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箱根の山は高く険しく美しく ~箱根駅伝を目指していた男~  作者: 鹿園鹿


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8/9

第8区 主力への道

 全日本大学駅伝の予選会が終われば再び夏合宿への準備が始まる。去年は最後の最後でケガをした苦い経験がある。今年こそはチームの主力としてチームを引っ張る側に回らなくてはいけない。今年も去年同様、下級生の成長が箱根に向けたキーポイントになる。4年生と3年生は強力だ。あの人達に並び、抜き去っていかなくてはいけない。


 「夏合宿ってどんな感じなんですか?」


 山田が聞いてきた。去年の俺も先輩に同じ質問をしていた気がする。


「地獄だ。」


 去年の先輩も俺に同じ答えを言っていた気がする。


「どんな練習をするですか?」


 俺と同部屋の川谷が聞いてきた。


「僕は1次合宿しか行けてないけど、とにかく走らされた。どうやったらサボれるかしか考えてなかった。」


 山田の同部屋の森田が答えた。森田も俺と同じ2年生だ。


「サボれたんですか?」


 山田が期待のまなざしをしながら聞く。


「いや、ちょっと短くしただけでバレて怒られた。」


 山田ががっくりと肩を落とした。そんなこと期待すんな。


 今は俺と山田、川谷、山田と同部屋の森田の4人で食事を取っている。

 森田と山田。名前の雰囲気は似ているが性格は別物だ。山田は後輩のくせに負けず嫌いで先輩にもズカズカ自分から迫っていく。一方の森田は舐められがちなイジられキャラ。同級生や先輩だけでなく早くも後輩からもイジられている。だが、練習を少しでも楽したいという考えは同じようだ。


 森田は入学時こそ目立った走力は持っていなかったが、入学してから一度も練習を離脱していない。この1年での成長は広瀬にも劣っていない。俺も最初はあまり目を向けてはいなかったが、今やいつ抜かれてもおかしくないと内心ビビっていた。


 山田、森田、川谷は順調に夏に向けて練習を積めていた。俺も去年よりも力がついていることを実感していた。距離に対する耐性が確実についていた。去年よりも30kmが楽に感じていた。これは夏合宿もいい感じで走れるかも。自分への期待も強まっていた。

(必ずチームの役に立つ。)

 チームの主力になるための心構えはできていた。


 問題は広瀬だった。下級生の底上げの中で広瀬にかかる期待は大きい。それこそ去年の加藤先輩くらいの走りが求められていた。それを広瀬自身が感じ取っていたからこそだったのかもしれない。みんなが30kmで終わる練習も広瀬だけ35km、40kmと走っていた。みんなあいつ頑張るなーと感心していたが、俺の目には無理やり頑張って無茶をしているようにしか見えなかった。

 だが、俺が止められる問題ではないことは分かっていた。あいつにはもう俺の言葉は通じない。あいつを止められるのは加藤先輩くらいだろうと思っていた。

 当の加藤先輩に相談してみても、やらせてやればいいと言われた。このままでは去年の俺のようになる。そんな気しかしなかった。



___



 夏合宿が始まった。1次合宿は例年通り、距離をとことん踏む期間になった。だが、去年も行っているだけあって俺を含めた2年生は去年よりも元気だった。死にそうな顔をしてる1年生に声をかけながらふざける余裕があった。と、言いたいところだが全然そんなことはなかった。死にそうな顔をしてる1年生達に死にそうな顔をなんとか押し殺しながら無理やりふざける余裕があるように見せていた。去年の先輩たちもこんな感じだったんだろうな。こりゃしんどい。


 なんだかんだで1次合宿は無事に終えることができた。俺も、森田も、川谷も、山田も。そして、広瀬も。広瀬は今まで以上に走っていた。それでも乗り切った。あいつは俺が心配するようなタマでもないのかもな。あいつは俺の想像なんかに収まるやつではなかったってことか。


 今年の2次合宿には俺達の学年から3人が選ばれた。俺と広瀬と森田。森田は初めての2次合宿になった。1年前まではチームでも一番下だったのに。急成長だ。1年生からは山田と川谷が選ばれた。残りは4年生と3年生。ケガしがちの3年生達も順調に練習を消化し、2次合宿にもフルメンバーで選ばれた。やはり、今のチームを支えているのは上級生だ。去年よりもその背中が一段と大きく見えた。だが、俺たち2年生の背中を見てる奴らもいる。しっかりとしたものを見せなくては。



 2次合宿は去年よりもハードなものになった。4年生の提案で去年よりも一段とキツイメニューが増えた。ついてこられるやつだけついてこい。まさにそんな感じのメニューだ。練習中の声かけも去年よりもキツイ言葉が多かった。去年の4年生は優しく応援してくれるような声かけだった。今年の4年生は離れたら殺す。そういいたげな目で声をかけてくれる。もちろん、去年よりもキツイだけあって集団から遅れていく選手も多かった。山田や川谷、森田だけでなく3年生や4年生からも遅れる選手もいた。そんな中で俺はなんとか集団についていけていた。去年の反省を活かし、個人での練習の時は少し負荷を落とした。継続することを一番に考えて行動していた。山田や川谷ににもそう伝えていたが、やはり気合が入ってしまって少し無茶をしていた。まぁ一度失敗してみるのも大事かもしれない。長期離脱になる前には止めてやろう。


 3次合宿は人数が更に絞られることになった。練習についてこれそうなやつだけ連れて行く。そういった考えになったらしい。正直、俺は大丈夫だと思う。だが、川谷や山田、森田からすれば大問題だった。ただでさえ無茶をしてきた彼らだったが、もう一段階ギアを上げることを強要された。

 結果、川谷は3次合宿に残れなかった。2次合宿の大事な練習で遅れてしまったのが決定打となった。個人での練習も相当無理をしていたらしい。体力が底をついたのだろう。残念ではあるが、人に構っている余裕もない。3次合宿では更に厳しい練習が待っている。



___



 3次合宿の最中。この夏合宿全体を通して一番大事で、キツイ練習となった日。この日が俺と広瀬にとって大きなターニングポイントとなった。

 


 


 

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