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三十九話 対トロール

僕たちの前にいるトロールは全長四メートルほどもあるような大きな身体をしていた。手には斧と棍棒を混ぜたような武器を持っていた。


トロール

身体の大きさは三〜六メートルであり、人型である。腕や脚は丸太のように太い。それと対称に腹は出っ張っており、だらしない中年のような腹をしている。しかし、その腹も含めて全身が非常に硬い。全身の筋肉が異常に多く、攻撃防ともに強いモンスターだった。その反面、寒い地形や氷など身体が冷えるところでは動きは鈍くなり、攻撃もあまり強い威力ではなくなるという性質を持っているモンスターでもあった。


「レナ!! 罠は!?」


「この部屋には一つもないよー!。だから安心して戦って!」


「了解! それじゃ、僕が右のをやる!!」


「オッケー、じゃあ私は左だねー!」


そう言うと、僕とレナはそれぞれがトロールへと向かって走り出した。


「グガガァァァァァァァア!!!!!!」


僕がトロールへと向かっていくと、トロールは大きく叫んだ。その声は大きな部屋の中にいた事も相まって反響し、耳がグワングワンするほどに大きかった。しかも、レナが相手にしている方のトロールもまた叫び、より一層その大きさは増していた。


「もう、うっさいなぁ!!」


レナが耳を押さえながらそう言った。もっとも、その声はトロールの叫び声にかき消され、僕へは届かなかった。僕は、トロールの叫び声に臆する事無く、鬼月を鞘から引き抜くと、トロールへと更に近づいた。


「まずは一撃・・!! 柳生新陰流 一刀 五式 虎爪!!」


僕はトロールの丸太のように太い脚へと切り掛かった。僕は右足を切り落とすつもりで鬼月を振り抜いた。しかし、トロールの皮膚は切ることができても、骨はおろか筋肉すら切ることはできず、むしろ筋肉によって鬼月が追い返されてしまっていた。


「硬い!! と言うか、筋肉が切り裂けない!!」


僕は脚は切り落とすことはできなかったけど、虎爪の勢いでトロールの背中側へと回り込んだ。


「だったら・・・・、柳生新陰流 七式 瀑撃!!」


僕はトロールの背中に連撃を繰り出した。何度もトロールの背中に切り掛かった。しかし、皮膚は切れども筋肉を切ることは出来ずトロールの身体には薄皮一枚が切られたような跡しかつくことは無かった。しかし、ほとんど傷ついていないとはいえ、トロールは苛立ったのかすぐさま後ろを向くと、左手に持っていた武器を僕の頭目がけて振り下ろした。僕がすぐにトロールの右側に避けると、トロールはそのまま僕のもといた場所に振り下ろした。ドゴンッという音ともに、その場所はひび割れ、小さなクレーターのように陥没していた。


「うわっ、やっば・・」


そう思ったのも束の間、トロールはすぐさま、右手で僕を掴もうとしてきた。それを後ろに下がって躱すとトロールと僕は睨み合いのような体勢となった。


———苦戦してるなー、歩。本当に倒せるのか?


(「絶対倒します」)


———心意気は十分だな。じゃあどうするんだ? 近距離も連撃も通用していないぞ?


(「そこなんですよね・・・・、うわっと!」)


僕と睨み合いをしていたトロールが急に僕へと近づき、今度は横に僕の胴体を真っ二つにしようと武器を振った。レティアと話していて一瞬反応が遅れたけど、僕はその攻撃をしゃがんで躱した。


「あっぶな・・・・!!」


僕がトロールに苦戦している一方、


「グギャガァァ!!!!」


トロールがまた叫んでいた。しかし、その叫び声は先ほどの相手を威嚇するためのものではなく、痛みからくる叫び声であった。レナは双剣を取り出していて、その双剣には血がついていた。トロールの方を見ると、トロールは関節や爪の部分といった比較的柔らかいところから出血していた。レナはそんなトロールとは対称的に全くの無傷だった。トロールがレナを捕まえようと手を伸ばした。その瞬間、レナはその場から一瞬にして消え、トロールの頭の位置まで跳んだ。そして、そのまま双剣をトロールの両目へと突き刺した。


「グギャァァァァァァァ!!!!!!」


トロールの絶叫が部屋に響いた。トロールは突如として視覚を失い、真っ暗な視界の中でレナを追い払おうと両手を振り回していた。


「もっと、いくよ!!」


トロールの力がいくら強いと言ってもそれは当たらなければ意味がない。目が見えていても当たらない攻撃が目が見えなくなったのならなおさらレナに当たるはずも無かった。レナはトロールの腕を躱し、足元へと移動した。そして、双剣で両足の膝関節やくるぶしを何度も何度も切りつけた。


「ギャガアアアアアア!!!!」


トロールが叫ぶのと比例するように傷もどんどんと深くなっていく。そして、ついにトロールの身体を支えることが出来なくなった足は崩れるようにして地面に倒れ伏した。


「これでっ、トドメ!!」


倒れたトロールの後頭部へ移動すると、レナは双剣をトロールの首へと突き刺した。いくらモンスターとはいえ、人間のような姿をしている限り、脊髄や脳に攻撃を受ければ致命傷になることは避けようがない。脊髄を貫かれたトロールは叫ぶことも出来ずにそのまま絶命したのだった。


「さぁーて、ゼロ君は大丈夫かなー?」


トロールの首から双剣を引き抜くとレナは僕の方に視線を向けた。


「ガァァ!!」


僕と睨み合いをしていたトロールがまた僕へと突進してきた。そして、すぐに武器を振りかぶって僕へ振り下ろしてきた。


「これはどうだっ!! 柳生新陰流 三式 昇覇!!」


僕はトロールの攻撃を鬼月で受け止めるとすぐに手首を切り返して武器をトロールへと打ち返した。


三式 昇覇

柳生新陰流の三式で一刀の反撃技であった。相手が素手などの武器を使っていなければ、反撃技に攻撃された威力を上乗せして相手に攻撃ができる。相手が武器を使っていたら、その武器などでの攻撃を威力をそのままにして、相手に打ち返すことが出来る。そして、自分はダメージを受けることなく、相手に攻撃を打ち返せる技であった。しかし、タイミングをミスると反撃することが出来ず、そのままダメージを食らってしまう。しかも、返す時の特殊な手首の返し方によって特に腕のダメージが倍増して食らってしまうというデメリットもあった。


トロールは自分の意志とは反対に自分の方へ腕が近づいてきていることに驚いているようだった。そして、そのままトロールの顔面に吸い込まれるように直撃した。


「どうだ・・・・?!」


トロールの顔面に確かにトロールの武器が直撃した。しかし、体勢を崩して倒れることは無く、ましてや顔には傷一つついていなかった。僕の昇覇は完璧に攻撃を打ち返せた。しかし、トロールの現実離れした筋力によって、普通ならば制御することなんて出来ない昇覇を無理矢理、顔面に当たるまでに威力を軽減していたのだった。


「これも、ダメか・・!」


———歩、苦戦している君に一つアドバイスをやる。


(「へ?」)


———だからアドバイスだよ、あのトロールを倒すための。いいか? 君にはこの明治神宮ダンジョン、いや修行している時から使っていないものがあるだろう? それを使ってみろ


(「師匠との修行から使っていないもの・・? ・・・・!! そっか、そうか!!」)


———気づいたな、歩。それを使えば、倒せるだろう?


(「はい!!」)


———よし、ならばすぐにアイツを倒せ!!



(「ハイッ!!」)


僕は鬼月の剣先を目の前のトロールはと向けた。


「異能力 封印!!」


そして、僕は修行の時から使っていなかった封印を鬼月に施した。僕はその鬼月とともに、トロールへ向かって走り出した。それを見たトロールも武器を振りかぶりながら、僕は向かって突進してきた。


「グオオオ!!!!!!」


「柳生新陰流 四式 冥突・翔!!」


僕は走りながら、鬼月をトロールに対して垂直になるように構えた。そして、トロールよりもスピードが速い僕の攻撃がトロールへと届いた。鬼月の剣先がトロールの腹に触れる。そしてそのまま根元まで刺し込みトロールの腹を貫いた。僕は根元まで入った鬼月を回転させてトロールの右脇腹を切り裂いた。


「ギャグアアア!!!!!!!!」


「これで終わりだぁ!!」


トロールの左腕から武器が地面へと落ちると同時にズシンとトロールの巨体が地面に倒れた。そして、僕はトロールの首を一太刀で切り落とした。首を落とされたトロールは目から光が消えると絶命した。


四式 冥突

柳生新陰流の四式で一刀の中で一番派生技が多いものだった。相手に対して刀を垂直に構え、腕をバネのようにして力を溜めて一気に解放することで相手を刺し貫く技だった。切ることよりも貫くことに特化しており、攻撃できる範囲は狭いものの高い威力を誇る。冥突・翔では相手を刺し貫いた後、刀を右か左に回転させ横に切り裂くという派生技でそれ以外にも様々なものがあった。


結果から言って封印と柳生新陰流のコンボは通常とは比べものにならないほどの威力を出すことが出来た。さっきトロールを倒した時も、封印をかける前は筋肉によって全く刃が通らなかったのが封印をかけて、鬼月を振り抜けば軽々とトロールを切り裂くことが出来た。僕は一歩強くなったという実感を得ていた。


———やったな、歩


(「はい、レティアのアドバイスのおかげです。ありがとうございます!!」)


——君がちゃんと倒せて良かったよ


(「はいっ!!」)


「ゼロ君!! おつかれ!」


後ろから、レナがそう言った。隣にはノアの姿もあった。


「うん、二人こそ、おつかれ」


「僕は今回も何もしてないんだけどな」


「でも、サポートはしてくれてるでしょ?」


「まぁな」


そういうと、ノアは笑った。それを見てつられるように僕も笑っていた。


「じゃあ二人とも、トロールも倒したし、次の階層へ行こっか!!」


「でも階段は・・・・」


「「そこにあるよ、階段」」


レナとノアはそう言って部屋の奥の方を指差した。


「え!? 本当だ。じゃあこれから三階層に行く?」


「うーん、いや一回休憩したほうがいいかなー。詳しくは階段で話すから、さぁ行こっ!!」


レナに急かされるようにして、トロールの魔石を急いで取った後、僕たちはこの部屋の一番奥にあった三階層へと続く階段へと向かったのだった。



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