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三十五話 二階層へ

——明治神宮ダンジョン二階層前の階段


ノアの魔道具で身体を綺麗にした後、僕達は二階層へ挑む前に二階層へと続く階段で休憩をしていた。相変わらず、ダンジョンの次の階層へ行くための階段はモンスターなどが発生することはなくモンスターが侵入することもまた無かった。この原則はどんなダンジョンでも変わらない事だった。


「そういえば、最上層で倒したモンスターの素材や魔石ってどれくらいあるの?」


僕が飲み物を片手にノアに尋ねた。


「あー、どれぐらいだろう。時間もあるし今見てみる?」


ノアはそう言うと、階段のはじの方へ行って持っていた異空鞄の中身を物色し始めた。


「私もそれ知りたいなー。モンスターはたくさん倒したけど、正確な数を数えていたわけじゃないしねー」


僕達が話していると、レナも話に入ってきた。レナの言う通り、モンスターの正確な数は数えていなかった。と言うより、モンスターの数が多すぎて、数え切ることが出来なかったと言う方が正しかった。


「えーっとですね、とりあえず魔石だけを言います。まず、ジャイアントアントの魔石が十個、オニグライの魔石が五十三個、アサシン・マンティスが一個、ブラッドレッグが三個、血鴉が八個、鬼雀が六個ですね」


早くも確認を終えたノアがそう言った。


「うわー、だいぶ倒したねー」


「うん、まさかここまで、沢山倒してるとは思わなかったよ。一応まだ最上層なのに」


そう、僕達が今抜けたのはまだ、一階層だけだった。それなのにこれだけの数の素材が集まっているのは僕にとっては体験したことが無い話だった。僕が今までに行ったダンジョンでは、全部の階層での素材を合わせてやっと今の数くらいだった。僕は難易度が急激に上昇し始めるシルバーダンジョンは伊達では無かったということを肌で実感していた。


「ゼロ君驚いてる? 一階層だけでこんなに素材が取れて」


「うん。僕が今まで行ったダンジョンだったら、ボス部屋に行くまでに、ましてや一階層だけでこんな数のモンスターが襲ってくるってことはまず無いからさ」


「そうだよね。しかも、ここはシルバーの中でも最高峰の明治神宮ダンジョンだしね」


「うん、驚く事しかないよ。でも、凄く楽しいよ」


「そっか」


そう言って、僕が笑うとレナも笑っていた。


「でも、驚くのはまだ早いからな、ゼロ。まだまだモンスターは出てくるし、それにこのダンジョンには中ボスだっているしな」


「あ、そっか。ここには中ボスがいるのか」


今僕達が話している中ボスとはダンジョンの最下層にいるボスとは違う、中間地点となる場所にいるボスのようなモンスターのことであった。ダンジョンの構造が六階層以上で出来ている時だけ、中ボスは現れる。中ボスはボスと同じように、出現している階層は自分専用のフィールドとなっている。ここ、明治神宮ダンジョンは全六階層から成るダンジョンであった。だから、僕にとって、中ボスはこのダンジョンで初めて戦うモンスターだった。


「ちなみにノア、ここの中ボスって何?」


「それは・・・・」


「ノア君、ゼロ君にはまだ言っちゃダメだよー」


ノアが僕の質問に答えようとすると、僕の後ろにいたレナがノアを止めた。


「あー、なるほど。わかりました」


なぜかノアはレナの静止を聞いて納得したように了承した。


「何でよレナ! 教えてよ!!」


「それは中ボスと会うまでのお楽しみって事で。ね?」


「・・・・、そこまで言うなら、わかったよ」


「うん。でも、期待はしてていいよ。ここの中ボスはスっごく面白いからさ!」


「うん、わかった」


僕はレナの言葉に頷いた。


(「ちなみに、レティアは何か知ってますか?)


レナの言葉に頷いたとは言え、気になった僕はレティアにも聞いた。


———明治神宮ダンジョンの中ボスは・・・・、あぁ、あいつか。うん、知ってるぞ


(「じゃあ教えてくださいよ」)


———ダメだ。それにレナも言ってただろう? 『楽しみにしておけって』な。フフ、確かに、アイツは面白いモンスターだしな。


(「そんなこと言われたら、尚更気になるじゃないですか」)


———ハハッ、まぁ、楽しみにしておけ。


(「うー、分かりましたよ」)


結局レティアにも、明治神宮ダンジョンの中ボスについては教えてくれなかった。


———それはそうと、歩。さっきの一階層で、よく血鴉から攻撃を受けなかったな


(「血鴉ですか? 確かにアイツはウザかったですね。それに無傷では無かったですよ。ノアがいたから傷つかなかっただけで」)


———確かにそうだが、血鴉の攻撃自体は当たってないだろう? 傷ついたとは言ってもアイツの特性によるものだろう


血鴉

このモンスターはカラスではあるがその身体の色は真っ黒では無い。身体の色は赤と黒が混じったようなドス黒い色をしていて、体長は普通のカラスの二倍近くの大きさがある。このモンスターは非常に頭が良く、しかも、スピードは最高で時速三百キロ近く出る。しかし、このモンスターの厄介な点はそれだけでは無い。血鴉の特性として、羽から真っ赤な液体を雨のように放出するのだ。その液体は塩基性があり、人間などの皮膚を溶かす。そこまで濃度は高く無いが、当たり続ければ肉が裂けるほどまでの傷となってしまうのだった。そして、血鴉はそれを利用して、空から雨を増やし、獲物を弱らせてから捕食すると言う戦闘方法をしてくるため、こいつと遭遇した時は遠距離の攻撃がないと、逃げるしか手段が無くなるほどに厄介なモンスターだった。


(「それはそうですけど。それでも、攻撃を避け続けれたのもノアの回復あっての事ですよ」)


———ハァ、いつも言っているが君はどうしてそんなに自己評価が低いのか。血鴉だって君の攻撃で倒したじゃ無いか


レティアの言うように、一階層で血鴉と遭遇した時、血鴉は僕が全て上空から撃ち落としていたのだった。血鴉は空からの攻撃をメインとしているため、身体はそこまで頑丈なわけじゃ無い。だから僕の威力が低い一式の虚空でも通用し、結果的に全てを倒すことが出来ていたのだった。


———慢心しろ、とまでは言わないがもっと自信を持てよ歩。いつまでも過去を見続けるな。前に進もうとしている人間が後ろを見ていてどうする。今の現状を、いや、もっと先の未来を、自分の後ろじゃなく、前を見ないとそれは前に進んでいないのと同義だろう? だから君は今の自分にもっと自信を持て


(「はい、そうですね」)


正直に言って僕は僕自身に自信を持てなかった。自分の評価はいつだって最低なものだった。そんな過去からすぐに抜け出すことは僕には出来なかった。でも、今のレティアやレナ達のように、僕を評価して、励ましてくれている人たちがいた。そんな人達の存在は僕を少しずつ変えていってくれているのだった。

だから、レティアのその言葉に僕は笑って答えたのだった。レティアの顔を僕は見えていないけれど、僕のその言葉を聞いて、レティアも笑っているような気がした。


「よーし、休憩も取ったことだし! 張り切って二階層へ行こっか!!」


レティアと話していると、レナがパンッと手を叩いて、僕とノアに向かってそう言った。


「そうですね、行きましょうか」


魔石を既に全て片付けていたノアがそう答えた。


「うん、じゃあ行こっか!」


僕も階段から腰を上げて立ってそう言った。立った時にずっと階段に座っていたからか、足が少し痺れた。


「えーっと今が、十二時半だから、後十分したら行こっか」


僕とノアはレナのその提案に頷いた。



——十二時四十分


各々が装備を整えて、僕たちは階段を降り始めた。そして、すぐに、明治神宮ダンジョンの二階層へと到着したのだった。

一階層とは違って二階層ではいかにもダンジョンというような光景だった。松明などは無いのに、特に暗くは無かった。

壁や地面は綺麗に並べられた正方形の岩石のようなもので出来ていた。一階層でレナも言っていたけど、二階層は一階層よりも幾分かは狭い。二階層の広さは二百五十haだった。

それでも、広いことには変わりなかったけれど、百五十ha分の差は大きかった。


「いつも思ってたんだけど、こういうところってさ何で明るいんだろうね」


僕は疑問に思っていたことを声に出して言った。


「詳しいことは知らないけど、なんかこの岩石みたいな物質が光ってるっぽいよー。研究者の人とが調べてるらしいけど、よくわからないんだって」


僕の疑問にレナは壁を触りながらそう言った。


「本当、ダンジョンって何なんでしょうね」


僕たちが話しているとノアがそう言った。


「さぁねー、それより、ここからは罠があるから、気をつけて行こう!」


レナの言う通り、明治神宮ダンジョンは二階層から罠が出現する。中ボスやボス部屋には罠は存在しないけれど、他の階層には色々な所に設置されている。しかも、常に同じところにあるわけではなく、能動的なので、予測をすることは不可能だった。罠は、下の階層に行けば行くほど即死率が高い危険な罠となる。だから、二階層の罠は比較的、即死率は高くは無いものが多い。とは言っても、危険なことには変わりなく、今までよりも慎重に進む必要があったのだった。


「ここからは、私が一番前を歩くね」


そう言いつつ、レナは懐から一つの魔道具を取り出した。それは眼鏡のようになっていてレナはそのままそれを耳にかけた。


「それがレナが言ってた魔道具?」


「そうだよー。サーチャーアイって言うんだけどね」


サーチャーアイ

レナが取り出した眼鏡のような魔道具の総称で罠などを発見し、それを視覚情報として扱うことができると言うものだった。微弱な罠は正確に言えば違うけど、電気信号のようなものを常に放出している。サーチャーアイはその情報を読み取り、直接使用者の網膜に映し出すと言う優れものだった。しかも罠の発見率はほぼ百%という精密性だった。その代わり、値段は高く、最低でも、百万以上はするものだった。


「私が歩いている道にしっかりとついてきてね。私が歩いているところは安全だから」


僕とノアはレナの言う通りに、レナの後ろをピッタリとついて歩いて行くのだった。

歩いて行くと、すぐに分かれ道が現れた。

そう言えば、説明していなかったけれど、今の二階層のようになっているダンジョンでは地図が意味を成さない。一階層のようになっている階層は常にその階層の形は同じで変わることは無い。しかし、二階層のようだと、その形が定期的に変わる。だから、地図を書いても意味が無いのだった。


「二人ともどっちに行きたい?」


「うーん」


「右でいいんじゃないですか? 特に理由は無いですけど」


僕とレナが迷っていると、後ろにいたノアがそう言った。


「じゃあ、右に行こっか。ゼロ君もそれでいい?」


「うん」


そうして、僕たちはノアの提案した右の分かれ道へと進んでいった。


右の分かれ道を歩いていると、バサバサっと言う音が僕たちの方へと近づいて来た。


「二人とも、モンスターが来るよ」


その音にいち早く気づいたレナが僕たちへと言った。だんだんとバサバサと言う音が大きくなりはじめた。


「レナさん、この音って・・・・」


「うん、サウンドバットだね」


ノアとレナがそう言うと、奥から白色をした蝙蝠が僕たちに姿を現した。


「サウンドバット!!」


その蝙蝠の姿を見て、僕はモンスターの名を叫んだのだった。






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