幕間 事件は深く。
七月 十七日
僕が警察に行って、取り調べを受けた後、若林 拓義は歩の話した情報とそれをうなづけるための証拠を集めて、捜査本部で話していた。
「以上のことより、無明 ゼロもとい刻藤 歩の容疑は正当防衛に十分値する事だと思われます。よって、我々は一刻も早く、西倉 蒼丸の方を捕まえるべきです!」
歩の件が捜査本部が作られるほどに大事になったのには、蒼丸よりも、桜 つぐみの父親の影響が大きかった。
というのも、蒼丸の一件によって、つぐみや陸にもその醜態による流れ弾の被害が出ていた。それによって、プライドを傷つけられたつぐみはそのことを少し誇張して父親に伝えた。つぐみの父親は警察庁の警視総監であった。また、その父親は一人娘のつぐみのことを溺愛していた。だからこそ、そんな愛娘が困っているなんて事を聞いてしまったら、それを引き起こした犯人を探し上げることは、火を見るよりも明らかであった。
その結果が、今の捜査本部ができている状況であった。
「それが事実だという証拠はあるのかね?」
今回の捜査本部の指揮を行なっており、部長である宮本 劉源がそう言った。
「私はダンジョン組合に向かったところ、刻藤 歩の死亡届が確認されました。また、無明ゼロの頭髪等からDNA鑑定を行ったところ、刻藤 歩のDNAと一致しました」
そう言って、拓義はその証拠を提出した。
反論の余地もないほどの証拠は集まっていた多くの刑事をざわつかせていた。
「これより、無明ゼロから、対象を変更。速やかに、西倉 蒼丸 、桜 つぐみ、鬼丙 陸を虚偽告訴罪によって逮捕を行う!!」
そして、その証拠の数々と、非常に悪質な三人の行いは捜査本部の対象を変更させるのには充分な理由だった。
「そして、若林警部補は、一刻も早くダンジョン組合にもその情報の共有を行え!」
「はい!」
「会議はこれで終了だ。すぐに動け!」
そして、そこで会議は終了し、刑事たちはすぐに動いて行った。
それは拓義も例外ではなく、すぐに、車を走らせて、ダンジョン組合へと向かった。
拓義が組合へ到着すると、すぐに受付で警察手帳を見せて、ダンジョンマスターを呼んだ。
「申し訳ございません。マスターはただいま留守にしております」
「いつ戻って来ますか?」
「それが、一週間程度後でございます」
「!! ・・・・じゃあ、副マスターはいらっしゃいますか?」
「了解しました。ただいま、連絡を行うので、しばらくお待ちください」
そして、それから五分程度して、アナウンスで呼ばれ、そのまま拓義は二階の副マスター室へと向かった。
「入ります」
「警察庁の警部補さんがどうしましたか?」
副マスターである麗が丁寧な口調でそう尋ねた。
「黒い仮面を着けた冒険者の件です。あの後、黒い仮面の冒険者である無明ゼロを逮捕しました。その後、無明ゼロは、刻藤歩であることがわかりました。また、調査の結果、刻藤歩には非は無く、罪を犯していたのは西倉蒼丸率いるパーティーであることがわかりました」
「!そうですか」
「そして、刻藤歩本人の証言より、西倉蒼丸たちはダンジョン内で殺人未遂を起こしていた事が発覚しました。その被害者が刻藤歩でした」
そして、拓義はDNA艦隊の証拠なども麗に提出し、事件の全容を伝えた。
「そのため、組合からも、三人に対して処置をお願いしたいのですが」
「・・分かりました。この件については私たち組合も動きます」
「ありがとうございます。お願いします」
拓義はそう言って、麗に頭を下げた。
そして一礼をした後すぐに、副マスター室から退室した。
拓義が出て行った後、少しして、副マスター室の扉が勢いよく開いた。
「先輩、また警察が来てたっスよ」
「ええ、今ここで話を聞いたわ」
「ゼロさんのことっスよね?」
「ええ。容疑は晴れたそうよ」
「それは良かったスね!! やっぱり先輩は間違っていなかったスね」
「ええ。そして、華。この件は私たちも動くわよ。マスターを除いて、組合の幹部をすぐに集めてくれるかしら。詳細はそこで話すわ」
「了解したっス!」
そうして組合も、歩のために動き始めるのだった。
◆
マンションの一室で、西倉蒼丸は荒れていた。
「まだアイツは捕まんねぇのかよ!!」
そう言って、蒼丸は椅子を蹴り飛ばした。
「やめてくださるかしら? 頭に来ているのはあなただけでは無くてよ? 私だってあなたの流れ弾が来て、被害を食らっているのですもの!」
今はSNSなどで情報はすぐに拡散される時代であった。そのため、蒼丸の件は時間が経てば経つほど周りに広がって行った。そして、それだけに留まらず、それはパーティーメンバーであったつぐみや陸にまでも影響が及んでいた。
『ラグナロクも落ちぶれたなww』
『あんなのがリーダーだとか、ほかのメンバーの頭を疑うよな』
などの嘲笑がネットなどでは書かれていた。
「あなたのせいで、私のインスタのフォロワーが一万人も減ったんですのよ?! それに、多くの人に私までも馬鹿にされているんですのよ!!」
そう言ってつぐみは自分のインスタを蒼丸見せていた。
「それは悪かったよ。だが、元はと言えばアイツが悪いんだ! それに、つぐみ。お前の父親にもその事は言ったんだろ?」
「ええ。お父様はすぐに動いてくれましたわ」
「なら、捕まんのも時間の問題だな。早くアイツを捕まえて俺の怖さを思い知らせてやるぜ!!」
「はぁ、あなたの力と言うよりかは私の力ですけれどね」
「細かい事は良いんだよ! 俺はただ、アイツにやり返してやりたいんだよ!」
そう言って、蒼丸はソファにどかっと座った。
その時だった。何も話すこと無く、ずっと二人を見ていた陸の携帯が鳴った。
「少し出てくる」
「ああ」
そう言って、陸は部屋から出て、携帯に出た。五分ほどして通話を終えた陸は部屋に戻って来た。
「すまない、二人とも。急用が入った。俺はここで帰る」
「あー? そうか。じゃあな」
「ああ」
そう言うと、陸はマンションから出て行った。マンションから出ると陸はエレベーターを使うこと無く、能力を発動してから、八階から真下にある一階の駐車場へと飛び降りた。
「もう潮時・・・・、か」
陸はそう呟くと、何事も無かったかのように歩き始めたのだった。そして、その駐車場には、覆面パトカーとしてよく使われるス●ル レガシ●B4が一台停まっていたのだった。
◆
ダンジョン組合 会議室
「どうしたんですか? 副マスター」
会議室に集められた華を含めた五人の幹部が麗に聞いた。
「集まってもらったのは、この前の黒い仮面の冒険者の件よ」
「そいつってもう捕まって、その件は解決したのでは無いんですか?」
「あー、えーっと、そうだ。無明ゼロでしたっけ?」
華を除く幹部たちは口々にそんな事を言っていた。
「ええ、そうよ。けれど、事の本末は私たちが聞いていたものとは全くと言って良いほど違ったわ」
「と言うと?」
「まず、無明 ゼロという人間は、少し前に死亡届が出された刻藤 歩だったわ」
「なんですって?!」
すぐに、その衝撃的な言葉を聞いた幹部たちは騒ぎ始めた。
と言うのも、ダンジョン組合において、死亡届の偽装は重罪であった。そして、偽装を行ったと言う事は即ち、ダンジョン内で殺人が行われたと言う事を意味しているからであった。
そして、幹部たちは冒険者がそんな悍ましい事をしたと言う事を認めたくはなかった。
「間違いは無いんですか?!」
「ええ、DNA鑑定もしたそうよ。これがその結果よ」
そう言うと、麗は拓義から貰った検査結果が書かれた紙を机の上に置いた。
そこには、刻藤 歩と無明 ゼロのDNAが一致している事が書かれていた。
その明らかな証拠は間違いであってくれという幹部たちの願いを跡形もなく壊していった。
「・・・・これは・・!!」
そんなものを見せられては納得するしかなかった。
「という訳で、私たちもすぐにラグナロクのメンバーに対して、処置を行うわよ」
「分かりました」
「ですが、ラグナロクとなると、知名度もそこそこ有りますし、なおかつ期待の若手として注目もされていますが・・・・」
「だからこそでしょう。そんなチームだからこそ、他の冒険者の見本とならなければいけなかったのに、その期待を裏切ったのは彼らよ」
「・・・・、そうですね。では、処分は如何様に?」
「それを考えるために、あなたたちを集めました」
「普通ならば、即刻冒険者免許及び資格を剥奪し組合からも永久追放ですよね。ただ・・・・」
「彼らの活躍はそこそこあり、今一番銀級に近いとまで言われているチームですからねぇー」
「そこなんだよな」
麗を含め、幹部たちはラグナロクに下す処分について悩んでいた。
そして、会議が始まってから一時間後、やっと蒼丸たちに下す処分が決まったのだった。
「一年間の冒険者資格を停止。そして、刻藤 歩への賠償金の支払いでもう異議は無いわね?」
五人の幹部たちに異議を唱えるものはいなかった。
蒼丸たちの処分が通常よりも軽くなったのには様々な理由があった。
特に、ラグナロクの成長が著しく速く、多方面から期待をされていたことや、パーティーメンバー三人共に強力な能力を持っている事が大きく影響していた。
「それじゃあ、すぐにこの事は組合内で情報を共有して。良いわね?」
「はいっ!」
そして、会議は終了し、幹部たちは情報の共有に動いたのだった。
「先輩、マスターにはこの事伝えなくて良いんスか?」
「さっき連絡したわ。そしたら、君の好きなように動いてくれと言われたわ」
「それは良くも悪くもマスターらしいっスね」
「私の仕事ばかりが増えるじゃない」
「それは今に始まった事じゃ無いっスけどね」
「はぁ、全く困ったマスターよね」
「それはそうっスね」
「さ、華。私たちも動くわよ」
「了解っス」
そして、この日、ダンジョン組合ではラグナロクの実質的なラグナロクの謹慎処分の命が伝えられたのだった。蒼丸たちがこの事を知るのはもう少し先の話であった。
◆
場所は戻り、ラグナロクのメンバーが使うマンション。
陸が出て行った数分後に、部屋の呼び鈴が鳴った。
「あ? 誰だ?」
「さぁ? 出てきますわね」
そう言うと、つぐみはドアホンへ向かった。
「はい」
つぐみがドアホンから外を見ると、外にはスーツに身を纏った男性二人が立っていた。
「警視庁 新宿警察署の者ですが」
そう言うと、スーツを着た男性二人は警察手帳をインターホン越しに見せた。
「今行きます」
そう言うと、ドアホンの電源を切った。
「蒼丸、警察の人が来ましたわ」
「やっとか!! 分かった、俺が出る」
そう言うと、蒼丸はソファから飛び起きて、すぐさま玄関へと向かった。
「やっとあの黒仮面野郎が捕まったんですか?」
「はい」
「それじゃあ・・・・」
「その前に、あなたたちにももう一度お話を伺いたいのですがよろしいでしょうか?」
「もう何も話すかなんて無いっすけど」
「とりあえず署までご同行お願いします。それと、桜 つぐみさんと、鬼丙 陸さんもいましたらご同行お願いします」
「・・分かりました。少し待っててください」
蒼丸はそう言うと、一旦ドアを閉めて中に入った。
「警察は何と言っていました?」
「いや、なんかそれがよ。まぁた、署まで来てくれってよ。しかも、今回はお前も来いってよ」
「?? どう言う事でしょう?」
「俺もよくは分からねぇよ」
「まぁ、良いですわ。ここにいても何も変わらないですし、私たちも署まで行きましょうか」
「ああ、そうだな」
そう言うと、二人は上着を着てから、外に出た。
「お待たせしました」
ドアの外では、刑事二人が待っていた。
「それでは行きましょうか」
一人の刑事がそう言うと、四人はエレベーターを使って駐車場まで降りて行った。
「鬼丙 陸さんはいないんですか?」
「さっきまでいたんですけど、ついさっき帰りました」
「そうですか」
車に乗ってから、四人は特に喋る事は無かった。
そして、車に乗ってから、一時間半程度して、新宿警察署に到着したのだった。
警察署に到着すると、二人は別々の取調室へと案内された。
「で、あの黒仮面野郎はどうなったんですか?」
蒼丸が取調室の椅子に座り、敬語を使う事を意識しながら、そう聞いた。
「その前に、一つだけよろしいでしょうか」
「何ですか?」
「今、あなたたちには、虚偽告訴罪の容疑がかけられているんですよ」
「はぁ?! 何で・・・・」
「すみません、何かを言う前にもう一つ聞きたいことがありました」
刑事は蒼丸が容疑のことを聞いて、騒ぎ出すのを遮って、また話した。
「刻藤 歩という名前に心当たりはございませんか?」
「!!!!!! 何でその名前が!!」
「知っていらっしゃるのなら話は早いですね。まぁ、忘れたくても忘れる事は出来ませんよね」
「は? あんた何を言って・・・・」
「だって、あなたたちが殺した相手ですものね」
蒼丸の前に座った警察は和やかに笑ってそう言った。けれど、口は笑っているのに目が全く笑っていなかった。
その笑顔は蒼丸が恐怖を抱くのには十分であった。
「は? そ、そんな事を俺たちがする訳ないでしょう?!」
「私たちもそんな事はあって欲しくは有りませんでしたよ」
「っっ、第一、俺たちがそんな事をした証拠すらも無いくせに、何故、そんな事を言われなきゃならないんだ!」
「まぁ、確かにそうですよね。それに、パーティーメンバーが死亡したら、普通は悲しみに暮れますよね」
「ああ、そうだ。俺たちは歩が死んだ事を悲しんでいたんだ! それなのにそんな事を言われるのは不愉快だ!! それよりも早く、黒仮面野郎について聞かせろよ!」
意識しきれなくなったのか、蒼丸の言葉は少しずつ粗暴になっていった。刑事の言った言葉に同調すると、蒼丸は何とかして、歩の件から話を逸らそうとしていた。
「そうですね・・・・。じゃあ、黒仮面についてお教えましょうか。どうせ時間はたくさんありますしね」
「は? 何を言って・・・・」
刑事は不穏な事を呟いた後、蒼丸の言葉に耳を傾ける事なく話し始めた。
「まず、黒仮面を着けた冒険者の名前は無明 ゼロと判明しました。そして、その冒険者はすでに捕まえました」
「だったら、何で俺たちをその時に呼ばなかったんだ!」
「事情が事情でしてね。無明 ゼロを取り調べしていると、我々は本人の口からとんでもない事を聞かされたんですよ」
「とんでもない事?」
「ええ、それがまたとても信じる事が出来ないような内容でしてね。何せ、無明 ゼロは偽名で、本名は別にあると言い出したんですから」
「じゃあ、そいつは誰なんだよ!」
「それがですね、その名前を信じる事は普通ならば出来ないんですよ。何せ、少し前にその人間は死んでいたんですから」
「どういう事だよ!?」
「? ここまで言っても、分からないんですか?」
「は? 分かるも何も、そんな事で分かるはずが・・・・」
そう言いながら、蒼丸は考えた。
正直なところ、蒼丸は刑事の話す数々の違和感には気づいていた。不自然に、言い出した元パーティーメンバーのこと。そして、自分に恨みがあるようにして自分を襲ってきたやつが、死んだとされている人間と同じ名前であったこと。それは、蒼丸の頭にただ一つの解答を導き出していた。
「・・まさ・・か」
「はい、そのまさかです。無明 ゼロの本名は刻藤 歩でした」
「嘘だ!!!! それは赤の他人が、歩になりすましているだけだろ!! それに俺たちは見たんだ! アイツが俺たちの目の前で死ぬのをな!!」
「ダンジョン組合にもそう答えたそうですね。彼は僕たちを身を挺して守った後、僕たちの目の前で生き絶えた、と」
「ああ、そうだ」
「では、これをどうぞ」
刑事はそういうと、ファイルの中から、一枚の紙を取り出した。そして、その紙を蒼丸に渡した。
「・・・・、!!!!!!」
蒼丸がその紙を受け取って見ると、そこに書かれていたのは、歩とゼロのDNAが一致しているという内容であった。
「ね? あなたたちが殺したと思っていた人物は生きていたんですよ。そして、あなたは彼に襲われたんですよ」
「そ・・んな、馬鹿な・・・・」
蒼丸の顔はみるみるうちに青ざめていった。
「これで言い逃れは出来ませんね? それじゃあ、あなたの口から、あの日何があったのかをもう一度教えてもらいましょうか」
刑事は目が笑っていない笑顔のまま、蒼丸にそう聞いたのだった。
(「歩が?! あのグズが生きてた? どう言うことだ? アイツがあそこで生きられるはずがない! 何故? 何故? 何故?!」)
蒼丸は一瞬のうちにさまざまなことを頭に思い浮かべた。けれど、どんなことを思い浮かべようと、歩が生きていて、歩が生きている以上、自分は殺人未遂を犯した人物になっている事は変わりようが無かった。
「ちが、違うんだ!」
「何が違うと言うのかな?」
「あれは・・、その・・・・、だから」
蒼丸は必死に否定をしようとしていた。けれど、明らかな証拠を目の前にして、否定する言葉が浮かんでこないでいた。
「否定する余地も無い。君は、刻藤 歩を殺そうとした。そうだね?」
「その、あの・・・・」
蒼丸は、いつもの蒼丸から想像もつかないほどに弱々しい声だった。
その時だった。取調室の扉が勢いよく開いた。
「何事だ!」
蒼丸の目の前に座っていた刑事が驚いた様子で後ろを振り返った。
「先輩、それが・・」
「何だ、はっきり言え!」
「それが、今すぐに取り調べを止めろとの事です!!」
「はぁ?! 一体どう言うことだ!」
「僕にもよく分かりませんよ! ただ、捜査本部が今回の事件はもう終わりだと・・」
「何をしているんだ、捜査本部は!!」
「分かりません!」
さっきまでとは打って変わって刑事が声を荒げてそう言った。
「少し待っててください」
刑事は蒼丸の方を振り返って、そう言った後、急いで取調室を出ていった。
「お前は、見張ってろよ!」
「はい!」
そして、取調室には掲示を呼びに来た後輩と、西倉 蒼丸だけが取り残されていた。
(「ひょっとして、つぐみか?」)
蒼丸は今のこの状況はつぐみが父親に連絡した結果だと予測していた。
そして、その予想は当たっていたのだった。
蒼丸と一緒に警察署に連行され、取り調べを受けていたつぐみは、理由をつけて、取調室から一旦退出すると、警視総監である父、桜 夜竹に電話をしていたのだった。
夜竹の行動は早かった。愛娘が罪に問われそうになっているのならば、全力でそれを握り潰そうとするのは当然であった。
そして、警察は一枚岩ではない。そのことも相まって、今回の事件を無かったことにするのは比較的容易であった。
◆
「何で、今回の事件が打ち切りなんだ!!」
さっきまで、蒼丸の取り調べをおこなっていた刑事である滝朝 新は捜査本部へと直談判を行なっていた。この新も歩の母親である恵子に恩がある人物であった。
普段は温厚で、声を荒げることなんて滅多にない新が声を荒げていた。
「すまない、新。俺の力じゃ足りなかった」
この捜査本部を支持していた宮本 劉源はそう言って新に謝った。
二人は昔バディであり、新は劉源の後輩であった。だからこそ、そんな先輩が自分に謝っているこの状況で新はさらに文句を言えるはずが無かった。
「警視総監ですか・・・・!」
「ああ。そして、私も警視総監のところへ行ったが、あの人は聞く耳を持たなかった。さらに、もう私はこの役職を降ろされるだろう」
「何でですか!」
「警視総監に反抗したからだよ。本当にすまない、新。お前が刻藤 恵子に恩があり、今回の件を必死に動いていたのは知っている。だが、それでも、今回は諦めてくれ・・・・!」
劉源は言葉を絞り出していった。新は先輩が自分に頭を下げている姿を見ても抗議を続けられるほどの精神は持っていなかった。
新も引き下がることしかできなかった。そして、今回の事件は警察内に大きな亀裂を残して、打ち切りになったのだった。
◆
それから三十分ほどして、蒼丸とつぐみは警察署の外へと出た。
「今回はお手数おかけしてすみませんでした」
警視総監の派閥についている警察が二人へそう言って頭を下げた。
「いえ、全て勘違いだったということを気付けてもらえて嬉しかったですよ」
「それでは私たちは行きますわ」
「はい、お気をつけて」
二人は警察に家まで送るという提案を断って、歩き始めた。
「・・・・、危なかったなぁ!!」
「ええ、本当ですわ。私に感謝してほしいですわね」
「ああ、それに関しては本当に助かったよ」
警察署から大分離れてから二人はそう言った。
「だが、それにしても、あのグズがまだ生きているだと・・?! ほんっとうに俺たちの邪魔しかしないクソがよ!!」
「本当ですわ。私たちに何回迷惑をかけたら気が済むのでしょうか」
「チッ、イライラするぜ。なおさら早く、アイツを見つけ出せねぇとな! そして今度こそ、アイツを殺して、本当に勘違いだったってことにしねぇとなぁ」
「ええ、陸にもこのことは伝えてなきゃですわね」
「ああ。しっかし、これからどうするかな」
「ダンジョン組合で、金に困っている冒険者たちを雇えばいいのでは?」
「なるほどな! その手があったか。金さえ払えば事情を気にせず動くしな。さらに、人手は多い方が良いしな」
「ええ、そうですわ」
「よし、そうと決まればダンジョン組合に行くぞ!」
そうして、二人はダンジョン組合へと歩いていくのだった。
二人はまだ知らない。ダンジョン組合にも蒼丸たちが犯した事件は既に広まっており、自分たちは自ら地獄へ飛び込もうとしていることに。
この二人だけが気づいていなかった。
すみません、更新遅くなりました。次は多分水曜日に行います。
蒼丸視点というよりかは、警察視点の方が多かったです。蒼丸視点になるのは次の幕間の時ですね。
次回は本編に戻ります。
余談ですが、幕間の蒼丸視点の話と本編はいずれ交わるはず、なので、ご期待ください。
面白かったら高評価お願い致します。感想やコメントなどもお待ちしてますのでよろしくお願いします!




