二十五話 シルバーダンジョンとレナ ②
私たちは宝箱が有った部屋を出てから、中層の探索を続けた。そして、下層への階段を見つけるまではそう時間は掛からなかった。
「下層への階段はすぐに見つかりましたね。レナさん!!」
「そうだねー、でもなぜか全くモンスターが出なかったね」
「きっと運が良かったんですよ!!」
「どうする? ノア君。今日はここでやめとく?」
「この調子なら、今日でこのダンジョンをクリアできますよ!! ここで止めるなんてまさか!!」
「‥‥ノア君がいいなら分かった」
「?? どうかしたんですか? レナさん」
「いやー、ちょっとね」(‥‥なんか嫌な予感がするんだよねー、なんか下へ招かれているようなそんな気がするんだよなー)
「じゃあ、ささっと終わらせましょう、レナさん!!」
「‥‥そうだねー、早く終わればいいねー」
ちょうど時を同じくして、
———ダンジョン ボス部屋
「グオオオオオオ!!!!!!」
ボス部屋では、本来ならばこのダンジョンのボスであるゴブリン•キングの絶叫が響き渡っていた。高さが五メートルも六メートルもあるゴブリン•キングの胸部は素手で貫かれていた。辺りには、ただのゴブリン、レナが倒したマジックゴブリンや、ナイトゴブリンなどの、キングの配下達の死骸が無数に転がっていた。
辺り一面は真っ赤を通り越し、地面が血で染まりすぎた結果、黒に近い色になっていた。そして、ゴブリン•キングの胸を貫いた存在が返り血を浴びてダンジョンの光に照らされながら、佇んでいた。そして、キングの胸から腕を引き抜くと、まるで自分が新たなボスであるかのように先ほどまでキングが座っていた玉座に座り直していた。その証拠に、ダンジョンは未だ崩壊していない。
———ダンジョン下層
「まだダンジョンに入ってから、一時間くらいしか経ってないのにもう下層に着きましたよ!! これ以上ないってくらいに順調ですよ!」
「確かにねー。でも、油断はだめだよー。下層からはモンスターのレベルも格段に強くなるしね」
「・・・・確かに、そうですね。気を引き締めます!」
「うんうん、それがいいよー」
そうして、私たちは中層で緩んでいた気を引き締め直し、下層へと挑んだ。しかし、そんな私たちをよそに、下層ですら、モンスターが襲ってくることはついぞ無かった。
モンスターが襲って来ないため、一番部屋の広さが大きい下層ですら、ボス部屋を見つけるまでに三十分程度しか掛からなかった。そして、私たちは、無傷で特に疲れもないまま、ボス部屋の前まで来た。否、来てしまったと言うべきか。
「レナさん? 流石に下層でもモンスターが襲ってこないとなると‥‥‥」
「・・・・うん。このダンジョンでは、絶対に何かが起こってるね。それも、多分良いことじゃない。それで、多分この奥にその原因があると思う」
私はさっきまでとは違い、真剣な顔つきをしてノア君に言った。そして、いつでも全力で戦えるよう、臨戦態勢をとった。そして、ノア君もそんな私を見て戦う準備を万端にしていた。
「じゃあ、開けるよ」
そう言って、ボス部屋に入るための重厚な扉へ手をかけた。扉はゴゥンと音を立ててゆっくりと開いていった。
「なっ、これは!!?」
扉を開いてすぐに私たちの目に飛び込んできた物は、夥しい数のゴブリン達の死体であった。あるものは細切れ状態に、あるものは全身を一刀両断に、あるものは首が切られていたり、様々な殺され方をした死体が転がっていた。
「酷い有様ですね‥‥。!! レナさん!!あれを見てください! あれってゴブリン•キングじゃないですか?」
そう言って、ゴブリン・キングの元へ駆けていこうとしたノア君を私は手で制した。
「どうしたんですか?レナさん」
「あそこに椅子みたいなものがあるのが見える?」
「見えますけど何か‥‥、」
「気づいた?」
「‥‥はい。何かがあそこに座っていますね」
ゴブリン•キングの死体の奥の方に、椅子があった。本来ならばゴブリン•キングが座っているはずの玉座が。そして、その玉座には先程ゴブリン•キングを殺し、この一面の惨状を引き起こしたであろう張本人が座っていた。
「‥‥ちょっと、やばいかもね、あいつは」
私は椅子に座っている奴を見て、即座に二本の剣を引き抜いた。私の頬から冷や汗が流れる。
「レナさん、僕は姿を隠して援護します。くれぐれも気をつけてください!」
「うん。ノア君も気をつけて」
ノア君は頷くと、異空鞄からローブを出して身につけた。
ノア君が着たローブは星桜財閥謹製の魔法具で、光の加減や布自体が反射を行うことで、装着者の姿をほぼ百パーセント不可視にすると言うものだ。素材はシルバーダンジョン以上で出てくるモンスターの素材が使われている。そして、回復役はこう言ったものを着たりすることで、モンスターから狙われることを防ぎ、メンバーたちを回復する。
ノア君がローブを着て、フードを被り頭まで隠すと、すぐにノア君の全身が消えた。
「フーーッ、、さぁ、やるか」
私は一度深く呼吸をして、未だ玉座に座っている奴のことを見た。そして、私が剣を構えるのを見ると、玉座から立ち上がり、ゆっくりと私の方へ近づいてきた。そいつが私の方へ近づいてきて初めて分かったけど、そいつの体は真っ黒だった。だから、見にくかったのだ。そして、背は二メートルくらいで、細いけれど筋肉質な体をしていた。全体的に見て、ゴブリンを縦に伸ばし、筋肉をつけたような感じだった。その証拠に顔はゴブリンのような顔で、ゴブリンの様な長い耳がついていた。ここまで、証拠が揃っていればほぼ確実だろう。こいつは変異種だ。
しかもここはシルバーダンジョンだ。シルバーダンジョンでの変異種と言ったら、ゴールドやブラックダンジョンに匹敵するほどの力を持っていることになる。
「これは‥‥、私一人じゃ少し手に余るなぁー」
そう呟いた瞬間だった。私の目の前で驚くべきことが起こった。
「‥‥あ、お、お、お前は、ツ、ツ、強イモノか??」
!! モンスターが喋った?! ありえない。
そう、あり得ない。モンスターは知能を持っている奴や、同じ種族で意思疎通をすることはある。しかし、どれもが共通して、人間と喋ることは出来ないでいた。それなのに、モンスターが、それも知能が低いと言われているゴブリンが人間の言葉を話すなんて到底ありえないことだった。
「さぁ、どうだろうね?」
私はなるべく動揺を隠しながらこのゴブリンに答えた。多分、ノア君も、今のこの状況に驚いているだろう。
「お、おれは、強いモ、モ、モノをも、求めて、イル。お前は、ド、ドウナンダ?」
「弱いって言ったら、君は引いてくれるのかな?」
「か、関係、な、ない。ド、っちで、でモ、コ、コロス」
「だったら、ノーコメントかなぁー。それに戦ったら分かるよ、私が強いかどうかは」
「ソレモ、ソ、そうダ」
「私からも二つ、聞いて良いかい?」
「ナ、何だ」
「この現状は君がやったのか?」
「ソ、ソウダ。こ、こいツラは、き、期待外れ、ダッた」
(ゴブリン・キングが期待はずれか‥‥)
ゴブリン・キングは決して弱いモンスターじゃない。むしろ強い分類だ。確かに、ゴブリン・キング単体であったならば、そこまでの脅威というわけではない。しかし、ゴブリン・キングは、そいつの持つ大量の配下たちが常にキングを守りながら戦うのだ。だから、数では圧倒的な差で負けている。そのため、ゴブリン・キングを倒すのはだいぶ面倒くさい上に、危険も割と多いのだ。現に、年に冒険者の数百人がゴブリン・キングによって殺されている。それを、目の前のこいつは期待はずれだと言った。その言葉一つで、こいつの強さはとても高いということが否応なしに分かってしまう。
「じゃあもう一つ、君は何者なのかな?」
「お、俺は、なな、名前は、ナい。ただ、ツ、ツくらレただけだ」
「作られた?」
どういうことだ? こいつを作った? 意味がわからない。
「モ、もうは、話ハ、終わリダ」
そう言うと急にそいつは私へ向かってきた。そいつが先ほどまでいた場所はそいつが踏み込んだ衝撃で地面が凹んでいた。そして、すぐに私へ肉薄する。
クソッ、考えを纏める時間も無い。
「チッ!!」
「死ネ」
そいつが右手を握り締め、私へ殴りかかった。しかし、私は能力を発動し、攻撃を既に躱していた。そいつの攻撃は空を殴った。
「それはこっちのセリフだよ」
私はそいつの後頭部へ移動すると、そいつのうなじへ右手で持っている剣を振り下ろした。
刃がうなじへと届くとギィンと金属同士が当たりあったかのような不快な音を立てた。見ると、そいつの首は血は流れているものの、その一撃は致命傷とは程遠いものだった。
本気で振り下ろしたわけではなかったとはいえ、跳躍の慣性も込みのその一撃はせいぜい薄皮が一枚切れた程度だった。逆に、衝撃で私の右腕が痺れていた。
すぐさま私は、その場から後ろへ下がった。そいつは、左腕を大きく後ろへ振りかぶり、私へ当てようとした。そして、振りかぶられた勢いを利用して体を捻り、正面を向いた。
「お、お前、ナ、中々ヤ、やるな」
そいつはニヤァと笑った。そいつは攻撃が躱されたことにイラつくどころか喜んでいた。まるで戦いを楽しんでいる様だった。
チッ、やりにくい相手だなぁー。さらに、皮膚が硬い。
「君は思ったよりも遅いね」
「ヌ、抜かせ、こ、こ、コレからダ」
右腕をチラッと見ると、まだ少し痺れていた。しかし、すぐに、その症状は消えた。ノア君が痺れているのを察して直してくれたのだろう。右腕は違和感のない状態になった。
そうして、私たちの戦いはここから、熾烈を極めるものとなっていくのだった。
そして、何処かは分からない。しかし、確かにその人物はこの私たちの戦いを顔面越しに見ていた。ニヤツイた笑顔を顔に貼り付けながら。確かに見ていたのだった。
次回は今週中に更新します
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