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第九十三話 各国に持ち帰った反応

第九十三話 各国に持ち帰った反応


前話までのあらすじ

三国同盟が成立した。全員で食事をした。スープが出た。

全員が田中に感謝を伝えた。田中が受け取った。

「今日、三国同盟が成立した。全員で飯を食った。スープが出た。それで十分だった」とメモに書いた。


 調印式から一週間が経った。

 各国の代表が帰国した後、田中は城で報告を待っていた。

 各国の反応がどうだったか。

 同盟文書を持ち帰ったとき、各国でどう受け取られたか。

 それが、同盟が本物かどうかを決める。

 書類にサインすることは始まりだ。

 各国で受け入れられることが、本物になることだ。

 田中はメモアプリを開いた。

 【各国の反応・確認リスト】

 ・この国の貴族たちの反応

 ・魔王城の幹部たちの反応

 ・ランセルの議会の反応


 まず、ガルドから報告が来た。

「調印式の翌日、貴族たちに伝えた」

「どうでしたか」

「予想より、静かだった」

「静かですか」

「そうだ。驚く者もいたが、反発する者はほとんどいなかった」

「なぜ静かだったと思いますか」

「GOLが止まったことと、バルトが前向きだったことが大きかったと思う」

「バルト卿が」

「そうだ。貴族たちの中で、バルトは港の利益を代表する存在だ。バルトが同盟に前向きであれば、他の貴族も安心する」

「バルト卿の存在が、説得力になったんですね」

「そうだ。田中が個別に説明してくれたことも効いた。説明会の前に田中と話した貴族は、驚かなかった」

「驚かせないことが大事でしたね」

「そうだ。田中がいつも言っていることだ」

「ガルド卿がやってくれたことです」

「どちらも本当だ」

「そうですね」

「一点だけ、懸念がある」

「なんですか」

「軍事的な義務についての懸念が、まだ残っている貴族が数名いる」

「文書に、攻撃的な軍事行動の義務はないと明記してありますが」

「読んでいない貴族がいるかもしれない」

「そうですね」

「田中、もう一度、個別に説明してもらえるか」

「します。ガルド卿と一緒に回りましょう」

「そうしよう」

「来週、時間を作ります」

「頼む」


 シアから手紙が来た。

 レオンが翻訳した。

「魔王城の幹部会議での反応が書いてあります」

「どうでしたか」

「グレイドが先に発言したとのことです」

「グレイドが」

「はい。会議の冒頭で、グレイドが言ったそうです。『この同盟は、余が支持する。城を守るために必要だと判断した』と」

「グレイドが先に言ったんですね」

「そうです。グレイドが先に言ったことで、他の幹部たちが反発しにくくなったとのことです」

「グレイドが会議を動かしたんですね」

「そうです。シアさんが書いています。『田中がグレイドと話してくれたことが、今日に繋がった。田中がいなければ、グレイドはこうなっていなかった』と」

「グレイドが動いたからです」

「また同じことを言う」

「事実なので」

「わかりました」

「他に、シアさんから何か書いてありますか」

「一点だけ。魔王陛下が、調印式の後に変わったとのことです」

「どう変わりましたか」

「以前より、よく笑うようになったと書いてあります」

「そうですか」

「城に帰ってから、食堂で幹部たちと食事をすることが増えたとのことです。以前はあまりなかったことです」

「食堂で一緒に食べるようになったんですね」

「そうです。シアさんは、この国の城に泊まって、王様と食堂でスープを飲んだことが影響しているかもしれない、と書いています」

「スープが影響しているんですか」

「そうかもしれません。タナカさん、スープが場を作る、っていつも言っていましたよね」

「そうですね」

「魔王城でも、そうなっています」

「そうかもしれません」


 ミラからも手紙が来た。

 今回はミラ本人ではなく、カラからだった。

「カラさんから、ですか」

「そうです。ミラ公王が忙しいとのことで、カラさんが書いたようです」

「どんな内容ですか」

「ランセルの議会での反応が書いてあります。ミラ公王が議会で同盟の報告をしたとのことです。議会の反応は、ほぼ賛成でした。ただ、一点だけ懸念が出たとのことです」

「どんな懸念ですか」

「大国に飲み込まれるのではないかという懸念です。この国と魔王軍という大きな力を持つ二国と同盟を結ぶことで、ランセルが従属関係になるのではないかと」

「それは、正当な懸念ですね」

「そうですね。ミラ公王はどう説明しましたか」

「全会一致の原則を説明したとのことです。ランセルの一票は、この国の一票と同じ重みを持つ。そのことを丁寧に説明したとのことです」

「それで納得しましたか」

「ほぼ納得したとのことです。ただ、様子を見たいという意見もあります」

「様子を見ることは自然なことですね」

「そうですね。カラさんが一点だけ追加で書いています」

「なんですか」

「ミラ公王が、議会での説明の後に、ランセルの若い人間をこの国と魔王城に送る話をしたとのことです。議会も、その話には前向きだったとのことです」

「ミラ公王が動いてくれましたね」

「そうです。調印式で決断してから、すぐ動いています」

「ミラ公王らしいですね」

「そうですね。話が早い」

「ロイド卿に似ていましたね」

「そうでしたね。田中が最初にそう言っていました」

「そうでしたか」

「はい」


 三国の反応を把握して、田中は王様に報告した。

「三国の反応を報告します。この国の貴族は、ほぼ受け入れています。一部、軍事的義務への懸念が残っています。ガルド卿と個別対応します」

「わかった」

「魔王城は、グレイドが先に支持を表明したことで、幹部会議での反発がありませんでした」

「グレイドが動いたか」

「そうです。また、魔王陛下が帰城後に変わったとのことです。食堂で幹部たちと食事をするようになったと聞きました」

「そうか。余もここで魔王と食べた影響か」

「そうかもしれません」

「スープが繋いだな」

「そうかもしれません」

「ランセルは」

「ミラ公王が議会で丁寧に説明しました。懸念はありましたが、ほぼ納得しています。また、ランセルの若い人間を送る話を議会に伝えたとのことです」

「ミラ公王は動きが早いな」

「そうですね。話が早い方です」

「ロイドに似ているな」

「そうですね」

「田中、三国の反応を聞いて、どう思うか」

「予想より、静かでした」

「静かだったのは良いことか」

「良いことです。騒がしい反応は、抵抗があるということです。静かな反応は、受け入れられているということです」

「そうか」

「GOLを乗り越えた体験が、同盟への抵抗を下げていました。各国での根回しも、効いていました」

「田中がやってきたことが、効いたということだな」

「皆さんが動いてきたからです」

「どちらも本当だ」

「そうですね」

「田中、次は何をする」

「個別対応が残っています。貴族への説明の続きと、ランセルからの若い人間の受け入れ準備です。あと、月次情報交換を三国規模で始めます」

「月次情報交換を三国で、か」

「そうです。レオンが窓口になります」

「レオンが動いているな」

「そうです。レオンが動いてくれています」

「田中が引き継いでいるな」

「少しずつ」

「急がなくていいか」

「急ぎすぎると、受け取る方が大変になります。少しずつの方が続きます」

「そうか。田中らしいやり方だ」

「そうかもしれません」


 夜、田中はメモを整理した。

 【各国の反応・まとめ】

 ・この国:ほぼ受け入れ。一部に軍事義務への懸念あり。個別対応継続。

 ・魔王城:グレイドが先に支持。幹部の反発なし。魔王陛下が変わった。

 ・ランセル:議会でほぼ納得。若い人間を送る話が前向きに進んでいる。

 田中はリストを見た。

 三国とも、静かだった。

 静かに始まるのが、長く続く同盟の形だと田中は思っていた。

 派手に始まると、熱が冷めたとき崩れやすい。

 静かに始まり、少しずつ積み上がる。

 それが続く形だった。

 最後に一行書き足した。

 ・三国の反応は静かだった。静かに始まる同盟が、長く続く。それが積み上げだ。


次回「第九十四話 ガルドが貴族たちをまとめる」へつづく

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