表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/9

5話 ――久しぶりね

 なんで私にそれをやるかなぁというのが、私の抱いた率直な感想だった。

 いや、理解はできる。恐らく先ほど放った純白の炎こそが、プラージャの使用する中で最高位の魔法だったのだろうと。

 

 魔王が通用しないのなら、物理で押し切るしかない。魔力暴走を起こし身体能力を底上げするというのは、最善の一手だ。

 

 だから、なんで? というのは、ただの私の理不尽な感想だ。

 分かってはいるんだけれども……でも、物理は私の一番得意な分野なんだよなぁ。


 魔王の右腕であるプラージャには残酷だが、純粋な物理で私に勝とうだなんて、前世の魔王アラドメギスでさえ無謀なほどだ。


 ほらこの右ストレートも、欠伸をしながらでも避けられる。

 今度は左、右、左、また右と、駆け引きも何もない、ただのストレートの連打。


 音速を越えているからソニックブームも発生しているし、まともに喰らえば、私であっても骨くらいは折れそうな威力。つまり私でなければ一撃一撃が必殺だ。


 悪くはない。別に、悪い訳ではないんだけれども……。


「五十点、っていったところね」


 決して良くもない。

 私は全ての攻撃を難なく避けきって、がら空きになった胴体に掌底を喰らわせた。


「――かっ」


 衝撃が臓器を貫いたせいで、息がつまりプラージャの体が硬直する。

 そのまま倒れこむ、とみせかけて私の肩を掴もうとするけれども、その前に私の膝蹴りが顎を直撃した。


「はぁ、少しは期待していたのに。残念だわ」


 勝利が確定している戦いを、わざわざ長引かせる趣味はない。全力の回し蹴りを側頭部にお見舞いすると、プラージャの頭が勢いよく二回転した。


 ――魔物は人を喰らうことで力と知恵を増し、やがて人の姿に成っていく――


 つまりそれは、人と同じ方法で死ぬということだ。

 首が二回転して死なない人間がいないように、魔王の右腕であろうとも、人の容をしている以上絶命は免れない。


 私の宣言通り首がねじ切れて、プラージャの頭がぽとりと地面に落ちる。それが決着の瞬間だった。

 実力差があった以上、これは当然の結果だ。私は何の感慨も抱くことなく、呆然としている勇者候補へと語りかけた。


「怪我は……まあ、当然あるわよね。命に別状はない?」


「あ、ああ……」


「手を……って、両腕が折れているのね」


 私は彼の腰を掴み、抱きかかえるようにして立ち上がらせた。


「一つ、いいえ、二つお願いがあるんだけれども、聞いてくれるかしら」


「…………」


 見上げる私の瞳を、彼は見ていない。視線は変わらずプラージャの死体に注がれていて、まだ、奴の死を信じ切れていないといった様子だった。


(彼にとってプラージャとは、それほどの存在だったのね)


 辺りを見渡せば、彼以外の勇者候補が全員気絶している。

 自分達を壊滅させた絶望の、瞬殺……受け入れるのに時間がかかるのは理解できるけれども、


(四天王の一角に、勇者候補……そう、この時代の強さのレベルは、この程度なのね)


 プラージャの実力にも、奴に敗れる勇者候補にも、私は大きな落胆を隠せずにいた。


「っ、すまない、気を取られていた」


「いいのよ、気にしないで」


 私は微笑みで落胆の瞳を隠し、手を振る。


「貴女が何者なのか、聞きたいことは山ほどある。しかし今は、それどころではないことも重々承知している」


 彼は初めてプラージャから視線を外すと、瀕死の勇者候補達に目を向けた。


「事態は一刻を争う。貴女のお願いとやらは、そのあとでも構わないだろうか」


「焦らないで。一つ目のお願いというのは、フローライト家に帰還して、魔法医をここに呼んできてほしいということだから」


「無論だ。して、二つ目は?」


「ここで見たこと、私のことを秘密にすること」


「そ――」


「仲間の命よりも、好奇心が勝るのかしら?」


「――失礼した。すぐに行動に取りかかるとしよう」


「ありがとう。それじゃあ、お願いね」


 彼は一礼すると、両親のいる屋敷へと一目散に駆けていった。

 両腕は折れていたけれども、そこは勇者候補。走り去っていく姿は、痛みを感じさせないものだった。


「さて」


 後姿が見えなくなったことで、私はようやく本命にありつける。


「五秒以内に出てくるか、私に殺されるか。アナタに選ばせてあげるわ」


 私は指を五本広げて、小指から閉じていく。


「四、三――」


 五秒以内に出てこないと殺すという宣言。冗談ではないのだと、身に染みているであろう〝それ〟は、即座に私の前に現れた。


「ふふ、そう、そうよね」


 〝それ〟は一体のスライムだった。

 水色の、液体が意思を持って動いているだけの、最弱の魔物。

 本来であれば、私はおろか勇者候補であっても気にも留めないような存在。


 けれども私は感じ取っている。〝それ〟が内に秘めている強大な魔力を、魂の波長が発している真の正体を。


「転生した元勇者(わたし)がいるんだもの。アナタがいたって、なんら不思議ではないのよね」


 私はプラージャを追って来たのではない。魔力の圧を追って来たらここにいただけの、奴はただの副産物だ。


 このスライムこそが、私が追い求めた本命だ。


「――久しぶりね、また会えて嬉しいわ」


 鏡を見るまでもなく分かる。私はリーエル・フローライトとして生きてきて最大級の笑顔を浮かべて言った。


「呑喰の魔王、アラドメギス♪」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ