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四十四話 速攻アンド速攻

「歩君、速攻で片付けるよ」


「うん」


レナはそう言うやいなやすぐに走り出した。そして、一気に跳躍した。上空を舞っていたハルピュイア一体に狙いをつけると、そのままお腹から切り裂いた。ハルピュイアは上空に手を出さないとたかを括っていたのか、油断していた。


「ギャァァァァアアア!!!!!!」


腹を裂かれたハルピュイアは地面へ血の雨を降らせながら、落下していった。すぐにドスンと鈍い音がすると、地面には絶命したハルピュイアの姿があった。

それを見た他のハルピュイアたちの目が変わった。ハルピュイアたちは少しずつ地面へ向かって落ちているレナへと襲いかかった。


「よっと・・・・!!」


レナは襲いかかってくるハルピュイアたちに恐れることなく、上空で加速した。そして、そのまま一瞬にして僕の隣まで戻ってきた。


「これでハルピュイアたちは地面に向かってくるよー。歩君、準備はいいね?」


「ナイス、レナ! うん、やろう! 」


仲間を殺されて目の色を変えたハルピュイアたちが地面へ向かって高速度で急降下して来た。僕は息を吸い込み鬼月を構えた。


「柳生新陰流 五式 虎爪」


ハルピュイアが羽を広げて僕たちへと近づいた瞬間、僕は虎爪を放った。虎爪は僕たちの近くにいたハルピュイア数体を巻き込んで身体を両断した。しかし、たかが数体を切り伏せただけで、ハルピュイアの数は一向に減っていなかった。

しかし、ハルピュイアたちは一直線に僕たちへと向かいかかってくるだけで、小細工などをしてこない分、僕たちの脅威とはなっていなかった。

まぁ、数は多くて邪魔くさいけどね。


「柳生新陰流 七式 瀑撃」


僕はそのままハルピュイアの大群の中へと進んでいった。ハルピュイアたちは四方八方から襲いかかって来た。僕は切り伏せていった。


「歩君、頭下げてー!」


後ろからレナの声が響いた。すぐさま目の前のハルピュイアを切って頭を下げた。その瞬間、レナが一瞬にして僕の頭上を通過していった。そして、勢いをそのままに、ハルピュイアの全身を切り付けていった。

そして、ハルピュイアの大群の一部分を一直線に削り取った。


「歩君、後はいける?!」


レナがアクロバティックに宙を舞いながら、僕に向かって言った。


「オッケー。少し離れてて! 柳生新陰流 五式 虎爪・円刃!!」


僕はレナが離れたのを確認すると、僕はハルピュイアの大群の中心付近から、円弧を描くようにして、斬撃を放った。全方位に放たれた虎爪はハルピュイアたちを両断していった。しかし、それでも全てを切れず、数体が空へ逃げようとしていた。


「逃がさないよー!!」


逃げ去ろうと飛び立ったハルピュイアを即座にレナが追撃した。そして、逃げようとしていたハルピュイアたちも全て地上へと叩き落とされたのだった。


「フッーー、終わったねー」


「別に追撃をする必要はなかったんじゃ・・・・?」


「いや、あのまま逃してたら、間違いなくもっと仲間を呼ばれてたからさー。多分今のニ〜三倍くらいかな?」


「!! そっか、ごめんねレナ。一撃で終わらせられなくて」


「ううん、結果的に逃げられてないし、大丈夫だよー。それよりも、早く素材を取らないと!! ノア君も手伝ってー!」


「はい」


レナがノアにも声をかけると、ノアの姿が現れた。ノアはそのまま、外套を肩にかけたまま、ハルピュイアの魔石を取り始めた。


「ノアって僕たちが戦ってる時にいつもどこいるの?」


ハルピュイアの魔石を取りながら、ノアに尋ねた。


「時と場合にもよるけど、大体、十メートルくらいの位置にはいるよ。遠すぎたら、僕の能力は効かないし、近すぎたら巻き添え食らうし」


「ノアも場所取りとか大変なんだね」


「まぁでも、それだけでいいからまだ楽だけどな。それより急にどうした?」


「いや、戦う時に意識しようと思ってさ。大体の位置が分かるだけで全然違うからさ」


「あー、そっか。まぁそれは僕がこっちでも調整するからあんまり気にしなくて良いよ。慣れてるしな」


「わかった」


「うん。そんなことに気を散らさずに好きに戦えよ」


「うん、ありがとう!」


「じゃあチャチャっとこれを終わらせよう」


僕たちは魔石を回収し始めてから既に五分程度が経過していた。やっと三分の二程度が終わったところだった。

それから二分ほどしてやっと全てのハルピュイアの魔石の回収が終わった。


「やっと終わったねー。でも、二人とも、休憩してる暇は無いよー。さぁまた走るよー!!」


「はーい」


僕は一度伸びをしてから、屈伸をした。その間にノアは魔石を異空鞄に入れてから、肩にかけていた外套を着直して姿を隠した。


「じゃあ行くよ」


そして僕たちはまた走り出したのだった。しかし、走り出してから束の間、辺りには霧がかかって来ていた。


「何これ?」


「これは・・・・」


辺りに霧がかかって来たことで僕たちは動きを止めた。そしてその直後、僕たちの前には龍のようなものが現れた。

いや、龍というよりかはドラゴンと呼んだ方が正しいか。

そいつは気配も気づかせずにいきなり僕たちの前に現れた。大きな翼で、全身はゴツゴツとした鱗に覆われていた。

しかし、そんな見た目とは裏腹に、僕はこの龍に本能的に危機を感じることはなかった。妖人狐やオーガ、ましてやジャイアントアントと戦った時よりも、危機は感じなかった。


「ねぇ、レナ 。これって本当にドラゴン?」


「なんでそう思ったの?」


「いや、なんか危機感っていうのかな? そういうのが全く感じないからさ」


「! そっか。うん、歩君の言う通りだよ。これは本物のドラゴンじゃないよ」


「じゃあ一体?!」


「これはねー、(しん)って言うモンスターだよ。正確には、蜃が作り出した幻影だね」


蜃気楼の語源となった中国や日本で語り継がれた伝説上の生き物である。その姿は、大きな蛤のような姿をしていて、水辺などの近くに生息している。こと、明治神宮ダンジョンにおいては、四階層の水辺に多数生息している。蜃は自らが作り出した霧のようなものを吐き出し、その霧にさまざまなものを投影することが出来る。投影されたものは実体を持たない。その代わりに、蜃本体がが霧を吐き出すのを止まるまで、意志があるように動き続けるのであった。加えて、その霧は電波や方位磁針を狂わせ、方向感覚を惑わせる。そして、そのまま水辺や湖へと近づかせて、対象を溺死させる。 その後、溺死した対象をゆっくりと捕食するのであった。蜃は稀に硬い殻の中に真珠のようなものが入っていることがある。外界ではこの真珠は高値で取引され状態が良いものだと、一億程度の値がつくこともあるのであった。一部の冒険者はこのモンスターから取れる真珠だけで生計を取っているものもいるほどであった。


「倒し方は?」


「本体を叩くしかないね。霧から逃げるくらいなら、本体を倒した方が早いし」


「どこにいるか分かる?」


「正確には言えないけど、霧が濃いところにいるよ」


「じゃあそこまで一気に行こう! ノアもそれで良い?!」


「オッケー」


そう言うと、ノアは外套を取って、僕たちが見つけられるようにしていた。


「あー、歩君。蜃の霧から出てくるモンスター全部が偽物ってわけじゃないからね。本物も混じってるから気をつけて」


「了解!」


そして、僕たちは霧が濃くなっている場所へと走りだした。僕たちが走りだしてすぐに、霧からはモンスターが現れた。それも一種類だけでなく、ゴブリンやワイバーンなど、さまざまなモンスターが現れた。しかし、そのどれもが霧に投影された偽物だった。


「気が散るなぁ!!」


「いくら偽物って言っても、存在が出てくると身構えちゃうからねー」


「うん。ハァ・・・・、さっさと倒しちゃおう」


僕はそう言うと、また前に現れたモンスターを手で払おうとしながら、腕を伸ばした。しかし、さっきまでの偽物とは違い、僕に強烈な悪寒が走った。僕はその悪寒と共に、一瞬で腕を元に戻した。そして、そのまま走るのを止めて後退した。


「よく気づけたね、歩君。私も、今さっき気づいたのに」


「うん。近くまで腕を伸ばしたからさ。すっごい嫌な予感したんだよね」


「歩君もだいぶ感覚が研ぎ澄まされてきたねー」


「それより、レナ 。あれって何? 恐竜?」


僕たちの目の前には恐竜のように大きな身体で、全身が鱗のようなものに覆われていた。それに加えて、大きな牙と人一人軽く丸呑みできるほどの大きな口を持ったモンスターだった。


「いや、違うね。あれは、恐竜じゃなくてワニだよ」


「ワニ? あれが!?」


「もちろん普通のワニじゃないよ。和邇(わに)って言う存在だよ」


和邇

日本神話にも存在を言われているモンスターであった。和邇は個体差はあるが全長で五〜十メートルの巨体を持ち、口はホオジロザメなどを彷彿とさせるような鋭い牙が無数に生えている。さらに、水陸両用のモンスターであり、えら呼吸、肺呼吸共にすることが出来る。基本的に、水中に引きずり込まれると、人間では太刀打ちすることが出来ないほどに素早い動きと大きな口で襲われてしまう。また、四足歩行ではあるが、極めて早い動きをすることができる厄介なモンスターであった。


「和邇は四階層の中で割と危険な分類のモンスターだよ。水中にだけは引きずり込まれないでねー。そうなったら百%死ぬから。長引かせても面倒だし歩君、一気に勝負つけるよー」


「わかった」


僕は鬼月を引き抜いて右手に持った。そして、僕たちが和邇へと走り出そうとした瞬間、和邇が勢いよく僕たちへと向かってきた。僕たちは躱せるけど、後ろのノアもそうとは限らなかった。さらに、この霧のせいで、ノアは姿を隠せない。だから、ここで僕がこいつを受け止めるしかないのだった。


「クソッ、ッッッッツ!!」


向かってきた和邇の口と鬼月がぶつかった。僕は和邇の口が開き切る前に鬼月を当てて開かせるのを止めた。しかし、和邇の身体の重さとスピードが相まって、受け止めている僕が足にどれだけ力を入れても、引きずるようにしてだんだんと後ろへ押し込まれていった。


「レナ!!」


「わかってるよー!!」


レナがそう言うと、和邇の真横にレナが一瞬にして接近した。そして、そのまま和邇の大きな右目を切り裂いた。


「ガギャァァァァア!!!!!!」


切り裂かれた瞬間、和邇は叫びながら、姿勢を崩した。その隙を正面にいた僕は見逃さなかった。


「柳生新陰流 五式 虎爪・裂」


僕は和邇の開いた口内をめがけて、超至近距離から虎爪を放った。口内に斬撃を放たれた和邇は身体の内部から、ズタズタにされていた。臓器か何かを壊されたのか和邇は口から大量の血を吐きだした。それでも、すぐに和邇が倒れることはなかった。


「終わりだ!! 柳生新陰流 五式 虎爪・裂!!」


僕はもう一度、口の中へ斬撃を放った。和邇の鋭い歯は何本も折れて口からは大量の血を吐き出した。そして、和邇はふらついた後、身体の側面から地面に倒れ伏したのだった。地面の緑色だった草は和邇の吐き出した血と、目から流れ出ている血で真っ赤に染まっていた。


「はー、きつかったぁー」


「受け止めお疲れー!! 」


「めちゃめちゃ痺れたけどね。止めれて良かった」


「口の中に斬撃放つとか歩君なかなかエグいことするねー」


「いやでも他に傷つけられないと思ってさ」


「いやあれで正解だよ。あいつの皮膚めっちゃ硬いし。でも、ちゃんと魔石取れるかなぁ?」


「もしかして、また壊しちゃった?」


「いやそうじゃなくて、皮膚から切り裂いて取れるかなってこと。いつもなら、皮膚から攻撃していくから皮膚に切り傷ができるからさ、そこから取れるんだけど。今回は外に傷ほとんど無いからさ」


「どうする?」


「それだったら、和邇一体まるごと異空鞄に入れますよ。和邇一体くらいなら全然大丈夫ですし」


後ろからノアが異空鞄を肩から下ろして手に持ちながら、歩いてきた。


「そう? じゃあお願いノア君」


「はい」


ノアは異空鞄を地面に下ろすと、鞄を思いきり開けた。鞄は和邇を飲み込むようにしてその身体を全て中へ入れた。和邇を鞄の中に入れるとノアは立ち上がった。


「ありがとうー、ノア君。じゃあ、あとは蜃を倒して霧からさっさと抜けよ!!」


僕たちはまた、霧が濃くなっている方へと走り始めた。それからすぐに、霧は前が見えなくなるくらいに濃くなった。


「二人とも、すぐ近くにいるはずだよ!! 辺りに石みたいなのが落ちてないか見て!!」


レナの声に従って、僕は足元に目をやった。しかし、僕の足元には、草しか無く石のようなものは転がっていなかった。


「あっ、いた!!」


後ろからそう叫ぶノアの声が聞こえてきた。そして、ノアがそう言ってすぐに、前が見えないくらい濃かった霧が晴れていったのだった。辺りを見渡すと、そこは森では無く、原っぱのような場所だった。


「歩、これが蜃だ。ちなみに真珠は無かった」


ノアが僕の背中側から僕に声をかけた。振り返ってノアの方を見ると、ノアは手には殻が割れた蛤のような貝を乗せていた。


「うわ、本当に貝じゃん」


「生物的には龍とかに近いんだけどな」


「でも、真珠もなかったんじゃただただ時間をくっただけだったね」


「いや、そうでも無いよー。ほら、あっち」


レナがそう言う方を見ると、花が咲き乱れている場所があった。


「花畑?」


「うん。そこの花を見て」


言われるがまま、一番手前にあった花を見ると、そこには蜂がいた。蜜をとっているのか、蜂が花の上に止まっていたのだった。


「あれって・・、もしかして探してた蜂?」


「うん、そう! あとは、あれの巣についていくだけだね!!」


そうして、僕たちは蜃に時間を取られながらも、五階層への階段へとつながるモンスターを見つけることが出来たのだった。





更新遅れました。

出来そうだったら明日更新します


感想やコメントなどお待ちしてますのでよろしくお願いします!

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