないからその場でご飯を作って、食べるっていうのが出来ないのは残念だよねー」


「仕方無いんだけどね」


「うん」


そして、僕たちは階段へ腰を下ろした。

この空間とは違って階段は冷たいと感じるほどでは無いけれど、少しひんやりとしていた。


「ねぇ、レナ。どれくらい休憩する?」


僕は既にサンドウィッチを食べ始めていたレナにそう聞いた。


「うーん、大体一時間くらいかなー。ご飯食べてすぐは動けないだろうし」


口に含んでいたサンドウィッチを飲み込んでレナはそう答えた。


「それなら少しはゆっくり出来るね」


「まぁ階段だからちゃんとゆっくり出来るかは疑問だけどねー」


「それもそうだね」


そして、僕も異空鞄からおにぎりとお茶を取り出した。

ノアも異空鞄からおにぎりを取り出して食べ始めていた。


午後 一時四十分


長めの休憩の後、僕たちは三階層の入り口前へと降りて来ていた。


「ボスは何が出てくるかなー?」


「ちゃんと準備して来てるし、何が出ても大丈夫だよ」


「ちなみに何が出て欲しい?」


「うーん、強いて言うならジャイアントオーガかな。弱いわけじゃ無いけど、特に特殊なことをしてくるわけじゃないから一番倒しやすいからさ」


「ノア君は?」


「僕は、ロー・フェンリルですかね。アイツの素材に少し興味があるので」


「そう言う、レナは?」


「私? うーん、ケルベロスかなー。犬好きだし」


「いや、あれを犬って言い切るのは無理があるんじゃ無いかなぁ」


「まっ、何にせよ気は引き締めていこう」


「うん」


「歩君、ノア君、準備は良い?」


「大丈夫です」


「うん。行こう!」


そして、僕たちは三階層へと入ったのだった。三階層に入ると、無機質な少し小さい部屋があるだけだった。


「何これ。どういうこと?」


「ああ、これ分かれ道なんだよ。目の前に二つの道があるでしょ? 右はデッドエンド、左は普通のボスにつながってるんだよ」


「なるほど」


僕たちは左の通路へと向かった。一本道になっている通路は、ちょうど人一人が若干の余裕を持って通れる程度のものだった。

そのまま歩いていくと、すぐに大きな部屋へと出た。その部屋はとても広く、辺りには支柱のようなものが何本も立っていた。そして、支柱が特に集中して、まるで何かを守るようにして中心の台を囲んで立っていた。

その台の上には、白く美しい毛並みを持ちながら、寝そべっている狼の姿があった。大きな身体と立派な尻尾で白く薄く青がかった耳をピンと尖らせていた。

そして、僕たちの姿を見て、ゆっくりと台から降りて地面に四本の足を着けた。

地面へ足を着けたその狼の身体の周りにはうっすらと氷の粒のようなものが漂っていた。


「今回は、ロー・フェンリルか」


「うん。ノア君の希望が叶ったね」


「それは良かったんですけど、普通に手強いので気をつけてください」


「うん。歩君、行けるよね?」


「もちろん!」


「よし。二人とも、行くよ!」


「「はい!」」


僕は鬼月を引き抜き、レナは籠手を嵌めて、ノアは透明になるとすぐにその場から離れた。


「見てわかると思うけど、氷だとかを使ってくるから気をつけて」


レナがそう言うと、ロー・フェンリルの頭上に氷の粒が急速に発生して集まっていた。そして、それは塊へと姿を変え、氷の槍のようなものが何本も精製された。


「こういうことね‥‥!!」


そして、一斉にその槍は僕たちへ向かって飛んできた。


「レナ、少し離れてて!」


僕はレナにそういうと、柄を強く握った。


「柳生新陰流 一刀 五式 虎爪・円」


迫り来る無数の槍を力ずくで薙ぎ払った。鬼月に当たって割れた槍の破片が宙を漂っていた。


「レナ、同時に行くよ!!」


「オッケー!」


すぐに、ロー・フェンリルへと反撃を仕掛けた。ロー・フェンリルを挟み込むようにして、左右から近づいていく。


「柳生新陰流 一刀 六式 冥突」


「!!」


ロー・フェンリルに充分接近して、僕たちは攻撃を放った。しかし、それはロー・フェンリルに当たる前に、突如として出現した氷の壁によって塞がれてしまっていた。一息つく暇もなく、僕とレナのそれぞれへ向かって槍が飛んできた。

今度は撃ち落とさずに素直に後ろに飛び退いた。僕たちがいた場所には何本もの氷槍が無機質な地面に突き刺さっていた。

目の前には厚い氷があり、それは冥突でも半分も到達していなかった。

そして、そのまま少しロー・フェンリルから距離を取った。

僕たちが距離を取ったからかすぐにその壁というよりかは盾は粒に形を変え、またロー・フェンリルの身体の周りを漂っていた。


「あの盾を破壊しないと倒せないか・・・・」


「当たりさえすれば一撃で倒せるでしょ? 歩君なら」


「うわぁっ!!」


いつのまにかさっきまで反対側にいたはずのレナが後ろに立っていた。


「そんな驚かなくてもいいのに」


「ごめん。そうだね、当たりさえすれば盾ごと破壊できるとは思う」


「合成技でしょ?」


「うん。ただ、どうしても速度が遅いから、避けられるような気がするんだよね」


「合成技を使うのにタメとかも必要?」


「ううん、それは必要ないよ」


「だったら簡単だよ。私が足止めするからその瞬間を狙えばいいよ」


「でも、大丈夫なの?」


「全然大丈夫だよー。じゃあ足止めはするからトドメはよろしく」


そう言うと、僕の返事を聞く前にすぐにまたさっきいた場所へと戻った。


「もう‥‥、はぁ、やるしかないか」


もう既にレナはロー・フェンリルへと走り出していた。ロー・フェンリルは僕にも氷槍を向けつつ、レナへと攻撃を放った。さっきまでの氷槍ではなく、ドリルのように尖った氷が地面を滑るようにしてレナへと向かっていく。

レナはそれが当たる前に高く飛んだ。しかし、ロー・フェンリルはそれを読んでいたのか空中にはレナを全方位から氷槍が囲んでいた。

そして、すぐさまそれらがレナの身体へ向かって飛んでいった。

けれど、その中心にレナの姿は無く、氷同士がぶつかってできた氷塊のようなものがあるだけであった。

レナは既にロー・フェンリルの首元へと接近していた。ガラ空きの首へと籠手を嵌めたレナの右手が伸びた。けれど、また氷の盾によってそれは塞がれてしまっていた。


「ナイス、レナ!!」


しかし、それは僕がロー・フェンリルに接近するには充分なほどに時間を稼いでいた。ロー・フェンリルの意識は自然とレナに大部分が行っていた。だから、意識が削がれた状態で僕の足止めをするには氷槍の数は少なかった。危なげなく槍の嵐を抜けると、ロー・フェンリルへと充分すぎるほどに近づいていた。


「柳生新陰流 複式 虚爪・二連」


師匠と修行をして、百パーセントで打て、威力も上昇した合成技を放った。よほど、自分の氷の盾の硬度に自信があったのかロー・フェンリルは躱そうとはしなかった。虚爪が当たると盾はすぐにヒビが入り亀裂となった。そして、受け止めきれずに盾は粉々になった。そして、勢いそのままに、ロー・フェンリルへと向かっていく。しかし、そこは流石と言うべきか、ロー・フェンリルは高く飛んで虚爪を躱した。当たるものを失った虚爪はレナのいる位置まで飛ぶことなく、その手前で消滅した。

盾が破壊されたことで驚いて動かなくなるなんてことはなかった。むしろ、壊されてすぐにロー・フェンリルは回避する体勢に入っていた。


「ギャアオオオオオン!!!」


高く空を舞ったロー・フェンリルが吠えた。大きく口を開けると、その周辺に今までとは比べ物にならないほどの氷の粒が集まっていた。


「封印解除」


ロー・フェンリルが何をしようとしていたのかはわからないけれど、何かをする前にもう一つの斬撃がローフェンリルへと飛んでいった。

空中では流石のロー・フェンリルでもおいそれとは動かなかった。だから、大人しく、その斬撃を受けるしかなかった。

まるで願うかのようにして、その斬撃の前に氷の盾を置いた。しかし、無情にもその斬撃は盾の(ことごと)くを砕いていった。

そして、障害物を無くした斬撃はそのままロー・フェンリルの首へと迫り、大きな首を断ち斬った。

斬撃が通過した首は白い毛に一本の赤い線が入った。そしてその直後、首と胴体が分かれた。口元に集まっていた氷の粒はすぐさま粉々になり霧散した。


「お待たせ、レナ」


「お疲れー、歩君」


「レナだったら、一人でもアイツ倒せたんじゃないの?」


「えー? いやー、そんなことないヨー」


「僕の力を試したかったとかってわけじゃないよね?」


「いやー、違うよ。本当に私じゃ仕留めきれないと思ったんだヨ?」


なんかレナがカタコトな気がしたけど、そういうことにしておいた。


「・・・・、まぁ良いや。それより、もうこれでボスは倒せたんだよね?」


「うん。後は、この空間の一番奥にある転移装置を使えば良いだけだよ」


「オッケー。ノア、ロー・フェンリルは魔石だけ回収する?」


「いや、全部欲しいから僕の異空鞄に入れるよ」


透明化を解除して姿を現したノアがそう言った。ノアは目一杯鞄を広げると、巨体のロー・フェンリルを鞄の中へと入れきった。


「二人とも、怪我はしてないですか?」


「僕は大丈夫だよ」


「私もしてないから、大丈夫だよー」


「そうですか、なら良かったです」


「んじゃ、ボスも倒したし帰ろっか!」


「そうだね」


そして、ロー・フェンリルも回収した僕たちはこの部屋の奥へと歩いて行った。

そして、部屋の奥には透明な壁のようなもので仕切られた空間があった。


「これが転移装置なんだ!」


「歩は初めてなんだっけ、使うの」


「うん。明治神宮ダンジョンでも使ってないしね。ちょっとドキドキする」


「まぁ、初めてはテンション上がるよねー」


そして、僕たちはその空間に入ると、部屋の中にあった石に触れた。石に触れてから十数秒して、目の前が真っ白になった。いや、なる。()()()()()

電池が尽きた電灯が消えるようにして、目の前が闇に飲み込まれた。

そして、次の瞬間僕がいたのは奥多摩ダンジョンの外、ではなく見たこともない場所だった。


———歩、 まずいことになったぞ!


「レティア・・・・?」


———歩、ここはデッドエンドだ! 気をつけろ! 自分の命を最優先しろ!!


レティアがそう言うと、直後にノイズがかかったようになって、レティアと話すことができなくなった。


「皆んなは?!」


辺りを見渡すと、部屋の角にレナの姿があった。ノアも反対の角にその姿があった。二人は気絶しているのか、床に倒れていた。


「二人とも、起きて!!」


僕は急いで二人の元へと駆け寄った。しばらくして二人とも目を覚ました。


「う・・・・、、ここは‥‥?」


「いきなり目を開けたらここだった。多分デッドエンドかもしれない」


先に目を覚ましたレナにそう言うと、レナは飛び起きた。レナの表情は戸惑いと動揺やさまざまな感情が入り混じっているようだった。けれど、二度も同じ場所で同じことが起こってしまったこの状況はそんな感情を抱かずにはいられないのは仕方がなかった。


「歩君、それ本当?」


僕はその言葉に強く頷いた。


「あれ‥‥? 僕寝てた?」


「ノア君、焦らず聞いて。転移のミスか分からないけど、ここはまだダンジョンだよ」


「! まさか、デッドエンドですか‥‥?」


「歩君が先に起きて教えてくれたけど、多分その可能性が高いと私も思う」


「! どう‥‥しますか?」


「ここにいても何も始まらない。だから、進むしか無いと思う」


「・・・・、分かりました」


その言葉を聞くと、レナはコクっと首を縦に振った。


「歩君は何かある?」


「僕も進むしか無いと思う。何が出てきたとしても、立ち向かうしか無いよ」


「うん」


ノアは立ち上がると、すぐに服についた埃を払った。幸い、誰も装備を無くしているということは無かった。

僕たちがいるこの部屋はちょうど体育館程度の大きさであった。ただ石壁によって囲まれただけの部屋に一つだけ通路があった。


「イタッ!」


僕が鬼月の柄を触るとバチっと静電気が走った。


「どうしたの?」


「いや、ごめん。ちょっと静電気が」


レナが素早く後ろを振り向いてそう言った。


「大丈夫?」


「うん、静電気だし。平気だよ」


「静電気でも気をつけてね」


「うん」


そうして、僕たちはまるで大きく口を開けるかのようにして獲物を待つ暗い通路の奥へと飲み込まれていくのだった。



更新が遅くなりすみません。

次回は日曜日までに更新です。


やっと、奥多摩ダンジョン/デッドエンド編が始まります。

あと、歩たちのパーティ、トリックスターのリーダーは一応、歩です。その辺の話はいつか書けたら良いなーと思ってます。


面白かったら高評価の方お願い致します。感想やコメントなどもお待ちしてますのでよろしくお願いします!

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