四十五話 面倒
「それで結局あの蜂ってなんなの?」
僕たちは少し遠目から花の上に止まっていた蜂を見ていた。
「あれはねー、灼熱蜂って言うモンスターだよ」
灼熱蜂
全長およそ十センチほどの大きな蜂で、針の部分は赤みがかった黄色をしており、それ以外はミツバチのような色合いをしている。普段の性格は温厚であり、人であろうとモンスターであろうと襲ってくることは基本無い。しかし、自らに攻撃を仕掛けてくるものや、巣に近づくものには容赦なく襲いかかってくる。襲いかかってくる時に使われる針から毒が注入され、刺された患部は火傷したように皮膚が爛れ、異常なほどの熱を持つ。また、焼けるような痛みが襲ってくることから、灼熱蜂という名前がついた。そして、灼熱蜂の巣には女王蜂が存在し、女王蜂を倒すと、その巣に生息しているすべての灼熱蜂が死に絶えるという珍しい習性がある。
「気をつけてね歩君。あいつに刺されるとめっちゃ痛いから」
「刺されたことあるの?」
「うん、何回かあるよ。いや、本当に大変だから気をつけてね」
そういうレナの顔は昔の刺されたことを思い出していたのか少し青くなっていた。
「うん、気をつけるよ」
「! 二人とも、灼熱蜂が移動しますよ」
ノアがそう言うように、灼熱蜂が花から離れて飛び始めたのだった。僕たちも灼熱蜂に気づかれないように、一定の距離を保ちながら後を追い始めたのだった。
◆
僕たちが灼熱蜂の後を追って数分後。灼熱蜂は湖に近い林のような場所を飛んでいた。飛んでいるのを見ながら、僕たちは走り続けていた。
突如として、僕の襟を誰かが掴んで後ろへ引っ張った。そして、引っ張られた瞬間、僕の顔があった位置に真横から何かが通り過ぎていった。
「ぐえっ!!」
僕は急に引っ張られ、変な声を出しながら、尻もちをついた。後ろを見ると、僕の襟を掴んでいたのはレナだった。
「大丈夫だった?! 歩君!」
「ゲホッ、ゴホッ・・・・。・・・・うん、大丈夫。それよりも、今の何?」
僕はさっき目の前を通ったものがかすった鼻を触って立ちながら、レナに聞いた。
「ウンディーネの攻撃だよ。ほら、あそこに浮いてるでしょ?」
レナが指刺した右を見ると、十メートルほど離れた場所にボールのような形をした水球が宙に浮かんでいた。
「あれが、ウンディーネ? 初めて見た」
ウンディーネ
水球の形をしたモンスターで、スライムなどの仲間。大きさは常に変わるため、性格では無いが、基本的にサッカーボールくらいの大きさをしている。また、身体の中に魔石とは別に核が存在しており、それを壊すと、身体が維持できなくなり、崩れ落ちる。陸上でも動くことはできるが、定期的に水を補給しなければならず、基本的には水場の近くにあるモンスターだった。動くものに反応し、人やモンスターに関わらず、自分を構成している水をビームのようにしたりして襲いかかってくるモンスターだった。
「えーっと、核を壊さないといけないんだっけ?」
「そうなんだよね。でも私たちだと、遠距離攻撃がないから、接近しないと壊せないんだよねぇー」
「ガン無視でも良いんじゃ無いんですか? 早くしないと蜂を見失っちゃいますし」
「うーん。でも無視したら、背中側から攻撃くらっちゃうしなー」
「虚空で倒せない?」
「多分躱されると思うよー。それに当たっても一撃で破壊するのは無理だと思うよ。余程の速度と威力がないと、核に到達する前に身体を構成してる水で威力が落ちちゃうからさ」
レナの言う通り、通常ウンディーネを倒す際のセオリーは、ウンディーネの攻撃をくらいながらも接近戦に持ち込んで核を破壊するか、ウンディーネの攻撃が届かない位置から遠距離攻撃で仕留めるかだった。それに、近づいて倒そうとすると、どうしても時間がかかってしまうのであった。
「じゃあどうする? 時間かけすぎたら、せっかく見つけた蜂がいなくなっちゃうよ?!」
「うーん、あっ、じゃあ私がやるよ。もし失敗したら、力技だから、歩君も準備しておいてね」
レナが何かを思いついたようにそう言った。
「何をしようとして・・・・」
「良いから、見とけ」
僕がレナに聞こうとすると、ノアが僕の肩を掴んで止めた。
「それじゃ、戦う準備だけよろしくー!」
僕はいまいちレナの行動を理解できないまま、いつでもウンディーネと戦えるように鬼月を抜いた。一方で、レナは剣を一本だけ抜いて右手に持った。レナは剣を抜いたけど、その持ち方は剣を持つ持ち方では無かった。レナは槍投げをする様に剣を一直線にウンディーネへと向けて構えた。そして、弓を引くように上体を逸らして右腕を引いた。
「吹っ飛べ!!」
レナがそう言った瞬間、限界まで引かれたレナの右腕から、剣が勢いよく射出された。放たれた剣は槍を投げるどころか弾丸のような速さでウンディーネめがけて一直線に飛んでいった。そのままウンディーネは一直線に飛んできたその剣を躱すことなく、剣がウンディーネを貫通した。ウンディーネに当たった瞬間、剣は何かを砕いたようなピシッとという音を立てていた。しかし剣の勢いはそれだけにとどまらず、そのまま後ろにあった大木に深々と突き刺さった。ドゴンという衝撃音と共に大木の枝葉が激しく揺れた後、剣が刺さった大木を見ると、表面が衝撃によって抉れており、木は剣の鍔付近までずっぷりと呑み込んでいた。そしてその直後、剣が貫通したウンディーネは水の身体が暴れるようにして内側から水が跳ね回った後、バシャっという音と共に、飛び散った。地面に生えていた草にその水がかかって光を反射しながら、光輝いていた。そして地面には、水たまりと、ウンディーネの魔石が落ちていたのだった。
「外さなくて良かったー!!」
「何あれ、大砲・・?? 凄い・・・・」
僕は思わず感嘆の言葉が漏れるようにしてそう言った。
「ただ剣を投げただけだよー。まぁ能力は使ってるけど。だから、そんな凄いことじゃないよ。それに、最近全然攻撃として能力使ってなかったから、私もダメージ負っちゃってるしね」
そう言うレナは剣を投げた腕がダラーんと垂れ下がっていた。どうやら、衝撃で肩が脱臼したらしかった。すぐさま、ノアが治して、治ったことを確かめるようにレナは肩をグルグルと回していた。
「相変わらずえぐい破壊力ですね」
「昔の方が威力はあったけどねー。まだまだ身体が鈍ってるや」
レナはそう言って、剣が刺さった木に近づいて、思い切り引き抜いた。剣を引き抜かれた大木には剣が刺さっていた場所にポッカリと黒い穴が空いていた。レナは剣を腰の鞘にしまうと、僕たちへと振り返った。
「さっ、二人とも。早く追いかけるよ!!」
さっき灼熱蜂が飛んでいた場所を見ると、既にかなり遠くまで飛んでいっており、速く追いかけないとすぐに見失ってしまう距離だった。
「あ、うん」
僕たちは急いでウンディーネの魔石を拾うと、灼熱蜂へ向かって走ったのだった。
◆
それから、数分後。僕たちはやっと灼熱蜂の巣もとい、五階層へと続く階段がある位置に着いたのだった。灼熱蜂の巣は階段のすぐ真横についており、階段を進むには、灼熱蜂との戦いは必須だった。僕たちの前を飛んでいた蜂は、既に巣の中へと入っていた。
「でっか・・・・」
灼熱蜂の巣は、十五メートルほどの大きさをしており、その中に大量の灼熱蜂がいると思うとゾッとした。
「レナ、あの巣を壊せば良いの?」
「いやー、それだと巣の中にいるやつ全部と戦わないといけなくなるんだよね。ここは、ノア君を守りながら、強行突破かな」
「最低限しか戦わなくて良いってこと? でもそれじゃ魔石が取れないんじゃ?」
「そうだね。でも、今回に関してはしょうがないかなぁ。それに、あんまり灼熱蜂に時間をかけすぎるのも良くないしね。だから、基本は階段まで走って、進路を阻む蜂は倒す感じで行こう」
「了解」
「じゃあ、ノア君は私と歩君の間に入って! んで、私たちを気にせずに階段まで走っていって!!」
「わかりました」
ノアが走ることしか考えないと言うことはつまり、回復は基本されることは無く、階段に到達するまで怪我は治らないと言うことだった。
「じゃあ行くよ!!」
僕たちは僕が先頭、真ん中なノア、一番後ろにレナというように一直線になって階段へと走った。しかし、階段に近づけば近づくほど、巣にも近くなる。巣に近づかれた灼熱蜂は僕たちを敵として襲いかかってきた。
「柳生新陰流 一式 虚空」
僕は走りながら、襲いかかってくる灼熱蜂の羽を狙って虚空を撃った。羽を切り落とされた蜂は飛ぶことができなくなり、次々に地面へ落ちていった。
五階層の階段までは残り五十メートルほどだった。
灼熱蜂は仲間が殺されていっそう強く襲いかかってきた。文字通り四方八方から蜂が襲いかかってきていた。
「柳生新陰流 虚空・連」
大量の灼熱蜂へと虚空を連続で撃ち続けた。虚空一回で何体かの灼熱蜂を撃ち落としている。それでも、灼熱蜂の数は一向に減る気配はなく、寧ろ巣からどんどんと出て、その数は増えているほどだった。
「やっぱ巣を直接狙った方がよかったかなぁ!!」
「そんなことはないだろ。寧ろそっちの方が面倒だろ」
走りながら、愚痴を叫んだ。
ノアが冷静にマジレスしてきたけど。
「でも、あと三十メートルちょっとくらいだよ!! だからもう少し頑張ろ!!」
後ろからレナが叫んだ。チラッとレナの方を見ると、後ろでもレナが相当な数の灼熱蜂と戦っていた。
———あの技を使えば良いんじゃ無いか? 歩
僕の愚痴を聞いてか、レティアも話しかけてきた。
(「いやでも、あれ使ったって師匠にはバレたら絶対なんか言われますよ」)
———しかし、実戦で練習をするのも良いことだと思うがな。それに、今の状況だったら失敗しても、さほど変わらないだろう? 無論、成功するに越したことは無いがな
(「まぁ、そうなんですけど」)
———まぁ、それは君の判断に任せるが
レティアにここまで煽られてはやらないではいられなかった。
「ハァ・・・・。やるしかないか・・! 二人とも、一気に行くよ! 柳生新陰流 複式 神空!!」
僕は一瞬鬼月を鞘に納めると、一瞬にして抜刀し、その威力のまま虚空を放ったのだった。そして、僕は初めて柳生新陰流の技の合成を使った。
柳生新陰流 合成技
柳生新陰流には技の相性がある。例えば、一式と二式のように、抜刀術の神速と抜刀後の空気の斬撃を撃ち出す虚空は動作を一連の動きで出来るため、相性が良い。そういうように相性の良い技同士に限って合成を使うことが出来る。合成は普段の技よりも威力は上がり、なおかつ二つの技の長所を同時に使うことが出来る。しかし、その反面、二つの技量を同時に行うため失敗すると、普段よりも威力が落ちたり、そもそも技が出なかったりする。だから、今までは使って来なかった。しかし、今回の灼熱蜂との戦いはそもそも戦うことが目的ではなかった。残り三十メートルほどを走ることが目的だった。だから、失敗しても、成功しても、どちらにしろ道が開ける合成技を使ったのだった。そして、歩の一式と二式の合成技の成功率は五十%ほどで、基本的に失敗したとしても、技が出ないということは無かった。
僕が放った神速虚空は普段の虚空の速さが倍増しつつ、灼熱へと向かった。そして、さっきまで、数台の翅しか切れていなかったのが、横一直線にいた灼熱蜂の身体もろとも、切り刻んでいったのだった。流石に三十メートル全てまでの灼熱蜂を切れはしなかったが、それでも、十メートルほどまで、目の前にいた灼熱蜂を全て切り落としたのだった。
「行くよ!!」
そして、僕たちはさっきまでよりも加速して階段へと走った。そこからは速かった。さっきまでとは違い、勢いをそのままに僕たちは遂に階段まで辿り着いたのだった。
◆
「ハァ、ハァ・・・・、やっっ・・と、着いた・・・・・・!!!!」
僕たちはそれからすぐにして五階層への階段の中に入ることが出来たのだった。灼熱蜂も階段の中にまでは手を出すことが出来ない。だから、僕たちの方を見てはいるけれど、近づいてくることは出来ずにいた。
「あー、しんどかった!」
僕は鬼月を納めると、その場に両腕を着いて座り込んだ。ノアもレナも同じように階段に座り込んだ。
「はー、きつかったねー」
「お疲れ様です、二人とも」
ノアはすかさず、ペットボトルを取り出して僕たちへと投げ渡した。そのペットボトルはポカ●・スウ●ットだった。ここまで、走り続けた身体にそれはよく沁みた。僕は一息で、半分ほどまで飲み干した。
「プハッ! ありがとう、ノア」
「お疲れ。先導ありがとう」
「いやいや、そっちも走り続けてお疲れ」
「ね、歩君。もう合成技を使えたんだね」
「え? ああ、いやまだ完璧には使えないよ。だから
合成技を使ったのは師匠には内緒で。完璧じゃ無い技を使ったって言ったら、『完璧に使えない技を使うな!』って怒られそうだし」
師匠がそう言うのを想像して、頬を掻いた。
「確かに。あの人ならそう言いそうだよねー」
「うん。ってことで二人とも師匠には内緒にしてね」
そう言うと、僕は手に持っていたペットボトルの残り半分を飲み干した。
「歩」
「ああ、ありがとう」
ノアが空になったペットボトルを指して僕の名前を呼んだ。僕はペットボトルをノアに渡すと、ノアは空になったペットボトルを異空鞄へしまったのだった。
「じゃー、二人とも。少しずつで良いから下へ行こっかー」
そうして僕たちは立ち上がると、階段を降り始めたのだった。
「ノア君、あの道具持ってきてるよね?」
「はい、持ってきてますよ。というかいつでも持ってます」
「オッケー、ありがとう。それじゃ、五階層はよろしくね」
「はい」
階段を降りているとレナとノアが話していた。
「何の話? それって」
「五階層は特殊なんだよ。だから、対策してないとモンスターじゃなくて、その特殊性によってやられるからな」
「特殊って?」
「五階層はそれまでの階層とは違って、その階層全てが雪原になってるんだよ」
「雪原?!」
僕たちは連戦極まる四階層を抜けて、新たな全てが雪原のフィールドとなっている五階層へと挑んでいくのだった。
合成技をやっと出せました。これからも、合成技はどんどん出していきたいと思ってるので楽しみにしていてください!
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