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四十三話 蓋と扉

「え? 赤いってどういうこと?」


僕はレナの言った言葉に驚いて、右手で目を押さえながらそう言った。


「目っていうか瞳孔がさー、さっきまでは赤かったんだよ。いや、今は赤くないよ? 鏡みる?」


僕はレナが取り出した鏡を受け取って僕の顔を見た。僕の見た顔はいつも通りの自分の顔で、特に変わったことはなく、瞳孔もいつも通り黒いままだった。


「いつから赤かった?」


僕は鏡をレナに返しながら、レナにそう言った。


「んーと、妖人狐の腕を切り落とした辺りかなぁ? うん、多分それくらいから、さっきまでずっと赤かったよ」


「そっか・・・・、でもどうしてだろ?」


僕はこの不可思議な現象に特に心当たりは無かった。それに、自分では赤くなっていることすら気づかないほどだった。


「さぁ? まぁでも、身体に異常がないんならいいんじゃない?」


「それもそっか」


「あっ、そう言えば、妖人狐を倒した時に封印って使った?」


「そりゃ、鬼月には使ってたけど・・・・」


「そうじゃなくて、妖人狐に対して封印を使った?」


「?? いや使ってないよ? だって生物にそもそも使えないし。レナもそれは知ってるでしょ?」


「まぁ、そうだよね・・・・」


「なんで?」


「いや、何でもないよー」


「??」


「あっ、ちょっと私、妖人狐の状態を見てくるね」


僕はレナが突然聞いてきたことに首を傾げた。レナは話題を切るようにして既にノアがいた倒れた妖人狐の元へと歩いて行った。僕はレナの背中姿を見ながら、レティアに聞いた。


(「いきなりどうしたんでしょうね? 封印は生物には使えないってレナも知っているはずなのに」)


———・・・・・・・・、ああ、そうだな。

(少しずつ、()()()()()()と言うことか・・・・。それに、レナは・・・・)


(「レティア? どうしたんですか?」)


———ん? ああ、いや、何でもない。それより、よく妖人狐を倒せたな、歩。


(「はい! レナが助言してくれたおかげです! ありがとうございました!!」)


———フッ、そうか。君の力になったんなら良かったよ。


(「はい!!」)


———ほら、君も二人のように、妖人狐の元へ行ったらどうだ?


(「はい」)


そして、僕もレナの後を追うようにして、妖人狐の亡骸へと歩いて行った。妖人狐の亡骸のすぐ近くに落ちていた妖人狐が持っていた妖刀は既に朽ちていた。壊れるでもなく、長い年月が経ったように朽ちていたのだった。あんなに脅威だった刀の本質がこの朽ちた刀だと思うと妖刀の名は伊達では無かった。そして、二人の元まで行くと、二人は少し落ち込んでいるようだった。


「何? どうしたの?」


「・・・・・・」


「いや、ちょっとこれを見てみろ」


僕は何も考えず二人に聞くと、ノアがそう言いながら妖人狐を指差した。正確には、妖人狐の大きな穴が空いた胸を差した。


「えっ、うわー」


僕がノアが指差した妖人狐の胸があった部分覗き込むようにして見ると、そこには、粉々になった妖人狐の魔石と思われるものがあった。


「えっ、これって、まさか、妖人狐の?」


僕は少し声を震わせながら二人の方を見た。二人は何も言わず首を縦に振った。


「ハァァ・・・・、マジか」


僕はそれを見て、がっくりと肩を落とした。それもそのはずで、妖人狐の魔石は高い値で売れるためだった。妖人狐の魔石一個で、新卒サラリーマンの年収ぐらいの値段がつくのだった。しかし、それはあくまで傷一つついていない状態の話。傷一つ、ましてや粉々になっている今の状態ではそんな値段がつくなんてことはあり得なかった。


「でも、妖人狐の魔石をここまで粉々にするって、あの技凄いな・・・・」


隣に立ったノアが僕を憐れむようにしてそう言った。

モンスターの魔石というものは、まず、それ自体の硬度が高く、それにモンスターの身体の奥深くにあるため、傷がつくことや、ましてや破壊されるということはあまり起こらないものだった。だから、今回のように粉々になることは滅多にないことであった。


「まさか、こんなになるまでとは僕も思ってなかったよ。あー、最悪だ」


「元気出せよ歩。確かに魔石は壊れちゃったけど、体毛とかは大丈夫そうだしさ」


「うん・・・・」


僕はノアに慰められながら、そう言った。そんな僕の姿を視界に入れながら、レナはずっと考えていた。


(「・・・・私の見間違いだったのかな? いや、でもさっきの歩君の技は普通じゃ無かった。だって、妖人狐の身体が()()してたんだよなー。封印を使ったとしか考えられないんだよなぁ・・・・。でも、生物に効かないのは知ってるしなぁー」)


レナは頭をかいて、僕たちへと声をかけた。


「流石に妖人狐の体毛全部取ってたら時間かかりすぎるから、歩君が切った腕だけ回収して、先に行こっか」

(今はあんまり考え込んでも仕方ないか。多分だけど、これは何か大きいことに繋がってる気がするし・・・・)


「そうですね。ほら、元気出せよ歩! いくら悔やんでも過去が戻ってくる訳じゃないしさ、前向いていこうぜ」


「そうだね」


そうして、僕は妖人狐の亡骸から少し離れたさっき切り落とした妖人狐の腕が落ちている場所まで行って腕を回収した。


「じゃあこれ、よろしく」


「はいよ」


僕はそれをノアに手渡すとノアが異空鞄にしまった。


「じゃあとりあえず階段まで行こっか。休憩はその後でってことで」


そうして、僕たちはこの階層を抜けて、四階層へと続く階段へと歩いて行くのだった。



「よし、じゃあ少し休憩取ろっか。四階層はこれまで以上に連戦が求められるしね」


四階層に続く階段を降りて一分ほどしてレナが立ち止まった。


「うん。あれっ?・・・・」


休憩を取ろうとすると、僕は膝から崩れ落ちた。そのまま地面にうつ伏せになった。


「歩?! どうした、大丈夫か?!」


「歩君!!」


すぐさま僕の後ろを歩いていたノアが急いで僕へと駆け寄った。すぐさま、うつ伏せになった僕をノアが起こした。


「なんか、どっと疲れが・・・・、それに、力が・・・・」


今の僕は妖人狐との戦いによる血の失いすぎによる貧血の症状が出ていた。・・・・、正確には貧血ともう一つ、ある大きな反動が僕の身体を襲っていた。


「貧血か? ちょっと待ってろ。・・・・、これを食え! すぐに!!」


ノアは、僕が貧血になっていることをすぐに見抜くと、異空鞄から少し大きめの真っ赤な色をした丸薬のようなものを取り出した。僕はそれを受け取って口に入れた。硬い丸薬を噛み砕いて飲み込むと、少しして、身体の倦怠感や力が入らなかったのが緩和された。症状が落ち着いてきた僕を見て、ノアが水を手渡してくれた。それを飲んで僕は地面に座り直した。


「プハッ、あー、ありがとう、ノア」


「それより、もう大丈夫なのか?!」


「うん、まだ少しだけ違和感はあるけど、さっきよりかは良くなったよ」


「そうか」


「本当に大丈夫?」


「うん、もう大丈夫。心配かけてごめんね」


「むしろよくここまで耐えれたな。あんなに血を失ってるんだから、貧血になるのは当然だしな」


「安心したら、急にね。さっき渡してくれたのって何?」


「ああ、あれは増血丸。その名の通り、即効性で血液の増加を手助けしてくれるやつ」


増血丸

宮家財閥が初めて作った丸薬のことで、昔から存在していた増結剤を改良し、即効性を高めた薬のことだった。増血丸は冒険者の他にも、医療など幅広い分野で使われており、人々の暮らしを支えているものだった。ノアが持っていた増血丸は市販の増血丸に独自で改良を加えたもので、即効性はもちろん、効果と持続時間も高めている優れものだった。


「歩君も休憩は必要だし、ちょっと長めの休憩にしよっか」


「そうですね」


「うん」


「じゃあ休憩ついでに次の階層の説明とかもしよっか」


「そういえば、連戦が必須って言ってたね」


「そうなんだよー。四階層は結構骨が折れるんだよねー。まず、基本的にここで出てくるモンスターは群れで生活してるものかもしくはめちゃめちゃ身体が大きいかのどっちかしかいないんだよねー。行ったらわかるけど基本的にずっと戦い続ける感じかな。だから、四階層は走って抜けるよ」


「でも、罠は?」


「それに関しては大丈夫。四階層の罠は休憩が出来そうな場所にしかないから。基本戦い続けてれば罠に引っかかることは無いよ」


「それはまた、意地の悪いことで・・・・」


「本当だよねー! まっ、とりあえず、四階層は走って抜けるってことは覚えておいて。ノア君も最初から姿を隠して行くしね」


レナがそう言ってノアの方へと顔を向けた。ノアは水を飲みながら、頷いていた。


「でも、戦う時に巻き込まれない? ノアが」


「まぁ、それは私たちが範囲攻撃とかは少なくするしかないかなー。特に、歩君の龍巣とかは絶対ダメだよ!! あんなのしたら百%ノア君も私でさえ巻き込まれるから」


「気をつけます」


「うんうん。じゃああと三十分くらい休憩したら行こっか」


「はーい」


僕はそう言ってから、鞘から鬼月を引き抜いた。そして、腰につけていた小さいバックから手入れ道具を取り出した。鬼月には傷こそついていなかったけれどそれでも、妖人狐との戦いやそれまででいろんなモンスターを切り倒していたので手入れがしたかったのだった。


(「さっきのあれは本当に貧血だったのかなぁ・・、なーんかそれだけじゃないような気がするんだよなー。それに、目も赤くなってたらしいし、僕の身体どうなだちゃったんだろ?」)


そんなことを考えながら、僕は鬼月の刀身の油を拭き取っていくのだった。それから、二十分ほどして手入れが終わっても、考えに結論は出なかった。


(「レナも言ってたけど身体に異常無いし、とりあえずはいたのかなぁ」)


僕は手入れが終わって綺麗になった鬼月を鞘に納めたのだった。ふと、二人の方を見ると、レナは壁にもたれかかりながら座って寝ていた。ノアの方は異空鞄の整理をしていたのかノアの前には大量の魔道具やモンスターの素材が散らばっていたのだった。


「なんか手伝おっか?」


僕は散らかっていたノアの方へと近づいて行った。


「いや、大丈夫だよ。もうほとんど終わったし」


ノアはそう言うと、テキパキと異空鞄の中へと魔道具や素材をしまっていった。そして、ノアが片付け終わるのと同時に、タイマーが鳴った。そのタイマーはレナがつけていた時計から鳴っているようで、レナは『ううーん』と目を擦りながら、タイマーを止めていた。


「ふぁあー、うーん。じゃあ、そろそろ行こっか。二人とも」


「うん」


そうして、すぐに僕たちは支度を済ませると、階段を更に下へと降りていくのだった。その頃には、僕の調子もだいぶ元に戻っていたのだった。階段を降り始めてから数分して、僕たちは四階層の入り口へと辿り着いたのだった。


「じゃあ行くよ。ノア君は大丈夫そう?」


「はい。大丈夫です」


ノアはそう言いながら、魔道具で姿を隠している途中だった。


「歩君もいける?」


「うん。行こう!!」


そして、僕たちは四階層へと突入したのだった。四階層に入るとそこは幻想的なまでに美しい所だった。大きな湖とそれを囲むようにして森のような場所が広がっていた。空には太陽が出ていて、二階層、三階層とは違って自然的に明るく、魅力的な場所だった。


「歩君、私にしっかりついて来てね! あとなるべく、湖の方には行かないで」


「了解」


そんな風景の余韻に浸るまでもなく、僕たちは走り出した。


「でも、レナ。どこに五階層への階段があるか分かるの?!」


「言ってなかったっけ? 四階層は五階層への階段の近くに必ず巣があるんだよ!」


「巣? なんの?」


「蜂だよ、蜂。だから、一匹でもいいから蜂を見つけたら言って!!」


「了解」


そのまま僕たちが走り続けていると、急に、空が騒がしくなった。ギャア、ギャアという不快な音が響いていた。


「なんの音?」


「歩君止まって! モンスターだよ!! もう上に集まってる!」


レナがそう言うと、僕たちの身体を影が覆った。上を見上げると、空には無数の鳥のような羽を持ち、人間のような身体を持ったモンスターがいた。


「あれって、ハルピュイア?」


「よく知ってるねー、歩君。とりあえず、ささっと倒して進もうか!!」


そして、僕は鬼月を鞘から引き抜いて、ハルピュイアたちへ向かって構えたのだった。ハルピュイアたちはそんな僕たちを見ながら、いっそう騒がしく叫ぶのであった。


ハルピュイア

広がると、二メートル近い大きな羽を持ち、身体は人間の女性のような姿をしたモンスター。あくまで、人間の姿をしているだけであって、人の言葉を話すことはなく、カラスのような鳴き声をしている。基本群れで生活しており、獲物を見つけると、集団で一斉に襲いかかってくる。そのため、ハルピュイアの獲物にされたものは無惨に食い散らかされた残骸のみが残る。ただし、その羽は最高級の羽毛であり、加工して、布団やダウンの素材として重宝されている存在でもあった。
















更新遅くなりました。


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