第4区 さいかい
待ちに待った帰省。与えられた期間は一週間。わずかだが偉大な一週間。さすがの広瀬もこの休息の期間は練習を抑えめにするようだった。
「6か月しかたってないのにこんな久しぶりに感じるんだな。」
新幹線のなかでそんな話をしていた。ホントに久しぶりに感じる。それだけハードな毎日を過ごしていた。以外にも広瀬もそうだったらしい。
「この6か月、楽しすぎてあっという間だったよな。」
こんくらいのことを言ってくるものだと思っていた。こいつにもキツイとかしんどいとか思うときもあるんだな。
「ただいま。」
久々の我が家だ。まだお盆期間ではないのにわざわざ休みを取ってくれた母が出迎えてくれた。久々の再会だった。
「おかえり。」
もうその顔を見ただけで涙が出そうだった。我が家の安心感は格別だ。
‐‐‐
俺は両親に無茶を言って関東の大学に進ませてもらった。昔から俺は親に迷惑をかけてばかりだった。俺は小学生の時、野球少年だった。中学も野球部で陸上なんて体力測定の1500mで走ったことがあるくらいだった。俺が野球を始めたのには理由があった。俺の父親はもと高校球児で甲子園まであと一歩のところで届かなかった。その夢を俺に託すような形で半強制的に俺は野球を始めた。だが、父の思う通りにはならなかった。俺は常にベンチを温めていた。理由は単純だ。俺は努力をしなかった。努力するのが怖かった。努力をしても活躍できない自分になるのを恐れていた。
(努力すれば活躍できる。今は努力をしてないだけ。)
そんな言い訳をするために努力をしてこなかった。結果、いつまでも努力をせず、活躍する機会は最後までなかった。父はそんな俺にいつからか何も言わなくなっていた。中学の最後の試合の後、母から言われた言葉がある。
「もっと海斗が活躍してる姿が見たかったな。」
口元が震えていた。必死に笑顔を作っている顔だった。その目元には涙が浮かんでいた。俺に対する怒りの感情は見えなかった。そこにあったのは悲しみ、残念、悔しい、そんな感情に見えた。それを俺に悟られぬよう必死に表情を作っていた。母のやさしさ故だろう。だが、気づいてしまった。
(俺は・・なんてことを・・・)
母は最期まで俺に期待してくれていた。なんにも努力しなかった俺を。いつか活躍してくれるかもしれないと。暑い中応援に来て、朝早くから弁当を作り、みまもってくれた。俺はそんな母の思いを裏切った。後悔の気持ちがあふれてきた。
父は何も言わなかった。会場まで足を運んでくれたものの、俺には今父が何を考えているのかわからなかった。おそらく怒ってるだろう。期待外れだと思ってることだろう。父も以前までは俺に熱心に指導をしてくれていた。嫌々野球をしている俺に俺のために時間を作ってくれていた。俺はその思いに応えられなかった、やらされてる感に強い拒否感を感じていた。
このままではいけないと強く思った。努力せず、やらされているままじゃ、俺は一生変われない。変わらなければ、母の期待に応えるために。父の信頼を取り戻すために。
その後中学の駅伝大会に助っ人として参加したことが俺の転機となるのだが、それはまた別の話。
‐‐‐
父も帰宅し、久々の家族での食卓だ。
「そっちでの生活はどう?楽しくやれてる?」
母は常に俺を心配してくれる。関東にいるときも定期的に連絡をくれていた。
「心配いらないよ。大変だけど、楽しくやってる。やっぱ練習はとんでもなくきついけどね。」
「そう。楽しんでるならなにより。陸上のことはあんまりわからないけどケガしないようにね。」
やっぱ優しいな。いい人だ。
「お父さん、久しぶりに海斗がいるんだから何か話しなよ。」
「・・・」
相変わらず無口な人だった。でも、俺自身、父と何を話せばいいかわからなかった。俺は野球ではなく陸上を選んだ。そのことについてとやかく言われてはないが、本心では何か思うところがあるのかもしれない。そう思うと陸上の話もできなかった。
そのあとは他愛もない話をして食事は終わった。一週間という期間はあっという間だ。親は仕事もあり、日中は家にいないことが多く、休日にショッピングに行き、焼肉に行ったくらいだ。高校のチームメイトともご飯にいった。みんな色々な道に進んでいる。地元に残り陸上を続けている者、地元ではなく遠くの大学に進学した者、おしゃれに目覚めまるで別人になっている者、早くも海外留学に行って集まりにこれなかった者、パチンカス、人それぞれだった。
わずかな休息の時を終え、再び新幹線乗り場に俺はいた。
「全然久しぶりじゃないね。」
ホント、あっという間に感じた。早くも次の帰省が恋しくなりながらも俺たちは関東に戻った。
次の二次合宿はAチームとBチームに分かれる。はたしてAチームに選ばれるのだろうか。この先はどれだけきつい練習が待っているのだろうか。憂鬱だ。だが、やるしかない。箱根に行くと決めたのだ。自分の意思で、母の期待に応えるため、父に認めてもらうため。
二次合宿前日、チーム全員がミーティングルームに集められた。
「A合宿に参加させるメンバーを発表する。」
監督から一人ずつ名前を呼ばれていく。
「4年生、今川。若杉。・・・・」
「3年生、加藤。小杉。・・・」
「2年生、林。水田。」
(2年生は二人だけ。つまり1年からは二人Aに行ける!)
「1年生、広瀬。」
(一人目は広瀬。それはわかっている。次だ。)
「清木。」
(よしっ!!!)
さぁ、地獄の合宿の再開だ。




