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二十八話 再会

——七月 十二日 午前六時半


僕は、この日で師匠から教わった柳生新陰流の一刀式を全て体得した。

まぁ、体得したとは言っても、師匠には全然勝てなくて、免許皆伝は貰えなかったんだけど・・・・。

とは言え、師匠本人からも、一応技自体は太鼓判を押せるほどに出来てると褒められていた。それに、柳生新陰流には一刀式以外にも、二刀式や無刀式などもあるらしい。しかし、今回は僕が一刀しか使っていないことや時間が有り余っているわけでは無いことなどから、一刀式だけを教わった。

ちなみに、レナも師匠から柳生新陰流を教わっていた頃があり、無刀式と双剣術を教わっていたらしい。今のレナの戦闘スタイルは、柳生新陰流と自分のダンジョンでの経験を混合して編み出したスタイルで、レナ独自のものらしい。

そして、修行を終えてから師匠は、『一刀式を覚えたお前なら、ゴールドダンジョンも行けるだろう。それに、今は白級だが、すぐに金級までは行けるだろう』と僕へと言った。


そして、僕は今師匠と家の風呂に入っていた。師匠の家の風呂はもはや温泉と言っても過言じゃ無いほどの大きさのため、二人で入っても、全く狭くは無かった。

僕は体を洗い終えてから、湯船へと浸かった。少し離れてはいるけど、隣には先に体を洗え終えて、頭に畳んだタオルを乗せた師匠がいた。風呂ではピチョーンという水滴の音が響いていた。少しして、師匠が僕へと話しかけてきた。


「ゼロ、修行はどうだったか?」


「キツかったですけど、楽しかったです。それに、少しですけど、強くなれた実感も有りますし」


「そうか」


師匠は少し嬉しそうな顔をしていた。僕が師匠の顔を見るとすぐにそっぽを向いて、元の顔に戻っていたけど。


「そういえば師匠、師匠も今日組合に行くんですよね?」


「ああ、何故か知らんが三週間ほど前から組合から呼ばれていてな。お前の修行が終わったから今日行くつもりだ」


「え、三週間前からですか? それ大丈夫なんですか?」


「大丈夫では無いが、レナとの約束が先にあったからな。俺は約束は守る主義だからな。それに、弟子の成長を見るのは楽しいから。まぁ、流石に緊急な事だったら行くが、今回は緊急では無かったようだしな」


「そうですか‥‥。僕のためにありがとうございます」


「何、気にすることはない。そういえばお前も行くんだろう? 組合に」


「はい。昨日、レナから連絡が来たんですよ。『明日、来れたら組合に来てねー』って」


「そうか、それはそうとゼロ。ダンジョンへはいつ行くんだ?」


「まだ、ちゃんとは決めてないですね。レナの予定とかも分かりませんし」


「そうか。だが、ゼロ。ゴールドダンジョンとか高難易度ダンジョンに行く前に、少し難易度が低い場所で連携や調整を行っておけ。そうしないと、いざという時に噛み合わなくて、死に繋がるからな」


「はい」


師匠のその言葉は妙に重かった。師匠自身がこの事を経験したのかはわからないけどとにかく、これに関しては気をつけようと僕は心の中で決めた。


「よし」


「師匠」


「なんだ?」


「気になっていたんですが、その傷はどうしたんですか?」


「ああ、これか」


師匠の身体には大きな傷が一つだけあった。その傷は左肩から、右の脇腹付近まで一直線に切られたようなものだった。師匠の身体にはたった一つだけその大きな傷があった。


「これは俺の親友がつけたものだ。一度だけ大喧嘩したことがあってな。その時に付けられたものだ」


「え? 師匠にそんな傷を合わせた人がいるんですか!? その人は今どこに?」


「‥‥、死んだよ。十九年前に」


師匠は遠い目をしてそう言った。その時師匠がとても悲しそうに、そして辛そうにそう言った。


「!! すみません」


「いや、良いんだ‥‥。話が暗くなったな、のぼせるし俺は先に上がる」


「僕はもう少し浸かってから行きます」


「のぼせるなよ」


そういうと、師匠は頭に置いていたタオルを持って、風呂から出ていった。僕は一人、湯船に浸かっていた。辺りには、風呂に水滴が落ちて、ピチョーンという音だけがこだましていた。


——歩、君は今、柳生 宗一郎に同情しているのか?


「‥‥」


——もしそうなら、その考えは捨てろ。同情するのは悪い事じゃない。ただ、その同情は時として相手を最も傷つけてしまうことがあるからな。それは君自身がよくわかっているはずだろう?


「はい、分かってます」


——なら良い


久しぶりにレティアから説教というか、助言というような言葉をかけられた。


多分、師匠が言っていた十九年前の事件は師匠が黒級になった時の事件のことだろう。割と有名な話だから知っていたけど、まさか、亡くなっていた人が師匠の親友だったとは思わなかった。


「あっついな、そろそろ出るか」


そして、シャワーを浴びてから、僕も風呂を出たのだった。


風呂から出ると、既に菫さんが朝ごはんを作ってくれていた。そして、その朝ごはんはいつもよりも豪華なものだった。

師匠は『修行が終わった祝いだ』と言っていた。

菫さんのご飯は相変わらず、美味しかった。一ヶ月間ずっと食事を作ってくれたことに感謝しかなかった。

そして、朝ごはんを食べ終わり、組合へ行く時間となった。


「菫さん、一ヶ月間お世話になりました!」


「また来てね。ゼロ君」


「はい!」


「それじゃあ菫、行ってくる」


「はい、行ってらっしゃい」


そして、僕は菫さんに感謝を伝えると、一ヶ月近く着けていなかった黒い仮面を着けて師匠と二人で組合へと向かった。


街はまた、朝早い時間帯だったことも相まって、スーツを着たサラリーマンたちが多く歩いていた。まだ八時半だというのに、日差しは強くて既に三十度近くあった。サラリーマンたちも各々が、シャツを捲っていたりしていた。


「暑いですね、師匠」


「そうだな」


「それにしても、師匠。用事って何でしょうね?」


「さぁな、ただ、今回は柳生 宗一郎個人ではなくて、黒級としての招集だからな。何かあったんだろう」


「そうですか」


そして、僕たちは直ぐに組合本部へと着いた。

外は暑いけど、師匠の家から本部までは割と近くて助かった。

中へ入ると、冒険者がちらほらいた。しかし、特にこちらを気にする様子はなかった。隣には日本の誇る天下の黒級がいるというのに。


中に入ると、僕はポケットからスマホを取り出し、レナに組合へ着いた事を伝えた。直ぐに返信が来て、入口で待っていてとのことだった。


「師匠、入口で待っていてと言われたので僕はここにいます。師匠はどうしますか?」


「俺もお前とレナを待とう。俺もレナに呼ばれていてな」


「そうだったんですか」


一分もしない内に、レナは僕たちの元へと来た。


「ゼロくーん!! 久しぶりだね〜〜!!」


いきなり、レナは僕に抱きつく勢いで僕の元へ走ってきた。


「久しぶりだね、レナ」


僕は何とかレナの突進もといハグを躱して答えた。すると、レナの後ろから、もう一人誰かが僕の方へと歩いてきた。

何故かはわからないけど、僕に対して殺気が満々で、顔を見ると、とても可愛い女の子だった。


「レナさん? そいつが前言っていたパーティーメンバーですか?」


「そうだよ〜」


「レナ、この女の子は誰?」


「「!!!!」」


僕がそういうと、女の子の体が震えていた。そして、直ぐに、レナが笑い出した。


「プッ、アッハハハハハ!!!! ゼロ君、この子は男の子だよ」


「え!? この子が!?」


僕が衝撃の事実に驚愕していると、レナが紹介してくれた。


「ゼロ君、この子は・・・・」


しかし、その男の子(?)がレナの言葉を遮った。


「レナさん、自分で言います。ゼロとか言ったな?! 僕はノア•ライヘンドア、れっきとした男だ!! お前みたいなやつを僕はレナさんのパーティーメンバーとは認めないからな!!」


この、ノア君は初対面のはずの僕に対して既にバチバチだった。


「ええっと、僕は無明 ゼロです。性別を間違えた事はごめんね。とりあえず、よろしく?」


「ふん!」


僕がそう言ってノア君に握手を求めようと手を差し出したが、ノア君はそっぽを向いてしまった。


「ほら、ノア君、ゼロ君と仲良くしてねー」


「‥‥、レナさんがそう言うなら」


レナのその言葉を聞くと、渋々とノア君は僕と握手を交わした。どうやらノア君はレナにとても憧れている、もといレナのことを好いているらしかった。

だから、初対面の僕にこんな敵意剥き出しなのか・・・。

ノア君は僕の手をギリギリと力一杯握っているようだったけど、力が弱いのか、僕が強くなったのか、あるいはそのどちらもかはわからないけど、全く痛く無かった。

すると、横で一連のやり取りを見ていた師匠がレナへ言った。


「そんなことよりも、レナ。要件は何なんだ?」


「あー、そのことなんですけどね。ここじゃ何なので、組合マスターの部屋へ行きましょう。話はそこで」


「じゃあ、僕は話が終わるまでここで待ってるね?」


「いや、ゼロ君も来て。ゼロ君にも関係ある話だから」


「?? わかった」


僕、なんか悪いことしたっけなぁ。

僕はマスター室は呼ばれるようなことをした記憶は無かったけど、素直にレナの言葉に頷いた。

そうして、僕たちは三階にあるマスター室へと向かった。そこで僕たちはとんでもないことを知るのだった。

次回は今週中に更新します。

感想やコメントなどお待ちしてますのでよろしくお願いします!

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