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五十六話 心の底で

その後、私たちは緊急で集められた龍羽さんも含めた金級や銀級の冒険者たちで即席のパーティーを組んで、奥多摩ダンジョンへと向かった。

急いで、デッドエンドに巻き込まれた場所まで行ったけれど、そこには何も無かった。

私たちが飛ばされたように、ボスを倒してもデッドエンドに入る事は出来なかった。

あの後、瑞稀がどうなったのか誰も知る事は出来なかった。

大きな絶望と共に、私の意識はそこで途切れた。

次に私が目を覚ましたのは病院の個室だった。

左腕には点滴が刺されていた。そして、私が寝ているベッドの隣には、椅子に座っているみのりの姿があった。

私が目覚めたことがわかると、龍羽さんや、宗一郎さんたちも見舞いに来てくれた。

みんなが言うには、私は丸一日眠っていたらしい。

私は藁にも縋るような気持ちで、恐る恐る奥多摩ダンジョンについて聞いた。けれど、それは私の夢なんかでは無く、現実であった。香織と私を除くメンバーは事実上死亡と見なされた。加えて、唯一遺体が残っていたルージュ以外はその事実があるだけで、遺体すら無いと言う現実であった。

そして、奥多摩ダンジョンは危険性からゴールドダンジョンへと格上げされたていた。


「香織は、どうなったの?」


私はベッドに座りながら、宗一郎さんたちに聞いた。


「・・・・・・」


「怪我はしていないはずだよね?」


「怪我はしていないよ。ただ、心に深い傷を負ってしまったらしい。医者が言うには、もう今までのように戻る事は難しいかもしれないだと」


「!! ・・・・、そんな・・・・。じゃあ私だけが・・・・」


私はまた、病院のベッドで泣いた。そんな私の姿をみのりは何も言わずにさすり続けてくれていた。

宗一郎さんも、龍羽さんも、私に何も言うことは無かった。


後から詳しく聞いた話によると、香織は今でも精神病院に入院しているらしい。目の前で恋人が死に、パーティーメンバーが目の前でほとんど死んでしまった現実によって、香織の心が壊れてしまったと言う。私は一度だけ香織の見舞いに向かった。けれど、私の姿を見て、香織は叫び出し、気を失ってしまった。どうやら、私は香織にとって最悪な過去をフラッシュバックさせてしまうトリガーらしかった。そして、叫び出す前に見た香織の目には精気は無く、まさに、生きる屍と表現するのが正しいほどであった。

それ以来、私は香織に会う事は無かった。

私たちのパーティー「アルゴノート」は神話でのアルゴノートとは違って、金羊毛を手に入れる事なくただ一人私だけを残して消え去ったのだった。



「・・・・、これが瑞稀の死の真相だよ。黙っていてごめん」


レナは泣きながら当時のことを話し終えた。もはや、周りの人たちもその話を聞いて、宴会どころでは無く、暗くて重い雰囲気になっていた。


「・・・・、そっか・・・・。姉さんが・・・・」


僕は自分の知っている姉とは違う人を聞かされているような感覚だった。家での姉さんはいつも何処か抜けていて、だけどいつも優しい人だった。僕はてっきり姉さんは何かドジをやって死んでしまったとばかり思っていた。二年越しに聞かされた真相は、僕の思っていたこととは天と地ほどもかけ離れていて、理解はしたけど、いまいち信じられずにいた。

不思議とそれを聞いても涙が出る事はなく、目頭が熱くなることさえ無かった。


「本当にごめん、歩君。私は、彼女を見殺しにした、彼女を殺した張本人だ。本当にごめん・・・・!!」


「それは違うよ、レナ。確かに姉さんはそこで死んだけど、それは決してレナのせいじゃないよ。それに、冒険者をやってるんだから、そんなことは僕も姉さんも承知の上だよ」


「でも・・・・!!」


「いいから!! 良いんだよ、もう。さっ、この話は終わりにしよう」


僕は、手をパンッと叩いてレナの言葉を食い気味に途切らせた。意図せずして、強く僕は言った。

そして、気分が悪くなったようなフリをして、僕は帰る準備をした。


「すいません、皆さん。今日は先に帰ります。龍羽さん、ご馳走様でした」


「何処へ行くんだ?」


師匠がそそくさと出て行こうとする僕を少し止めてそう言った。


「・・何処って、僕の家ですよ。最近帰れてなかったので。では」


他の人に何かを言わせる合間も与えずに淡白にそう言うと、僕は扉を開けて部屋から出ると小松屋から出ていった。

外は、もう夏に入りかかっているのに、夜だからか少し寒かった。空には、都会とは思えないほどに、はっきりと無数の星がよく見えた。



東京都府中市 刻藤家


それから一時間少しほどして、僕は久しぶりに家に帰ってきた。家の中には生活感は無く、部屋は電気がついて無く、真っ暗であった。

電気をつけると、そこはいつも通りの自宅だった。テーブルがあって、テレビがあって、キッチンがあって、そして姉さんと母さんの仏壇が置いてあった。

仏壇の前の座布団に僕は座りながら、りんをチーンと鳴らした。


「・・・・、姉さんてっきり僕はいつものようにダンジョンでもドジをやらかしたんだと思ってたよ。でも、立派に護ったんだね・・・・」


ここまで、一滴も涙が落ちなかった僕の目からいくつもの水滴がこぼれ落ちていった。少しずつ、僕のズボンをそれが濡らしていく。


「ああ、くそ、もう二年前に泣ききったと思ったのに・・!!姉さん、なんで、死ぬんだよ・・・・!! また、会いたいよ・・・・!!」


涙でぼやけた僕の視界には仏壇に置いてある仏様の絵は眩しすぎた。

僕は仏壇の前で啜り泣いていた。どれくらいの間そうしていたか分からないけれどやがて、僕の目から涙がこぼれるのが止まった。少し冷静になって僕は正面を見てつぶやいた。


「・・・・、ごめん、二人とも。見苦しいところを見せちゃった」


———もう良いのか、歩


「はい。もうちゃんと泣きました。だから・・・・、大丈夫です」


僕は目を拭いて、真っ赤になりながらも、レティアに答えた。


———私は君の、思っていることを表に出さないようにしていることはいいことだと思うよ。けどな、今みたいに、本当に辛い時に一人でそのことを抱え続けていたらいつか、君の心は崩壊してしまう。君が思っている以上に、心は、人間の(ココロ)は、脆いんだよ。人間はその脆さを仲間と痛みや辛さを共有することでカバーしている。だから、君も、誰かに寄りかかってもいいんじゃ無いのか?


僕が強がっているのを見抜いているのか、レティアは僕に優しくそう言った。


「でも・・・・!」


———それに! 瑞稀は君の大事な家族だったんだろう? その喪失は一人で抱えるにはあまりあるほどに大きすぎるよ。こんな時だからこそ、仲間と分かち合えよ、歩。


「・・・・、はいっ。ちょっとレナに電話します」


———ああ、それが良いよ。まぁ、実体があるなら、いくらでも私が慰めてやるんだがな。


「 それは・・、いつかされてみたいですね」


———それが実現するのはまだまだ先になりそうだけどな


「頑張ります」


–———ああ、そうだな。


レティアとそう話して、少し笑った後に、僕は携帯を取り出した。


「今から、会えない?」


僕は電話をかけた相手にそう言った。


小松屋


僕が出ていってから、小松屋では未だに重い空気が漂っていた。

誰も、何も話そうとはしないままただ箸が鳴る音と、飲み物を飲む音だけがその部屋に響いていた。普通なら、気にならないようなその音は、とても耳障りなほどに大きく聞こえた。


「私も、帰ります。龍羽さん、今日はありがとう」


そんな中でレナが口を開いた。


「一人で大丈夫か?」


「うん、心配しないで。流石に一人で帰れるよ。そんなに酔ってないしね」


「私が送ってあげようか?」


八城さんが立ち上がってレナへそう言った。


「ううん、大丈夫」


レナは少し笑ってそう言って断った。その笑顔はいつものような笑顔ではなく、心配をさせないための最小限のような笑みだった。


「そうか、そうだな。気をつけて帰れよ」


「うん」


レナは部屋を出ていく前に、全員に向かってお辞儀をすると部屋の扉を閉めた。

レナの携帯が鳴ったのはそれからしばらくして、レナが行くあてもなく光り輝く街中を歩いている時だった。


小松屋


「なぁ、宗一郎」


「何だ?」


「さっきはああ言ったが、大丈夫だろうか」


「レナのことか?」


「それもそうだが、歩も、レナも二人ともだよ」


「大丈夫だと思いますよ」


それに答えたのはノアだった。ノアは、テーブルに置いてあった唐揚げを食べながら、そう答えた。


「どうしてそう思う?」


「レナさんも、歩も今、明確な目標を持ってますからね。目標だとか、そういったものを持ってるやつって強いじゃ無いですか。それに、例え厚くて高い壁があっても、そこで立ち止まるような人間じゃないですから。あの二人は」


「ハハハ、ノアの言う通りだな。龍羽、お前が気に病むことじゃない。あいつらは大丈夫さ。立ち直れるほどの強さをしっかりと持ってるからな」


師匠は龍羽さんにそう言うと、日本酒をお猪口に入れて飲み干した。


「お前も飲むか? 龍羽」


「・・・・、そうだな。俺も飲むとするか」


師匠は龍羽さんのお猪口にも酒を入れて、自分のにも入れ直すと乾杯したのだった。


「ノア、お前も飲むか?」


「未成年ですよ」


「じゃあジュースでいいか?」


「それなら、頂きます」


そうして、三人で乾杯し合ったのだった。小松屋での飲み会は少しずつ活気を取り戻していったのだった。


府中駅


僕は府中駅の改札前で、スマホをいじりながら、壁にもたれかかっていた。


「ごめん、お待たせ」


改札機からピッと音が鳴り、誰かが来た音がすると、その人は僕へ声をかけてきた。


「ううん、僕もさっき着いたばっかりだから。むしろ、ここまで呼び出してごめんね」


「大丈夫だよ。それで、話って?」


僕は電話をかけた相手であるレナと府中駅で会った。時刻は既に十一時を過ぎており、いつもは人が多い府中駅は人気は少なく、店の殆どが閉まっており、静かであった。


「さっきはごめん、レナ。僕だけ逃げるようにして」


「ううん、良いんだ。私が黙ってたのが原因だし」


「レナ、僕さ。本当は二年前に姉さんが死んだって聞いた時に、組合とかを死ぬほど恨んだんだよ。姉さんが死んだのに、遺体も回収しない、詳しいことを家族にすら伝えないって」


「・・・・、うん」


「で、さっきレナから真相を聞いた時もさ、本当は少しだけ苛ついてたんだ。何でそんなことを僕に言わないんだって」


「・・・・・・」


「でもさ、言える訳無いよね。レナはこの二年間、ずっと苦しんできたのにさ」


「・・・・」


「ずっと、苦しんで、苦しんで、苦しみ続けて、その上で僕に打ち明けた人を責めることなんてできる訳無いよね」


「・・・・・・・・」


「レナ、もう、過去に囚われなくて良いんだよ。いつも言ってたじゃん。前を向かないと、前に進まないといけないって」


「歩・・・・君・・・・」


「だからさ、一緒に前を向こう?」


「うああああああ・・・・!!!!!!」


レナは声を出して泣き出した。それはまるで、小さな女の子が母親に泣きつくように、人目をはばからずに声を上げて泣いた。

僕はレナを何も言わずにそっと抱きしめた。


「私っ、ずっと、ずっと・・・・!!!!」


「良いよ、今は泣けば良いよ」


そして、レナは泣き続けた。しばらくして、泣き止むと、レナは僕の胸から離れた。


「ズビッ・・・・、もう大丈夫。ありがとう、歩君」


「ねぇレナ」


僕は僕から離れて涙を拭いているレナに言った。


「レナ、姉さんと一緒に戦ってくれて、ありがとう。そして、今度は僕と一緒に戦ってくれませんか?」


そんなレナに向かって、僕は頭を下げて、そのまま右腕を伸ばした。


「はい・・・・、私は、君と戦い続けるよ」


レナは鼻声になりながら、そういって、僕の手を取った。レナは微笑んでいた。

けれど、レナは取り繕った笑顔じゃなくて、心の底からの笑みだった。

僕たちは今日やっと、本当のパーティーになることが出来たような気がした。僕はやっと、ノアを含めて、心の底からの欲しがっていた仲間を手に入れたのだった。


「帰ろう、レナ」


「うん」


そうして、僕たちは手を繋いだまま、家へと歩いて行くのだった。

車道を通る車の音が二人の足音を消していった。



奥多摩ダンジョン

最深部


そこは、奥多摩ダンジョンのボス部屋よりも下のデッドエンド。その中でも一番下の空間であった。


「ギャァアアアア!!!!」


モンスターがが叫んだ声が木霊する。その空間の一部で、大量のモンスターが円を描くようにして、集まっていた。

それらは全てが円の中心へと走って行く。


「ガアアアアアアア!!!!!!」


先頭付近のモンスターたちが大声で叫ぶ。その直後、轟音とともにその空間一体が揺れた。

広く高い空間の天井にまで達するほどに、金色の光の棒のようなものが立ち上がった。

先頭付近にいたモンスターたちどころか、その半分程度の位置にいた全方位のモンスターが吹き飛んだ。そのどれもが体の表面がプスプスと焼け焦げていた。

その中心には一体のモンスターが立っていた。モンスターには珍しい黒髪であった。その身体の周りには電気のような、光のようなものが発生していた。


「エクセレント・・・・!! やはりこれは、最高傑作だよ・・・・!!」


その様子を見て、本来いないはずのデッドエンドに白衣のようなものをきた男がその一体のモンスターが大量のモンスターを蹂躙している光景を見て、そう言ったのだった。



すみません、更新が遅くなりました。次回は水曜日までには更新します。

今回は短くなってます。すみません。

今度こそ次回から、またダンジョンに戻ります。歩やレナ、ノアの少し成長した姿も出して行くのでお楽しみに。


面白かったら高評価お願い致します。感想やコメントなどもお待ちしてますのでよろしくお願いします!

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