10.玻璃美澄の休日
俺の名前は千里透真。
超能力者同士の戦い、サイカーバトルに出会った俺は、その戦いに巻き込まれていく。
化け物を生み出す謎の男、遡先現との戦いから数日後。
俺はこれまで得てきた情報を整理して考えていた。
俺の知りたいことは2つ。超能力の起源と、親父の行方だ。
超能力の起源は分からないけど、俺は2つの時期が怪しいと睨んでいる。
1つは15年前。東京が封鎖された時期であり、化け物がいたという頃だ。
そしてもう1つは、3年前。サイカーバトルはこの時期から始まったらしい。
サイカーが遡先現を除いて全員18歳というのも気になる。だが、この情報は特に何かに繋がらない。
そして、親父の行方。今のところ親父を知っていそうな人物はたった1人…遡先現だ。
だが、この前俺はあいつに圧倒された。もっと強くならなきゃ、あいつから話は聞けないだろう。
……考えすぎていると甘いものが食べたくなってきたな。休憩がてら、人気と噂の喫茶店にでも行くとしよう。
俺はそう決めて、外へ出た。
◆◆◆
俺が行こうとしている喫茶店は、パフェとプリンが人気らしい。テレビでの特集やネットニュースでよく見かける。
もちろん東京は封鎖都市なので、テレビもネットも都内のみのものだけど。
何食べようかなー、実は甘いものには目が無かったりするんだよね。
そんなことを考えながら歩いていると、曲がり角で人とぶつかった。
うわっ…危ねぇ。
慌てて俺はその人の背中に手を回す。
「おおっと、すまないレディ。」
俺はクールにそう言う。この子が転ばなくて良かったぜ。
そう思いながらその子の顔を見ると…
「って、みすみん!?」
驚いた。イレイス派の雇われサイカー、玻璃美澄ことみすみん。普段は動きやすそうな服装の彼女が、今日は可愛らしい服装でスカートを履いている。
「…みすみんって呼ばないで。はぁ、せっかくの休日なのに最悪。」
しまった。みすみん呼びは心の中に留めておこうと思っていたが、つい口に出てしまった。
「ごめん、玻璃さん! つい…」
俺がそう言った時には、もうみすみんは居なかった。
もう歩き出している。…まあいいや、休日みたいだし。
俺も喫茶店に向かうため、歩き出した。
道を曲がり、信号を渡ってもう1回曲がる。喫茶店はすぐそこだ。
「……ついてこないで。」
前のみすみんがそう言った。驚くほど道が一緒で、正直気まずい。
「いやいや、たまたま同じ道で…ほら、あそこの喫茶店に行きたかったんだ。」
俺は慌ててそう言う。俺は紳士だ。ストーカーではない。
「え。……はぁ、ほんと最悪。」
みすみんはそう言って喫茶店のドアに手をかける。彼女もここ目的だったのか。
俺も入店した。
「いらっしゃいませ! 現在、2人席しか空いてなくて…相席でよろしいでしょうか?」
店員さんがそう言った。流石に断られるだろうな。
「あっ、えと…」
みすみんは意外にもあたふたしている。こういうのは苦手なのか?
ということで、俺たちは相席することになった。
「玻璃さん、今日は休みなのか?」
俺は話題を振る。彼女とはあまりちゃんと会話をしたことが無い。
「…うん。だからここに来た。」
みすみんはそう言った。任務中は雑談しない主義みたいだが、今日はちゃんと話してくれる。
「期間限定スペシャルパフェ。仕事で最終日まで来れなかったけど、やっと今日食べられる。」
みすみん、仕事尽くしだったのか……グータラ生活の俺が申し訳なくなってくる。
みすみんがパフェを頼んだので、俺も同じものにした。期間限定って聞いちゃうと、ね…
2人の前に豪華なパフェが並ぶ。見た目から圧倒的に凄い。いちご、いちご、いちごだ。4月らしく、いちごの果肉にいちごソース。クリームにもいちごが使われてるのか? ピンク色だ。
みすみんがパフェを食べる。その瞬間、無表情な彼女からは考えられないような笑顔が出る。
「…美味しい。はっ。」
その笑顔に不覚にもドキッとしてしまったが、彼女はすぐに無表情に戻った。俺がいるからだろうか。
「今日は休日なんだし、無理して無表情貫かなくてもいいからな。せっかくの休みだし、俺も気にしないから。」
俺のせいで休みを満喫できなくなってほしくはない。できれば今日は、とことん休日を楽しんで欲しい。
そんなことを思っていると、彼女はふふっと笑った。
「そうね、そうする。だって今日は休日だから。」
彼女は笑顔だ。普段は無表情なので気づかなかったが、笑顔が良く似合う。
そんなこんなで、俺たちはパフェを楽しんだ。
「…よかったら、買い物に付き合って。」
喫茶店を出た後、彼女にそう言われた。まさか彼女の方から誘ってくるとは…どうせこの後やることもないので、付き合うことにした。
◆◆◆
あれから、俺とみすみんはショッピングモールへ行った。洋服、化粧品、アクセサリー…
って、俺もしかして荷物持ち!? まあ、紳士たるものこんな沢山の荷物を持たせる訳にはいかないか…
あと、彼女が楽しめてそうだからいいとする。俺も、ただの付き添いだが思ったより楽しめている。
なんやかんやで楽しい一日だった。買い物も終えたし、帰るとするか…
「千里透真。貴様の実力を見せてみろ。」
突然、抑揚のない声がする。謎の男…遡先現だ。
目の前に黒い泥が出現。そこから化け物が現れた。
「玻璃さん、荷物ここに置いとくね。」
俺は買った荷物を置いて、ブースターを身につけた。みすみんは今ブースターをもっていないはずだから、俺がなんとかするしかない。
化け物の見た目は…エイだ。
「ブーストアップ!」
俺はブースターを使用し、化け物の方を見る。こいつの弱点は…目と目の間。タコ型のやつと同じだな。
だが、今回の問題は別にある。人気の多いショッピングモールの傍に現れてしまったので、下手に暴れさせると被害が大きくなってしまう。
ここはなるべく迅速に決めたいところだが…
俺は化け物の情報を更に見る。しっぽには強力な毒がある。そして体に触れると電撃攻撃が可能…触れるのも厳しいのか。
「時間を稼いで。その間に対処する。」
みすみんがそう言って、ショッピングモールへ走って行った。何か作戦があるのか? とりあえず言う通りにするしかない。
俺は透視能力で近づく人がいないか確認しつつ、化け物の周りを走る。俺にできる時間稼ぎは、これくらいだ。
程なくして、みすみんがやって来た。手につけてるのは…ゴム手袋。なるほど、ショッピングモールから調達してきたんだな。
「なるほど、任せた!」
俺はブースターを外し、みすみんに渡す。
「分かった。せっかくの休日を台無しにはさせない。」
みすみんはブースターをキャッチして、腕につけた。
「ブーストアップ。」
みすみんがそう言うと共に、姿を消す。彼女がブースターを使った戦いに、敗北はない。
『ブラッドインジェクト。出力レベル2。』
ボンッと音が鳴る。エイ型の化け物が吹き飛び、消滅した。
毒とか電撃とか色々あったのに発揮できずに倒して悪いな。でも、みすみん相手なら仕方がない。
「ナイスみすみ…いや、玻璃さん!」
俺はブースターを外したみすみんの元へ走って行った。危うくみすみんって言うところだった。
「…みすみんでいい。今日はありがと、楽しかった。」
みすみんはブースターを俺に渡してそう言った。みすみん呼びを許された…? 少しは心を開いて貰えたのかもしれない。
みすみんは荷物を持って立ち去ろうとする。
「ちょっと待ってよみすみん! 荷物は俺が持つって!」
紳士たるもの、荷物を持たせる訳にはいかない。俺はなんとか荷物を持って、みすみんを家まで送ることにした。
「そういえば、なんで俺たちをステート派から助け出してくれたんだ?」
帰り道で俺は彼女にそう聞いた。以前は任務だからと言っていたが、そんな任務をイレイス派が出すとは思えない。
「…予兆未来からの依頼だった。本当にそれだけ。」
みすみんはそう返す。一体なぜそんな依頼を…
「イレイス派には、きっと裏がある。私はそれを調べるために、あえて彼らに雇われることにした。」
みすみんから驚くべきことを聞いた。そんな話は聞いたことがない。以前イレイス派に行った時も、特に気になる所はなかった。
「それを俺に話して大丈夫なのか?」
俺は率直にそう聞く。俺はどこの派閥にも属していないサイカーだ。
「私もあなたと同じで、ブースター争奪戦には興味がないから。これまで戦いを見てきたけど、あなたは信用できる。」
みすみんがそう言った。やっぱり、心を開いてくれていたみたいだ。
「そっか…あいつらには警戒するよ。ありがと、みすみん。」
俺も以前、イレイス派に雇われたフリをしようとしたことがある。だが、未来を見ることができるサイカー、予兆未来に裏切る未来を見られ、俺の作戦は見破られた。
きっと予兆未来は、みすみんにも同じことをしただろう。でも見破られなかったということは…いつまでも裏切らず、探り続けるということ。
彼女の潜入は、きっと孤独だ。俺はそんな彼女が折れないよう、支えられたらいいなと思う。
俺は彼女と連絡先を交換し、別れた。
彼女の休日は、彼女にとって唯一素を見せられる日なのだろう。仕事中は無表情で雑談をしない主義なのも、潜入を悟られないためだとすれば納得できる。
…ちなみに、みすみんの家は俺の自宅からかなり近かった。




