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【10話完結オムニバス】理不尽な男を捨てたら、理想の溺愛に出会いました。〜大人のリベンジ愛短編集〜  作者: かぶんす
減点だらけのモラハラ同棲を解消したら、天才デザイナーの後輩に100万点満点でプロポーズされました

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4/41

第4話:100点満点のプレゼンテーション

二日目もお読みいただきありがとうございます。


本日は18:10 20:10 21:10投稿 の計4話になります。

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「……素晴らしいわ。これ、本当にうちとやりたいっていうオファーなのね?」


『プレジール・ファニチャー』の会議室。

瀬尾が持参した企画書をじっくりと読み終えた開発部の部長――紬の上司である、厳しいことで有名な女性部長の目が、驚きに細められていた。


「はい。帝都設計の瀬尾です。今回の複合商業施設のプレミアムラウンジは、これまでの『ただ作業をする場所』ではなく、『居心地の良さから新しいアイデアが紡がれる場所』にしたいと考えています。そのためには、緒方先輩――いえ、緒方さんが手がけた『シルフィ・シリーズ』の、あの人間工学に基づいた優しい曲線とクッション性が、どうしても不可欠なんです」


瀬尾は一歩も引かない、堂々とした態度で言い切った。その表情には、1階のラウンジで見せていた「可愛い後輩」の面影は微塵もない。完全に一流のプロの顔だ。


「うちとしても、帝都設計さんの、しかも今をときめく瀬尾さんのチーフプロジェクトに関われるなんて願ってもない話よ。……緒方さん、あなたどう思う?」

「はい。瀬尾さんのデザインされた空間パースを拝見して、鳥肌が立ちました。私たちの家具が目指していた『使う人に寄り添う』というコンセプトが、この空間なら120%活かせます。ぜひ、担当させてください!」


紬が力強く答えると、部長は満足そうに深く頷いた。


「よし、決まりね。我が社としても総力を挙げてバックアップします。企画開発のメイン担当は、もちろん言い出しっぺの緒方さん、あなたに任せるわ。瀬尾さん、これからよろしくお願いしますね」

「ありがとうございます。こちらこそ、最高の空間を一緒に作りましょう」


瀬尾は立ち上がり、部長と、そして紬と、しっかりと握手を交わした。

差し出された彼の大きな手から、プロとしての熱い覚悟が伝わってきて、紬の胸が高鳴った。



GOサインが出てからの動きは早かった。

翌週には、両社の実務担当者を集めたキックオフミーティングが行われ、正式に『プレミアムラウンジ共同開発プロジェクト』が発足した。


その日の夜。

「先輩、キックオフお疲れ様でした。もしよければ、この後少しだけ付き合っていただけませんか? 祝杯をあげたくて」


瀬尾に誘われ、紬が連れてこられたのは、オフィス街の路地裏にあるこぢんまりとした居酒屋だった。

ガラガラと引き戸を開けると、出汁のいい香りと、仕事帰りのサラリーマンたちの賑やかな声が響いている。


「わあ、懐かしい……。こういう雰囲気の店、大学のとき部活の帰りによく行ったよね」

「そうなんです。僕、オシャレなバーとかよく分からなくて。先輩と行くなら、気取らないこういうお店がいいなって」


席に着くなり、瀬尾は照れくさそうに笑った。その瞬間、昼間の『天才建築家』の仮面が綺麗に剥がれ落ち、紬の知る「瀬尾くん」に戻る。


「まずは、プロジェクト始動に乾杯、でいいかな?」

「はい! 乾杯です!」


生ビールのジョッキを合わせると、キンと小気味よい音が響いた。

冷たいビールを喉に流し込み、紬はプハァと息を吐き出す。


「おいしい……! 最近、コンペ続きでずっと緊張してたから、身体に染みるなぁ」

「先輩、本当にお疲れ様でした。でも、今日のミーティングでの先輩、めちゃくちゃ格好良かったです。うちの図面担当が出した無理な要求にも、その場で『この素材に変更すれば強度を保ったままミリ単位の調整が可能です』って即答して。みんな『プレジールの緒方さん、噂通りキレモノだ』って驚いてましたよ」

「もう、褒めすぎだよ。瀬尾くんのあの完璧な企画書に応えなきゃって、私の方こそ必死だったんだから」


紬は苦笑しながら、お通しの枝豆をつまんだ。


「でもね、本当に嬉しかったの。……私、前の彼にね、『インテリアなんて見た目を整えるだけの楽な仕事だろ』ってずっと言われてて」

「……え?」


瀬尾の手が止まる。その目が、一瞬で鋭いものに変わった。


「だから、自分の仕事にどこか自信をなくしかけてたんだと思う。でも、瀬尾くんが私の作った家具の意図を全部汲み取って、あんなにリスペクトしてくれて……。あ、私、間違ってなかったんだ、頑張ってきて良かったんだって、救われた気がしたの」


ぽつりと漏らした紬の本音に、瀬尾はジョッキをテーブルに置くと、身を乗り出すようにして紬の目を見つめた。


「浅井さん、本当に何も分かってないですね。楽な仕事なんて、この世に一つもありません。それに、先輩の家具は見た目だけじゃない。使う人のこと、その空間で過ごす人の未来を、誰よりも真面目に考えて作られてる。だから僕の心に刺さったんです。先輩の仕事は、世界に誇れる素晴らしい仕事です(+100点)」


ストレートすぎるほどの全肯定。

拓海に擦り切らされるだけだった5年間が、瀬尾の言葉によって、ものすごいスピードで満たされていく。


チーン。

紬の心の中で、カウンターが嬉しそうに跳ね上がった。


「……ありがとう、航平くん。そう言ってもらえると、百人力だよ」

「あ……」


不意に口から出た下の名前に、紬自身がハッとして口を押さえる。瀬尾は一瞬目を丸くした後、耳まで真っ赤にして俯いてしまった。


「すみません、急に名前で呼んじゃって……。嫌だった、かな?」

「い、嫌なわけないです……! むしろ、すごく、嬉しいです。大学のときは、ずっと『瀬尾くん』って苗字で呼ばれてたので……。あの、僕も、これからは『紬先輩』って呼んでもいいですか? 仕事のときはちゃんと使い分けますから」

「ふふ、いいよ。よろしくね、航平くん」


真っ赤な顔で嬉しそうに微笑む彼が、愛おしくてたまらなくなる。



夜の10時過ぎ。居酒屋を出ると、夜風が少し冷たかった。

駅へ向かう並木道を、2人は並んで歩く。


車道側を歩いていた紬の肩を、瀬尾が「危ないですから」と片手で引き寄せ、さりげなく自分が車道側に回った。その一連の動作があまりにもスマートで、紬の胸がまたトクンと鳴る(+50点)。


「航平くん、本当に大人になったね。大学のときは、私がいつも車道側歩いてたのに」

「あのときは、先輩の隣を歩けるだけで緊張して、周りが見えてなかったんです。……でも、今はもう、先輩の後ろを追いかけるだけの頼りない後輩のままじゃ、嫌ですから(+200点)」


瀬尾は歩みを止め、紬に向き直った。

街灯の光に照らされた彼の瞳は、どこまでも深く、真っ直ぐに紬を映し出している。


「これからは、仕事も、それ以外も……先輩の隣を歩かせてください」


その言葉は、もはや仕事のパートナーとしての枠を、大きく踏み越えようとしていた。

ふと、並んで歩く瀬尾の手が、紬の指先に触れる。

繋ぎたいのを堪えるように、少しだけ震えているその手を、紬は拒むことができなかった。


「……うん。よろしくね、航平くん」


紬が優しく微笑むと、瀬尾は世界で一番幸せそうな顔をして笑った。

2人の「加点だらけの新しい恋」が、ビジネスと共に、今、本格的に動き出そうとしていた。


――だが、その頃。

駅から少し離れた居酒屋で、安ビールのジョッキを煽りながら、スマホの画面を睨みつけている男がいた。浅井拓海だ。


「おい、拓海、お前プレジールの緒方と別れたんだって? 噂だと、あいつ帝都設計のスターデザイナーとデカい仕事始めたらしいぞ。お前、せっかくのコネ逃したな!」

同僚からの心ない言葉に、拓海は顔を真っ赤にして拳を握りしめる。


「クソが……! 紬のやつ、俺と別れて寂しいからって、女の武器を使って昔の後輩をたぶらかしやがったな……。あの仕事、俺の会社も噛ませろって言えば、あいつ断れないはずだ」


歪んだ嫉妬と下心を燃やす拓海の影が、すぐそこまで迫っていることを、まだ2人は知る由もなかった。

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