第5区 予選会に向かって
二次合宿と三次合宿は予選会に向けてレースに近いペース設定の練習が増えてくる。インターバルやレースを想定したペース走など実践的な練習が多かった。約21kmのレースなんて経験のなかった俺にその練習は言うまでもなくハードだった。ただでさえ一次合宿で体はボロボロなのに。帰省を挟んだとはいえそんな簡単に疲労もダメージも取れず、以前体は精一杯だった。そんな状態でも容赦なくキツイ練習はやってくる。先輩達はきつそうではあるもののしっかりと練習をこなしていった。俺と広瀬は毎日夕食後に集まってマッサージをしてなんとか少しでも明日につなげられるように努めていた。
「調子はどう?」
心なしか広瀬の声にも元気がない。
「見ての通り一杯一杯だよ。広瀬は?」
「やばいね。ここまでだとは思ってなかった。」
さすがの広瀬もかなりの疲労があるようだった。マッサージをしていてもその疲労感が伝わってくる。その一方でかなり絞れていていかにも速い人の足になっていた。このまま合宿を乗り切ったら恐らくとんでもないタイムを出すんだろうな、そんなことを考えていた。そんな時、
「よ。元気か?」
4年生の今川先輩と若杉先輩がやってきた。
「1年のうちからこんなについてこれてんだ。ほんとにすごいよ。」
俺たちがそうとうやられていることを察して励ましに来てくれたようだ。さすが4年生、チームのことをよく見ている。
「先輩達のほうがすごすぎますよ。なんでそんな余裕そうなんですか?」
広瀬が問いかける。俺も聞きたい。
「何にも余裕じゃねぇよ。余裕そうに見せてるだけだ。」
若杉先輩がそう答えた。
「4年生としてみんなを引っ張っていかないとね。弱い姿は見せられないよ。」
どうやら今川先輩もしんどいようだ。そんなふうにはとうてい見えないが・・
「こいつあれだぜ。毎日俺の部屋きてはきついきついうるせぇんだ。」
「おい!せっかく人がかっこいいところ見せようとしてるのに。」
今川先輩にもそんな一面もあるんだな。ちょっと安心した。そしてみんなちゃんときついんだ。俺たちだけじゃない。そんな中で俺たちを心配してわざわざ声をかけに来てくれた。
「俺たちは帰るけど、お前達もちゃんと寝とけよ。明日も朝は早いんだ。」
「おやすみ。また明日がんばろ。」
二人は自分の部屋に戻っていった。
「清木。俺、あの人たちに箱根を走ってほしい。だから、頑張ろう。」
あぁ。もちろんそのつもりだ。あの人たちに走ってほしい。あの人たちの力になりたい。
二次合宿をなんとか乗り越え、最後の選抜合宿。三次合宿が始まった。俺と広瀬は無事、選抜メンバーに選ばれ、参加することができた。一次合宿でケガをして離脱していた2年生も何人か復帰し予選会で好走を期待されている選手は順当に選ばれた。その期待されている選手の中には俺と広瀬も含まれていた。
三次合宿の期間は短い。約2週間程度だ。その中で3~4日に一回、実践的でキツイ練習が入ってくる。例をあげると15km+5km、20kmペース走+1kmなどベリーベリーハードだった。俺も必死でくらいつくが徐々に先輩たちに離される場面が目立ってきた。広瀬は最後まで先輩たちにくらいついている。負けられない。そう思いつつも体が言うことを聞かない。このままでは予選会メンバーから外れてしまう。ギリギリの戦いだ。
そんな時だった。
俺の足はついに限界を迎えた。三次合宿が一週間が過ぎ、折り返しを迎えた朝、俺の右足から激痛が走った。今まで感じたことのない激しく、そして絶望的な痛みだった。
「そうか。しばらくは安静にしとけ。」
監督からはそう言われた。心配してくれての発言だ。だが、お前はもう予選会には間に合わないから、そんな前置きを俺は察しとってしまった。
ほかのメンバーは無事に合宿を乗り切った。
予選会は10月半ば。夏合宿が終わってからは一か月ある。長くも短くも一か月。俺にとっては短すぎる。間に合うとは到底思えない時間だった。
予選会メンバーを決める大事な練習の日がやってきた。選抜合宿に参加したメンバーも、参加できなかったメンバーも走れる選手は全員が参加した。俺はサポートに周るしかなかった。
加藤先輩をはじめとした三年生の主力、4年生の今川先輩、若杉先輩。さらには広瀬。夏合宿にを順調にこなしたメンバーが順当に好成績を残した。広瀬もこれで予選会を走ることはほぼ確定だろう。もちろん応援している。先輩達のために頑張ってほしい。ただ、それでも、悔しい。うらやましい。嫉妬の思いがあふれてくる。また遠くへ行ってしまう。
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予選会メンバーが発表され、メンバーは予選会に向けて前日に会場に近いホテルへと移ることになった。今川先輩、若杉先輩、加藤先輩、広瀬・・・予選会を走る12人に選ばれたメンバーが先に寮を出ていった。俺たちメンバー外は応援、もしくは走路員として大会運営のサポートにまわる。
いよいよ俺にとって始めての箱根駅伝の予選会がやってくる。選手として走ることはかなわなかった。でも、先輩達が、広瀬が必ず箱根への切符を手に入れてくれることを信じて応援することはできる。祈るしかできないが、あの人たちなら。そんなことを思いながら眠りについた。




