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五十八話 フラグって怖い。


僕たちは未だ、ジャングルの中を歩いていた。


「入った時はそうでもなかったけど、流石に長時間いると、汗かいてくるね」


「そうだねー、熱中症とかには気をつけてね」


「うん」


僕はそう言いながら、鞄の中から飲み物を取り出した。そして、ペットボトルのキャップを外して、少し口を潤した。


「歩も異空鞄買ったのか?」


僕がペットボトルのを取り出した鞄を見ながら、ノアはそう言った。


「え? うん、そうなんだよ。昨日買っちゃった。まぁ、ノアのよりかは性能は劣るけどね」


「まぁ、歩たちがこんな大容量を持つ必要が無いもんな」


「うん、最低限持ち運べるくらいがちょうど良いしね。バッグの中がごちゃごちゃになっても嫌だし」


「まぁ、そうだな」


そして、僕はキャップををきつめに閉めると、鞄の中へと戻した。


「ねぇ、レナ。ずっと先頭にいるけど、変わろうか?」


「ううん、大丈夫だよ。それに、感知するのは歩君より得意だしね」


「それはそうだけど、休んだ方がいいんじゃ無い?」


「大丈夫だって。これくらいじゃ疲れないし」


「そう。・・・・でも、ちゃんと疲れたら言ってよ。そしたらすぐに交代するからさ!」


「そうだね、その時はお願いするよ」


レナは僕の方を見て微笑みながら、そう言った。


そして、それから三十分。最初に襲ってきた大きな蠍以外特にモンスターに襲われることなく、僕たちは二階層への階段を見つけたのだった。


「なんか、ラッキーだね、モンスターに襲われないなんて」


「モンスターの鳴き声とかは聞こえてくるんだけどねー、襲われなかったね」


「たまには、こういう時があっても良いですよね」


「そうだね。じゃあ、運良くあんまり戦うことなく辿り着けたし、さっさと行こっか」


「うん」


そして、僕たちは、このジャングルのように木々が生い茂る場所を抜けて、階段へと向かっていくのだった。階段へと入ると、さっきまでのジメジメとして、蒸し暑いような感じはすぐに消え、ちょうどいい温度になっていた。

さっきまでは暑い場所にいたせいか、やけにこの階段の空間は涼しく感じた。


「本当にダンジョンってどうなってんだろうね?」


階段を歩きながら、壁に手を触れながら僕はそう言った。


「何が?」


ノアが後ろから聞いてきた。


「いや、ダンジョンの階段のところだけは、暑くも無い、寒くも無い、危険も無いで不思議だよねって」


「確かに、それはそうだよねー。まぁでも、それを解き明かすのは私たちの仕事じゃ無いからねー」


レナが階段を歩きながら、後ろを向いて僕たちの方を向いた。


「そうなんだけどさぁ、やっぱ冒険者をやってると不思議には思うよね」


「でも、もし階段も階層と同じようにモンスターとかが出てくるんなら、休むこともできないから、階段が完全に安全になっているのはありがたいことだよねー」


「確かに・・・・。階段でもモンスターとかが出るって思うとゾッとするよ・・・・」


「そういえば、二人とも疲れてない?」


「僕は、大丈夫。ノアは?」


「僕もです」


「じゃあ、このまま二階層に行っちゃって大丈夫そう?」


「うん」


「よし、じゃあ行こっか」


「その前に、二人ともこれを」


そう言うと、ノアは鞄から試験管を三本取り出した。

昨日行っていた耐熱のための薬品であった。


「ありがとうノア。これって、耐寒の時みたいに飲んだらすぐ入った方がいいやつ?」


「改良したからそれは大丈夫。ただ、耐寒と違って効果が三十分しか無いから気をつけて。僕の方で時間は計っておきますけど、二人とも注意はしててください」


「オッケー」


「了解」


そう言って、僕たちは試験管の中身を飲んだ。今度はエネルギードリンクのような味がした。空になった試験管をノアに返すと、僕たちは特に長い休憩などを取ることなく二階層へと足を踏み入れたのだった。


奥多摩ダンジョン 二階層


二階層は入った瞬間、熱風が僕たちを襲った。ノアの耐熱剤がなければすぐにやられてしまうほどの熱気であった。

ここは、もはや暑いを通り越して熱いであった。

耐熱剤を飲んでいてもわかるほどに熱い空間であった。

そこは、溶岩がひしめく火山の中のような場所であった。


「これ周りのやつ全部溶岩?!」


「そうだよー。奥多摩ダンジョンの二階層は何故か溶岩地帯なんだよね。溶岩もあるし火山の中に入ったみたいな感じだよね」


「歩、いくら耐熱剤を飲んだとは言っても、溶岩とかに適応するわけでは無いから、気をつけろよ。普通に燃えるからな」


「うわー、まじか。超戦いにくいじゃん」


「そこはあんまり気にしなくて大丈夫だよー。ここはモンスターというよりかはこのフィールドがメインだから。そこまで強いモンスターとかは出ないよ」


「あっ、そうなの?」


「まぁ、何体かはそこそこなのはいるけど、滅多に出てこないしね」


「・・・・、ねぇレナ。それってフラグじゃ・・・・」


僕がそう言い切る前に異変は起こった。近くのマグマが溜まって湖のようになっている場所で、ぼこぼこと激しく溶岩の気泡が立った。

そして、何度か気泡が弾けて再生が繰り返された後、その溶岩が噴水のように思い切り噴き上がった。そして、宙に舞う溶岩と共に、溶岩の中から何かが飛び出してきた。

そして、飛び出してきたそれは僕たちの目の前に落ちてきた。


「・・・・・・」


「・・・・、ねぇ、レナ」


「・・・・・・、えーっと、ごめん・・」


レナは見事に自分で立てたフラグを回収した。


「これって、さっき言ってたそこそこのやつ?」


「うん。というか、その中でも割と上のやつ・・なんだよね・・・・」


レナは僕たちから目線を逸らしてそう言った。


「これは、メルトクラブですね」


「うん」


メルトクラブ

溶岩の中に住んでいる蟹のことであり、五メートルも十メートルもある巨体を持つ。主食は溶岩。また、摂取した溶岩の成分をその甲殻に蓄積することで、甲羅は尋常じゃ無いほどの硬度を持つ。そして、口から溶岩を含んだビームのようなものを吐き出すことが出来、それはただの溶岩よりも熱く、人間ならば当たるどころか、かすっただけでも溶けてしまうほどの熱を持っている。性格は非常に獰猛で、近くにきたモンスターや冒険者を襲う。

最大の特徴として、この蟹は横歩きをすることなく、普通の動物のように身体を正面に向けたまま走ることができる。


「歩君、今度は手伝ってもらって良いかな?」


「うん、一緒にやろう。でも、あの時みたいにみたいにレナが殴ってれば倒せるんじゃ無いの?」


「確かにいけるけど、大きいからさ、一撃で倒すとすれば顔面しかないんだけど、私一人じゃ顔面に攻撃する前にアイツの攻撃をくらっちゃうからさ」


「ああ、なるほど。じゃあ僕はレナがアイツにトドメを刺すためのアシストをすれば良いってこと?」


「うん。出来る?」


「当たり前でしょ。じゃあトドメはよろしく。ノアは・・・・、もう下がってるか」


後ろを振り返るとさっきまでノアがいた場所に姿はなかった。十メートル程度離れた場所に既にいたのだった。


「じゃあ、レナ僕がアイツをどうにかして裏返すから」


「頼んだよ、歩君」


「任せて」


僕は少し自信があるようにレナに言った。レナは頷くとその場からすぐに離れた。

鬼月を引き抜くと、柄を力強く両手で握った。

目の前の僕の身長を優に超え、三倍程度も大きい蟹が高らかに鋏を天へと掲げた。そして、横にしか走れない蟹が身体を横にすることなく、正面から鋏を僕へと向けて迫ってきた。

僕たちの右側には溶岩が広がっていた。だから、あまり右側には行くことが出来なかった。けれど、それはこの蟹も理解しているようだった。地面を歩いている獲物は基本溶岩にいけないことを知ってるのかは分からないけれど、多分知っていた。だから、この蟹は大きな鋏を僕の左側から振りかぶった。そして、それは僕のすぐ左側の空間をその鋏で埋め尽くし左への逃げ場を無くした。そして、後ろに引くには遅すぎた。今下がれば鋭利な鋏が僕のはらわたの色を確かめることになってしまう。だから、僕がそれを鬼月で受けたのは当然の事だった。

この蟹は今の攻撃で僕を仕留める気は毛頭もなかった。ただ、僕を溶岩の中に吹き飛ばすことさえできればそれで良かった。僕が刀で受け止めるのはこの蟹からしたら想定内のことだった。

そして、鋏を受け止めた僕は溶岩の真上へと吹き飛ばされた。自分の体重の何倍もあるこの蟹のスイングを受け止めることは出来ても、その勢いを殺すことは出来なかった。


「歩!!」


ノアが大声で叫んだ。その声色は焦りの色が微塵も隠すことなく含まれていた。


「歩君!!!!」


そしてそれはノアだけでなくレナも同じだった。宙を浮かんだまま僕は二人の姿をはっきりと見た。そして、僕を吹き飛ばした蟹が振りかぶった右鋏の遠心力を利用しながら宙を飛ぶ僕の方へと向き直っていたのを冷静に見ていた。

僕は一言も何も言うことなく、重力によってぐんぐんと溶岩へ身体が近づいていく。

しかし、焦る二人と違って、僕に焦りの色は無かった。僕は空中で姿勢を整えて蟹を正面に捉えながら、足を溶岩へと向けた。そして、溶岩に落ちることなく、僕の身体は落下することを停止した。

僕の身体は宙に浮いたまま停止したのだった。


「どうしたんだよ蟹。僕はこれくらいじゃ死なないよ」


蟹は浮いたままの僕に動揺したのか、溶岩に入る前にその動きを止めた。


「それよりも、お前も足元に注意したほうが良いぞ」


僕がそう言った直後、メルトクラブの足、正確には腹の部分の真下からメルトクラブへと向かって二本の斬撃が飛び出した。二本の斬撃は硬い甲殻を斬るまでには至らなかった。けれど、その威力は何が起きたか未だ理解しきれていないメルトクラブの身体をひっくり返すのには余りある威力があった。

メルトクラブは対抗することが出来ずになす術なくその腹を露呈し、ひっくり返った。


「レナ、今だよ!!」


僕はなおも浮いたままレナへと叫んだ。

レナもまた僕が浮いているのに驚いてはいたけれど、すぐに蟹の腹へと移動した。

けれど、メルトクラブも流石に危険を感じたのか口から高温の熱線を自分の腹に乗っている異物へと放った。


「当たらないよ!!」


抵抗虚しく、その熱線はレナを捉えることは無かった。そして、


「おとなしく、しろ!!」


レナは無防備になった口と腹との境目付近に拳を叩き込んだ。岩を殴るような音が響いた。そして、レナがもう一度拳をそこへ叩き込むとメルトクラブの身体が痙攣して口から泡を吐いた。

メルトクラブの黒い両目が白に染まった。それは、メルトクラブの命が消えたことを意味していた。

僕はそれを見ながら、鬼月を鞘に納めて宙を歩いてレナたちの方へと近づいて行った。


「お疲れ、レナ」


「そんなことより、歩君! 何で宙を浮いてるの?!」


「歩、どういうことだよ!!」


地面に足を下ろすや否やレナとノアが食い気味に僕へと迫ってきた。


「いやー、この前明治神宮ダンジョンでアイツと戦ってからさ、こんなのも出来るんじゃ無いかなー? って修行してた時に色々試してたんだよ」


「それが、空中を飛ぶってこと?」


「いや、あれは飛んでるんじゃなくて、空中に足場を作ってるだけだよ。早い話、空気を踏むことが出来るほどに固めてるだけだよ」


「そんなことが出来るなら、早く言っといてくれよ! 心配しただろ!」


「ごめん、ごめん。ちょっと驚かせたかったからさ」


「それに、メルトクラブをひっくり返したのは?」


「あれは、直前に斬撃をその場に固定しておいただけだよ。飛ばされた瞬間にね」


「そんなことも出来るんだね、凄いね」


「それほどでも無いよ。レナみたいに早く動いたり、ノアみたいに回復できるわけじゃ無いし」


「いや、凄いだろ。その能力」


「・・・・、そう言ってくれると、嬉しいよ」


今まで、無能だと言われてきたこの能力を家族以外にここまで誉められることは初めて、いや、二回目だった。だから、素直に誉めてくれるレナとノアの言葉は嬉しかった。


「さっ、早くこの蟹の魔石を取っちゃおうよ! 先に進まないと!」


僕は二人へとそう言った。

そして、魔石を回収して、僕たちは進んで行く。


「メルトクラブも倒したし、良かった、良かった。それに、流石にもう強いモンスターは出ないだろうし、焦らず行こ!」


「・・・・、あのさぁ、レナ 。フラグって知ってる?」


「知ってるけど、これフラグ?」


「ついさっきもそれで、速攻回収したじゃん」


「いや、今度は流石に大丈夫でしょ。ここで二体と遭遇する方が一回も遭遇しないより確率低いんだから」


「だといいけど・・・・」


この世にはフラグというものがある。例えば「俺、故郷に帰ったら結婚するんだ!」って言った人間が故郷に帰れなくなったり、「このまま優勝だ!!」って言ったやつが速攻で負けたりとそういうことである。

そして、それはダンジョンの中でもあった。だから、レナがこの言葉のフラグを回収することは必然であった。


そんなことを話していた数分後、僕たちの前にはまた、大きなモンスターが立ちはだかっていた。


「レナ、反省・・・・してね?」


「・・・・はい」


見事なまでにフラグは回収されたのだった。



それから一時間半後。僕たちは三階層への階段の目の前に辿り着いていた。


「 つっかれたぁー!」


あの後、結局僕たちはレナが言っていたそこそこ強いモンスター全員と遭遇したのだった。フラグって怖いってことを認識させられたのだった。


「ごめんね、二人とも」


「まぁ、しょうがないよ。でも、反省はしてね」


「うん、めっちゃしてる。次からは気をつけるよ」


「そうしてくれると、有難いです」


ついさっき、モンスターの爆発に巻き込まれて髪がちりぢりになったノアもそう言った。


「ノア、この耐熱剤を飲んだままで階段へ行っても大丈夫なんだよね?」


「ああ。だから、時間を待たないで行って大丈夫」


「じゃあ反省は後にして、とりあえず階段へ行こっか」


「うん」


そうして、この灼熱地獄のような場所を踏破して、まだ見ぬボスが待つ三階層へと続く階段へと進んで行くのだった。



奥多摩ダンジョン デッドエンド 最深部


「さぁ、早く来い。()() ()()() ()()よ!!」


以前レナの戦いや、歩の戦いを見ていた白衣をきた男が面識のないはずの二人の名前をそう大声で叫んだ。


「刻藤・・・・、歩・・」


そして、その男が発した内容の一部に反応した存在があった。それは、その男とガラスのようなものを挟んだ向かい側のモンスターの亡骸が積み重なった山の頂上でそう呟いたのだった。

そして、この出来事は歩たちの未来を大きく変えていく引き金となっていくのだった。





更新遅れました。すみません。

次回は水曜日までに更新します。


面白かったら高評価の方お願い致します。感想やコメントなどもお待ちしてますのでよろしくお願いします!


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