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二十九話 非情な真実

———組合本部三階 組合マスター室


僕たちはマスター室への前へと来ていた。僕はここに来るまでに、ずっと後ろから殺気みたいなものを感じていた。というか現在進行形で。

まぁ、気にしないでおこう。


(たつ)さん、入るよー」


レナはマスター室の扉を叩いて、そう言った。そして、レナが扉を開けた。


「おお、来たか」


マスター室の中には一人の男の人がいた。その人は、僕でも知っている有名人だった。そして、その人は僕たちを見るならすぐに僕たちいや、僕と言うよりかは師匠の方へと近づいてきた。


「おう宗一郎、 久しぶりだなぁ!」


「ああ、龍羽(たつは)。最近は組合に行けてなくてすまなかったな」


「そう思うなら、今度一緒に飲みに行こうぜ。宗一郎」


「ああ、今度な」


この人と話している時の師匠は楽しそうだった。そして、その人は師匠と話し終わると、僕の方を向いて話しかけてきた。


「そして、その黒い仮面をつけている君が無明 ゼロだな。本当に真っ黒い仮面をしているんだなぁ!」


「えっ、あっ、うん。あっ、はい」


僕は急に話しかけられたことにびっくりしてしまい、変な応答をしてしまった。そして、この男の人は僕が黒い仮面を付けていることに全く気にしている様子はなかった。さっきここにくるまでは、他の冒険者や受付嬢や今ここにいるノア君ですら少し怖がっていたのに。

まぁ、でもこの人だからこんなのは見慣れているのかな


「ハッハハ、そんな緊張しなくていい。話はレナから聞いている。何やら、レナが自慢するほど優秀らしいな」


「そんな事はないですよ。まだまだ未熟ですし」


僕は今度はしっかりと敬語を使って応答した。


「そう謙遜するなよ。自信を持つ事はいい事だぞ?」


「いえ、でも未熟なのは本当のことなので」


「ハッハハ、そうかそうか。まぁこれからも頑張れよ」


そう言うと、その男の人はは僕の肩をバシバシと叩きながらそう言った。


「あー、そういえばまだ自己紹介をしていなかったな、俺は組合マスターの夜越(やごし) 龍羽(たつは)だ。よろしくな! ゼロ」


「組合のマスターの事はかねがねお伺いしています。こちらこそよろしくお願いします」


「おう!」


僕はこの人のことをよく知っていた。

いや、僕だけではないか。

なにせ、この人は日本はもちろん世界的に見ても有名な人物の一人だ。この夜越 龍羽は組合のマスターでありながら、元金級の冒険者だった人だ。黒級にはなれなかったが、それでも、冒険者をしていた当時は黒級にも引けを取らないほどの実力を持っていたらしい。この人は史上三人目となるたった一人でゴールドダンジョンを攻略すると言う伝説を作った人でもあった。確か年齢は四十歳くらいで、師匠と同じくらいの歳だったはず。しかし、その身体は今も鍛えているのかまさに筋骨隆々といった印象を受けるものだった。冒険者を引退しても、全く衰えている気配が無かった。

ちなみにだけどその当時、ゴールドダンジョンを一人で攻略した三人というのは一人目がレティア•トライゾンそして、イギリスの冒険者で現在も黒級であるハインツ=S=インフェルノだけだった。


——龍羽か!! それにしても老けたなぁこいつ。まぁ当時から老けてはいたがな


すると突然レティアが反応してきた。どうやらレティアもこの人のことは知っているらしい。


(「レティアも知っているんですか?」)


——ああ、一度だけだが一緒にダンジョンへ行ったこともあるしな。なぜ金級なのかわからんほどに強かったな。近接も遠距離もどちらもこなしていて優秀な人材だったな。特に遠距離はすごかった。あれほどの使い手は今でもそういないだろ。そうか、こいつがマスターをやっているのか


(「三年前くらいからですね。詳しいことはよく知らないんですけど、怪我の後遺症で冒険者を引退したそうです」)


——へぇ、そうなのか


「龍さん! 自己紹介が終わったなら、早速本題に入りましょう」


「ああ、そうだったな」


さっきまでは、朗らかで笑顔だった組合マスターの表情が引き締まり、真剣な顔つきをして、マスター室にある椅子へと座った。


「お前らも、立っていないで、そこのソファにかけてくれ」


そう催促されて、僕たちはマスターが座った椅子の前にある大きなテーブルを囲むように置かれたソファへ腰を下ろした。


「早速だがお前たちに集まってもらったのはほかでもないダンジョンで起きた異変について情報を共有するためだ」


ダンジョンの異変? そんなことが起きたのなら、確かに師匠が呼ばれる理由は分かる。でも、僕が呼ばれた理由が本当によく分からないな


「これに関してはレナとノアから話がある。レナ、ノア、あとは頼む」


「はい」


「はいはい」


「これは私とノア君が経験した話なんだけど。四週間前くらい、ゼロ君たちにとっては私と別れた後だね。その時に、私たちは新しく出現したダンジョンへ行ったんだよ。そして———」

そして、レナとノア君が自分達の体験した事を全て話した。

レナたちの口から語られた話はとんでもない事だった。話を一通り聞き終えた僕たちはその事件の重大さに驚愕していた。


「成る程。そんなことがあったのか。よく無事でいられたな、レナ」


「いやー、無事ってわけじゃないけど、ノア君がいたからなんとかね」


「それにしても、モンスターが喋った上に、能力までも使ってくるとはな」


「本当だよね、今までそんなの見たことも聞いたことすらないのに」


「この事を他に知っている奴はいるのか?」


「いいや多分いないと思うけど」


「それに関しては俺から話そう。実際、こいつらの話は外部においそれと漏らしていい話じゃない。だから、すぐさま、外部へと情報の規制をかけたよ」


今まで、黙って話を聞いていたマスターが口を開いた。


「そうか。確かにこんなことが外部へ広まったら、パニックだとかいう次元じゃ無くなるしな」


「ああ」


「確かに、それはとんでもない話ですね。でも、その話だったら、なんで僕もここに呼ばれたんですか?」


「あーそれはね。ゼロ君さ、私と初めて会った時のこと覚えてる?」


「? 覚えてるけど‥‥、それが?」


「その時にさゼロ君黒いオーガを倒したって言ってたよね」


「はい、あっ!」


「うん。ゼロ君が倒したオーガと今回のゴブリンは色々と共通点が多いんだよ。多分、それは今回の事件に関わっていると思う」


「じゃあ、僕はその時の状況を伝えればいいんだね?」


「話が早くて助かるよ」


「じゃあ———」


そうして、それから五分ほどして、僕がその時に経験した事を話し終えた。


「ゼロ、そのオーガは喋ることなどはなかったんだな?」


話を聞き終えると、マスターが僕へ質問をしてきた。


「はい。しかし、確実に意志の様なものを持っていました。それに、アイツは戦いの中で成長していました」


「ハァ‥‥、そうか」


そう言うと、マスターは自分の眉間を押さえて、天井を仰いだ。


「全員これを見てくれ。そして、今から見ることは絶対に口外するな」


マスターは僕たちの前の大きなテーブルに三枚の紙を出したて置いた。そこには驚くべきことが書かれていた。


「「「「!!!!!!」」」」


そこには、この紙が無かったら誰も信じることすらない様なまるで荒唐無稽なことが書かれていた。

『—以上より、この検体のベースは()()である』


「これはレナがダンジョンを攻略した際に、変異種ゴブリンの死体を提供してくれたことから判明したことだ」


「まさか、本当に人だったとはね」


「え‥‥、と言うことはまさか、僕が倒したオーガも!?」


「ああ、十中八九で人がベースにされているだろうな」


「!!!!」


僕は衝撃的な事実を受けて俯いてしまった。そして、僕のつけていた黒い仮面が下へと落ちた。落ちた仮面は僕の顔をじっと覗き込む様に暗い眼を僕へと向けていた。冷や汗が出て、僕は体に鳥肌が立つほどに寒く感じた。僕が下を向いていると隣に座っていた師匠が僕の頭に手をのせて言った。


「ゼロ、辛いかもしれないが今は前を向け。後悔や焦りは後にしろ」


「‥‥はい」


僕は下に落ちた仮面を拾って顔に付け直した。

今は泣きそうで、吐きそうな気分だったけど、他の人たちにそれを気遣わせない様に、仮面をした。レナは僕の考えも見抜いていたのか優しい顔をしていた。一見したら師匠のこの言葉はキツイものだと思うけれど、師匠なりの励ましだと僕は知っていた。そして、僕の頭に乗せられた師匠の手はとても心が安らいだ。


「すみません。続けてください」


「ああ。お前たちに俺から質問があるんだが、そもそも変異種はどう言ったものか知っているか」


マスターは僕たちへとそう聞いてきた。


「普通のモンスターよりも何段階か強くなっている個体のことだよね」


「後、確か変異種の身体の色は元々の個体の色が()()()()()()になっているんでしたっけ」


「ああ、そうだ。今ノアが言ったように普通の変異種はゴブリンだったら緑から赤紫、オーガだったら赤から青緑のようになる」


「と言うことは‥‥」


「そうだ。普通ならば変異種でも黒色になることはない。確かに、元の色が白だったらその可能性はあるがな」


「龍羽、これは何者かに造られた存在ということか?」


「ああ、宗一郎。その通りだ。間違いなく、このモンスターは何者かが造った存在だ。それにレナ。お前は、こいつの口から聞いたんだろう?」


「うん、聞いた。自分は作られた存在だって言ってたよ」


「‥‥そうか」


それから、少し皆んなの間には深い沈黙が走った。マスター室には重く話すことすら躊躇われるようなそんな空気が漂っていた。それに、皆んなは受け入れているけれど、僕は人を殺してしまったという事を受け入れきれずにいた。

今すぐにでも逃げ出したい気分だった。しかし、逃げ出しても何も意味がないことは僕自身が一番よく知っていた。だから、今僕は必死に逃げ出したい気持ちを押さえつけ、この場にいた。


「空気が重くなったな。とりあえず、今日の所はこれで解散しよう。お前らに忠告だが、くれぐれも外部に今日のことは漏らすなよ」


マスターのその言葉に、僕たちは頷いた。


「よし。じゃあ解散だ。それと宗一郎、お前は少し残ってくれ」


「? ああ」


そうして、僕たちは師匠を残して、組合マスター室を後にするのだった。

次回まで話が湿っぽくなります。次の次くらいからまたダンジョンに戻ると思います。


次回は日曜日までに更新します。

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