四十話 参人
僕たちは少し急いで三階層・・つまり中ボスがいる階層へと続く階段へと着いた。
「なんで、あんなに急いでたの? レナ」
「え? あー、えっとゼロ君はさ、ダンジョンの『夜』って概念知ってる?」
「『夜』? えっと、モンスターが狂化して、能力が飛躍的に上昇する時間帯だっけ?」
ダンジョンの夜
シルバーダンジョン以上のダンジョンには昼と夜という概念がある。昼に関しては特に気にすることもない、いつも通りのダンジョンのことであった。しかし、夜は昼とは比べものにならないほどに危険な状態の事であった。夜はシルバーダンジョン以上のダンジョンにおいて稀に起こるモンスターが狂化してしまう時間帯のことであった。八時〜二時までの間にダンジョンの各階層でランダムに『夜』になることがある。この状況になると、その階層に強制的に閉じ込められる。そして、その中ではモンスターが狂化して襲って来るのだった。狂化したモンスターはリミッターが常に外れた状態で理性も無い。そのため、通常の数倍の能力を持ちながら、どんなに普段温厚なモンスターであっても襲って来るのだった。これに巻き込まれた冒険者は休むことなく強力なモンスターとの連戦を強いられ、生きて帰ることは絶望的になるほどの窮地に叩き込まれてしまうのだった。
「そうそう!」
「でも、それとなんの関係が? あれって確か稀にしか起こらないんじゃ・・・・」
「そうだねー。でも、それは普通のダンジョンだったらの話。ここ、明治神宮ダンジョンは、『夜』が常に起こるんだよ」
「!! 本当?」
「本当、本当。もうすぐ八時だったからね。だから、早くあの階層を抜けたかったんだよね」
レナはそう言いながら、僕に時計を見せてきた。確かにレナの言う通り、時計は既に七時四十分を指していた。
「もうこんな時間だったんだね」
「うん、だから割と危なかったんだよね」
「でも、夜が絶対に来るってわかる分、まだマシですよね。他のダンジョンだと夜が来るかどうかわからない分、慎重にならざるを得ませんし」
「確かに、それもそうだね」
ノアがそう言うと、レナも腕を組んでウンウンと頷いていた。
「じゃあ、これからどうするの? 二時まではここから動けないってことでしょ?」
僕がそう言うと、レナは僕の方を見て笑った。
「それは大丈夫!」
「そっか、ゼロは明治神宮ダンジョン・・っていうか中ボスがいるダンジョンは初めてだもんな」
「え?」
「見たら分かるよ。ほら、進もう!」
レナはそう言うと階段の入り口から、奥の方へと階段を降って行った。ノアもそれに続いて先に行くと、僕はまだ良くわからないまま二人を追うようにして下へと降って行った。それから、すぐに、僕の目には階段とは思えない光景が映った。
「!! なにこれ!?」
僕の目に映ったのはここが階段とは思えないほどの大きな部屋だった。
「驚いたでしょー、ここはいわゆる休憩所って所なんだよ」
休憩所
中ボスが出現するダンジョンでは休憩所と呼ばれる空間が存在する。その空間は、中ボスとボスのいる階層へと続く階段の途中に存在する。その空間では、大人が千人程度入ってもあまりある広大なスペースとトイレや風呂までも存在している。なぜこんな空間があるのかは誰も分かっていない。否、誰もここに不自然すぎる空間があること自体を不自然と思っていない。だから、この空間について解明することをそもそもしない。それがこの休憩所であった。
「これが休憩所なんだ。初めて見たよ」
「二人ともテントは持ってるよね?」
レナの問いに僕とノアは首を縦に振った。
「今日はここに泊まるからさ。ついて早々だけど、テント立てちゃおっか」
「うん」
「はい」
そうして、僕たちはこの部屋に入って少し歩いてから、三人かたまってテントを立て始めた。
「ねぇレナ、三階層へはいつ行くの?」
テントを立て終えて僕はレナにそう言った。
「うーん、いつでもいいけど、今日は連戦も続いたし、疲れてるでしょ? だから、十分に休息をとってからかなー。そうだね、明日の朝七時くらいにはここを出ようかな」
「分かった。ノアもそれで良い?」
「うん」
「じゃあ、明日の日程も決めたし、ご飯にしよー!」
レナはそう言いながら、テントの中から出て来た。テントから出てきたレナの姿はさっきまでの戦闘服ではなく、家で着ているような服で両手でバーベキュー台を持っていた。
「! なんでレナはそんなの持ってんの?! そんなのどこにあったの!?」
「え、これ? これはテントの中に入れてたやつだよ。私のテントは異空鞄みたいな感じで外と中の大きさが全然違うんだよ」
テント
冒険者たちには必須の物で、冒険者をしている限り、全員が持っている物だった。しかし、テントと言っても、それはキャンプなどで使うような物ではなかった。冒険者たちが使うテントは魔道具であった。その効果は色々なものがあるが、まず前提として、収納時の大きさを変化できるものだった。テントは持ち運ぶには大きすぎて邪魔だが、この魔道具のテントは伸縮することが可能であり、乾電池サイズまで小さくすることができる。レナが使っているのはその応用でテントの中の大きさも変化することができるもので外から見たテントの大きさの約十倍ほど中は広くなっている。ちなみに、値段は安いものでも五万円程する。
「じゃあノアのも?」
「いや、僕は異空鞄を持ってるから、テントは普通のやつだよ」
「そうなんだ。で、レナ。それでなにしようとしてるの?」
レナはテキパキとバーベキュー台を外に設置してバーベキューをする準備をしていた。
「何って、見ての通りだよ。バーベキューするんだよ! ほら二人も準備して!!」
そう言いながら、レナは僕たちの方へ歩いてきた。そして、僕たちに軍手や炭などを渡してきた。
「私は食材の下準備して来るから、台の設置よろしくねー」
レナは僕たちに有無を言わさずに軍手などを渡してテントへと戻って行った。僕とノアは顔を見合わせて笑うと、すぐさま服を普段着に着替えてテントから立ち上がって台へと向かった。
それから三十分ほどして、台を囲むようにしてレナが持ってきた椅子に座りながら、バーベキューを楽しんでいた。
「ぷっはー、やっぱ頑張った後のお酒は美味しいねぇー!!」
レナはそう言いながら、よく焼けた肉を箸で掴みながら、反対の手にはビールを持ってそう言った。もう九時近い時間なのに、休憩所はずっと明るいままだった。
「二人ともほら、もっと食べなよ!!」
レナはそう言いながら、僕たちの皿に焼けた肉を何枚か入れた。ノアは少食なのか箸の進みが遅くなっていた。
「レナはいつもバーベキューとかしてるの?」
僕は肉を食べながら、隣に座っていたレナにそう言った。
「いつもじゃ無いよー。今日は歩君が初めて明治神宮ダンジョンに来れたお祝いだよ!!」
レナは左手で持っていたビールをグイッと飲み干しながらそう言った。
「歩? ゼロじゃなくて? えっ?」
ノアはレナが言ったことに疑問を抱いているようだった。それもそのはずで、仲間の名前を間違えているのだから、それは仕方ない無いことだった。
「・・・・・・あっ、えっと・・」
「いいよ、レナ。ノア、このダンジョンが終わったら、僕たちのパーティーに入ってくれるんだよね?」
僕は慌てて弁解しようとしていたレナを止めて、ノアの顔を見ながら、問いかけた。
「?? うん、そのつもりだけど、なんで?」
「・・・・・・、僕がさ、このお面を落とした時に顔について触れないでほしいって言ったの覚えてる?」
「うん」
「・・・・・・、今から、話すのは他言無用にして欲しいんだけど良い?」
「うん」
「僕の名前は無明 ゼロじゃない。僕は刻藤 歩って言うんだ」
「!!!!」
僕はそう言ってバーベキューをしてる時もつけていたお面を外した。ノアは僕の言ったことに心底驚いているようだった。
「なんで名前を変えてるって話だけど・・・・」
そうして僕はレナに会うまでに起こったことを全てノアに伝えた。ノアは何も言わずにただ、僕の話を聞き続けた。そして、話を聞き終えて、静寂が漂った。しばらくの静寂の後ノアが口を開いた。
「・・・・、、そっか」
「ごめんね、騙すようにしてて」
「いや、それはいいよ。・・・・なぁ、ゼ・・歩、刻藤って・・・・、いや、やっぱりなんでもない」
ノアは何かを言おうとしてハッと気づくようにして何かを言おうとするのをやめた。
「何? どうしたの?」
「いやごめん、本当に何でもない。それより、これからなんて呼べば良い?」
「三人でいる時は歩でいいけど、他の人がいる時はゼロって言っててほしいかな」
「分かった。じゃあ、改めてよろしく、歩」
「うん」
僕は笑ってまたノアと握手をしたのだった。そして、レナが話し合えたタイミングで僕へと謝ってきた。
「ごめんね、歩君。私が口を滑らせちゃって」
「いや良いよ、遅かれ早かれノアには言わなきゃいけなかったし」
「本当にごめんね」
「大丈夫だよ。それより! 肉が焦げちゃったね。ほらまだまだ食材はあるんだし食べよう!!」
話が長くなり、バーベキュー台の上には焦げて黒くなってしまった肉や野菜がのっていた。
「うん、そうだね」
そして、僕たちはまたバーベキューを続けた。
またそれから一時間ほどして、僕たちはバーベキューを片付けて、風呂へと入りに行った。そして、歯を磨いたりした後、それぞれのテントへと戻って行った。
「じゃあ、明日は六時起床で七時にここを出発でいいね?」
「うん」
「はい」
「じゃあおやすみー!」
レナは僕たちに手を振ると、自分のテントへと入って行った。
「じゃあ僕たちも寝よっか。おやすみノア」
「うん」
僕とノアもそれぞれのテントへと入って行った。僕はバーベキューでノアに素性を明かしてから、お面をつけないでいた。だから、テントに入って敷いておいた布団の中に入ってすぐに眠りについた。
「・・・・、そっか、歩は、———の・・・・」
隣のテントのノアは一人テントの中で思いを巡らせていた。ノアのテントの中にある時計は三時二十九分を指して止まっていた。
七月 十四日 午前七時
「二人とも、準備は大丈夫?」
「大丈夫だよ、行こう! 」
テントなどを片づけ、服を着替えて、僕たちは休憩所を後にした。
———歩、頑張れよ。中ボスは手強いぞ
(「はい。頑張ります!」)
休憩所の端の方にあった階段を降りて行くと、すぐに三階層入り口へと着いた。
「歩君、覚悟は良い?」
「うん、大丈夫」
レナは振り返って僕の眼を見て笑うと前を向き直した。
「じゃあ行くよ」
そうして、僕たちは三階層へと足を踏み入れた。三階層は一階層や二階層とは違って暗くて他に比べると狭かった。。そして、今までとは違ってシンプルで所々に柱と提灯のような明かりがついているだけでまるでお祭りの夜の時のような空間になっていた。そして、この部屋の中心には和服を着た何者かが立っていた。
「あれが、明治神宮ダンジョンの中ボス?」
「うん、そうだよ」
僕たちは少しずつ中ボスと近づいて行った。近づけば近づくほど、その何者かの異様さが肌で感じ取れた。そして中心に立つ者と十メートルほどまで近づくと、そいつは僕たちの方を振り返って来た。そのモンスターは人の形をしていて、整って顔立ちに金髪と金色の眼をしていた。僕たちを見て釣り上がった口角からは、大きな牙のような歯が見えていた。そして、何より、腰には一本の刀を帯刀していた。しかし、そのモンスターは人間ではないことが一目瞭然であった。そいつには頭に大きな金色の毛が生えた耳が生えていた。
「歩君、見たら分かると思うけど」
「うん、明治神宮ダンジョンの中ボスは妖人狐か!!」
僕たちの目の前に立つこの妖人狐は腰の刀に手をかけ、ニヤついた表情を浮かべながら、僕たちの方を見ていた。
妖人狐
姿形は人間であり、大体百九十センチ程度の大きさで筋肉質な身体をしていて、和服に身を包んでいる。しかし、人間とは明らかに違う点が一つあり、頭に大きな耳がついている。戦闘スタイルは主に妖刀を使って襲って来る。それに加えて、妖術のようなものも使えるため、近距離、遠距離共に攻撃することができるモンスターであった。また、最大の脅威として、ある妖術を使った攻撃は対処することができなければ一方的に攻撃を受け続けてしまう。また、その毛は強靭なものであり、防具などにも利用される代物である。
更新遅くなりました。すみません。




