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第八十二話 この国が出す条件、魔王軍が出す条件

第八十二話 この国が出す条件、魔王軍が出す条件


前話までのあらすじ

三国会議で三点の方向性が合意された。軍の調整役、食料と物資の按分、OLAとの対話継続。

田中がほとんど話さなかった。三者が自分たちで話して決めた。

「今日、三者が自分たちで話して、決めた。それが同盟の形だった」とメモに書いた。


 三国会議の翌日。

 田中は同盟文書の草案を作り始めた。

 骨格は揃っていた。

 ただ、草案を作ろうとすると、細部で整理できていないことが出てきた。

 田中はメモに書いた。

 【草案作成で出てきた未整理の点】

 一、軍の調整役の交代期間。何年ごとに交代するか。

 二、食料と物資の按分の基準となる数字。

 三、情報共有の頻度と方法の詳細。月次で十分か、それとも週次が必要か。

 四、同盟の解消条件。どういう場合に解消できるか。

 五、同盟文書の言語。三国それぞれの言語で作るか、共通の言語にするか。

 五点書いてから、田中は少し考えた。

 四番と五番は、この国と魔王軍が直接話し合って決める必要がある。

 田中一人では決められない。

 田中はシアへの手紙を書いた。

 五点の未整理の点を伝えて、魔王側の意見を求めた。


 返事が来るまでの間、田中はロイドを訪ねた。

「軍の調整役の交代期間について、ご意見をいただけますか」

「一年ごとが適切だと思う」

「理由はありますか」

「調整役を長く担うと、その国が主導権を持ちやすくなる。一年ごとに交代すれば、固定化しない」

「なるほど」

「ただし、交代のタイミングで引き継ぎが必要だ。引き継ぎの手順を文書に入れる必要がある」

「そうですね。引き継ぎの手順も文書に明記します」

「田中、一点だけ」

「はい」

「シアと余が、軍の連携について話し合いを続けている」

「そうですね」

「話していると、シアの考え方が、余とよく似ていることに気づいた」

「どう似ていますか」

「情報を先に集める。問題を整理してから動く。記録を残す。全部、田中がやっていることと同じだ」

「シアさんが身につけたことです」

「田中から学んだのだろう」

「シアさんが動いたからです」

「また同じことを言う。ただ、今日は一点だけ聞かせてくれ」

「はい」

「田中は、シアに直接何かを教えたか」

「直接教えたことは、あまりないです。一緒に仕事をしながら、やり方を見てもらった形です」

「見て覚えた、ということか」

「そうかもしれません」

「それが、一番身につく覚え方だな」

「そうですね」

「余も、田中と一緒に動きながら、色々覚えた」

「ロイド卿が覚えたんです」

「どちらも本当だ」

「そうですね」

「田中、最近、どちらも本当だ、という言い方をするようになったな」

「ガルド卿に教えてもらいました」

「ガルドに教わったか」

「そうです。ガルド卿がそう言ってくれてから、使うようになりました」

「なるほど。田中も、人から学んでいるということだ」

「そうですね」

「どちらも本当だ」

「そうです」

 二人で少し笑った。


 三日後、シアから返事が来た。

 五点について、魔王側の意見が書いてあった。

 田中はレオンと一緒に読んだ。

「一点目の交代期間について。魔王側も一年ごとに同意です」

「ロイド卿と同じですね」

「そうです。二点目の按分の基準。魔王側は人口を基準にしたいとのことです。生産量は変動するが、人口は比較的安定しているから、という理由です」

「それは理にかなっています」

「三点目の情報共有の頻度。月次で十分だが、緊急事態のときは随時、という形を提案しています」

「それが現実的ですね。今もそうしています」

「四点目の同盟の解消条件。これが少し複雑です」

「どんな内容ですか」

「魔王側は、解消条件を厳しくしたいと言っています。簡単に解消できると、不安定になる、という理由です。ただ、この国側は、いざとなれば抜けられる保証が必要だと思うかもしれません」

「これは、直接話し合う必要がありますね」

「そうですね。田中、どうしますか」

「王様と魔王に、この点だけ直接話してもらいます。田中が間に入って整理するより、二人が直接話した方が、納得感が出ます」

「わかりました。五点目の言語については」

「どんな提案ですか」

「魔王側は、各国の言語で作った文書を全部正式とする形を提案しています。三か国語で作る」

「それは、田中も良いと思います。ただ、翻訳の確認が必要です」

「レオンが確認しますか」

「レオンとカラさんに確認してもらいます。内容が一致しているかどうか」

「わかりました。私が担当します」

「ありがとうございます」


 その日の夕方、王様に報告した。

「同盟文書の草案で、一点だけ直接話していただきたいことがあります」

「なんだ」

「同盟の解消条件についてです。魔王側は解消条件を厳しくしたいと言っています。こちら側の立場はどうですか」

「余は、どちらでもいい」

「どちらでも、ですか」

「そうだ。余が魔王を信用している。解消条件が厳しくても、構わない」

「そうですか」

「ただ、貴族たちは違うかもしれない」

「そうですね」

「貴族は、いざとなれば抜けられる保証がほしいと思うかもしれない」

「そうだと思います」

「田中、どう整理する」

「一点、提案があります」

「なんだ」

「解消条件を、段階的にする方法があります。すぐに解消できる軽い条件と、双方が合意しなければ解消できない重い条件を、分ける。日常的な不満では解消できないが、重大な問題が起きたときは解消できる。そういう段階的な仕組みです」

「なるほど」

「魔王側の不安定化への懸念と、こちら側の保証への要求を、両方満たせます」

「魔王は、それを受け入れるか」

「話してみないとわかりません。ただ、方向性は合理的なので、受け入れてもらえる可能性があります」

「では、余から魔王に話す」

「よろしくお願いします」

「田中なしで話すか」

「田中が間に入っても構いませんが、王様と魔王が直接話せる部分は、直接話した方がいいです」

「余もそう思う。田中が作った段階的な案を持って、余が話す」

「かしこまりました」

「段取りを作って、余が話す。それが今の形だな」

「そうですね」

「田中が段取りを作って、余が動く。最初の頃と逆だな」

「最初は田中が動いていましたね」

「今は余が動く。田中が支える」

「そうですね」

「それが成長というものか」

「そうかもしれません」


 翌日、王様と魔王が書状をやり取りした。

 段階的な解消条件の案を、王様が魔王に送った。

 夕方に返事が来た。

 シアからの手紙だった。

「魔王が段階的な解消条件の案を受け入れた、とのことです」とレオンが言った。

「そうですか」

「それだけではなく、もう一点書いてあります」

「なんですか」

「魔王陛下が、王様に直接手紙を書いたとのことです。田中ではなく、王様に」

「そうですか」

「内容は書いてありませんが、王様に直接書いたことが重要だと、シアさんが書いています」

「そうですね」

「以前は、全部田中を通じていました。今回、魔王陛下が直接王様に書いた」

「それが、今の関係を表していますね」

「田中が間に入らなくても、二人が話せる」

「そうです」

「それが目標でしたよね」

「そうです」

「達成しましたね」

「方向としては」

「タナカ、素直に受け取ってください」

「……達成しました」

「良かったです」


 夜、田中はメモを整理した。

 【草案の未整理点・進捗】

 一、軍の交代期間:一年ごとで合意。✓

 二、按分の基準:人口基準で合意。✓

 三、情報共有の頻度:月次+緊急時随時で合意。✓

 四、解消条件:段階的な仕組みで合意。✓

 五、文書の言語:三か国語で作成。レオンとカラが確認中。

 五点のうち、四点が合意した。

 残りは言語の確認だけだった。

 田中はリストを見た。

 草案が完成に近づいていた。

 次は、草案を三国で確認する。

 確認が終われば、調印式に向けて動ける。

 田中は最後に一行書き足した。

 ・魔王陛下が王様に直接手紙を書いた。田中が間に入らなくても、二人が話せた。それが今日の一番大事なことだった。


次回「第八十三話 軍の連携をどうするか。ロイドとシアが動く」へつづく

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