二十話 黒の実力
「さぁ、かかってこい!!」
目の前の黒級の冒険者が僕へ叫んだ。正直に言えば、今からでも話し合いにどうにかして切り替えたいところだった。しかし、そんなことを言う暇も無かった。レナはさっき僕に耳打ちしてから、すぐにその場を離れ、この部屋の二階部分にある観覧席のような場所へ移動していた。
「能力も武器も、お前が持ち得る全てを使ってかかってこい。そうじゃないと、意味がないからな。俺を殺すつもりでこい」
「は‥‥?」
「‥‥なんだ? お前からは来ないのか? ならば俺から行こうか」
そう言い終わると、黒級は走り出した。先ほどまでは百メートルほども離れていたはずなのに、もう既に、黒級の持っている刀が僕へ届くほどの位置まで接近されていた。すかさず、僕も鬼月を鞘から引き抜いた。辺りには刀同士がぶつかり合う高音が鳴り響いた。僕はなんとか黒級の初撃を鬼月で防いだ。
「くっ‥‥!!」
「反応はいいな」
「そりゃどうもッ!!」
そうして、僕は力を込め、鍔迫り合いの状態から黒級を弾き飛ばした。
「ほう! 膂力も中々あるようだな」
そう言う黒級の顔には笑みが溢れていた。どうやらこの人はこの戦いを心の底から楽しんでいるようだった。レティアはこの人について心当たりがあるようだった。
——あの黒級は‥‥、
(「レティアは知っているんですか?」)
——知っているぞ。寧ろなんで君は自分の国の黒級を知らないんだ? ああ、そうか。名前は知っていても、顔は知らないのか
(「日本の黒級? まさか、柳生 宗一郎か!!」)
柳生 宗一郎、その人は日本が所有しているただ一人の黒級であった。その名は、日本に住んでいる人ならばみんな知っている。日本史の教科書にすら名前が載っている。しかし、素顔は明らかにされておらず、一部の冒険者などしか知らなかい。かろうじて僕がこの人に関して知っていることといえば、刀を使うことと、柳生新陰流の担い手であると言うことだけであった。
——そうだ。まさか、そんな大物が出てくるとはな! これに関しては私もびっくりしているよ
(「本当に同感ですよ。まさか、レナの知り合いが黒級だとは思いませんよ!」)
——しかし、私も彼が戦うところを見るのは初めてだな。私も会ったことがあるとはいえ、それはダンジョンの外で一度だけだったからな。まぁしかし、これ以上に君の修行にぴったりな者はいないだろう。存分にやれよ、歩!
(「わかってますよ!! 」)
「さぁ次はお前からだ。攻撃も見せてみろ」
柳生宗一郎は刀を構え直して、僕へ切っ先を向けた。
「じゃあ、行きます」
僕も、鬼月の切っ先を柳生の方へ向けて地面を蹴り出し、柳生の元へ駆け出した。そしてすぐに僕の攻撃の届く範囲に柳生が入った。一方で柳生は避けるどころか刀で防ぐ行為すらしなかった。僕は刀を柳生へ振り下ろそうとした。しかしそれでも尚、柳生は全く動かなかった。
(「なんでこの人は動かないんだ‥‥? このままじゃ本当に死ぬぞ?」)
そして、僕はその躊躇から攻撃の手が緩んだ。その瞬間、柳生の刀がありえない速度で、僕の刀と柳生の身体の間へ入ってきた。
「お前、今躊躇したな? 俺はさっき言ったはずだ、殺す気でこいとな」
そのまま僕と柳生は鍔迫り合いの状態になった。しかし、今度はさっきと違い、僕がどれだけ力を込めても、柳生の体は動かなかった。 それどころか徐々に僕の刀が押し戻され始めた。
「どうした? もっと力を入れろ」
「クッ、、これでも全力だよ!」
全力を使っても、柳生に押し勝つことができなかった。僕は背後に飛び退き、鍔迫り合いを脱した。
「その判断はいい。ほらもっとかかって来い」
「やってやるよ!!」
今度は正面からではなく、フェイントなどを織り混ぜ、柳生の側面から連撃を仕掛けた。今度は躊躇をせずに鬼月を振った。しかし、その全てを最小限の動きで回避、迎撃され、鬼月が柳生の体へ到達することはなかった。連撃が防がれると同時に、後ろへ飛び退き、一歩で柳生は跳躍し、突きを放った。しかし、柳生はその突きを刀の切っ先同士を当て、相殺した。
(「マジかよ‥‥これすらも防ぐのか。それに切っ先同士を当てるとかふざけるのにも程があるだろ!」)
しかもその事実に加えて、柳生はまだ能力を使った様子がなかった。つまり、今僕の攻撃は柳生宗一郎の、個人の力で完封されているというわけだった。
「なるほど。お前の力の大体はわかった。お前は刀の振りが雑だ。どこを斬ろうとしているか、どこを狙っているかがバレバレだ。まぁしかし、筋は良い。じゃあ、俺の番だ。今度は本気を見せてやる。死ぬ気で受けろ」
「はっ?」
柳生はそう言うと同時に、一瞬にして、僕の懐へ入った。そして、いつの間にか鞘に納められていた刀の柄に手をかけた。
「柳生新陰流・一刀:二式 神速」
「なあっっ‥‥!!」
柳生は刀を文字通り、目に見えないレベルの速さで引き抜き、僕へ切りかかった。僕は直感的に鬼月に封印を掛けつつ縦に構え柳生の抜刀撃を防ごうとした。しかし、その刀は速いだけでなくそれに比例するように威力もさっきまでとは桁違いなものだった。僕はその抜刀撃を受け止めることができずに、五十メートル程度先の壁に体ごと吹っ飛ばされ、壁に体が打ちつけられた。
「ガフッ‥‥!」
吹っ飛ばされた僕の体は壁から地面へ落ちた。しかし、壁はトランポリンのようになっていて柔らかかったため、オーガに吹っ飛ばされた時のように骨が折れることはなかった。しかし、刀を持っていた両手は痺れ、震えていた。もし、あの一瞬で刀に封印を掛けていなかったら、刀が折られ、体が真っ二つになっていたかもしれないと思うと、ゾッと恐怖を感じた。
「大丈夫だったか?」
柳生が刀を鞘に戻し、僕の方へ歩いてきた。僕は震える手を無理矢理使って、体を起こして立った。
「大丈夫です。特に問題はないですよ」
「フッ‥‥、その様子なら大丈夫だな」
僕の強がっている姿を見て、柳生は少し笑って言った。そして、柳生は僕に腕を伸ばしてきた。
「いきなり、すまなかったな。改めて、俺は柳生 宗一郎だ。レナからお前を弟子にしてくれと連絡があってな。‥‥まぁそう言うことだ。これからお前の師匠になる。よろしく」
「えっ、ああ、はい」
僕が事態を飲み込めないままそう言って、僕も柳生いや、師匠へ腕を伸ばし、握手を交わした。
「良かったね〜。ゼロ君!!」
二階にいたレナが降りてきて、僕達の元へ来た。そして、師匠の方を向いた。
「どうでした? 宗一郎さん。私の言った通りだったでしょ? ゼロ君は才能あるって」
「‥‥荒削りだが、そうだな」
「他人にほとんど関心ない宗一郎さんが認めるほどですもんね〜」
「レナ、余計なことは言わなくて良い」
「良かったね〜ゼロ君。まっ!私はゼロ君が認められることは分かってたけどね〜」
レナが僕の方を満面の笑みと共に向いてきた。
「えっ、ああ、うん。ありがとう」
「あれ、ひょっとしてまだ混乱してる?」
「そりゃそうでしょ! いきなり黒級と戦わせられて、混乱しないわけがないでしょ!」
「おい、レナ。お前説明してなかったのか」
「サプライズにしようかな〜と思ってたからね」
「ハァ、全くお前と言う奴は‥‥」
師匠はため息を吐いて、頭を押さえた。
「でも、とりあえず! ゼロ君は宗一郎さんの弟子になったってことで良いんだよね?」
「まぁ、そうだな。おいゼロ、お前は今日からこの柳生宗一郎の弟子だ。これから柳生新陰流や身体の使い方を教えてやる。キツイが逃げ出すなよ?」
「はい。よろしくお願いします」
「よし」
そう話して、僕達はもう一度握手をしたのだった。
更新が遅くなりました。次回は月曜日までにはできると思います。
とうとう黒級が出ましたね! 本編でも言っていましたが、宗一郎はまだ能力を使ってないです。今後能力も開示していくので、期待していてください。余談ですが宗一郎は五人兄弟の長男です。割と面倒見が良いです。
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