三十六話 厄介
僕たちの前に現れたサウンドバットの群れは耳障りな鳴き声を発しながら、僕たちへと飛んで来た。その鳴き声は黒板を引っ掻いたような本当に嫌なものだった。しかも、十数体全てがその鳴き声を発している。
ほんっとうに逃げ出したいな!!
サウンドバット
名前の通り、蝙蝠型のモンスターだった。黒い体毛を持ち、羽を広げていない状態の大きさで一メートル近くあり、羽を含めれば三メートル近い大きさになる吸血蝙蝠であった。蝙蝠は飛んでいる時に超音波を使うことで周囲を把握したり、獲物などを認識したりする。サウンドバットはその超音波や音を攻撃に使ってくる。このモンスターは口から二種類の音を同時に出す。一つは爪で黒板を引っ掻いたような不快な音、もう一つは、人間が聞き取ることはできないが、脳に影響を与える超音波である。だから、戦いが長引くとどんどんと自分達が不利になっていき最終的に、動くことすらままならない状態にされてしまうモンスターであった。
「二人とも、これを!」
そう言うと、ノアは僕たちへと何かを投げ渡した。ノアが投げ渡したのは既に同期が完了しているノイズキャンセリングイヤホンだった。
「「ありがとう!!」」
僕とレナはノアに感謝しつつ渡されたイヤホンを耳につけた。その時、僕がずっとつけていたオーガの仮面が外れ、地面へと落ちてしまった。しかし、そんな事を気にしている場合では無く、サウンドバットは既に僕たちへとかなり接近していた。
「二人とも、イヤホンを付けてても超音波は防ぎきれないので速攻で!!」
ノアの声が両耳につけたイヤホンから聞こえてきた。ノアの言うように、超音波はイヤホンでは防ぎきれない。ただ、それでも、サウンドバットの発する不快な音が聞こえずに済むのはとても戦いやすい状況だった。
「ゼロ君、今回は私が戦うよ。ゼロ君たちには一階層で頑張ってもらったからね!サポートよろしくねー」
「わかった」
レナは僕たちへそう言うと、前へ走り出した。
「あっ、それとここら辺には罠は無いから! 好きに動いて大丈夫だからね!!」
走り出したレナは思い出したようにそう言った。イヤホン越しにレナの声が聞こえてくる。
そして、サウンドバットは突如前に出てきたレナに目標を定めたように、レナへ向かって飛んでいった。
「よっ!!」
レナは脚を少しの間かがめた後、レナは一番先頭にいたサウンドバットへと跳躍した。跳躍したレナはありえないほど飛んだ。明治神宮ダンジョンの二階層は天井まで正確にはわからないけど、大体二十数メートルもある。サウンドバットは天井近くの高さにいたはずなのに、レナはそのサウンドバットに手が届く高さまで飛んでいた。そして、腰から双剣を引き抜くと、右手に持った剣でサウンドバットの大きな羽を切り飛ばした。羽を切られたサウンドバットは地面へと落下していく。一方でレナは空中で体勢を変えて天井を蹴って、次のサウンドバットへと突っ込んでいった。
「ハァッ!!!!」
レナはサウンドバットの群れへと入り、ズザザッと滑って地面へと着地した。レナが着地すると羽を切られたサウンドバットたちが地面へと落下してくる。
しかし、それでも、サウンドバット全てを叩き落とせていたわけではなく、まだ少しだけ残っていた。
「柳生新陰流 一式 虚空!!」
レナが着地すると同時に構えていた僕はすかさず残っていたサウンドバットたちへと斬撃を放った。
「ナイス、ゼロ君ー!!」
僕の斬撃によって残されたサウンドバットたちも地上へと叩き落とす事ができた。あとは、地面に落ちたサウンドバットにトドメを刺すだけだった。レナは全てのサウンドバットが地上に落ちるのを見て、僕の方へと歩いて来た。
「レナこそお疲れ。って言うかさっきレナのジャンプすっごい跳んでたね」
「あれはねー、私の能力を使ったんだよ。ほら、少し屈んでたでしょ? あの時にねー」
「本当にレナの能力って汎用性が高いよね」
「まぁ、それは色々頑張ったからね。最初はこんなに使い勝手は良くなかったよ。でも、ある時に、色んな事に使えるようになったんだよ」
それを言ったレナの顔は誇らしげや嬉しそうな顔では無く、どこか悲しそうな暗さを含んだ顔をしていた。
「それってどう言う・・・・」
「よーし、じゃあトドメ刺していこっか」
僕がレナに聞く前にレナは手をパンッと叩いてそう言った。そして、言うや否やすぐにサウンドバットたちの元へと歩いていった。
「・・・・うん」
僕はそれ以上はレナに聞く事はできなかった。そして、ノアも含めて三人で地面に落ちたサウンドバットたちにトドメを刺していった。僕は、トドメを刺す前にさっき落ちてしまった仮面を取って着け直した。そして、代わりにイヤホンを取ってノアの方へと近づいていった。
「ノア、これありがとう」
そう言って、僕はノアにさっき渡されたイヤホンをノアに返した。
「ああ、うん」
ノアは渡されたイヤホンをまた異空鞄へとしまった。
「あっ、ノア君、私のも!」
「はい」
ノアはレナのイヤホンも同じように異空鞄へとしまった。
「どうしたのノア? 怪我でもしたの?」
「ああ、いやちょっと頭が痛いだけだ。サウンドバットの超音波にやられた」
ノアはそう言いながら、自分の眉間を押さえてていた。
「能力で治せないの?」
「脳とかは複雑すぎて、治すのが難しいんだよ。だから、精神攻撃とか、脳波に異常をきたす類の攻撃は治し辛いんだよ」
「そうなんだ。ちょっと休んでおけば?」
「いや、少ししたら治る。だから大丈夫」
「わかった。でもヤバそうだったら言って」
「分かってるよ。って言うか、ゼロ。お前さっき仮面・・・・」
「あー、やっぱり見えてた?」
「うん。って言うか、僕はずっと自分の顔がカッコよくないから着けてると思ったわ。普通にカッコいいじゃんか」
「えっ? ああ、うん、ありがとう。でも、顔に関しては他人には言わないで欲しい」
「?? 何で?」
「お願い」
「そこまで言うなら、分かった。顔に関しては触れない」
「うん、ありがとう。じゃあトドメ刺すのに戻ろっか」
「だな」
そして、それから少しして、全てのサウンドバットにトドメを刺して、魔石も回収し終わった。
「よーし、魔石も全部取り終わったし、さぁ進もう! さっさと二階層を抜けよう!!」
「はい」
ノアは頭痛が消えたようで、さっきよりも元気そうだった。
少し心配したけど、大丈夫だったようだった。
そして、僕たちは二階層の探索を続けた。
「うわっ、ここ罠だらけじゃん!」
歩いていると、一番前を進んでいたレナが叫んだ。
「ゼロ君、ノア君、ここからは、私の後ろをしっかりと着いてきてね」
僕たちはレナにそう言われて、さっきまで、横に歩いていたのをすぐに縦に並び直した。
「今日は罠が多いなー。運が悪いのかなー」
「運なんて関係あるの?」
「めっちゃ関係あるよー。罠って毎回どこにあるかわからないからさ、運が良ければ、全然罠がない日もあるし、逆に罠だらけの日もあるんだよね。でも、まだ、モンスターが現れてないだけマシか」
「ねぇレナ、それってフラグじゃ・・・・」
僕がそう思うと、僕たちの前にはコボルト数体が見えた。コボルトもまた僕たちを見つけたのか、全てのコボルトが顔を僕たちの方を向けていた。
「ほら、やっぱりそうじゃん!!」
「やっば、、二人とも、少し前に走るよ! 前はここよりかはまだ罠が少ないから!」
僕とノアはその言葉に頷くと、すぐにレナの後ろを走ってついていった。しかし、それと同じように、コボルトたちも僕たちの方へ走って来ていた。
コボルト
有名なモンスターの一種でダンジョンが特殊な地形じゃ無い限り、ほぼ全てのダンジョンに生息している。二足歩行で、狼の身体をしている。手には棍棒や刀などの武器を持っている。知能は高く、集団で常に動いており、しかも、その動きは統率の取れたものであり、ゴブリンなどよりも連携をして襲ってくるモンスターだった。そして、コボルトたちは狼特有の優れた嗅覚などを行使することで罠を発見することが出来る。そのため、罠を発見する魔道具を使わずに、罠があるところでも、速い動きで戦うことが出来るモンスターであった。
「ゼロ君、前に出て来て!」
「わかった!!」
そして、僕はレナの隣へと前に出た。
「ゼロ君、ここから、五メートル右斜め前と、私の真左、三メートル正面に何かしらの罠があるから、気をつけて戦って!!」
「分かった! レナも気をつけて!」
僕は鬼月を引き抜いて、僕とレナの方へと走って来ているコボルトへと構えた。
「ギャギャギャ、ガウゥゥ!!!!」
コボルトが吠えながら、突っ込んで来た。それを迎え撃つように、レナから言われた罠に気をつけながら僕も前に出て、迎え撃った。コボルトたちは罠の位置がわかっているようで、特に気をつける素振りも見せずに、高速で襲いかかってくる。
(「罠があるとこんなに戦いにくいのか!!」)
———歩、少し前に出過ぎだ。後二歩前に行ったら罠に引っかかるぞ
前を見ると、心なしかコボルトたちがニヤついた表情を浮かべていた。罠の位置が分かっているコボルトたちは僕を罠に引っかからせようとしているようだった。
「クッ、柳生新陰流 一刀 一式 虚空」
僕は虚空をコボルトに放ち、数歩後ろへと下がった。僕が放った虚空はコボルトに傷を合わせたものの、致命傷と至るには浅すぎる傷だった。
「やっぱりこれじゃ倒せないか・・・・」
———さぁ、どうする? 歩。相手は罠に気をつけなくても、罠には引っかからない。しかし、君は気を配らないと罠にかかってしまうぞ?
(「それでも、正面突破するしか無いですよ」)
———そうだな、じゃあ見せてみろ!
(「はいっ!」)
そして、僕はさっきの位置まで、走り出した。コボルトたちはさっきとは違って少しずつ後ろに後ずさった。コボルトたちは既に罠の後ろにいるのか不用意に前を詰める事はしてこなかった。そして、さっきの位置から、一歩分だけ前に出た瞬間、僕は左に跳躍した。
「柳生新陰流 五式 虎爪!!」
僕は少し体勢を崩しながら、斬撃をコボルトの首へ当てた。体勢を崩したけど、至近距離からの虎爪には十分な威力が出たのだった。そして、倒れそうになるのを堪えて残っているコボルトたちの後ろへと回り込んだ。
「グギャ!!!!」
短い断末魔の後、首を切られたコボルトは首と胴体を切断され、僕が鬼月を振った勢いのまま、後ろへと倒れ込んだ。
これで、僕の前にいるコボルトはあと二体となった。
そして、今度は僕がコボルトを罠に追い詰める形になったのだった。
頬に付いたコボルトの返り血を手で拭って鬼月を構え直した。
「さぁ、さっさと終わらせようか」
僕は鬼月の切っ先をコボルトに向けながらそう言った。
次回は出来そうだったら明日やります。もしくは月曜です。
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