11.アイドル爆誕!? サイカー大バトル!
俺の名前は千里透真。
超能力者同士の戦い、サイカーバトルに出会った俺は、その戦いに巻き込まれ、化け物と戦いながら日常を送っている。
今日も今日とて、日課のSNSチェック。東京は封鎖されているため、都内のみに制限されているがSNS自体は使える。
化け物の出現情報や、ブースターの所持状況が変わっていないかのチェックはSNSがやりやすい。
サイカーバトルについては、特に話題になりやすい。最近は化け物出現に伴ってサイカーバトルの観戦を自粛するよう促されているが、動画は出回っている。見てる人はいるってわけだな。
そんなこんなで今日もまた、SNSを開くが…
比護守、比護守、比護守…どの呟きにも比護守の文字が書いてある。一体何事だ?
俺はびっくりして、動画を再生する。そこには驚くべき光景が広がっていた。
『みんなー! こーんにーちはー! 君のハートは私が守る! ステート派の比護守だよー!』
……見てはいけないものを見てしまったかもしれない。
俺の知っている比護守は、強く、正義感もあり、筋の通った冷静な男。決して動画のように歌って踊るアイドルではない。
メガネに七三分けだったはずの彼が、メガネを外してオールバックなんて…
俺の中の比護守像が、音を立てて崩れ去った。
俺はテレビをつける。
『ステート派の応援よろしくね! それじゃ、歌うよー!』
テレビでも比護守だ。一体何が起きている? 悪夢?
ピーンポーン。
その時、インターホンがなった。こんな一人暮らしの大学生に用がある人なんて…
そう思いながらもドアを開ける。
目の前にいたのは、比護守だった。メガネに七三分けスタイルの。
ひぃ、逮捕されるぅ!
俺は慌ててドアを閉めようとしたが、比護守が足を挟んだせいで閉められない。
「千里、入れてくれないか?」
比護守がそう言う。…仕方ない。入れないとずっとそこに居そうだし。
俺は比護守を家に入れた。
『いぇい! みんな、ありがとー!』
あ、しまった。テレビつけっぱだ。
「……千里。見てしまったのか。」
比護守がそう言ってテレビを消した。
「…ごめん、見なかったことにする。」
俺はそう返すのが精一杯だった。比護守にこんな趣味があったなんて…
「いや、見てもらう分には全然いいんだが…」
比護守がなにやら言う。言い訳するようなタイプなのか?
「これは、ステート派の人気のために仕方なくやっていることだからな! 本来は速水がやるつもりだったが、押し付けられてしまって…」
ステート派の人気…そっか、ステート派って人気ないんだっけ。
以前俺を勧誘していた時も、確か人気取りに使おうとしてた気がする。
「んで、なんでわざわざ家に来たんだ? 見たところ逮捕する気もなさそうだが。」
俺は以前、比護守に逮捕されたことがある。あの時はみすみんの協力もあり、脱獄した。
「今の警備体制では、逮捕したところで無駄だろうからな。それに、俺はあのやり方はあまり好きではない。」
比護守がそう言った。この前も似たようなこと言ってたっけ。
「ステート派が人気になれているかを確かめるため、観戦可能なサイカーバトルをやりたい。協力してくれないか?」
比護守が頭を下げる。
化け物の出現により観戦ができなくなってしまったサイカーバトル。国が公式にその戦いを開催すると言ったら、盛り上がること間違いなしだろう。
それに俺は、ブースター争奪戦には興味がない。俺が勝ってブースターを手に入れたとしても、他の派閥と違って脅威にはならないという訳か。
「…俺にメリットは?」
このお願い、俺にとってはいい事がない。
「もちろん、ただとは言わんさ。アイドル活動で得た収益…ざっとこれくらい。君に回そう。」
そう言ってこちらに見せてきた比護守のスマホには、とんでもない数字が。
金か…魅力的すぎる…おおっと、決して金にがめつい男では無いぞ。ただ、東京での生活が思ったよりお金がかかって大変なのだ。
封鎖都市だからか、物価は他の地域より高い。事前に貯めていたお金だけでは今後も暮らしていけるか心配になる程に…ここらで儲けられるのは嬉しい。
「分かった、乗ろう。やるからには、全力で戦うからな。」
こうして、俺は国主催のサイカーバトルに出ることとなった。
◆◆◆
『さあ始まりました! 皆さんお待ちかねのサイカーバトル! 生で見ている皆さんも、テレビの前の皆さんも、ぜひアツい戦いを見届けてください!』
サイカーバトルの会場は、広い闘技場だ。化け物が出現する可能性を考慮してか、屋外で行われる。
さすが国が主催なだけある。実況の放送が入り、かなり賑わっている様子だ。
『選手を紹介する。人々を癒やす、愉快な男。ガーディアン派所属、癒川快斗!』
キャー、と歓声が響く。各派閥にとってこの試合は、ブースターを手に入れるチャンスだ。
ガーディアン派からは快斗が参戦なんだな。
『信じられるのは、己の力のみ。リヴァイバル派所属、義炎爆!』
これまた歓声。先程のものより女性の比率が高いような…ま、ワイルドでかっこいいから当然か。
義炎爆が参加するのは少し意外だった。大学でも戦っていたし、見られることは特に気にしていないのかな。
『紳士を目指す、期待のルーキー。千里透真!』
俺の番だ。先程までとは違い、キャーという声はない。代わりに、ウォーという野太い声が。え、俺って女性人気ないの? というかさっきまでと比べて声出してる人が少ないのか…ちょっとショック。
『国を背負う、新時代のアイドル。比護守!』
キャー、と黄色い歓声。比護守、アイドルとして成功してるんだ…そりゃ、あんな金額稼げてたらな…
そして戦場に現れた比護守は、アイドルスタイルだ。なにそのキラッキラの服。え、そんな爽やかな笑顔できたの?
「みんなー! ありがとう! 応援よろしくね!」
まじで目の前のこのアイドルと比護守が同一人物だとは思えない。ほら、義炎爆も若干引いてるよ。快斗はニヤニヤしてる。
『さあ、アツいバトルを見せてくれ! レディー、ゴー!』
というわけで試合が始まった。俺たち4人は腕にブースターをつける。
「ブーストアップ!」
左腕がチクッとする。この血を吸われる感覚があると、戦いが始まるって感じがするんだよね。
…ってか俺めっちゃ不利じゃない? みんなの能力はもう知ってるし、この戦場には障害物もないから透視を生かせないじゃん。
「いくぜお前ら!」
義炎爆が火の玉を投げる。俺はそれが来ることを予想していたので、躱すことに成功した。だが、躱した先には快斗が。やべ…って、快斗も攻撃手段は特にないのか。
火の玉を投げる義炎爆に、逃げる俺。これじゃまるでドッジボールだ。違う点があるとすれば、当たったら痛いのと……約2名、ズルいやつがいること。
バリア能力で火の玉を防ぐ比護守。回復能力で食らっても元気な快斗。え、ちゃんと戦ってるの俺だけすか?
「まずは義炎を倒さないことにはどうしようも無い。力を貸せ、千里!」
比護守がそう言い、空中にバリアを展開した。
おっけー、そういう事ね。
俺はジャンプしてそのバリアの上に乗る。比護守はバリアの足場を沢山生成してくれた。ちょっとした空中移動が可能だ。
それを見て、正面から義炎爆へ向かう快斗。いくら義炎爆と言えども、3人相手なら倒せるかもしれない。
快斗がチラッとこちらを見る。俺は頷いた。
『『ブラッドインジェクト。出力レベル1。』』
俺と快斗のブースターが同時にそう響いた。この先の戦いのために、血は温存したいから出力レベルは1。でも、2人分だ。
「ふん、群れで来るとは考えたな。」
『ブラッドインジェクト。出力レベル1。』
義炎爆もブースターのボタンを押した。前から快斗、上から俺が義炎爆に飛びかかる。
義炎爆の全身が炎に包まれ、俺たちに対峙する。
そして、激突。ドカーンと凄まじい音が鳴った。
『ブラッドインジェクト。出力レベル1。』
その時、もう一度その音が。俺でも快斗でも義炎爆でもない。まさか、比護守…!?
だが、特に何か起こった様子はなかった。俺はひとまず義炎爆から距離を取ろうと後ろに飛ぶ。
コツンとなにかにぶつかった。なんだ…壁?いや、バリアだ…!
どうやら俺、快斗、義炎爆の3人は、比護守の作ったバリアの壁に閉じ込められたようだ。
「みんな! これが私の実力だよ!」
比護守が観客席の方をみて、ファンサを決める。
キャーと響く黄色い歓声。確かに、3人を閉じ込めた手腕は見事なものだった。
「こんな壁、ぶち壊す! 俺が、強者になるために!」
義炎爆がブースターのボタンを押した。
『ブラッドインジェクト。最大出力です。』
彼の拳に、炎が集まる。最大出力…使う血の量が多く、倒れるリスクのある危険なものだ。
「やめろ! そんなことして、ただで済むと思ってるのか!」
快斗がそう叫ぶ。義炎爆は、出力レベル1のブラッドインジェクトも先程使用している。この局面での最大出力は、もはや命の危険もあるだろう。
「煩い! 俺は、決して屈しない…!」
義炎爆がバリアの壁を殴った。いとも簡単に崩れさるバリア。それだけでない。その衝撃で、俺と快斗は吹き飛ばされる。闘技場一帯が炎に包まれ、離れていた比護守すらも、ダメージを食らった様子。
「怯まず、恐れず、勝ち抜く!」
義炎爆の腕の炎が更に燃え上がった。その炎は腕から離れ、龍の形となる。
炎の龍が、闘技場に顕現した。
俺はその龍を見る。凄まじいエネルギーを秘めていることが分かった。
龍が暴れる。その標的は、近くにいた快斗。
「なんて、パワーだ…!」
龍が快斗に向かって炎を吐いた。快斗はそれをもろに食らってしまう。ブースターが義炎爆の元へ吹き飛んだ。
会場が更に湧く。こりゃ更に義炎爆推しが増えるな。
「流石だな、義炎。だが、それは長くは持つまい。」
比護守がそう言う。最大出力での使用。そのデメリットは、当然義炎爆も負う事となる。
炎の龍が、消滅した。フラッとする義炎爆。だが、倒れる直前、その足で地面を踏みしめる。
「俺は倒れない。まだ、理想が叶っていないからな。」
義炎爆がそう言って手をクイッとする。来いよ、と言っているようだ。
ここからが第2ラウンドか…そう思った時だった。
突然、義炎爆が倒れた。
その後ろには、眼帯をつけた男が。影宮幽が、義炎爆の影から現れて攻撃したのだ。
「ははははは!!!!!! いいザマだ、義炎爆! 今の貴様など、ただの雑魚だ!」
影宮幽は義炎爆を何度も踏みつける。こいつ、ずっとこの時を狙っていたのか。
『おおっと、ここで乱入者です。彼は…イレイス派の、影宮幽だ!』
そう実況が鳴り響く。会場はブーイングの嵐。
彼の乱入が波乱の幕開けであることは、知る由もなかった。




