表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
85/117

第八十四話 食料と物資の相互支援の枠組みができた

第八十四話 食料と物資の相互支援の枠組みができた


前話までのあらすじ

ロイドとシアが軍の連携について三回話し合い、ほぼ全部決めた。

有事の手順書をロイドとシアが担当することになった。田中は確認のみ。

「ロイドとシアが、田中なしで動いた。それが今日の一番大事なことだった」とメモに書いた。


 食料と物資の相互支援について、田中はバルト卿を訪ねた。

 先日、貿易の条項を同盟文書に入れることで合意していた。

 今日は、具体的な枠組みを話し合うためだった。

「バルト卿、お時間をいただきありがとうございます」

「来ると思っていた。座れ」

 田中は椅子に座った。

「食料と物資の相互支援の枠組みについて、バルト卿のご意見を聞きたいです」

「余が意見を言っていいのか」

「バルト卿は港を持っています。物資の流通には、港が不可欠です。バルト卿なしでは枠組みが作れません」

「そうか。では、余が中心になってもいいということか」

「中心になっていただけると、助かります」

「わかった。では、余が考えてきたことを話す」

「お願いします」

 バルト卿は机の上に地図を広げた。

「この港を中継地にする。魔王領からの物資は、ここを経由してこの国に入る。この国からの物資は、ここから魔王領に向かう。ランセルからの物資も、海路でここに来る」

「なるほど。全部、バルト卿の港を経由するんですね」

「そうだ。港が一か所なら、記録が取りやすい。何がいつ入って、何がいつ出たか、全部把握できる」

「それは良いですね。記録が一か所に集まれば、確認しやすいです」

「余はずっと商売をしてきた。記録がなければ、商売はできない。田中が言っていたことと同じだ」

「そうですね」

「田中が来てから、余は記録の大事さを改めて感じている」

「そうですか」

「以前は、どんぶり勘定だった。何となくうまくいっていた。ただ、田中が細かく記録するのを見て、余の商売でも細かく記録するようにした」

「バルト卿が変えたんですね」

「田中のやり方を見て、変えた。どちらも本当だ」

「そうですね」

「最近、余もその言い方をするようになった」

「そうですか」

「ガルドから聞いた。田中がよく言う言い方だと」

「そうですね。ガルド卿が教えてくれました」

「ガルドから田中の言い方が余に来た。言葉が伝わっているな」

「そうですね」


 枠組みの詳細を話し合った。

 バルト卿が提案し、田中が整理する形で進んだ。

「各国が月に一度、次の月に必要な物資のリストを出す。余の港でリストを照合して、どこからどこに何を送るかを決める。そういう仕組みにしたい」

「月次のリストですね。いつまでに出すか決めますか」

「月の初めに出してもらえれば、月の中ごろに照合できる。月の後半に物資が動く」

「そのサイクルで、緊急の需要はどうしますか」

「緊急の場合は、月次とは別に随時対応する。ただし、緊急対応は通常の三倍のコストがかかる、という形にすれば、乱用されない」

「なるほど。コストで調整するんですね」

「商売の基本だ」

「それは合理的ですね」

「コストが高ければ、本当に緊急の場合だけ使う。余計な緊急要請が減る」

「バルト卿、一つだけ確認させてください」

「なんだ」

「このコストは、バルト卿の利益になるんですか」

「そうだ。港を使う手数料として受け取る。問題があるか」

「問題はありません。バルト卿が利益を得ることで、この枠組みが持続可能になります。ボランティアでは続きません」

「田中が、余の利益を認めるのか」

「認めます。バルト卿が動機を持って続けてくれることが、枠組みの安定に繋がります」

「なるほど」

「同盟文書に、港の手数料の仕組みを明記します。三国が認めた形にします」

「文書に明記してくれるか」

「はい。透明性が大事です。手数料があること、その仕組みが三国で合意されていること、両方を文書に入れます」

「それは助かる。後でもめない」

「そうですね」

「田中、余は商売人だ。後でもめることが一番困る」

「そうですね」

「田中が文書にきちんと入れてくれれば、余は安心して動ける」

「入れます」


 昼を挟んで、午後も話し合いを続けた。

 緊急時の備蓄についての話になった。

「バルト卿、各国が一定量の備蓄を持つことは必要ですか」

「必要だ。有事のとき、物資が動かせない状況が起きる。そのとき、備蓄がなければ困る」

「どのくらいの量が適切ですか」

「三ヶ月分は必要だ。それ以上あれば理想だが、最低三ヶ月」

「各国で三ヶ月分、ですね」

「そうだ。余の港にも、中継用の備蓄倉庫を作りたい。各国の物資が一時的に置ける場所だ」

「それは、枠組みの中に入れられますね」

「田中、余はこの枠組みを作ることで、港が変わると思っている」

「どう変わりますか」

「今まで、余の港は、この国の商売の場だった。これからは、三国の物資が行き交う場になる。規模が変わる」

「そうですね」

「それは、余の父や祖父の時代には、考えられなかったことだ」

「そうですね」

「田中が来てから、余の港の可能性が変わった」

「バルト卿が決断してくれたからです」

「どちらも本当だ」

「そうですね」

「余もこの言い方が気に入ってきた」

「そうですか」

「押し付けがましくない。相手を認めながら、自分も認める。良い言い方だ」

「ガルド卿に教わりました」

「ガルドも変わったな」

「そうですね」

「田中が来てから、ガルドも変わった。余も変わった。全員が変わっている」

「皆さんが変わろうとしていたからです」

「どちらも本当だ」

「そうですね」

 バルト卿は少し笑った。

「田中と話していると、この言い方が出やすくなるな」

「そうですか」

「田中に話しかけると、変わるきっかけになる」

「バルト卿が変わったんです」

「そうだ。どちらも本当だ」

「そうですね」

 二人で少し笑った。


 夕方、田中はロイドに食料と物資の枠組みを報告した。

「バルト卿の港を中継地にする形ができました。月次のリスト制、緊急時は手数料三倍、三ヶ月分の備蓄、港の備蓄倉庫。この四点が骨格です」

「商売人らしい仕組みだな」

「そうですね。コストで調整する考え方が、合理的だと思います」

「軍の仕組みとは違うな」

「どう違いますか」

「軍の仕組みは、義務と手順で動く。バルトの仕組みは、利益と動機で動く。アプローチが違う」

「そうですね。どちらも正しいアプローチです。人が動く理由が違うだけです」

「義務で動く人間と、利益で動く人間がいる」

「そうです。バルト卿は利益で動く。ロイド卿は義務で動く。どちらも必要です」

「田中はどちらで動くんだ」

「やることがあるから動きます」

「それは、義務でも利益でもないな」

「そうですね」

「では、第三の動き方か」

「そうかもしれません」

「田中らしいな」

「そうかもしれません」

「田中が義務でも利益でもなく動く。それが、この同盟を繋いでいるのかもしれない」

「そうですか」

「義務だけでは、余裕がなくなったとき崩れる。利益だけでは、利益がなくなったとき崩れる。やることがあるから動く人間がいれば、どちらが崩れても、繋いでくれる」

「なるほど」

「田中がいてくれることの意味が、そこにある」

「ロイド卿がいてくれることの意味も、同じだと思います」

「どういう意味だ」

「ロイド卿は義務で動きます。義務で動く人間がいるから、仕組みが続きます。利益で動くバルト卿がいるから、経済が続きます。やることがあるから動く田中がいるから、繋がりが続きます。全員が必要です」

「なるほど」

「どちらも本当だ、ではなく、全員が本当だ、ですね」

「良い言い方だな」

「ロイド卿が言ってくれたことから、考えました」

「余が考えさせたのか」

「ロイド卿が問いを立ててくれたからです」

「どちらも本当だ」

「そうですね」


 夜、田中はメモを整理した。

 【食料と物資の枠組み・決定事項】

 ・中継地:バルト卿の港。

 ・月次リスト制:各国が月初に需要を提出。

 ・緊急時:手数料三倍。乱用を防ぐ。

 ・備蓄:各国三ヶ月分。港にも中継用備蓄倉庫を設置。

 ・手数料の仕組み:同盟文書に明記。三国が認めた形にする。

 田中はリストを見た。

 食料と物資の枠組みが、バルト卿によって実務的な形になった。

 軍の連携はロイドとシアが作った。

 食料と物資はバルト卿が設計した。

 田中は整理するだけだった。

 それで良かった。

 それが、今の形だった。

 田中は最後に一行書き足した。

 ・バルト卿が枠組みを設計した。ロイドとシアが軍の仕組みを作った。田中は整理するだけだった。それが今の形だ。全員が動いている。


次回「第八十五話 情報共有の仕組みを三国規模に拡大する」へつづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ