四十六話 最後の休息
「ねぇ、レナ。僕防寒用の服とか持って来てないんだけど・・・・、まずい?」
「いや、全然。それに関しては、ノア君が対処してくれるから」
レナはそう言って、ノアの方を見た。ノアは歩きながら、異空鞄の中に手を入れてゴソゴソとすると、一本の液体と錠剤のようなものを取り出した。
「これがあるから」
「え? なにそれ?」
「これは耐寒用の薬だよ。まぁ、これ作ったの僕だから知らなくて当然だけど。名付けて、耐寒・ノアスペシャル!!」
耐寒・ノアスペシャル
ノアが独自に作った薬。市販にも耐寒用の薬などは売っているが、効き目が高くないことからあまり買われていない。ノアはそれを独自に改良、進化させて、自分専用に改造していた。しかも、作る際低コストで作ることが出来るため、コスパも良かった。効果は、服用してから一時間、マイナス三十度までなら寒さを凌ぐことができる。簡単に言うと、体の中で二種類の薬品が混ざり、化学反応が起こることによって体温を高くし、耐寒の働きをする。ちなみに、それを聞きつけた財閥がその作り方などをノアから買い取ろうと交渉しているらしい。
「いや名前だっ・・・・」
僕は吹き出しそうになりながら、率直に感想を言おうとした。しかし、僕が言い終わる前に突如、レナが僕の口を塞いだ。
「もご(何)、もご(何)、もご(何)?!」
「しーっ! だめだよ歩君。ノア君のネーミングセンスに触れちゃ。ネーミングセンスに関して何か言われるとノア君めっちゃ機嫌悪くなるから! だからださいとか思っても絶対口にしちゃだめだよ」
僕の口を塞いだままレナが僕の耳元でこっそりと教えた。
「あー、ふぁるほも(なるほど)」
「どうしたんですか? 二人とも」
「えっ、ああいや、なんでもないよ」
レナが僕の口から手を離してそう言った。
「? そうですか。とりあえず、歩。これがあるから、寒さに関しては心配しなくて大丈夫。時間制限はあるけど、たくさんあるしな」
「・・・・、うん。ありがとうノア」
そのまま、僕たちは階段を降り続けるのだった。
◆
それからしばらくして、僕たちは五階層入り口まで降りて来た。
「じゃあ二人とも、これを」
そう言って、ノアはさっき言っていたノア・スペシャルを僕たちに手渡した。錠剤を口に含んでから赤色の液体で流し込んだ。特に味はなく、無味だった。しかし、錠剤と液体が身体の奥に入っていけばいくほど、身体の芯から、熱が昇って来た。
「すご・・・・!! 身体があったかい・・・・、いや、むしろ熱い!」
「そういえば言ってなかったけど、それ飲んだら体温調節機構がバグるから。すぐに寒いところ行かないと、逆に熱でダウンするぞ?」
ノアスペシャルには欠点があった。それは一度服用すると、一時間程度寒さを中和する代わりに、常に熱を放出している状態のため、最低でも零度以下の場所に常に居続けないと、熱が上がり続けてしまい、それによってダウンしてしまうと言うことだった。
「それ先に言っといてくんないかなぁ!!」
「ごめんって」
「やばい、マジで全身あっつい!!」
刻一刻と僕の身体から大量の熱が放出されていた。僕は焦りながら急いで、五階層へと足を踏み入れた。
そして、僕は五階層を初めて見たのだった。五階層の景色は一面が真っ白だった。晴れた天候と真っ白い雪が地面に降り積もっていた。雪は光を反射してキラキラと光り輝いていた。所々に木や岩があり、そのどれもに雪が積もっていた。ダンジョンの中と言わなければ、スキー場のゲレンデと見間違えるような場所だった。
「うわー、すごい綺麗」
五階層は見た目とは裏腹に気温は低かったらしく、五階層に踏み入れてすぐにさっきまでの発熱は消えた。
後ろから、レナたちも五階層へと入ってきた。
「あっ、晴れてるんだねー。良かった、良かった」
「いきなり吹雪とかじゃなくて良かったですね」
「うん。晴れてるうちにさっさと行きたいねー!」
「吹雪いてることあるの?」
「あるよー。しかも、吹雪のせいで一メートル先も見えないくらい強く吹雪いたり、天候が急変して、暗くなったり。いろいろ起こるよ」
「えー、マジか・・・・」
「まぁまぁ、今は晴れてるんだから。張り切って行こう!!」
「ところで、ここも走っていくの?」
「んーん。そうしたいのは山々なんだけどねー。走ると足が取られてどうしても体力の消耗が激しいからね。走りはしないよー」
レナの言う通り、地面にはちょうど足の甲まで埋まるくらいの雪が降り積もっていた。確かに、このまま走ったら、足を取られることは明白だった。
「もちろん、急ぎはするけどね!!」
「うん」
僕たちは雪の上を歩き始めた。白い地面の上には僕たちの足跡だけが残っていくのだった。
◆
「今回はどこら辺に階段があるか分かる?」
雪の上を歩きながら、僕はレナに聞いた。
「大体なら分かるよー」
「でも、結構力技ですよね」
「そうなんだよねー。まぁそこは頑張ろうよ」
「え、何、どういうこと?」
「えっーとね、階段自体は見つけやすいんだけど、量が多いんだよねー」
「量? そんなの一つじゃないの?」
「いや、たくさんあるんだよ。階段が」
「????」
「訳わからないって顔してるね。いや、本当に訳はわからないんだけど。つまりね、本物の階段以外に偽物の階段がたくさん存在してるんだよ」
「そんなの、本物と偽物をどうやって見分けるの?」
「それは簡単だよ。入り口に手を触れれば良いだけだから。本物ならそのまま中に入れるし、偽物だったら、入れない。ただそれだけだよ」
「ちなみに、たくさんってどれくらい?」
「うーん、私は最高で本物を見つけるまでに五十回くらい試したかな。ノア君は?」
「僕の時は数えていなかったのでよくわかりませんが百はいってなかったとは思います」
「!! それ本当?」
二人は同じように首を縦に振った。
「それに関しては運が良いことを祈るしかないね」
「それはきついなぁ・・・・」
「まぁ受け入れるしかないからな。頑張ろう、歩」
「・・うん」
僕は目に見えるこれからの重労働を想像して、肩を落としたのだった。
そんな僕たちに、冷たい風が吹いた。そして、それと同時に、白い地面に赤い雫が落ちた。
「え?」
僕は頬を触ってその右手を見ると、真っ赤な血が右手についていた。
「何これ?」
「歩君、モンスターだよ」
「え?」
そういうレナの方を見ると、レナも腕や頬から出血していた。幸いなことに、唯一の回復役であるノアは無傷のままだった。
すぐにノアが能力を使ってくれたため、僕たちの怪我はすぐに完治した。
「何のモンスター? これ」
「スノーモンスターかなぁー。多分」
スノーモンスター
木の姿をしたモンスターであるトレントが、雪を纏った姿の名称。普通のトレントは木に擬態し、近づいてきたものを枝や幹で攻撃し、仕留めた獲物を養分にするモンスターである。スノーモンスターは枝などを使う代わりに、木に積もった雪を凍らせ、氷柱状にしたものを飛ばしたりして攻撃してくるモンスターであった。氷柱を飛ばす速度は最高で時速百五十キロまでのぼり、避けれないことはないが、とても厄介なモンスターであった。基本トレントと普通の木を見分けることは難しく、近づいて動くか動かないかくらいでしか判断できない。そのため、雪のえりあで木に近づいたら、それがスノーモンスターであり、氷柱によって串刺しにされるということは少なくなかった。そして、トレントなどの木の姿をしたモンスターは魔石は存在するが、魔石を砕いても倒すことができるため、基本的に幹を切り倒すことなく、魔石を砕くことで倒すため、儲からないモンスターであった。
ちなみに、トレントは魔石の位置が大体決まっていて、幹の一番上付近に存在している。
「スノーモンスター? 何それ?」
「トレントの亜種だよー。枝とかは使ってこないけど、雪とか氷柱で攻撃してくるよ」
「あー、トレントか。じゃあさっきのもあいつが?」
「うん」
僕たちの前には、雪が降り積もった木が三本あった。このどれかが、下手したら三本全てがスノーモンスターの可能性もあった。
「倒し方は?」
「トレントと同じだよ! 切り倒すか、魔石を砕くだかのどっちか!」
「どうする? 魔石を狙う? それとも、切り倒す?」
「私はどっちでも良いよー。ただ、私のこの剣じゃスノーモンスターは切り倒せないよー」
「あー、そっか。じゃあしょうがないけど魔石を砕こっか」
「オッケー! じゃあ行くよ!」
「了解! ノアはもう少し下がってて!」
僕たちはノアがスノーモンスターの飛ばしてくる氷柱などに巻き込まれないように注意しながら、三本の木へと近づいていった。
そして、木に近づくと、一本の木の枝が風もないのに動き始めた。動いた枝に積もった雪がどんどんと鋭く尖った形をしていた。そして、一瞬にしてその氷柱が僕たちの方に狙いを定めると、枝から、射出された。
しかし、僕たちはその無数の氷柱を切って叩き落としていった。トレントに近づけば近づくほど、体感速度は速くなっていく。それでも、僕たちに氷柱が当たることはなかった。全てを避け、あるいは切り落としていった。
「レナ、とどめはよろしく!」
僕は急に立ち止まって、鬼月を構えた。レナはすぐに僕の意図を察したのか、襲いかかってくる氷柱を対処しようとせずにスノーモンスターへと走り続けていた。
「よろしくねー、歩君!」
「柳生新陰流 一式 虚空・三連」
僕は鬼月を振りかぶって虚空を三連続で放った。虚空はレナへと直線的に飛んでくる氷柱を切り裂いていった。レナの前には、氷柱が一本もない道ができたのだった。
「ナイス、歩君! おりゃっ!!!!」
レナはスノーモンスターの幹に剣が届く位置まで一瞬で跳躍した。そして、その勢いのままスノーモンスターの幹の部分の一番上に剣を深々と突き刺した。
剣が刺さった瞬間、スノーモンスターは全身を大きくうならせた後、ピタッと止まった。そして、弾けるようにして、その身体が砕け散った。残った空間には積もっていた雪のみが浮かんでおり、寄る辺を無くした雪はどさっと音を立てて地面へと落ちていった。
「終わったよー」
「お疲れ、レナ」
「歩君もお疲れー。ナイスアシスト!」
「うん。でもやっぱトレントは儲からないね」
「まぁね、魔石を砕いたら消えちゃうしね」
「少しくらい素材とかが残ってくれても良いのにね」
「しょうがないことだよ。ノア君も来たし、さぁ行こっか」
僕たちはスノーモンスターを危なげなく倒して、また雪の上を歩いていくのだった。
◆
それから一時間後、新しくノア・スペシャルを飲んだ僕たちは洞窟へと辿り着いていたのだった。
「あー、大変だった・・・・」
「途中、雪崩に巻き込まれかけたしな」
「うん・・・・、大変だったねー・・」
洞窟まで辿り着いた僕たちの顔は疲れ切っていた。それもそのはず、ここに辿り着くまでに、僕たちはだいぶ苦労していたのだった。
途中、モンスターと戦っていたら、近くの山から雪崩が発生して死に物狂いで逃げたり、雪兎の大群に追われたりと大変な思いをしていた。
「兎ってあんなに怖いんだね・・・・。僕もう動物園行っても触れない気がする・・」
「まぁ一応あれもモンスターだからね」
雪兎
寒いところに生息している兎のモンスター。身体は普通の兎とさほど変わらないが、性格は獰猛で肉食。雪兎と遭遇すると、すぐに大群へと変わり、一匹と戦っていると、何十匹もの兎に囲まれ喰われてしまう。真っ白い毛が獲物を襲い返り血を浴びて赤く染まることから、別名 血兎とも呼ばれるモンスターであった。
普通の兎だと思っていたら、血走った目で大量の兎に追いかけられるのはトラウマものであった。
「それに、雪崩もきつかったしねー」
「よかったですよ、巻き込まれなくて」
「めっちゃ疲れたけどね」
「まぁ雪兎に追いかけられてすぐだったからね。でも、あれのおかげで雪兎の動きは止められたからまだマシだよね」
「それはそうだね」
僕たちは雪兎たちに追われている時に、近くの山が雪崩を起こしたのだった。僕たちは、スノーモンスターではない木に何とか避難できて巻き込まれなかったけど、僕たちを追っていた数十匹の兎は全て白い波に飲み込まれていったのだった。
「五階層ってこんな危ないんだね」
「いや、今回はまだマシな方だよ。ひどい時はこれにさらに吹雪とかが追加されるからね」
「うわー・・・・」
確かに、僕たちはここまで、雪崩などはあったものの、天候が崩れることは無かった。いまだに、ここは晴れているのだった。
「後は、本物を見つけるだけだねー」
「そうですね」
「この洞窟の中にあるの?」
「そうだよー。でも、強いモンスターはいないから心配しなくて良いよ。いてもせいぜいスライムくらいだから」
「そうなんだ、ちょっと安心」
「その分見つけるのに苦労するんだけどね・・」
そして、僕たちが本物の階段を見つけたのはそれから一時間程度後のことだった。ギリギリ耐寒剤が切れる寸前で僕たちは本物を見つけることができたのだった。
「あっぶなかったー!!」
「本当によかったよ。次のを飲む寸前で見つかって」
「本当にねー!! もし次のを飲んでたら本物を見つけてるのに一時間階段へ入らなかったからさー」
「飲む直前に確かめといて良かったね」
「ねー」
「やっぱり、一度使ったら一時間中和し続けるところは要改良ですね。もう財閥に権利売っちゃおうかなぁ」
「ちなみにノアはどこの財閥から交渉を受けてんの?」
「星桜と宮家の二つ」
「うわぁ・・・・」
「何ちょっと引いてんだよ」
「いや、僕と年齢変わらないのにすごいなぁと思って」
「まぁ、僕はこんな能力だしな。それに親は医者だし。嫌でも生体関係には詳しくなるからな」
「そんなもんかぁ・・・・」
「そんなもんだよ」
「さて、二人とも! ボスに挑む前に昼ごはん食べよっか!」
「もうそんな時間だっけ」
僕は時計を取り出して見ると、時計の長針はもう既に十二時を指していた。
「じゃあ休もっか」
「待って、歩君。もうちょっと下まで行こ。ここも三階層前の階段みたいに休む場所がちゃんとあるからさ!」
「そうなの? じゃあ行こー」
僕たちは階段を少し降りて、大きな広場のような場所まで歩いて行くのだった。
そして、そこで僕たちはボスへ挑む前の最後の休憩を取るのだった。
更新遅れて申し訳ありません。
次回から、いよいよ明治神宮ダンジョンのボス編が始まります。お楽しみに。
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