08.強者と弱者の世界で
俺の名前は千里透真。
超能力者同士の戦い、サイカーバトルについて知った俺は、その戦いに巻き込まれていく。
ブースターを巡る4つの派閥や、化け物を生み出す謎の男と出会った俺は、怒涛の戦いに巻き込まれていくのだった。
あれから1週間。俺は、ものすごくグータラした生活をしていた。
一人暮らしってめちゃめちゃ大変で…完璧超人な俺も流石に疲れる…
ステート派から脱獄したが、特に大事にはなっていなかった。まあ、元々ステート派はあんまり国民に支持されてないらしいしな…
最近は毎日パスタ生活なので、たまには外に食べに行こうか。何かエネルギーが復活するようなもの…
「ラーメン、食べいくか。」
俺は立ち上がる。時刻は正午。ちょうどお昼の時間だ。
行きたかったラーメン屋があるんだ。そう、リヴァイバル派の拠点になっているあのラーメン屋。
ついでに鑑見さんに会えたりして…そんなことを思いながら、俺は家を後にした。
◆◆◆
着いた。いかにも老舗って感じのラーメン屋。俺はそこのドアを開ける。
「いらっしゃいま…って、なぜ来た!?」
俺を出迎えてくれたのは、義炎爆だった。お前も働いているのか…
「なぜって…ラーメン食べに来ただけだよ?」
俺はそう言う。写真の醤油ラーメン、美味そうだからな。
「…まあいい。座れ。」
義炎爆がそう言う。おいおい、店員としてその態度はどうなんだ?
「ほら、お冷だ。メニューはそこに書いてある。」
義炎爆が俺にそう言う。雑な接客だな。
「醤油ラーメンで。……あと、俺は今お客様だからな?」
俺はそう言う。すると義炎爆は、拳を震わせた。しまった、怒らせたか。
「…かしこまりました。」
ぎこちない笑顔で義炎爆がそう言った。怒った訳じゃないようだ。だが、すごく不服そう。
にしても、はちまきに前掛けをしている義炎爆はちょっと面白い。
だが、今のは少し紳士じゃなかったな。反省反省。
「醤油ラーメンです。へいお待ち!」
程なくして、醤油ラーメンが運ばれてきた。めっちゃ美味そう。
透き通るような透明感のある黒いスープ、そこに浸る黄色い麺。メンマとチャーシューがトッピングされており、真ん中にネギが置かれている。
これは見た目からして絶対に美味しい。冷めないうちに早速食べよう!いただきます!
まずはスープから。ズズッ。
実に香ばしく、コクのあるスープ。しょっぱ過ぎない塩梅が丁度いい。体が芯から温まる。
次に麺を頂く。ズルズル。
麺は意外にも歯切れがよく、これまたスープによく絡む。これで1杯800円っていいんですか?
あまりにも至福。一人暮らしでは確実に出せない味。未知の領域がそこにはあった。
俺はあっという間に完食する。
「めっちゃ美味しかったー! ごちそうさま!」
俺はそう言って会計に進もうとする。義炎爆はもうおらず、おばちゃんが会計してくれた。
「ついでに上にあがってくれんか。爆が今さっき休憩に入ったところだよ。」
おばちゃんがそう言う。生憎だが、俺と義炎爆はそこまでの仲ではない。丁重にお断りする。
「そうか…爆のやつ、あまり友達がおらんくてな。ワシの自慢の孫じゃと言うのに…」
おばちゃんがそう言って、視線を下にずらす。レジ横には、写真が置いてあった。
2人の男女と、赤ちゃん。もしかして、義炎爆の両親だろうか。
以前、義炎爆と話した時、あいつは何か事情を抱えてそうだった。もしかしたら、両親のことが関わっているのかもしれない。
…俺も親父を探しにここまで来てる。少しだけ、親近感が湧くな。
そんなことを感じながらも、俺は店の外へ出た。だがそこで、ある美少女に出会う。
「あれ? 千里くん、こんにちは。」
白髪の美少女、鑑見さんだ。これから店の手伝いだろうか。
「こんにちは。ここのラーメン、すごく美味しかった。」
まじで美味しいラーメンだった。家が近かったら絶対毎日行ってる。
「ふふっ、ありがと。昔からずっと変わらない味なんだ。ぜひまた来てみてね。」
鑑見さんがそう言う。…昔から? なるほど、つまり…
義炎爆と鑑見さんは、幼馴染である可能性が濃厚だな。美男美女の幼馴染とか、どんなラブコメ展開だよ。
鑑見さんも、謎の多い人だ。なぜかリヴァイバル派に所属しながらも、義炎爆とは違い化け物とは戦う。
幼馴染ということは、もしかしたらただ義炎爆について行っているだけなのかもしれない。
そんなこんなで鑑見さんとも別れ、俺は帰路につく。いいランチだった…
ドーン
突然、うるさい音が耳に響く。音からして、ラーメン屋の方向。今のリヴァイバル派はブースターを持っていない。大丈夫か?
俺は慌ててそちらへ走った。ラーメン屋から少し離れたところで、義炎爆が戦っている。
相手は…影。イレイス派のサイカー、影宮幽か。
「ブースターがない今のお前は、簡単に叩き潰せる。」
影宮幽は以前、義炎爆に敗れている。だからって、ブースターがない時に仕返しに来るのは小物すぎる…
「生憎だが、叩き潰されるのはお前の方だ!」
義炎爆が影宮幽へ迫る。影が義炎爆へ迫るが、義炎爆はそれを振り払う。
常人ならとっくに影に捕らわれてもおかしくないが、義炎爆はそのフィジカルだけで対処している。超能力に頼らない。それが義炎爆のやり方だ。
だが、影宮幽は自分の影に溶け込み、消えた。義炎爆は咄嗟に後ろを向き、蹴りを放つ。義炎爆の影から現れた影宮幽は、咄嗟に拳で応戦。両者が激突し、互いに吹っ飛ぶ。
いくら義炎爆でも、ブースターが無ければ勝ち目はないだろう。それにわざわざブースターを持っていないやつと戦うということは、命を奪おうとしているのかもしれない。
…仕方ない。俺は自分の腕にブースターを装着し、そちらへ走る。
「ブーストアップ!」
影宮幽の能力はもう見切っている。ブラッドインジェクトで畳み掛けるべきだ。
『ブラッドインジェクト。出力レベル2。』
不意打ちなら、なんとか! 俺の拳が影宮幽にぶつかる直前、影宮幽は影に隠れてそれを回避した。
「攻撃系でない能力のブラッドインジェクトは、雑な肉体強化で単純すぎる。」
影宮幽がそう言った。盛大に空ぶった俺は、地面にズザーと倒れる。
「なら、攻撃系のものを食らわせてやんよ。」
義炎爆が俺の腕からブースターを取り外し、自身の腕に装着した。
「ブーストアップ!」
義炎爆がブースターを使った。それと同時に走り出し、ボタンを押す。
『ブラッドインジェクト。出力レベル1。』
義炎爆が跳躍する。そして天から、影宮幽へ強烈な拳の一撃を炸裂させる!
影宮幽は影に逃げようとしたが、影はどこにもない。炎の光で消されたのだ。
「ぐはあああ!!!!!!」
影宮幽が地面に転がった。吹っ飛んだブースターを、義炎爆がキャッチする。
「貴様は不要な戦いに身を投じ、結果としてブースターを失った。弱者は失せろ!」
義炎爆がそう言った。強いものが支配者となる。それがリヴァイバル派の思想だ。
「ははは…はははは! 義炎爆! お前だけは、許さんぞ…」
影宮幽はそう言って影に溶け込み、逃げた。2度も敗北し、プライドが引き裂かれたのだろう。目が完全にキマっていた。
「弱きを助け、強きを挫く。お前の信念は知っているが…」
義炎爆はブースターを1台こちらに投げ渡した。俺はそれをキャッチする。
「俺は、断じて弱者ではない。…まだ、強者にもなれていないがな。」
義炎爆はそう言い放ち、その場を後にした。
義炎爆。彼が掲げる理想は、強きも弱きもない世界。だが自分だけは、圧倒的な強者であろうとする。
天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず。彼は、圧倒的な強さで天になろうとしているのかもしれない。
戦いから、彼の掲げる信念の一端に触れた気がする。不利な状況でも、決して退かないその様子は、俺の目指す紳士像に通じる所もあった。
よし、明日もあのラーメン屋に行こう。俺はそう決めて、今度こそ家に帰るのだった。




