五十一話 犯罪者
「・・・・・・と言うことなんですが・・」
「・・・・、それは大変だったわね。それに、ボスモンスターや階層全体のエラー現象はとても面白・・・・、ゴホン。とても異常ね」
「っスね。ダンジョンが地球上に出てからそんな現象は一度も報告されて無いっスからね」
僕の話を聞き終えた二人は神妙な顔つきでそう言った。麗さんが何か言いかけたけど、僕は気にしないことにした。
「これは一度、しっかりと組合本部でも話すべきね。ところで、君が今持っているものがそのエラーを起こしたモンスターの魔石かな?」
「多分、そうです。正直なところは魔石と言っていいのかよくわかりませんけど」
「そうね・・・・。とりあえずそれは君が持ってて。また、本部で話し合いが開かれたときに君たちも呼ばれるからその時に一緒にそれを持ってきてくれる?」
「分かりました」
そうこうしているうちに救急車が到着したと組合員が叫んだ。
「救急車が来たので僕は二人と一緒に行きますね」
そう言って、僕はオーガの仮面を着けた。
「! ・・・・、そうね。私たちはまだこの場を離れることが出来ないから頼むわね」
「はい」
救急隊員が担架を持って、いつの間にか立ち入り禁止のテープの外に集まっていた野次馬をかき分けて、走って来ていた。僕はレナとノアの様子を救急隊員に伝えると、二人と一緒に救急車へと乗り込んだ。
そして、僕たちを乗せた救急車は甲高いサイレンを鳴らしながら、急いで病院へと向かって行ったのだった。
「先輩、あの仮面って」
「この前、組合に来ていた警察が捜索中と言っていたわね」
「無明さんは何かやらかしたんスかね」
「そうかもしれないわね。でも、彼は理由も無しに法に触れるような事をする子では無いと思うけれどね」
「先輩がそう言うなら信憑性は高いっスねー。先輩の人を見る目は異常に良いっスから」
「そうだと良いわね。さっ、私たちも早く後処理をしましょうか」
「はいっス!!」
そうして、二人は崩壊の後処理を始めたのだった。
◆
宮家中央病院
レナたちを乗せた救急車は日本でも最先端、最高級の治療を受けることができる宮家中央病院へと向かっていた。
宮家中央病院は、名前にある通り、宮家財閥が設立した病院であり、世界的に見ても、トップクラスの治療を受けることができる場所であった。過去の実績としては、胴体が分裂した冒険者を後遺症無しに治すなどの輝かしいものがある。
しかし、高度な医療に比例するように、治療費も高く、大きな手術などを受けると、下手すると何千万というレベルのお金がかかるのであった。
病院についてからは迅速だった。救急車から出されたレナとノアはそのまま病院内に運ばれた。レナはすぐに点滴と輸血を行われると、部屋に運ばれた。
しかし、ノアはそんな簡単にはいかなかった。見た目よりもノアはずっとボロボロだったらしい。救急車内での隊員によると、頭を強打しているのと、背骨の損傷があり、なんらかの後遺症が残る可能性があるとの事だった。
ノアは目を覚さないまま、緊急手術を行われることになった。僕は隊員から引き継いでノアを運んでいた医師に頭を下げて、ノアのことを頼んだ。
「ノアを、仲間をよろしくお願いします!」
そして、手術室へとつながる自動ドアが閉まり、赤いランプが灯ったのだった。
◆
それから三時間して、手術室の赤いランプが消えた。すぐに、自動ドアが開いて、中から医師が歩いて来た。
「ノアは!!」
「ひとまず、身体の怪我自体は全て治しました。麻酔が切れれば時期に目を覚まします。ただ・・・・」
「ただ?」
「ただ、頭を強く打ち付けたことで、何かしらの記憶障害などが生まれる可能性は十分に有ります。もしくは、能力に何かしらの影響が出るかもしれません」
「!! そうですか・・・・。それでも、ノアを救ってくれて本当にありがとうございました!!」
僕はそう言って、また頭を下げた。
「いえ、これが仕事ですので」
そう言って、その医師は通り過ぎて行った。その後ろ姿は何故か、ノアにひどく似ていたのだった。
それから、しばらくして、ノアはレナの病室の隣に運ばれた。
しばらく、レナの病室にいると、レナの目がうっすらと開いた。
「ここは・・・・・・、、」
「レナ!!」
「あー、歩君。そっか、アイツを倒したんだね」
レナが目だけを動かして、そう言った。仮面を外した僕の顔を見て、レナは安心したような表情を浮かべていた。
「うん。倒したよ、レナ」
「そっか、そっか。あれ? ノア君は?」
「・・・・ノアはまだ、目を覚まして無いよ。正直な話、レナよりも深刻な状態だよ」
「・・・・、そっか」
「ごめん、僕がもっと強ければ・・!」
「ごめん、なんて言っちゃダメだよ、歩君。むしろ、君がアイツを倒してくれなかったら、間違いなく、みんな死んでたんだから。だから、もっと胸を張らないと」
「でも、ノアは僕を守って・・・・!」
「それでも、だよ」
ノアが身体をゆっくりと起こして、壁にもたりかかりながら、そう言った。
「ノア君に感謝するのは良いけど、傷を負ったことを気に負うのはダメだよ。ノア君は、歩君を信じて、歩君を守ったんでしょ? そして、君はその期待をちゃんと果たした。そこになんでノア君の怪我を気に負う理由があるの? 気に負うのは、仲間からの信頼とか、期待とか、そういったものを裏切った時だよ。
だから、ノア君の信頼に応えた歩君は胸を張らなきゃ。そうしないと、ノア君にも失礼だしね」
「・・・・グスッ・・、うん・・・・、そうだね」
僕の目から涙が溢れた。
「泣かないでよー、歩君」
レナがそう言って、僕の頭を撫でてくれた。
「うん、もう大丈夫」
僕は顔を腕で涙を拭いた。頭を撫でられたのは少し恥ずかしかった。
「そう言えば、レナ。 僕に謝らなきゃ・・・・って、言ってなかった?」
「・・・・・・、うん。そうだね・・・・」
「でも、レナは僕を救ってくれた以外に何もしてないよ? ましてや、僕に悪いことなんて一度もしていないでしょ?」
「違うんだよ・・・・、歩君・・・・、私は・・・・」
レナが何かを言おうとした瞬間、ドアをノックする音が聞こえた。
「? ちょっと待っててレナ。ちょっと見てくる」
僕はそう言って、近くのテーブルに置いていた仮面を着けて、ドアを開けた。
そこには、茶色のスーツを来た大柄の男性と、灰色のスーツを来た小柄な女性が立っていた。
「?? どちら様ですか?」
「私たちは、こういうものです」
そう言って、僕の前に立っている二人が見せたのは警察手帳だった。
「少しお時間よろしいでしょうか」
「いえ、レナは今、目が覚めたばかりなので、また後日にして・・・・」
「いえ、お話があるのは貴方です」
「はい?? 僕・・、ですか?」
「はい」
「はぁ・・・・、でも、僕は何もしていませんけど・・??」
「何もしてないですって?! 理不尽な暴行を働いた癖によくそんなことが言えますね!!」
急に、僕の態度にイラついたのか、男性の隣にいた小柄な女性がそう言った。
「やめろ、ここは病院だ」
男性にそう咎められて、女性は口を閉じた。けれど、目は僕を睨んでいた。
「????」
僕はさらに訳が分からなくなった。理不尽な暴力なんて振るっていないし、ましてや罪になるようなことをした覚えも無かった。だから僕には怒鳴られる理由なんてものは無かった。
「部下が失礼しました。それでは、任意同行をお願い致します」
「・・・・分かりました」
「ご協力感謝します」
「なんで、歩君が捕まるんですか?!」
一部始終を見ていたレナが慌てた様子で警察に言った。
「いえ、始動 レナ さんには関係がないことなので、お答えできません」
「関係あるでしょ! パーティーメンバーなんだから!」
まだ本調子でないレナが、警察に食い下がった。
「いえ、それでも、お答えできません。私たちはもう行かなくてはならないので」
そう言って、男性は病室の扉を閉めて、僕を連れて行った。
そして、外に停まっていたパトカーに僕は乗らされたのだった。
パトカーに乗るまでに、病院の人など、多くの人に見られるのは割と心にくるものがあった。
◆
警視庁 新宿警察署
僕はパトカーを降りると、ビルのような場所へと入った。
そこは昔、母さんが働いていた場所だった。小さい時に何度も行ったから、この外装は未だに覚えていた。
そして、中に入ると、そのまま取調室へと向かわされた。
取調室は、中心に机を挟んで、椅子が二つ置かれていた。窓は無く、殺伐とした雰囲気が漂っていた。
———何をしでかしたんだ? 歩
(「何もしてませんよ! 心当たりも無いですよ!! というかはレティアも知ってますよね? 僕は何もしていないって事を」)
———まぁ、確かにそうだな。だが、捕まった以上はどうにかして切り抜けるしか無い。頑張れ、歩。
(「はぁー・・・・、気が進まない・・」)
僕は取調室の入り口から離れた方の椅子に座らせられ、僕の正面の椅子には先ほどの男性が座った。部屋の隅には、話しを纏める目的で、先ほどの女性とは違う女性がパソコンを机に置いて椅子に座っていた。
「それでは取り調べを始めます」
「貴方は、2022年 六月 九日 午後 八時頃、住宅街で、暴行を働きましたね?」
「暴行?・・・・・・ !!」
やっと僕は理解した。これは、蒼丸が仕組んだことだったのだ。これは想像だけれど、多分蒼丸はレナによって醜態を世間に晒したあと、僕、もとい黒い仮面をつけた白級冒険者を血眼になって探した。
けれど見つからず、蒼丸は警察に自分自身は被害者として警察に相談しに行った。その結果が、今のこの現状に繋がっている。
僕は気付かぬうちに心の底からどうしようもないほどに殺意が膨れ上がって来ていた。
その僕の雰囲気に気付いたのか、男性は少し身構えていた。
部屋に僕の無言の殺意が充満して行った。
「殺気を抑えて貰えますか?」
男性は殺意を受けて身構えてはいたが、どこまでも丁寧な口調でそう言った。
「!! すいません」
その男性にそう言われて気づいた僕は慌てて殺気を抑えた。
「では引き続き、貴方は暴行を加えましたか?」
「・・・・、はい」
「では・・・・、」
「一つ良いですか?」
僕は男性が話すのを遮ってそう言った
「どうぞ」
「僕の情報を今どこまで知っていますか?」
「貴方の名前が無明 ゼロであり、その名前の戸籍は存在していないというところですね」
「・・・・、そうですか」
そう言って、僕は取調室に着いても外さなかった、オーガの黒い仮面を外して、机の上に置いた。
「どうしたんですか?」
「この仮面はある事件が起こってから、着けるようになったものです」
「??」
男性は何を言っているのかよく分からないという風な表情をしていた。それでも、僕は話しを続けた。
「そして、その事件は無明 ゼロという人間が生まれた要因でも有ります。あの日に何があったのかを話します」
僕は決心したように強く男性の目を見た。
その真剣さに感化されたのか男性は一度頷くと何も喋らずに僕の言葉を聞いた。
「僕の本当の名前は無明 ゼロでは有りません。本名は刻藤 歩です」
「!!!!」
その男性は一瞬ひどく驚いたような表情を浮かべた。けれど、口を開くことは無かった。
「僕はダンジョン内でパーティーメンバーだった西倉 蒼丸たちに殺されかけました。それでも僕は何とか生き延びました。けれど、もう刻藤 歩はそこで書類上死にました。だから、僕は偽名を使っていました」
そして、それから僕はその後にレナと会ったこと、蒼丸とも出会ってしまった事を全て供述した。
僕が話し終わると、狭い部屋には深い沈黙が漂った。部屋には、女性がパソコンに文字を打ち込むパチパチという音のみが響いていた。
「その事を証明できる証拠か何かを持っていますか?」
「それは、僕自身が証拠になると思います。多分、組合に僕の死亡届が出されていると思います。それに書かれた状況と今の僕の状況を照らし合わせれば証拠になると思います」
「分かりました。では、これで、この暴行事件に関しては終わりです」
「え? もう良いんですか?」
取り調べが案外早く終わったことに僕は少し呆気に取られていた。
「はい。それとは別件でもう一つだけ良いですか?」
「何ですか?」
「刻藤 歩さん、貴方の母親の名前は刻藤 恵子さんでは無いですか?」
「え? あっ、はい。そうですけど・・・・」
「やっぱりそうでしたか・・・・。刻藤 歩さん、本当に申し訳ございませんでした!」
そう言うと、男性は僕へ向かって頭を下げた。これには、パソコンに文字を打っていた女性も驚いている様子だった。
「な、何をしてるんですか?!」
「私は、六年前、刻藤 恵子さんに命を救ってもらいました。けれど、恵子さんは私を庇って怪我をして、その怪我から病気になったと伺いました。恵子さんを殺してしまったのは紛れもない自分なんです」
男性は昔の事を思い出したのか辛そうに、泣きそうな声でそう言った。
五年越しに、母さんが死んだ本当の理由を僕は初めて知ったのだった。
けれど、この人に憎悪が湧いてくる事は無かった。誰かを助けて病気になって死んでしまった母さんは、良くも悪くも母さんらしいと思えたからだった。母さんは生前いつも、人が笑って過ごせる社会を守りたいと言っていた。だから、身を挺して誰かを守る母さんは母さんらしかった。
「顔を上げてください。母さんも僕も姉さんも誰も恨んでなんかいませんよ。母さんはいつも、誰かを助けられればそれで良いって感じでしたし。だから、気に負わないでください。きっと母さんも、貴方が笑って過ごしてくれる事を祈っていると思いますし」
「本当に、申し訳ございませんでした・・・・」
もう一度、そう言ってから、男性は頭を上げた。
「私の名前をまだ伝えていませんでした。私の名前は 若林 拓義です」
そう言って、拓義さんはハンカチを取り出して目元を拭いた。
「すみません、遅くなってしまいました。今日はこれで帰宅されて大丈夫です。病院までお送りしましょうか?」
「じゃあ、お願いしても良いですか?」
「分かりました。少しだけ待っていてください」
そうして、僕の取り調べは終わったのだった。
僕が警察署の外に出ると、もう外は夏だと言うのに真っ暗だった。
それから五分ほどして、拓義さんは警察署の前には一台の車が停まっていた。それは真っ白なボディをしたト●タ「マーク●+Mスーパーチャ●ジャー」であった。
運転席には拓義さんが座っていた。
そして、僕は真っ白い車の助手席へと乗り込んだのだった。
「取り調べってまた明日も続くんですか?」
僕はふと疑問に思った事を運転していた拓義さんに聞いた。
「いえ、もう取り調べ自体は無いと思います。ただ、事実確認などの細かい事が明日以降にあると思います」
「そうですか・・・・」
「歩さんが罪を課されることはほぼ無いと思うので大丈夫ですよ。むしろ、虚偽を行った西倉 蒼丸の方が罪に問われると思いますよ。警察なのであまり、こう言うのは言ってはいけないんですが、もし、歩さんが罪に問われるようなことになっても、私が全力で止めますよ」
赤信号で止まると、拓義さんはそう言って笑った。
「ありがとうございます」
「何があったとしても、恵子さんよ息子である歩さんを信じていますよ」
「・・はい、ありがとうございます」
僕は、この車の窓から見える輝く外の街の光を見たのだった。
◆
しばらくして、宮家病院へと到着した。
「ここまで、ありがとうございました」
僕は助手席から降りると同じように車から降りた拓義さんにお礼をした。
「いえ、こちらこそご協力ありがとうございました」
そうして、僕は病院へと入って行った。その後ろ姿を拓義さんは見守るように見ていたのだった。
———君の母親は警察官だったんだな。
病院のエレベーターが来るのを待っていると、レナが話しかけてきた。
(「はい。まぁ、まさか取り調べを行う人が母さんと面識があったのは驚きですけどね」)
———何はともあれ、何事もなく終わって良かったな。それに、君は警察を味方につけたしな。
(「確かに、警察にコネを作れたのは良かったですね」)
———ああ、それに、あの若林っていうやつは中々に良い人そうだったしな
(「それは確かにそうですね。容疑がかかっている時も含めて終始、僕に対して敬語でしたしね」)
———ああ。いや、本当に君が捕まることにならなくて良かったな。
(「はい。それに、図らずも蒼丸の名誉を傷つける感じに出来ましたしね」)
———そうだな。これも一種の復讐だな。
(「はい」)
エレベーターが来ると、レナたちの病室がある五階へと向かった。そして僕はすぐに、レナたちの病室へと向かった。レナの病室のドアを叩いたけれど、返事は無かった。そして、その中にも、レナの姿は無かった。
「レナは?」
そう言った瞬間、隣のノアの病室のドアが開いた。ドアを開けたのはレナだった。
「レナ!! もう歩いて大丈夫なの?」
「歩君!! 警察に非道いこととかされていない? 大丈夫だった?」
「僕は大丈夫だよ」
「そう? なら良かった。ちなみに私ももう大丈夫。流石に運動とかはまだ無理だけど、歩くとかは大丈夫だよ」
「ノアは?」
「まだ、目を覚まして無いよ。麻酔自体はもう切れてるらしいんだけどね」
レナと話しながら、僕はノアの病室へと入って行った。ノアは口に酸素マスクをつけたまま、眠っていた。
その時だった。
「うっ・・・・・・・・」
突然ノアの瞼が動き、ゆっくりと目を開けたのだった。
更新遅くなりました。次回は金曜日までに行います。
次かその次くらいで、蒼丸視点のサイドストーリーを書きますのでお楽しみに。
面白かったら高評価お願い致します。感想やコメントなどもお待ちしてますのでよろしくお願いします!




