13.超能力の覚醒
俺の名前は千里透真。
超能力者同士の戦い、サイカーバトルが繰り広げられる中、イレイス派の影宮幽が化け物へと変貌した。
絶対にあいつを止める。ブースターを起動済みの俺は、影宮幽を見た。
「何も視えない…!?」
今の影宮幽を見ても、文字1つ出てこない。以前見た時は確かにその能力を見れたのに。
化け物になってしまったから…? この能力が通用しないのは、遡先現に次いで2人目。
周りを見る。観客は、指示の元で避難していた。これは比護守が率いる国主催の戦い。化け物の出現は想定していたのだろう。
例え相手の能力が分からなくても、戦うしかない。俺は、1歩踏み出した。
ドテッ
踏み出した瞬間、俺の体から力が抜けた。俺は倒れる。
「千里!」
快斗が俺に駆け寄る。こういう時、快斗は真っ先に動くんだよな…
俺は、立て続けにブラッドインジェクトを使ってボロボロだった。もちろん俺だけじゃない。
出力レベル1、最大出力、出力レベル2と立て続けに使った俺。
出力レベル1、出力レベル2と使った快斗。
出力レベル1、最大出力と使い、回復を受けた状態の義炎爆。
出力レベル1を使った比護守。
ブラッドインジェクトは、血を消費する。出力レベルを抑えることで消費量も抑えられるが、それでも連発はキツい。
快斗も恐らく限界だろう。これ以上彼にブースターを使わせる訳にはいかない。
「来るな…快斗…!」
俺は快斗にそう言った。だが、快斗は多分言うことを聞かないだろう。こいつは以前、倒れた俺に対して最大出力のブラッドインジェクトを使用して助けたことがある。
俺は無理やり力を振り絞り、自分のブースターを外した。近くに転がっている、影宮幽が使っていたものも手に取る。
「うおおお受け取れえええ!!!!!!」
俺は2つのブースターを義炎爆の方へ投げる。快斗には、自己犠牲のブレーキがない。だからブースターを使うと、ブラッドインジェクトを使ってしまうだろう。
ブースターを渡すわけにはいかない。
「任せておけ。こいつとの決着は俺がつける。」
ブースターを手に取った義炎爆はそう言った。もう1台のブースターを鑑見さんに渡す。
「俺は人を守るための戦いはしない。ただ、強者を気取る弱者を潰すだけだ。
…ブーストアップ!」
義炎爆はそう言って駆け出した。こいつは強いが、化け物とは戦わない主義だ。
「私たちも続きましょう。ブーストアップ!」
鑑見さんも先へ進む。リヴァイバル派の2人は勇敢だ。
「速水に聞きたいことは山ほどあるが……仕方ない。」
比護守も進む。
「快斗さん、千里さん…休んでてください。」
知念心もそう言って化け物へ立ち向かって行った。
予兆未来や速水瞬は、あくまでも傍観者を貫いている。
今の俺も、見ることしか出来ない。
◆◆◆
「消えロ。全テ消エろ!」
影宮幽がそう叫ぶ。そこに立ち向かうのは、4人のサイカー。
義炎爆が火の玉を投げた。だが、それは影宮幽にぶつかる前に消滅する。
「弱すギル。こノ程度か!」
なんだ…あれ…。
影宮幽の周りから謎の黒い腕のようなものが大量に生えてきた。そしてそれが4人のサイカーへ迫る。
「知念、私たちで防ぐぞ!」
比護守がバリアを展開した。知念心も腕をかざし、念動力で攻撃を逸らそうとする。
だが、バリアは消滅。念動力も効いていないようだ。
4人のサイカーは影宮幽の攻撃を食らってしまう。まさかこいつ、超能力を無効化している!?
「フハハ、影ハ全てヲ飲み込ム。」
突然、空が暗くなった。夜…にはまだ早いよな。これが影宮幽の力なのか…?
「俺は…屈しない…!」
暗闇の中、立ち上がる男がいた。義炎爆だ。
「無茶です! いくらあなたでも流石に…」
知念心が呟いた。超能力が無効化されている現状。まともに戦えるとしたら、超能力に頼らない義炎爆ぐらいだろう。だが、相手は化け物同然の存在だ。
「俺は世界を獲る男! ここで死んだらそこまでだ!」
義炎爆が走り出した。その拳が、影宮幽に迫る。
「失セろ! 軟弱者が!」
影宮幽がそう言うと、無数の人影が出現する。影が実態となった? こいつの超能力は、明らかに強くなっている。
「軟弱者とは貴様のことだ! 理念を見失った弱者が!」
理念を見失った…影宮幽の理念。それは力をなくすことで世界に平和をもたらすというものだった。だが、今の影宮幽は力を求めてしまっている。
他のサイカーが倒れる中、義炎爆は大勢の影と戦っている。
「俺も戦う! 超能力が使えないなら、ブースターの有無も関係ない!」
俺の側にいた快斗が立ち上がり走り出した。彼もまた、自分の理念の元で動いている。
俺にも、理念がある。紳士でいるって言うな。…あれ、俺はなんで紳士でいたいんだっけ。
いや、今はそんなこと気にしている場合じゃないな。みんな戦ってるんだ。俺も、立ち上がらなきゃ。
俺は体に力を込める。なんとか、体を起き上がらせようとする。
「汝が今更立ち上がって、何の意味があるのじゃ?」
これまでずっと傍観していた予兆未来がそう言った。意味?
「あはっ。それ言えてるね。対して強くもない一般人。ブースターが使えないなら尚更ね。そんな君が立ち上がったところで、何もできやしない。」
速水瞬がそう言う。確かに、俺は無力だ。
今でもよく思い出す。俺の目の前で化け物に食われた吾妻雷太。俺が弱かったから、あいつは死んだんだ。
蜘蛛型の化け物と戦った時もそう。あの時みすみんが来てくれなかったら、俺も快斗も死んでいた。
今俺が戦いに加わったところで、何の力にもなりゃしないかもしれない。
……それでも。それでも俺は戦う。前も言ったが、弱いことは紳士でいないことの理由にはならないんだ。
「…俺は、それでも立ち上がる。動かないと、何も変わりやしないんだ!」
気合いを入れろ、千里透真。お前は、誰が何と言おうと、紳士なんだ!
「消エろ。サイカーどモ。」
大勢の影の後ろで、エネルギーを溜め始める影宮幽。あの攻撃が当たると、みんながやばい…!
「やめろおおおおおお!!!!!!!!! 影宮ああああああああ!!!!!!!!!」
俺は全力で立ち上がり、走り出した。影の大群を義炎爆と快斗が抑えてる、その間を縫って影宮幽の元へと辿り着く。
「あーあ、また1人サイカーが死んじゃうね。約束の数集まるの?」
そんな声が聞こえるが、今は気にしない。俺が影宮幽を止めるんだ!
「死ネ! ウざイ羽虫ガ!」
突如、俺の腹部に衝撃が走る。ドサっと、俺は倒れた。目の前が真っ暗になる。
「「「千里!」」」
「千里くん!」
「千里さん!」
みんなが俺を呼ぶ声が聞こえる。良かった、みんなは無事みたいだ。
激痛が遅れてやって来る。自分の血が、お腹から外へ流れていくのを感じる。
ここで俺は、死ぬんだな。やっぱり俺は無力だったんだ。瞬時にそう察した。
『紳士になるんだ。透真くん。』
ある声が頭に響く。走馬灯? 違う。これは、忘れていた昔の…15年前の記憶だ。
『せんせー、しんしってなぁに?』
…そうだ。あの時誓ったんだ。紳士になるって。
『悪い人をやっつけて、みんなを助ける。決して諦めない…そんな、強いヒーローのことだよ。』
弱きを助け、強きを挫く。
『かっけぇー! それってせんせーみたい! おれ、しんしになる!』
ここで死んだら、誰も助けられない!
『超能力の覚醒を確認。リミッターを解除します。』
その時、無機質な声が鳴り響いた。
「なっ。俺のブースターが勝手に…」
近くで義炎爆の声がする。駆けつけてくれていたのか。
「千里くんの体が…」
「光ってる…」
鑑見さんと知念心がそれぞれ呟いた。光ってる?
「いや、血を纏っている…?」
痛みが引いていく。俺の視界に光が戻る。体から力が湧いてくる。
俺は、立ち上がった。体は自分の血で真っ赤だった。腕にはいつの間にかブースターがついている。地面にできた血溜まりが、光り輝いていた。不思議と力が漲る。
「ブーストアップ!」
俺は、そう唱えた。光り輝いた血が、俺を纏うアーマーとなる。
「ほぉ。これはなかなか面白いのぉ。」
予兆未来がそう言った。
「まさか最初の覚醒が彼になるなんてね。」
速水瞬は陽気にそう言った。
覚醒…俺が…諦めない、強いヒーロー。俺は、弱くなんてなかったんだ。
俺は影宮幽を見た。瞬時に文字が、そして彼の本質が伝わってくる。
「視える。お前の全てが。」




