二十七話 シルバーダンジョンとレナ ④
私がアイツの目の前で転び、アイツが私へ拳を振り下ろした瞬間、私の顔には恐怖や逃げられない死の実感から来る絶望の顔ではなく、私もアイツと同じように笑っていた。そして、バキッという音が辺りに響いた。
そこには、先ほどまでの構図とは違って私がアイツを見下すようになっていた。私はノア君の回復によって傷は完治し、逆にアイツは私の目の前で地面に張り付いていた。そして、アイツの右腕は筋肉いや、骨が曲がってはいけない方向に曲がっていた。そして、それは右腕だけでなく、両足そして左腕に至っては皮膚が割れてあちこちから出血していた。
「ガッアアアアアアア!!!!!!!! な、何が起こっタ??!!」
アイツは両足の骨が折れているのか、立ち上がれずに地面に張り付きながら絶叫していた。
「そんなことも分からないのかな? 君は」
「何故? 何故? 何故? 何故? 何故、俺が倒れているんだ!」
アイツは今のこの現状をよほど把握し切ることができていないのか、壊れたように自分が倒れていることに対して疑問を言い続けていた。
「答えてあげるよ。君はさぁ、自分の能力……違うな、自分自身に対して過信をし過ぎたんだよ。だから、私に負けたんだ」
「しかし、現に俺はさっきまでお前を殺す寸前だった! 過信をした程度で俺が負けるわけがない!!」
確かに、こいつの言っていることは一理ある。普通なら、あの場面に陥った時点でその人の死は確定したようなものだ。しかし、こと今回に関しては相手が悪いんだ。何度も言うけど、アイツと戦っていた女性は始動 レナだ。
「じゃあ教えてあげるよ。君はさぁ、君の能力が途中から、身体に追いついてなかったってことに気づいてた?」
「は? 嘘を言うな! 俺がお前の動きについていけていたことが何よりの証拠だ!!」
「だーかーらー、君は途中から、自分自身の身体のキャパを超えてたんだよ。確かに私について来れてはいたね。でもさぁ、君の筋繊維や骨は君の成長のスピードに追いつかなかったんだよ。だから、今君の身体はボロボロなんだよ」
人間の出せる力に限界値が決まっているのは、それ以上出すと身体が壊れるから。そりゃ、モンスターであろうとキャパを超えたらぶっ壊れる。
「油断で気が緩んだんじゃ無い? 食いしばり続けた力を緩めたら、そりゃ急に反動は来るでしょ」
「・・・・じゃあ、お前はどうなんだ? 俺の成長が追いつかないほどに身体能力を上げたお前の身体はどうなんだ!!」
「そりゃもちろん、私だって身体はボロボロになるよ。だってさっきの私のアレは諸刃の剣だからね。でもそれは私一人だったらの時だよ。今はノア君がいるからさ」
私のさっきまでのあの身体能力は私の能力の空間跳躍を何度も繰り返した事による速度の上昇だ。私の能力は行動や動作の一部分を任意で省く。
しかし、そこで生じるエネルギー量などは保存される。要するに、殴る動作の腕をって殴る直前までの動作を省いたとしても、殴った時の威力は動作を省かなかった時と変わらない。
そして、そのエネルギー量は私自身に蓄積される。だから、殴る直前までの動作を一回省くのではなく、何回もその動作を省くことで速度や威力の底上げをしている。しかし、当然そんな動きをすれば私の身体もあちこちにガタが出る。それをノア君がカバーし続けてくれていた。さっきノア君に話したのもこれを伝えるためだった。
それでも、私がやり過ぎて、結局はノア君の回復が追いつかなくて、アイツの前で倒れちゃったんだけどねー。・・・・流石に、ブランクが大きすぎたか。
それを聞くと、アイツは納得がいったのかどうかは分からないが、地面に張り付いたまま、仰向けになって、目だけ動かして私を見た。アイツの顔はさっきまでの状況を受け入れることが出来ないという表情から、全てを受け入れたような表情をしていた。
「俺の負け‥‥か。・・・・認めたくはないがな!! まぁしかし、お前との戦いは楽しかった。そうか、俺は過信し過ぎたのか」
「うん。っていうか君、案外素直に受け入れるんだねー」
「それはそうだ。これは戦いだからな。そこには勝った、負けた、しか存在しない。そして、勝った者の言葉が戦いの全てだ。だからお前の言葉を否定する気などはない」
「そっか。あっ! そういえば君に質問があった」
「なんだ?」
「さっきも聞いたけどさ、君は一体何なの?」
「その事か。すまないがそれに関しては話すことは無い。いや話せないと言った方がいいか。しかし、一つだけは言える。俺は作り物で人間のようなものだ」
「! そっか。他に何か言うことはある?」
「ないな」
「そっか。じゃあ、君にトドメを刺すね。最後に私の名前を教えてあげる。私は始動 レナ」
「そうか。しかし、生憎俺には名前が無い」
「大丈夫。君のことは名前がわからなくても忘れないよ」
そう言うと、アイツはフッと笑った。
「そうか、ではさらばだ、始動 レナ」
私はそれ以上は何も答えることなく、アイツのひび割れて肉が見えている胸部の心臓の位置に剣を押し込んだ。そして、私が心臓を貫いた後、少ししてアイツの目から光が消えた。
ノア君が姿を隠すための魔道具をとって私のもとへと来た。
「終わりましたか」
「うん。あとはダンジョンがどうなるのかだね」
そして程なくして、ダンジョンが崩壊し始めた。どうやらアイツがこのダンジョンのボスとして扱われていたらしい。それにこのダンジョンは二重ダンジョンの心配もないようだった。
「よし、ダンジョンも崩壊し始めたし、帰ろっかノア君」
ダンジョンは崩壊すると、中にいる人間や地球の生物などはそのダンジョンがあった場所の地上部分へと排出される。それは、ダンジョンに吸収されていなければ、死体も同じように外へ排出される。
しかし、モンスターやその死体はダンジョンと一緒に消滅してしまう。
「でも、このままだったら、せっかく倒したのにそいつの死体は消えてしまうんじゃ・・・・」
「いや、多分大丈夫だと思うよ。こいつにはそもそも魔石がなかったからね」
(私がさっき貫いたのもアレは確実に心臓だった。魔石がないとなるとやっぱりこいつはほぼ確定で人間だね。でも、誰が? 何のために? うーん、疑問は深まるばかりで、考えがいまいちよく纏まんないなー)
すると、ダンジョンの壁などが段々と薄くなっていった。そして、ダンジョン全体が一瞬だけ目を開けられないほどに眩しく光った。そして、目を閉じて、再び目を開けるとそこは地上だった。そこは、私がこのダンジョンには入る時に来た所だった。そして、私の傍らにはアイツの死体があった。
「ほらね、ノア君。大丈夫だったでしょ?」
「そうですね。ということは、こいつがさっき言ってた人間だと言うのは本当ということなのか‥‥?」
「うーん、どうだろうね」
ノア君が一人、考えているのを私は横から遮るようにそう言った。ノア君はこの事件にあまり触れるべきじゃないと思う。今はまだ。
そうしていると、私たちの向こうからスーツを身に纏った男性と女性が来た。どうやら、ダンジョンの崩壊を聞きつけて組合の関係者が来たようだった。
「ほら、ノア君。組合の人が来たよ。ダンジョンの事情とかこいつに関してとか説明しに行こ」
「えっ、あっはい。そうですね」
そうして、私たちは組合に今回の事件について説明しに行くのだった。
一身上の都合により、大幅に更新が遅れました。次回は月曜日までに行います。
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