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箱根の山は高く険しく美しく ~箱根駅伝を目指していた男~  作者: 鹿園鹿


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第3区 夏合宿

 入寮して4か月、大学での生活にも慣れはじめ、徐々に周りとも打ち解け始めたころ、食事時の話題は夏合宿に関することが多かった。


「夏合宿はやばいぞ。今の練習とはくらべものにならん。毎年何人もの選手が途中でケガなり何なりで離脱するんだ。」


 そう話すのは広瀬と同部屋の4年生今川(いまがわ)先輩。当時のこのチームのキャプテンだ。夕食は俺と広瀬、今川先輩、俺と同部屋の同じく4年生若杉(わかすぎ)先輩の四人で食べていた。二人ともすでに三回夏合宿を経験しておりその厳しさを身に染みて知っていた。話を聞く限り、一次合宿は距離走が中心で2,3日に一回は30km走があるらしい。走る場所も坂道が多く非常にハードらしい。聞いてるだけで吐きそうだ。


「1年のうちは最後の選抜合宿まで生き残れば万々歳だよ。」


「若杉は去年初めて選抜合宿まで生き残ったもんな。」


「そーゆうお前も1年の時はあっという間にケガしたろ。」


 どうやら先輩達も夏合宿には苦い思い出も多いようだ。二人の話を聞いて俺はかなりビビっていたが広瀬は目を輝かしていた。


「そんな練習したらめっちゃ強くなれますね。」


 にっこにこの笑顔だった。まるで強敵にいどむサ〇ヤ人のようだった。


 頑張れ広瀬。お前はオンリーワンだ。



 

 夏合宿は夏休み期間から始まる。関東インカレや全日本大学駅伝の予選会が終わってからの期間は夏合宿に向けた準備期間だ。徐々に走る距離を伸ばしていき夏合宿に耐えられる体をつくっていく。30度を超える気温の中地道な練習を淡々とこなしていた。


 チームの雰囲気は悪くなかった。関東インカレも何人かの選手が標準を切って出場していたし、全日本の予選会も久しぶりの出場だった。本選を勝ち取ることはできなかったものの他大学との比較もでき手ごたえのある前半シーズンだった。夏合宿でチーム全体のレベルアップができれば十分に本選を狙えるとチーム全員が感じていた。チーム全体のレベルアップには1年生、2年生がどれだけ3年生、4年生に追いつけるかがカギを握っていた。

 



 テストを終え夏休み期間がやってきた。テスト期間も容赦なく練習はあったためギリギリの戦いであったが先輩達には大いに感謝したい。長年引き継がれてきたテスト対策の書をありがたく頂戴した。やはり伝統というのは大切にしないとな。


 テストが終わればいよいよ一次合宿が始まった。合宿全体で見れば約一か月半続く長丁場だ。その中でも一次合宿は導入の段階のため、じっくり距離を踏む大学が多い。高校時代あまり距離を踏んでこなかった俺にとってはなかなかしんどいものがあった。ペースはそれほど速くないためついていくこと自体はできるのだが日を追うごとに体へのダメージが蓄積していった。練習の中にはチームでまとまって走る練習と個人で与えられた距離を自由に走る練習があった。俺はチーム全体の練習で目いっぱいになってしまっていたが先輩たちは個人での練習でもかなりハードな練習をしていた。


「このままじゃ追いつけない。俺らも気合いれてこう。」


 広瀬が俺に声をかけてきた。


「あぁ。」


 俺自身自分の体が悲鳴を上げていることはわかっていたが、俺たち下級生が頑張らなければ箱根にはいけない。そんな覚悟と責任感から多少の無茶は承知でどんどん負荷をあげ自らをおいこんでいった。


 一次合宿後半、1年生と2年生からはケガで離脱する選手が増えてきた。だが一方で広瀬と俺をはじめ何人かの選手はこの夏合宿を通じて急成長をしていた。特に広瀬はすごい。日に日に走りがよくなっているのをはた目から見ても感じる。


 二次合宿からはAチームとBチームに分かれる。三次合宿は選抜合宿になるため一次合宿からアピールし続けなければ上に上がることはできず、予選会にも出られない。ここでの頑張りが予選会で走るためにはとても重要になってくる。一次合宿が終われば帰省もある。ここでの無茶は許容だ。


 

 この日の練習は一次合宿の中でも一番ハードな練習だった。朝に30km、午後にクロスカントリーコースで20km以上の個人ジョグ。一日で50km以上を走るのは初めてだった。朝の30kmを走り終えすでに疲労困憊になっている体を少しでも回復させるよう午前中と午後練習が始まるまでの時間は常に寝ていた。そのせいもあり午後練習の前の準備が少しおろそかになってしまった。だが個人でのジョグだ。少し控えめな練習にすれば大丈夫だろうと思っていた。しかしこの日は一次合宿の中でも重要な日だと伝えられていたため先輩たちをはじめみんな気合が入っていた。最初からかなり速いペースで走っている。

(ここでちんたら走っていたら監督からの評価が危ないな)

 そう感じた俺は負けじとペースを上げた。ここで頑張らなければAチームには行けない。直感でそう感じたのだ。結局先輩たちに負けじと与えられた距離よりも5km以上多く走った。


「今日は頑張ったな。お疲れ様。」


 監督からそう声をかけてもらった。かなりの手ごたえがあった。


 最大の山場を乗り越えなんとか一次合宿をやり切った。


 待ちに待った帰省がやってきた。ほんのひと時の休息だ。

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