三十二話 いざ明治神宮ダンジョンへ
七月 十三日 午前七時 五十分
僕たちは集合時間よりも少し早めに明治神宮ダンジョンへと着いた。明治神宮ダンジョンはダンジョンがある以外にも、普通に神社としても機能している。そのため、参拝客なども大勢居た。とは言っても、ここが世界的にも有名なダンジョンである事には変わりない。そのため、多くの冒険者らしき格好をした人たちが明治神宮の大部分を占めていた。
「わー、やっぱり人が多いねー」
「レナは来たことがあるんだっけ?」
「うん。ニ、三回だけだけどね」
「大丈夫だったの? その時は」
「うん。その時はパーティーメンバーもちゃんといたしね。そこまで危険ではなかったよ」
「そっかぁ。ねぇレナ、レナの前のメンバーって———」
「あっ、いたいた、レナさーん!!」
僕が前々から気になっていたレナの昔のパーティーメンバーについて聞こうとすると、レナの名前を呼ぶ声が僕の声をかき消した。
「早いですね、レナさん」
大声でレナの名前を呼んだノア君は右腕を振りながら、レナの元へと走ってきた。
「そんなことないよ。私たちも今着いたところだしね」
時間は七時 五十五分で、集合時間にはまだ五分の猶予があった。
「おはよう、レナ君」
「おはよう、今日は僕の力を見せてやるから、しっかりと見とけよ!」
僕がノア君に挨拶をすると、ノア君も一応は挨拶を返してくれた。
まぁ、レナの前だからって言うのも多少はあるんだろうけどね。というか、ノア君は僕の事嫌ってそうだし。
「よーし、じゃあ三人揃った事だし、早速ダンジョンへ向かおっかー」
「はい!」
「うん」
そうして、僕たちは三人でダンジョンの入り口へと向かった。僕たちが今いるのは明治神宮の三の鳥居の前だった。そして、ダンジョンは明治神宮の本殿のすぐ近くにある。だから、少しダンジョンの入り口までは歩かなければいけなかった。ダンジョンまでの道のりでは、さまざまな店が各所にあった。モンスターの素材をお金に換金する所や、簡単なものではあるけど、冒険者の装備や冒険者の使う魔道具などを買うところなどがあった。
「ねぇレナ。罠を発見するための魔道具とかは買わなくて良いの?」
「ん? あー、それは大丈夫。私が既に持ってるからさ。罠専用の魔道具を前作っておいたんだよねー」
「へー、そんなのもあるんだ」
そんな時、横にいたノア君が僕の耳元でボソッと呟いた。
「ゼロ、レナさんのあの魔道具は普通じゃないからな? あれ一つだけで何百万とするんだぞ?」
「へぇー、‥‥えっ? マジで?」
ノア君は僕のその問いにこくこくと頷いた。
僕は冒険者というよりかはレナの財力を改めて実感した。
やっぱりレナってすごい冒険者の一人なんだよなぁー。普段からは想像しにくいけど。
「二人ともどうしたの?」
「いや、なんでもないよ、レナ」
「そう? あっ、本殿が見えてきたよ!」
明治神宮の本殿はさっきまでいた鳥居とは違い、辺りには冒険者だけがいた。明治神宮では、ダンジョンが現れてからは、一般人が参拝などに使う場所と本殿を別の場所に変更していた。それは純粋に一般人の安全性を考慮してのことだった。だから、よほどのことがない限りは、冒険者でない人たちは本殿には来ないのだった。
「じゃあ申請に行ってくるから、少し待ってて」
そう言うと、レナは入り方の近くにある、組合の受付のような場所へと向かっていった。明治神宮ダンジョンのように、普通のダンジョンよりも危険な場所などではこうして組合が申請を許可したパーティーだけがダンジョンに行くことができるようにしている。普通よりも危険な場所のため、死亡率が普通のダンジョンより高いことから、一定の力がなければそもそもダンジョンに入る事すらを規制しているのだった。
しばらくすると、レナが僕たちの元へと戻ってきた。
「お待たせー。申請取れたよー」
「ありがとうレナ」
「どういたしましてー」
さっき説明した通り、一定の力がないとダンジョンに入ることが出来ない。それは僕とて同じで、レナがいなければ僕はダンジョンに入ることが出来なかった。だから、僕はレナには感謝しかなかった。
「申請も取れたことだし、ダンジョンへ入ろっか! 準備はもう大丈夫? 二人とも」
僕とノア君はレナのその言葉に頷いた。
とは言っても、僕がした準備といえばダンジョン内で食べる食料ぐらいだけどね
「よーし、じゃあしゅっぱーつ!!」
レナの掛け声と共に、僕たちはダンジョンへと入っていった。
明治神宮ダンジョン 最上層
明治神宮ダンジョンへ入り僕は少し緊張をしながら階段を降りていくと、そこはダンジョンというよりかはまるで花畑と言った方が正しいほどに花が咲き誇っていてとても綺麗な場所だった。外のじめじめとした天気とは違ってダンジョンの中では晴天であった
「うわー!! すごい!」
僕は入ってすぐに見えた景色に感嘆を漏らした。それとは別にレナとノア君はいたって普通そうな顔をしていた。
「驚いた? ゼロ君。あの明治神宮ダンジョンの最上層が花畑になってる事に」
「うん!むしろなんで二人とも驚いてないの?」
「私は何回か来て見慣れちゃってるからなー」
「僕も同じです。最初に来た時は流石に驚きましたけど、もう慣れましたね」
「ノア君も来たことがあるの?」
「もちろん。僕は銀級だしな」
「さっ、ゼロ君。気を引き締め直して。いくら花畑だからって油断しちゃダメだよー」
「うん」
そうして、僕は花畑に寄って緩んだ気を引き締め直した。
ここは明治神宮ダンジョンだ。しっかりと集中しないと。
———そうだな歩。いくら君が強くなったからと言って油断は良くないからな。
(「はい!」)
———ここから驚くことがたくさんあると思うが頑張れよ歩。それと、集中しすぎても緊張はするなよ。いつも通りのパフォーマンスを出せるようにしておけ
(「はい、分かってます」)
———明治神宮ダンジョンは君にとって良い経験になるよ。手助けは出来ないが、心から応援しているよ
レティアの声援は僕にとって心強いものだった。お陰で、ダンジョンに入った時からしていた緊張が解けたような気がした。
僕たちは地上へと続く階段から花畑の方へと歩いて行った。花畑を歩いていると、突然僕たちの方へと蟻が襲ってきた。しかも、蟻とは言っても、僕たちの足くらいの大きさの巨大な蟻だった。
「ゼロ君、来たよ!」
「うん、行くよ!!」
僕とレナはそれぞれが武器を取り出し、蟻へと向かって行った。
それにしても、最上層からジャイアントアントが出るとは。これが明治神宮ダンジョンか
ジャイアントアント
それは名前の通り体が大きな蟻のモンスターだ。普通の蟻とは違って、体内で強酸の蟻酸を吐き出し、獲物などを溶かす。そして、その身体はとても硬く、生半可な攻撃だと弾かれてしまう。そして、一番厄介な点がその個体数が非常に多いことだった。基本的に一体のジャイアントアントと遭遇したら、その十倍のジャイアントアントと戦わなければならない。群れでの強さではレッドダンジョンのオーガより若干上程度の強い分類のモンスターだった。
「ゼロ君、大丈夫そう? ジャイアントアントは硬いけど」
「大丈夫!! 修行の成果を見せるよ!」
そうして、僕は腰に差していた鬼月を鞘から抜き出して構えた。そして、僕は修行の時に師匠から教わった事を思い出していた。
『ゼロ、お前がダンジョンで多対一の状況があった時は、この型を使え。これだったら、相手に知性などがない限りは囲まれた時でさえも一掃することが出来る』
師匠にボコボコにされながら、師匠に言われた事を思い出し、フッと口元に笑みが出ていた。
「柳生新陰流 五式 虎爪・裂!!」
この五式 虎爪・裂は虎爪の応用の技だ。本来の虎爪は一人の相手に向かって、虎の爪で攻撃したように三本の爪で切り裂くように、相手に剣撃を放つ技だ。しかし、虎爪・裂はそれを一人から大勢の敵へと放つ技で、一人に打つよりかはダメージは落ちるけれど、その分多くの敵にダメージを与えることが出来る技だった。
その言葉と共に、僕は鬼月を横にしてジャイアントアントに向かって振った。そして、僕たちへ突進するように向かってきたジャイアントアントの殆どが縦に三枚に卸されて絶命した。残った数匹のジャイアントアントはすぐにレナが仕留めてくれていた。
「!!!!」
後ろで見ていたノア君は僕のした事をとても驚いているようだった。
「ゼロ君! すっごいね、それ!!」
レナもジャイアントアントを倒してすぐに、僕の元へと来た。
「師匠直伝だからね! それにしても良かったよ。僕の力が通用して」
「ひょっとして自信なかったの?」
「師匠にボコボコにされすぎてちょっとだけ」
「それだけの力があれば、金でも十分に通用するよ!」
「それなら良かった」
レナと僕が話していると、ノア君も歩いて来た。
「だから言ったでしょ、ノア君! ゼロ君は強いって」
「はい。そうですね、正直お前のことを見くびっていたよゼロ。てっきり、レナさんに気に入られただけの弱いやつだと思ってた。それに関してはゴメン」
ノア君はあっさりと、僕へと頭を下げて謝罪をした。どうやら、ノア君は僕がレナに取り入っただけの口だけのやつだと思っていたようだった。
「大丈夫だよ。ノア君。じゃあ改めてよろしく、ノア君」
「うん。よろしく、ゼロ。それと僕のこともノアで良いよ」
「うん。ノアく‥‥、ノア」
そうして僕たちは改めて握手をしたのだった。
「よしっ、二人ともジャイアントアントの魔石を取ったら、出発しよ!」
「うん」
「はい!」
そうして、僕たちはジャイアントアントの魔石を取ってから、また探索を続けるのだった。
次回は今週中に更新です
今回のようにこれから段々と柳生新陰流の技が出てきます。お楽しみに!!
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