三十七話 罠の脅威
僕の前にいるコボルトたちは目の前で同族が一瞬にして首を飛ばされたことを恐れているのか、不用意に近づいて来る事は無かった。しかし、後退りをしようとしても、後ろには罠がある事はコボルトたちも承知の上だった。それに、例え罠を避けて後ろへ逃げても、レナがいる。そんなレナが戦っているコボルトたちはボロボロの状態だった。レナが手加減しているのかコボルトが致命傷を避け続けているのかは分からないが、コボルトたちは傷だらけでレナは無傷で戦っていた。この調子だとすぐに決着は着くようだった。
「レナに負けていられないな。僕たちも、早く終わらせようか」
僕は独り言のようにコボルトたちへそう言うと、残っていたコボルトたちへ向かって走り出した。
「二体まとめて終わらせてやる!!」
僕は走りながら、鞘に鬼月を納めた。そうしている間にも、コボルトたちとの距離は縮んでいく。コボルトたちは、後ろに逃げることから、前に突進することに思考を切り替えたのか、コボルトたちもまた僕の方へと走り出していた。
そして、すぐに、僕の間合いにコボルトたちが侵入して来た。
「柳生新陰流 二式 神速!!」
その瞬間、僕は鬼月の柄を掴んで鬼月を鞘から引き抜いた。
鬼月が鞘に擦れるようなジャッと言う音と共に二体のコボルトたちをまとめて切れるように腕を横に振った。
「ギャウン!!!!!!」
切られたコボルトはそう叫んで地面へと崩れ落ちた。しかし、その数は一体のみだった。もう一体は刀が当たるギリギリで躱したのだった。一体のコボルトに当たって少しだけ速度が落ちた神速をコボルトは避けたのだった。
しかし、それでも、コボルトは無傷というわけでは無かった。即死では無いがその胸には大きな切り傷ができており、瀕死の状態であるのは誰が見ても明らかだった。
「これで終わりだ!!」
僕は瀕死のコボルトへ一度振り切った鬼月を今度は両手で持って、コボルトへと鬼月の刃を降ろした。
その瞬間、コボルトは僕の腕を掴んだ。腕を掴まれた僕は刀を振り切れず、鬼月はコボルトに当たるギリギリのところで止まったのだった。そしてコボルトは、そのまま僕の胸元も掴むと、後ろへと跳んだ。
「くそっ! 離せっ!!」
僕は、コボルトの腕を振り解こうとしたがコボルトの腕はガッチリと僕を掴んで離さなかった。まるで、何が何でも道連れにしようとしているようだった。
そして、コボルトは後ろに‥‥正確には後ろの罠に足を付けた。
———歩!! そこは罠だぞ!! すぐに逃げろ!!
頭の中で、レティアの警告が響いた。僕も早くこの場から逃げ出そうとしていた。しかし、目の前にあるこのコボルトがそれを許さなかった。
そして、コボルトが罠に足を踏み入れてから、わずか一、二秒ほどでその場から地面が消えた。僕とコボルトがいた地面が一瞬にして消えたのだった。どうやら、この罠は落とし罠タイプだった。
「分かってますよッッッッッ!」
「ゼロ君!!!!!!」
僕とコボルトが罠へ踏み入れるのを見たレナが叫んだ。既にレナはコボルトを全滅させていて、レナはすぐさま僕の方へと駆け出した。しかし、倒したはずのコボルトが走り出したレナの足首を掴んだ。急に足を掴まれ、ガクッと体勢を崩したレナは転んでしまった。
「ゼロ君!!」
何が起こったのかよく分からないまま転んだレナは、顔を上げて僕の方を見ながら叫んだ。
そして、僕とコボルトが罠へと落ちた。しかし、僕を掴んで離さなかったコボルトから急に力が消えた。このコボルトはもう絶命したようだった。僕が罠にかかったことで、最後の力が抜けたせいなのかはわからなかったけれど、この好機を僕は逃さなかった。
すぐさま、コボルトの腕を振り払うと、落とし穴に落ちきる前に地面の部分へ手を掛けようとした。しかし振り払うのが少し遅かった。僕の身体はもうすでに落とし穴に入りすぎていて、地面の部分に手が掠るだけで、掴むことができなかった。僕は腕を上に伸ばしたまま、体が地面から遠ざかっていく。下を見ると下は真っ暗だった。底はおろか一メートル先さえまともに見えないほどの暗闇だった。
その瞬間、バシッと僕の手を誰かが力強く掴んだ。
「あっっぶな・・・・!!!!」
「ノア君!!」
「ノア!!」
僕レナが僕の手を掴んだ人の名前を叫んだ。転んでいたレナは足を掴んでいたコボルトの腕を切り飛ばし、僕たちの元へと来た。ノアはそのまま僕の手を引っ張っると、落とし穴から引っ張り上げてくれた。落とし穴から出て、僕とノアは地面にへたり込んだ。
「ありがとうノア!」
「心臓止まるかと思ったわ。でも間に合ってよかったよ」
「うん、本当にありがとう!!」
「お互い様だよ、助け合いだろ?」
僕はその言葉に頷くと僕たちは笑いあった。
「ノア君、本当にナイス!! よく間に合ったねー」
「コボルトがゼロを掴んだ辺りでやばいと思ったので。それに僕は戦ってなかったから、邪魔も無かったですし」
「そっかー。私は間に合わないと思っちゃったし。油断しちゃった。ごめんねー、二人とも」
「そんな、元は僕がコボルトを倒せると慢心したのが原因だし、迷惑かけて本当にごめん」
「ノア君も言ってたけど、パーティーは助け合いだから、だから、そんなに気に負わなくて良いんだよゼロ君。でも、もちろん反省は大事だけどね!!」
ノアの方を見ると、ノアも頷いていた。今までパーティーでこんな事を言われることなんて無かった。だから、二人にこう言われたのは嬉しかった。
「うん」
「ほら、二人とも立って、立って! まだまだ探索は続くんだから!」
「はい」
「うん」
そうして、僕とノアは立ち上がった。立ち上がった後、僕たちは落とし穴に落ちたコボルト以外の魔石を取ってから、この道を前へと進んで行った。
それから、十分ほど歩くと僕たちの前にゴブリンが現れたのだった。それも、普通のゴブリンだけでなく、マジックゴブリンやアイアンゴブリンなどと言った普通のゴブリンよりも何段階か強い奴らだった。
アイアンゴブリン
身体を物理的に鋼鉄にすることが出来るモンスターで、普段はゴブリンと同じ肉体だが、戦闘する時に体の表皮をを瞬時に鋼鉄に変える。だから、刀や銃といった武器とは非常に相性が悪いモンスターだった。しかし、それとは逆に身体が実際に鋼鉄になるため、高温などの影響をモロに受けてしまうという性質もあるモンスターだった。
「ゼロ君、さっきコボルトに罠を使われてたけどさ。私たちも罠が分かればそれを利用することも出来るんだよ。ちょっと見ててねー」
レナはそういうと、たった一人でゴブリンたちの群れへと走っていった。
ゴブリンたちは単身で向かって来たレナを見て、ゴブリンたちもまた戦闘体制に既に入っていた。一番後ろにいたマジックゴブリンが炎の球をレナに向かって撃ち出した。レナはすぐさま双剣を引き抜くと右手に持った剣で炎の球を切り裂いた。しかし、ゴブリンたちはそれに怯んだ様子は全く無く、ゴブリンや身体を鋼鉄化させたアイアンゴブリンが突進して来ていた。そしてそれと同時にマジックゴブリンが氷の球をレナに向かって撃ち出そうとしていた。
すぐにゴブリンたちはレナに近づき後三メートルほどの位置まで接近していた。そこまで近づいたゴブリンたちは一斉にその場を飛び越えるように跳躍した。
「後少し・・・・、ここっ!!」
一瞬にしてレナの身体がその場から消えた。そして、それと同時に跳躍したゴブリンたちが一斉に串刺しになった。ゴブリンたちの身体は槍のようなものによってズタズタにされ、アイアンゴブリンの身体ですらヒビ割れ、砕かれていた。
後に残っているのは一番後ろで魔法を放っていたマジックゴブリンが二体と、比較的後ろにいたおかげで串刺しから逃れたゴブリンが五体いるだけだった。最初、二十体ほどもいたゴブリンの群れはたった七体まで減っていた。
「ゼロ君、後のゴブリンたちは任せてもいい?」
「うわっ!!」
いきなり横から話しかけられて僕がびっくりしながら、右横を見ると、そこにはレナが立っていた。
「そんなにびっくりしなくてもいいのに」
「ごめん、とりあえず後の奴らを片付ければいいんだよね?」
「うん。もうここには罠もないから、のびのびと戦って大丈夫だよー」
「わかった」
そう言って、僕は鞘から鬼月を抜いた。ゴブリンたちは未だに混乱しているようだった。僕が近づいていくと、それに気づいたマジックゴブリンがいち早く魔法を放って来た。僕はそれを横に躱して、鬼月を構えた。
「柳生新陰流 一式 虚空・連!」
僕は虚空を一度でなく、三回連続で放った。まだゴブリンとは距離があったが、それでも、三回も虚空が直撃したゴブリンやマジックゴブリンたちは身体や首が断ち切られ、血を流しながら、地面へ倒れた。
パチンと鬼月を鞘に納めて、レナたちの方を振り返った。
「終わったよ、二人とも」
「ありがとうー、ゼロ君。お疲れ様ー」
「それより、レナ。さっきのは?」
「あー、あの串刺しにしたやつ? あれはね、私が罠を踏んだんだよ。ほらゴブリンたちが、ある場所で一斉に跳んでたでしょ? あそこに罠があったんだよ。で、それを私が能力を使って罠を踏んでから、こっちへ移動して来たの。だから、あの場で罠の近くにいたゴブリンたちを一掃できたって事だよ。あっ、でも、ゼロ君たちは真似しちゃダメだよ?」
「やりたくてもそんなことは出来ないよ。ね?」
「うん、絶対無理」
僕がノアに言うと、ノアも僕と同じように否定した。
「まぁ、でも、こんなふうに罠を使うやり方もあるって事だよ。でも、罠の内容までは分からないし、今回はたまたま串刺しにする罠だったけど、毎回成功するわけでも無いんだけどねー」
「うーん、一応覚えておくよ、レナ」
「うん。心の隅にでも留めておいて。じゃあ、パッパと回収して先に進んでこー!」
そして、魔石の回収を終えて、僕たちはダンジョンの二階層を先へと進んでいくのだった。




