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第八十一話 三国で同盟の枠組みを議論した

第八十一話 三国で同盟の枠組みを議論した


前話までのあらすじ

バルト卿が港を見せてくれた。同盟文書に貿易の条項を入れることで合意した。

バルト卿が他の貴族への説得を引き受けてくれた。

「バルト卿が『守るだけでなく、作ることもできると思い始めた』と言った。守ることから、作ることへ。それが変化だ」とメモに書いた。


 三国会議の準備をした。

 前回の三国会談から、だいぶ時間が経っていた。

 あのときは、GOLという緊急の問題があった。

 今回は、同盟という未来に向けた話だった。

 田中は準備資料を作った。

 各国の条件を整理した一枚。

 同盟の中身の骨格案。

 未解決の項目のリスト。

 三枚だった。

「タナカ、資料が少ないですね」とレオンが言った。

「そうですね」と田中が言った。

「前回の会談の資料は、もっとありましたよ」

「今回は、三者が話し合って決める会議です。資料が多すぎると、資料を読む時間になってしまいます。骨格だけ出して、あとは話してもらいます」

「話し合いを中心にする、ということですね」

「そうです。骨格は合意しています。あとは、細部をどうするかです。細部は、三者が直接話した方が、早く決まります」

「田中が整理するより、三者が話した方が早いと」

「そうです。三者が話した方が、三者が納得します。田中が整理した答えより、三者が話し合って出した答えの方が、後で守られやすいです」

「なるほど。自分たちで決めたことは、守りやすい」

「そうです」


 三国会議は、山の中腹の場所で開いた。

 前回の三国会談と同じ場所だった。

 田中が場所を提案したとき、王様が言った。

「また同じ場所か」

「三国の先祖が会合を開いた場所です。今回も、同じ場所が良いと思いました」

「なぜだ」

「前回、GOLについて話し合った場所です。その場所で、今度は同盟について話し合う。繋がりが生まれます」

「繋がりが生まれる、か」

「問題を解決した場所で、新しい関係を作る。それは意味があると思います」

「わかった。その場所にしよう」

 魔王も、ミラも、場所の提案を受け入れた。

 ミラは「前回と同じ場所なら、勝手がわかる」と言った。

 魔王は「田中が選ぶなら、理由があるはずだ」と言った。


 当日。

 三国の代表が揃った。

 王様、田中、レオン。

 魔王、シア。

 ミラ、カラ。

 計七名。

 テントの中に入った。

 テーブルが並んでいた。

 田中は資料を配った。

「三枚です。一枚目が各国の条件の整理、二枚目が同盟の骨格案、三枚目が未解決の項目です」

 三者が読んだ。

 しばらく、静かだった。

 ミラが最初に口を開いた。

「田中殿、未解決の項目が三つある。これを今日決めるのか」

「決められれば、今日決めます。今日決まらなければ、持ち越します。ただ、方向性だけでも揃えたいです」

「三点とも、難しい項目だな」

「そうですね」

「どれから始めるか」

「三者が話しやすい順番で進めましょう。どれから始めますか」

 ミラは王様と魔王を見た。

「軍の連携から始めよう」と魔王が言った。

「余も同じだ」と王様が言った。

「では、軍の連携から」とミラが言った。


 軍の連携について話し合いが始まった。

 ロイドとシアが事前にすり合わせをしていたため、大筋は揃っていた。

 ただ、一点だけ、意見が分かれた。

「有事の際の指揮権はどうするか」と魔王が言った。

「それぞれの国の軍は、それぞれの国が指揮する。ただ、共同行動のときは、誰が調整するか」

「調整役が必要だな」と王様が言った。

「余も同意だ」と魔王が言った。

「ランセルは小国だ。軍事力は限られている。調整役は、この国か魔王軍がふさわしいかもしれない」とミラが言った。

「ランセルが調整役でなくていいのか」と王様が聞いた。

「力量に応じた役割がある。余は情報提供で貢献する。調整は、より大きな力を持つ国に任せる方が現実的だ」とミラが言った。

「それは、ランセルが不利ではないか」と魔王が言った。

「不利とは思っていない。それぞれが、できることをやる」

 田中は少し考えてから、口を開いた。

「一点だけ、整理させてください」

「どうぞ」と三者が言った。

「調整役と、最終決定権は、別の話です。調整役は、情報を集めて選択肢を整理する役割です。最終決定は、全会一致のままです。調整役があるからといって、その国が主導するわけではありません」

「なるほど」と王様が言った。

「では、調整役はこの国と魔王軍が交互に担う、という形はどうですか。期間を決めて、交代する」

「交代か」と魔王が言った。

「そうです。一国が固定でやると、力関係が生まれます。交代すれば、対等な関係が続きます」

「ランセルはどうする」とミラが言った。

「ランセルは情報提供の役割があります。調整役とは別の、重要な役割です。調整役の調整に、ランセルの情報が必要です。役割が違うだけで、重みは同じです」

「それで納得できる」とミラが言った。

「余も同意だ」と魔王が言った。

「余も」と王様が言った。

 田中はメモに書いた。

 ・軍の調整役:この国と魔王軍が交代で担う。期間は別途決める。ランセルは情報提供役として同等の重みを持つ。


 二点目は、食料と物資の相互支援だった。

 バルト卿の提案を受けて、田中が貿易の条項を骨格案に入れていた。

 この点は、三者とも方向性が揃っていた。

「各国の規模に応じた支援量を決める。一国が全部負担しない」とミラが言った。

「それが前提だ」と魔王が言った。

「規模の基準は何にする」と王様が言った。

「人口と生産量を組み合わせる方法があります」と田中が言った。

「具体的な数字は、この場では決めにくいですね。後で各国の担当者が調整する形にしましょう。今日は、規模に応じた按分という原則だけ確認します」

「それで十分だ」と魔王が言った。

「合意」とミラが言った。

「わかった」と王様が言った。

 田中はメモに書いた。

 ・食料と物資:各国の規模に応じた按分。具体的な数字は担当者が後日調整。


 三点目は、北の問題への共同対処の枠組みだった。

 GOLは止まった。ただ、北の問題が完全に終わったとは言えなかった。

「OLAとの対話を、今後も続けるか」とミラが聞いた。

「続けたいと思っています」と田中が言った。

「誰が担当するか」

「田中が中心になります。カラさんも一緒に動いてもらえますか」

「もちろんだ」とカラが言った。

「ただし、田中一人では限界があります。ランセルの情報と、魔王城の情報も並行して集める体制が必要です」

「シアが動く」とシアが言った。

「カラも動く」とカラが言った。

「余からも、人を出す」とミラが言った。

「ありがとうございます」

「田中、一つだけ」と魔王が言った。

「はい」

「OLAとの対話を続けることを、同盟文書に入れるか」

「入れたいと思っています。向こうとの対話の継続は、北の問題への対処の一部です。同盟の中に、向こうとの関係も含める形にしたいです」

「向こうとの関係も含める」と王様が言った。

「そうです。同盟は、三国間だけでなく、向こう側との関係も視野に入れた枠組みにしたいです」

「それは、大きな話だな」と魔王が言った。

「大きいですが、GOLを乗り越えた今だからこそ、入れられます」

「田中らしい提案だ」とミラが言った。

「賛成だ」と魔王が言った。

「余も賛成だ」と王様が言った。

「ランセルも賛成だ」とミラが言った。

 田中はメモに書いた。

 ・北の問題:OLAとの対話継続を同盟文書に明記。向こう側との関係も視野に入れた枠組みとする。


 三点が全部、方向性として合意された。

 三時間の話し合いだった。

 終わり際、王様が言った。

「田中、今日は三点が決まったな」

「そうですね」

「お前がほとんど話さなかった」

「三者が話してくれたので」

「そうだな。余、魔王、ミラの三人で話した。田中が整理した資料があったから、話しやすかった」

「資料を用意しただけです」

「それが田中の仕事だ」と魔王が言った。

「そうですね」と田中が言った。

「田中が資料を用意して、三者が話す。それが今日の形だった」とミラが言った。

「今日の形が、同盟の形でもある」と田中が言った。

「どういう意味だ」と王様が聞いた。

「同盟とは、誰かが全部やる仕組みではありません。それぞれが役割を持って、一緒に動く仕組みです。今日の会議がまさにそれでした」

「今日が、同盟の予行練習だったということか」と魔王が言った。

「そうかもしれません」

「なるほど」と三者が言った。

 三者が同時に言った。

 田中は少し笑った。

「三人が同時に言いましたね」

「余たちは似ているからな」と王様が言った。

「そうだな」と魔王が言った。

「認めたくないが、そうかもしれない」とミラが言った。

「ミラ公王、初めて少し笑いましたね」とシアが言った。

「余は笑った覚えはない」とミラが言った。

「笑っていましたよ」と田中が言った。

「確認するな」とミラが言った。

 テントの中が、少し和やかになった。


 帰り道。

 田中はレオンと馬を進めた。

「タナカ、今日は三点が全部決まりましたね」

「方向性が揃いました。細部はまだです」

「それでも、大きな前進ですね」

「そうですね」

「田中がほとんど話さなかったです」

「三者が話してくれました」

「それが、田中の目指してきた形ですよね」

「そうですね」

「間に入らなくていい状況を作ること」

「そうです」

「今日、それができていました」

「三者が動いてくれたからです」

「また同じことを言う」

「事実なので」

「わかりました」

 レオンは少し間を置いた。

「タナカ、今日は良い一日でしたね」

「そうですね」

「メモに書かなくてもいいですか」

「書きます」

「書くんですね」

「良い一日だったと記録しておきたいです」

「そうですか」

「記録があれば、後で確認できます。良い一日が積み上がっていることが、後でわかります」

「田中らしいですね」

「そうかもしれません」

 田中はメモアプリを開いた。

 【本日の記録】

 ・三国会議:三点の方向性が合意された。

 ・軍の調整役:この国と魔王軍が交代で担う。

 ・食料と物資:規模に応じた按分。

 ・北の問題:OLAとの対話継続を同盟文書に明記。

 ・田中がほとんど話さなかった。三者が話した。

 最後に一行書き足した。

 ・今日、三者が自分たちで話して、決めた。それが同盟の形だった。


次回「第八十二話 この国が出す条件、魔王軍が出す条件」へつづく

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