09.謎の男の正体
俺の名前は千里透真。
超能力者同士の戦い、サイカーバトルに出会った俺は、様々な思惑が重なるその戦いに巻き込まれていく。
そして今日は、サイカーたちの派閥の1つ、ガーディアン派に遊びに行くことにした。
以前、いつでも遊びに来てくれと知念心に言われたからな。それに癒川快斗とは蜘蛛型の化け物の戦い以降会っていない。
様子を見に行きつつ、あの時の戦いのお礼もしなくちゃな。
……決して大学が無くて友達もいないから暇とかいうわけじゃないからな!
ちなみに今、俺は絶賛迷子中だ。そもそもガーディアン派の基地には、俺が倒れた時に運び込まれた。
そして帰りにそのままイレイス派に連行されてしまったので、道をよく覚えていない。
大学から運べるってことは、そう遠くはないはず…うーん、どこだ?
辺りをキョロキョロしていると、明るいオレンジ色が視界に入る。白衣を来たオレンジ髪のその男は…
「あっ、癒川快斗!」
癒川快斗。ガーディアン派の1人にして回復能力を持つサイカー。
「快斗でいい。どうしたんだい? こんなところで。」
癒川快斗…改め、快斗がそう言った。とりあえず、こいつに会えたってことはガーディアン派まで辿り着ける!
「ガーディアン派まで遊びに行こうと思って。この前のお礼も兼ねて、さ。」
俺はそう言った。だが、快斗は若干不機嫌そうだ。
「やめてよ気持ち悪い。だいたい、俺たちは敵同士だよ? 今は心っちにブースターを渡してあるし、戦う気はないけどさ。」
ブースターは現在、ガーディアン派、リヴァイヴァル派、ステート派、そして俺が1台ずつ所持している。
「いや、知念がいつでも来てくれって言うからさ。」
俺はそう言った。彼とは何度か共に戦った仲だ。
「はぁ、心っちは相変わらず心っちしてるな…しょーがない、ついてきなよ。」
俺は快斗に連れられて、ガーディアン派へと向かうのだった。
◆◆◆
ガーディアン派、到着! 思ったより距離があったな…この距離を以前運んでくれたのか。
若干申し訳なくなりつつ、俺は建物に入った。
小綺麗な部屋だ。部屋に入ったと同時に、柑橘系の香りがする。…こんなにいい部屋だったっけ。
部屋にある巨大なモニターに、ヘッドホンをつけた知念心が向き合っていた。いつものなよなよ感も、モニターの前だと不思議とかっこよく見える。
「あっ、千里さん! 来てくれたんですね!」
知念心はこちらに気づき、ヘッドホンを外した。
「悪い。邪魔しちゃったな。」
ただ遊びに来ただけだから、邪魔だったら引き返そう。そう思っていたが、引き止められた。
「ただ調べ事をしていただけだから大丈夫です! さ、ぜひこちらに!」
部屋の奥へ案内される。
「調べ事…もしかして、この前言ってた欠員の…」
ガーディアン派は人を探しているみたいだった。2人には助けられたし、俺も力になれることがあればしたい。
「はい。遡先現って人です。ガーディアン派のリーダーで、仲間だったんですが…」
知念心がそこで口を閉じた。消えたガーディアン派のリーダー、か。
「半年前に失踪。それからは、一度も姿を見せていないんだ。」
知念心の代わりに、快斗がそう言った。
「俺も探すのを手伝うよ。特徴とかあれば教えて欲しい。」
俺の透視能力なら、もしかしたら人探しの役に立てるかもしれない。
「俺が説明しよう。遡先現。35歳男性。責任感が強く正義に燃えるガーディアン派の創設者だ。」
快斗がそう言った。この前も思ったが、こいつは説明するのが好きなのかな。
「ええ。他のサイカーたちがみんな18歳である中、唯一の大人なんです。」
知念心がそう補足する。他のサイカーはみんな18歳だって? 俺と鑑見さんは同い年であることは分かっていたが、他もみんな18歳なの?
比護守や予兆未来は18歳には見えなかったけど…過去一の衝撃かもしれない。
「これが写真だよ。この顔にピンと来たら連絡を…ってね。」
そう言って快斗が1枚の写真を見せた。黒い髪に白のメッシュが入った笑顔の男が、そこに写っている。この顔…どこかで見たような……
「うーん…あっ! こいつは!」
俺はこの男を知っている。顔は無表情だし、メッシュも紫になっているから一瞬分からなかったけど、間違いない。
「こいつは…化け物を生み出している犯人だ。」
人々を守るガーディアン派のリーダーが、化け物を操る謎の男へ。一体何があったのか…
「「なんだって!?」」
2人は驚いた。謎の男は、一度しか姿を見せたことがない。2人が知らないのも当然か。
「…って、なに冗談言ってんだ。あの人に限ってそれはありえない。」
快斗はすぐにそう言った。いきなり信じるってのも無理な話か。
「僕も…信じられません。遡先さんは、僕たちの憧れの人でした。」
知念心もそう言う。なら…見つけるしかないな。
「よし、じゃあ探しに行こう! 化け物はいつもサイカーバトルの最中に現れる。俺たちが戦って、やつをおびき寄せるんだ。」
俺はブースターを掲げて立ち上がった。百聞は一見にしかず、だ。
◆◆◆
「ほ、本当にやるんですか…?」
知念心がそう言った。当たり前だ。その為にわざわざ、人があまりいない東京湾のゴミ処理場まで来た。
運転は、免許取り立ての快斗がやってくれた。いざという時の回復役も兼ねて、彼は戦いには参加させないでおく。
「ああ。いくぞ、知念!」
俺はブースターを腕につける。知念心も、腕に装着した。
「「ブーストアップ!」」
俺は知念心を見る。念動力の使い手だ。
「い、いきます…!」
知念心は鉄パイプを浮かせて俺に投げつけてきた。びくびくしている様子とは違って攻撃はガチだな。
俺は咄嗟にそれを躱すも、次々に色んなものが飛んでくる。空き缶、タイヤ、フライパン……
流石に数が多い。何か防げるものはないか…
俺はゴミの山に目を向ける。透視能力で良さげなものを探すのだ。
おっ、いいもの発見。これは、標識かな?
俺はそこまで走り、道路標識の看板部分を盾にした。思ったより軽いが、防ぐのには十分。
「こっちも負けてられないな!」
俺は粗大ゴミ置き場で見つけた自転車に向かって走ろうとする。これで自転車アタックを決めようと思っていたが、その時目の前に黒い泥が出現する。
「貴様らの相手はこいつだ。さあ、戦うがいい。」
抑揚のない男の声がする。よし、餌にかかったみたいだ。
「出たな、遡先現!」
俺は空に向かってそう叫んだ。すると、黒い泥が消えていく。
「俺の正体に気づくとはな。即刻消し去るのみ。」
謎の男…遡先現が姿を現した。現が現したって、ややこしい。
「遡先さん…? 嘘ですよね…」
知念心は彼を見て、膝をつく。やはり謎の男は、遡先現だった。
「なんでこんなことしてるんですか! あなたの理想はどこへ!」
快斗がそう叫んだ。仲間の裏切り…2人にとってはかなりショックだろう。
「…お前たちが知る必要はない。」
そう言うと、遡先現は紫の剣を作り出し、俺に迫り来る。
俺は咄嗟に持っていた標識を投げる。
ガキンッ!
その音と共に、真っ二つに割れる標識。その間から、遡先現が見える。
…まずい、本気だ。
俺は瞬時に察した。以前はどこか探るような態度だったが、今日は本気。俺も本気で相手をしないと、命はないだろう。
相変わらずやつの情報は何一つ見えない。他の2人は完全に戦意喪失している。絶望的な状況だが、やるしかない。
こういう時こそ、紳士は冷静でいるべきだ。俺は深呼吸をし、周囲を見渡した。……あれは、磁石付きのクレーンだ。
幸い、ここはゴミの山。俺の透視能力なら、遮蔽物の多いこの空間でも相手の位置が正確に分かる。
隠れて、磁選機の下まで相手を誘導し…正確なタイミングでクレーンの磁石を落とせば、不意打ちが狙えるかもしれない。
俺は近くにあったタイヤを投げつけ、その隙にゴミの山の後ろに隠れた。
透視で遡先現の居場所を見つつ、見つからないようにゴミの山を回る。このままこっちの方に来てくれれば、ちょうど磁石を落とせるはずだ。
「こっちだ! 化け物男!」
俺・クレーン・遡先現の位置になったところで声を出した。すると、遡先現がこちらに気づき、迫ってくる。
3、2、1……よし、今だ!
『ブラッドインジェクト。出力レベル1。』
俺はブースターのボタンを押し、持っていたナイフを投げる。ゴミの山から発見したものだ。
ブラッドインジェクトにより勢いを増したナイフが磁石を支えるチェーンを切った。これで、巨大な磁石が相手に落ちるはず。
「小癪な真似だな。」
遡先現は真上に向かって一閃。なんと、巨大な磁石すら切り裂いて見せた。
通用しない。このままだとやばい。
「逃げろ! 千里!」
快斗がそう叫んだ。そしてこちらに走ってくる。
あいつも戦えないだろうに、相変わらずの自己犠牲精神だ。
だが、遡先現は動きをピタリと止めた。
「……千里だと?」
遡先現はなにかを考えている様子。そして、剣を消した。
「そういうことか。今はお前の相手をする時ではない。」
遡先現が姿を消す。よく分からないが、命拾いしたみたいだ。
「うわあああああ!!!!!!」
遠くから、膝をついている知念心の叫びが聞こえる。
俺たちは、暗い顔のままガーディアン派の基地へ戻るのだった。
◆◆◆
「僕、決めました。遡先さんに何があったのか…戦いの中で、その答えに絶対に辿り着きます。」
ガーディアン派の基地で、知念心が覚悟を決めた顔でそう言った。
「たとえかつての仲間だとしても、化け物に加担している時点で、あの人を許すわけにはいかない。」
快斗も似たような表情でそう言った。ガーディアン派の2人は、サイカーバトルだけでなく遡先現のことも追うようだ。
もちろん俺も、あの男には聞きたいことが山ほどある。
やつは千里という名に反応していた。もしかしたら、俺の親父のことを知っているのかもしれない。
遊びに来ただけのはずが、とんでもないことになってしまった。
とりあえず、これ以上今の俺にできることは何も無い。
俺はガーディアン派を後にし、自宅に帰るのだった。




