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四十九話 僕はそれでも、

笑ったアイツは僕たちに苛立ちや、憎悪を募らせるのでは無く、どこまでも深い恐怖を僕たちに植え付けたのだった。

しかしそれでも、まぐれだったとしても、アイツを一度でも倒すことが出来たと言うことは僕に勇気を与えた。


「ッッ、、、上等だよ!! もう一度殺してやる!」


僕はレナとノアを守る為に、走り出した。


「柳生新陰流 複式 虚爪」


さっきと同じようにして、僕は斬りかかった。

しかし、アイツは身体を貫通させずに刀でその攻撃を受け止めた。流石に刀ごと切り裂くほどの威力は僕には出せなかった。それでも、アイツが防御を選ぶほどの攻撃を僕は出すことができていた。

しかし、いくら攻撃力の高い攻撃を出せるからと言っても、僕が反応できない速度で動かれたら意味がない。

だから、僕はアイツがその速さで動けないように、手数で追い詰めていく。

息つく暇も無く、斬撃を繰り出し続ける。

アイツがなんなのかは分からない。だけど、今さっき刀を握ったようなやつに僕が剣術で負けることはあり得なかった。

そして、打ち合いを続けた末に、僅かばかり姿勢を崩させた。その一瞬を僕は見逃さなかった。

渾身の一撃を放つように全力で鬼月を振り下ろした。

鬼月とアイツの持つ刀が甲高く響き合う。


「まだだぁぁ!!!! 封印解除!!」


僕は、鬼月の上に固定していた虚空の封印を解いた。封印から解かれた虚空はそのままアイツの刀を押し込み続けた。そして、僕は胴体めがけて、斬撃を放った。


「柳生新陰流 五式 虎爪!!!!」


ガラ空きになったアイツの胴体へと連撃を放つ。液体になろうと硬くなろうと、至近距離からの虎爪は防ぎきれない。

これで、今度こそ終わりにしてやる・・・・!!


———ドスッッッ!!!!!!


突如としてそんな音がした。ノアからでも、レナからでも無い。そして、アイツからでも無い。それは、僕から発せられた音だった。正確には、アイツが僕の腹を貫いた音だった。


「———は?」


ドス黒い色をした刀のようなものが、僕の腹へと伸びていた。

けれど、アイツの手にはまだ刀が握られている。握るどころか、未だ虚空を受け止めていた。それなのに、僕の腹は貫かれていた。

僕の腹を貫いた刀はアイツの胴体から出ていた。僕の血が刀を伝って、アイツまで届いていく。


「歩!!!!」


刀を胴体に納めるようにして、アイツは僕の腹からそれを引き抜いた。どうしようもないほどに腹が熱い。


「ゴボッ・・・・」


腹と同時に口からも少なくない量の血を吐き出した。腹を押さえながら、地面に膝から落ちた。

そして、アイツは虚空を受け止めきって消すと、僕の顔面を思い切りぶん殴った。


「ガァッッ・・・・、!!!!!!」


鬼月は落ちて、地面を跳ねるようにしてノアのいる所まで吹き飛んだ。

口からは血が漏れ出て、刺された場所は押さえても押さえても血が溢れて止まらない。すぐに、その場に血が広がっていく。身体に力が入らない。その上、目も霞み始めていた。

僕は失念していた。アイツが、武器を自分の身体で作っていたことを。武器を身体で使っている以上、どの部位からも武器を出せると言う可能性を見落としていたのだった。

霞んだ目で、ぼんやりと見ると、アイツは少しずつ僕たちの方へと近づいて来ていた。

ノアは近づくのを防ぐように煙玉を投げようとした。しかし、ノアが投げる前に、一瞬で僕たちの前へと移動した。そして、煙玉を持ったノアの腕を掴むと、ノアの腕をただ握りつぶした。


「ぐあああぁぁぁぁぁ!!!!!!」


不快な鈍い音と共に、ノアの腕が変形した。


「や・・・・めろ・・!!」


アイツを止めようとしても身体に力が入らない。僕はただアイツに腕を伸ばす事しか出来ずにいた。

そして、アイツは腕を押さえているノアの首を片手で掴んだ。そのまま首を絞めながら、上に持ち上げた。


「ぁッッッッツ・・、、カハッッ・・・・」


アイツの腕にノアは片手で抵抗し続けた。しかし、腕を掴んでも、引っ掻いても、アイツがノアの首を絞める手を緩めることはなかった。

アイツはノアの首を絞めたまま地面へ叩きつけた。


「ガハぁッッッッツ!!!!」


叩きつけられたノアは血を吐き出した。頭からは血が流れ出ていた。アイツに抵抗していたノアの手がアイツの腕から滑り落ちた。


「あぁっ・・・・、、ああああああ!!!!」


僕の声にならない叫びが響いた。

また、僕は何も守れない。何一つとして、僕は守れない。力が弱い弱者は自分自身を、ましてや周りも何もかもを守ることなんて出来ない。

力さえあれば、力さえ、力さえ・・・・!! アイツをこの手で殺せるだけの力が有れば・・・・・・!


けれど、その思いに反するように、僕の瞼は重くなっていく。少しずつ、視界が狭まっていく。身体の温もりが失われて身体がとてつもなく冷えていく感覚が僕を襲っていく。


「やめ・・・・ろ、や・・めろよ・・!!!!」


そして、瞳にアイツがレナへと歩き始めている光景を焼き付けて、僕の瞼は閉じきったのだった。




「まぁた手酷くやられたなぁ」


僕の耳にそんな声が届いた。瞼は既に閉じ切り、意識は消えているはずの僕に。

僕はうっすらと目を開けた。僕の前には顔だけが見えない誰かが僕の顔を覗き込むようにしてしゃがんでいた。辺りにはアイツもレナもノアもいない。ただ一人顔の見えない誰かしかいない。それだけじゃなく、ここはさっきまでの白い空間ではなく、また別のどこかだった。

いろんなことが頭に浮かんできた僕はすぐさま、飛び起きて、目の前の誰かに話しかけようとした。

何故か、さっきまで全く動かなかった身体がよく動いた。


「・・・・??」


しかし動く体とは裏腹に、僕の声が出ることは無かった。何か喉に詰まっているわけではないのに、ただ声を出すことが出来なかった。


「ハハ、無理無理。今のお前さんじゃ話せねぇよ。今のこの現状は正規じゃないからなぁ」


「!!?!!??」


「ハハ、そんな慌てんなよ。言いたいことは分かる。今、お前さんに話してる俺は誰だ? とか、ここはどこだ? とか他の奴らは? ってことだろ?」


僕は声が出せないから、代わりに首を縦に振った。


「まず、ここはお前さんが戦っていた場所とは次元が違う場所だ」


「??」


「何を言ってんだ? って顔だな。まぁ、無理もねぇか。そうだな、イメージで言うと、ここは時間の狭間みてぇなもんだ。こことお前さんが戦っていた場所とは全てが隔離されてる。要するに、時が止まってんだよ、ここは。ああ、それとお前さんの身体が動くのはそれはお前さんの身体じゃあないからだ。いや、まぁ本体ではあるけど、なんつっーの? 今のお前さんは幽体離脱しているみてぇなもんだ。」


「!!」


「そんな焦んなくて良い。幽体離脱みたいって言っても、お前さんが死んだわけじゃぁ無い。だから、心配すんな」


「・・・・?」


「俺のことは・・・・そうだなぁ、こくて・・、いやハオさんとでも呼んでくれ。ただ、俺に関することについてはノーコメントだ。それについてはお前さんには話せねぇ。

ただ、一つだけ。お前さんは知らないかもしれないが、俺はずっとお前さんを見て来きた。それこそ、お前さんが生まれる時からな。さてと! これ以上はダメだ」


「・・・・?」


「それはそうと、お前さんに聞きたい、いや問いたいことがある」


「?」


「お前さんは何のために戦う?」


「??」


「じゃあ言い方を変えよう。お前さんはどうして冒険者をやっている?」


「・・」


「ちょっと待てよ。あくまで、その理由ってのはお前さんの理由だ。だから、レティアを助けるため、なんてことは言うことは言うなよ?」


「・・・・・・・・」


僕は少し考えた。

ハオさんの言っている意味は分かっている。けれど、僕にその明確な答えは持ち合わせていなかった。元々、僕が冒険者を始めたのは蒼丸たちに誘われたからだった。

それから、ただみんなの役に立とうと努力して、でも報われなくて、レティアに会って、レナたちに出会って、そして、今僕はここにいる。

僕は何のために危険な冒険者をしているんだろう。

お金のためなんかじゃない。名誉のためなんかでも無い。

でも、心の底で、僕はその答えを既に見つけている。前に、レティアと話した時に僕は、本心を自覚した。その時に、この答えになるものを僕は見つけていたような気がする。

だから、僕はハオさんに自信を持って答えた。


「・・・・・・!」


「そうか、それがお前さんの本質か。それに、それはひどく傲慢なことだな。だが、実にお前さんらしいよ。・・・・、フフ、ハッハハ!! ああ、実にお前さんらしいな」


ハオさんは僕の答えを聞いて大声で笑った。そして、その声は僕を褒めるような讃えるような、そんな感じがした。


「歩、お前さんはさっき、力が欲しいと言ったな」


「!!・・・・」


「力は、人を変える。行き過ぎた力は、やがてその身を滅ぼす。力を誤って使えば、力そのものに呑み込まれるそれでもなお、お前さんはは力を求めるのか?」


僕はゆっくりと力強く頷いた。


「ならば与えよう(解除しよう)。俺の力の一部を。お前さんが、この力に溺れないことを切に願うよ」


僕はもう一度強く頷いた。


「それと、あの、ノアとかいう子に感謝するんだな。お前さんが意識を失う前に、あの子が君を回復してくれていた。お前さんの命を繋ぎ止めているのは俺じゃ無い。あの子だからな」


さっきから感じていた身体に温もりが戻って来ていた感覚があった。僕はずっと、ハオさんがやっていることだと思っていたが、それはノアの能力だった。

早く、戻らないと・・・・!!


「じゃあな、歩。今度は正規のルートで俺に会いに来いよ。最後に、忠告だ。運命の歯車はもう引き返すことが出来ないほどに回っている。そのことを忘れるな」


僕はハオさんに背を向けて光が強い方へと走り出した。その僕の後ろ姿をハオさんはずっと見続けていた。そして、すぐに、僕の身体が光に包まれ、この世界から消えたのだった。


「・・・・、『一人は寂しいよ。僕から、誰かが離れていくのはもう嫌だ。僕の自己満足でしかないけれど、それでも、夢を見るのは悪いことじゃないでしょ? だから、レナも、ノアも、蒼丸でさえも、皆んなを守るために僕は戦う! 仲間を失わないようにするために!』 ねぇー、お前にそっくりだなぁ。なぁ、そうだろう? ()()


一人になった世界でハオさんはそう呟くのだった。



僕はうっすらと目を開けた。そこは、真っ白い空間で、血だらけのノアと、眠っているレナ、そして、そんなレナへと歩いているアイツの姿があった。

僕は腕に力を入れた。さっきまで、指一本も動かせない状態なのに何故か動かせた。そして、そのまま、僕は立ち上がった。


「ゲホッ・・・・、歩。大丈夫・・・・か・・?」


ノアがさっきまで意識も無かったのに、血だらけのまま、自分の回復をする事なく、僕の怪我をずっと回復していた。僕の傷は明らかに致命傷だった。ノアは、使える限度を超えて、僕を回復していたのだった。能力には明らかな限度があり、それを超えると、自分になんらかの後遺症などが残ってしまうことがあった。それでも、ノアはそのリスクを背負ってまで、僕を回復した。

僕は何で自分を優先しないんだよ、何て野暮なことは聞かなかった。


「うん、ありがとう。ノア」


「これ・・が、仕事・・・・だからな・・。・・絶対に勝てよ」


「約束するよ、ノア」


「・・・・」


ノアはその言葉を聞くと、少し笑った。そして、ノアは完全に気を失った。ノアは、すぐに命に影響するような怪我では無かったけれど、頭を強打し、能力の制限の超過はノアに深刻なダメージを与えていた。

つまりレナもノアも、治療が遅くなれば、死に繋がると言うことだった。


「あぁ、ノア。絶対に勝つよ」


ピクっと反応して、僕に背を向けていたアイツが僕へと振り返った。

僕は地面に落ちた鬼月を拾って、アイツヘと構えた。


「今度こそ、お前を殺す。お前は僕たちの道から消えろ!」


鬼月を両手で持った僕の瞳は燃えるように真っ赤な色に染まっていたのだった。


アイツと、僕との最後の戦いが幕を開けるのだった。


次回は今週中に更新します。


面白かったら高評価お願いいたします。感想やコメントなどもお待ちしてますのでよろしくお願いします!

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