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【10話完結オムニバス】理不尽な男を捨てたら、理想の溺愛に出会いました。〜大人のリベンジ愛短編集〜  作者: かぶんす
「私がいないとダメ」は嘘でした。 30歳無職のクズヒモ男を捨てたら、推しの年下ミュージシャンに全力で溺愛されています。

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第10話:世界で一番甘い居場所

休日の朝。柔らかな日差しが、広々としたリビングのレースカーテン越しに差し込んでいた。


ふかふかの大きなベッドの中で目を覚ますと、すぐ隣から規則正しい寝息が聞こえてくる。

少し乱れた黒髪、涼しげな目元を覆う長いまつ毛。私を包み込むように回された、太く温かい腕。


「……蓮くん」


小さく呟くと、寝返りを打った彼が腕の力を強め、私をそっと自分の胸元へと引き寄せた。


「ん……真由さん、おはようございます……」


まだ夢心地のような低く甘い声が、耳元でくすぐったく響く。


「おはよう、蓮くん。もう朝だよ?」


「うーん……あと五分だけ。真由さん充電させてください……」


そう言って、彼は私の首筋に顔を埋め、ぎゅーっと抱きついてくる。まるで大きな甘えん坊の犬のようだ。


世間では「若き天才ヒットメーカー」と称され、連日ニュースや音楽誌を賑わせている男性が、家ではこんなにも甘えん坊で過保護な恋人になるなんて、誰が想像できるだろう。


あの決断から三ヶ月。

私たちは、都内の閑静な住宅街にある日当たりの良い2LDKのマンションで、新たな同棲生活をスタートさせていた。



「はい、真由さん! 今朝の特製フレンチトーストとカフェオレです!」


身支度を整えてリビングへ向かうと、キッチンからエプロン姿の蓮くんが焼きたての朝食を運んできた。香ばしいバターと甘いメイプルの香りが部屋いっぱいに広がっている。


「わあ、美味しそう! いつも作ってもらっちゃって申し訳ないよ……私がお休みの日は、私が作るのに」


私が椅子に座ると、蓮くんは私の向かいではなく、わざわざ隣の椅子を引き寄せてちょこんと腰掛けた。距離が近すぎる。


「ダメです。真由さんは普段、会社で一生懸命働いてるんだから、休みの日は僕に甘やかされててください。……それに、僕が真由さんにご飯を作りたいんです。美味しいって食べてくれる顔を見るのが、僕のイチバンの癒やしなんだから」


「もう……過保護なんだから」


呆れつつも、胸の奥が甘い熱で満たされていく。


智樹といた頃、朝といえば不機嫌な彼の罵倒と、散らかった部屋の片付けから始まっていた。

「お茶持ってこい」「タバコ買ってこい」と命じられ、私が尽くすのは「当たり前」とされ、私自身の感情や体調なんて一度も気遣われたことはなかった。


けれど、蓮くんとの生活は真逆だった。


『真由さん、今日寒かったでしょ? お風呂沸いてますよ』

『会社で何か嫌なことありました? 僕でよければ何でも話してください』

『真由さん、今日も世界で一番可愛いです』


毎日、溢れんばかりの感謝と愛を言葉にして伝えてくれる。

何かをしてもらうたびに「ありがとう」と微笑み、私のことを誰よりも大切に扱ってくれるのだ。


「あ、真由さん、口元にクリームついてます」


「えっ、嘘、どこ――」


指で拭おうとした瞬間、蓮くんの顔が至近距離に迫り、私の頬に柔らかい唇が触れた。


「ん……ッ!?」


「ふふ、取れました。ごちそうさまです」


悪戯っぽく笑う蓮くんに、私の顔は一瞬で熟したトマトのように真っ赤になった。


「れ、蓮くん! 朝から何やってるの……!」


「だって、真由さんが隙だらけで可愛すぎるのが悪いんですよ? 僕、真由さんに関しては全然我慢きかないんですからね」


そう言って、蓮くんは私の手を自分の頬に押し当て、甘えるようにすり寄せてくる。その瞳には、隠しようもない深い溺愛の光が宿っていた。


かつての私が知っていたのは、相手の顔色を伺い、自分を削りながら尽くすだけの「偽りの愛」だった。

けれど今、私を包み込んでいるのは、どこまでも温かく、満たされた「本物の愛」だった。



午後から、私たちは二人で買い物に出かけた。


作曲家として売れっ子になった今も、蓮くんは週に一度だけ『酒処 ひろ』での居酒屋バイトを続けている。

「僕の原点だから」と言って、お店のマスターや常連客との繋がりを何より大切にする彼の謙虚な姿勢は、業界関係者からも高く評価されていた。


スーパーで今夜の鍋の材料を買い込み、二人で繋いだ手を引きながら夕暮れの街を歩く。


ふと、街頭のスピーカーから、聞き覚えのあるメロディが流れてきた。

蓮くんが手掛けた最新曲、女性歌手が歌うバラードソングだった。切なくも温かいメロディが、夕空に溶けていく。


「あ、蓮くんの曲だ」


「ですね。……こうやって街で流れてるのを聴くと、今でもちょっと照れくさいです」


照れくさそうに首をすくめる蓮くんの手を、私はキュッと握りしめた。


「誇らしいよ。こんなに素敵な曲を作る人が、私の隣にいてくれるなんて」


「真由さん……」


蓮くんは足を止め、じっと私を見つめた。夕日を受けて、彼の黒い瞳が琥珀色に輝いている。


「僕、あの曲の歌詞を書くとき、真由さんのことを考えてたんです」


「えっ、私のことを?」


「はい。真っ暗な暗闇の中で傷ついていた大切な人が、少しずつ笑顔を取り戻していく……そんな姿を思い浮かべながら書きました。真由さんが僕の歌を聴いて流してくれた涙が、僕の音楽のすべての始まりだから」


言葉が胸に染み渡っていく。


智樹との関係は、ただの搾取と依存の泥沼だった。

「私がいないとダメになる」という言葉は、彼が私を縛り付けるための鎖であり、私が自分の価値を確かめるための免罪符に過ぎなかった。


お互いに向き合わず、互いの弱さに依存し合っていただけの共依存。


けれど、蓮くんとの関係は違う。


蓮くんは一人のアーティストとして自分の足で立ち、努力を重ねて夢を叶えた。

私もまた、自分の人生を取り戻し、一人の女性として自分の足で立っている。


自立した二人が、互いを尊重し、感謝し、支え合いたいと心から願うこと。

誰かを「支える」というのは、どちらかが犠牲になることじゃない。お互いが対等に向き合えてこそ、初めて成立するものなのだ。


「真由さん」


蓮くんが買い物袋を反対の手に持ち替え、私の両手を包み込んだ。


「僕を、あの泥沼から救い出してくれてありがとうございます。真由さんと出会えて、僕の人生は変わりました」


「ううん……私の方こそ。私を救ってくれて、本当の幸せを教えてくれて、ありがとう」


どちらからともなく微笑み合い、私たちは静かに唇を重ねた。

冷たい夕風の中でも、重なり合った唇と手からは、どこまでも温かい熱が伝わってきた。


「帰りましょう、真由さん。今夜は僕が、特製のごま豆乳鍋作りますね!」


「ふふ、楽しみ! じゃあ私は、締めのお雑炊の準備担当ね」


「ダメです、真由さんは座ってテレビ見ててください!」


「もう、過保護禁止!」


冗談を言い合いながら、笑い合って歩く帰り道。


家へ帰れば、二人で選んだ温かい家具と、陽だまりのような安らぎが待っている。

誰かに必要とされるために自分を偽る必要なんて、もうどこにもない。


ここが、私の居場所。

世界で一番甘くて、温かい、私と彼の愛しいホームだ。

完走ありがとうございます!

現代恋愛 第3弾終了となります。

今回のテーマは「クズな彼氏と支えてあげたいと思える彼氏の差」

を題材に書いてみました。いかがでしたでしょうか。


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現代恋愛シリーズを面白いと思っていただけたら、第1章・第2章もおすすめいたします。

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