表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
80/120

第七十九話 貴族への説明。ガルドが先に話した

第七十九話 貴族への説明。ガルドが先に話した


前話までのあらすじ

魔王城の幹部会議でグレイドが同盟を支持する発言をした。幹部の反発がほぼなくなった。

貴族説明会をガルドと一緒に行った。大きな反発がなかった。

「グレイドの言葉が幹部会議を変えた。貴族説明会が想定より早く終わった。皆が同じ方向を向いている。これが積み上げだ」とメモに書いた。


 貴族説明会の翌日。

 ガルドが田中のところに来た。

「昨日の説明会、どうだった」

「田中からはどう見えましたか」

「ガルド卿が話してくれたおかげで、スムーズに進みました」

「そうか」

「田中が補足する前に、ガルド卿が主要な部分を全部話してくれました。田中がやることがほとんどなかったです」

「それが狙いだった」

「そうでしたか」

「田中がいつも言っているだろう。間に入らなくていい状況を作ることが仕事だ、と」

「言いましたね」

「今回は余が、田中の代わりに間に入った。田中が間に入らなくていい状況を、余が作った」

「そうですね」

「これで良かったか」

「完璧でした」

「完璧、か」

「ガルド卿が話すことで、貴族たちへの説得力が増しました。田中が話すより、ガルド卿が話す方が、この場では効果的でした」

「なぜだ」

「田中はこの城に来てまだ一年弱です。ガルド卿は長くここにいます。長くいる人間の言葉は、重みが違います」

「そうか」

「田中が丁寧に説明しても、向こうから見れば補佐官の説明です。ガルド卿が話せば、古参の重鎮の言葉になります」

「田中は、最初からそれを計算していたのか」

「最初に、ガルド卿が先に話す形をお願いしました。そのとき、そういう理由があったからです」

「なるほど」

「ガルド卿が動いてくれたから、うまくいきました」

「また同じことを言う」

「事実なので」

「わかった」

 ガルドは少し間を置いた。

「田中、一つだけ聞いていいか」

「どうぞ」

「余は、田中がやっていたことを、少しずつ理解してきた気がする」

「そうですか」

「最初は、田中が何をやっているのか、わからなかった。月次報告を送ってきて、根回しをして、議事録を取って。なぜそれが必要なのかが、わからなかった」

「そうでしたね」

「今はわかる。全部、繋がっている」

「どう繋がっていますか」

「月次報告があるから、貴族たちが情報を持っている。情報を持っているから、説明会で動揺しない。議事録があるから、後で確認できる。根回しがあるから、驚かない。全部、繋がっている」

「そうです」

「バラバラに見えて、全部が一つの目的に向かっている」

「目的は何だと思いますか」

「物事が、スムーズに動くことだ」

「そうです」

「スムーズに動けば、反発が減る。反発が減れば、決まることが増える。決まることが増えれば、この国が動ける」

「全部繋がっていますね」

「田中が来てから、この城がスムーズに動くようになった理由が、今日になってやっとわかった気がする」

「ガルド卿が見てきたからわかったんです」

「また同じことを言う」

「事実なので」

「わかった。ただ、今日だけは言わせてくれ」

「はい」

「田中が来てくれたから、余も変わった。それが事実だ」

「……ありがとうございます」

「珍しくすぐ言えたな」

「大事なことを言っていただいたので」


 その日の午後、田中はもう一度貴族たちの個別フォローをした。

 説明会で懐疑的な顔をしていた貴族を、数名訪ねた。

 一人目。

「昨日の説明会で、少し疑問が残っていましたか」

「残っていた。軍事的な義務がないと言ったが、それはどう保証されるのか」

「文書に明記します。文書に何が書いてあるかを、全員で確認してからサインします。サインした後は、文書の内容が全てです」

「文書が守られなかった場合は」

「その場合は、同盟の解消を申し出ることができます。一方的に義務を負い続ける仕組みにはなりません」

「それは、どこに書くのか」

「同盟文書の最後の条項に入れます。解消の手続きと条件を明記します」

「わかった。それがあれば、納得できる」

「ありがとうございます」

 二人目。

「同盟が成立した後、この国の独立性は保たれるのか。三国同盟というと、どこかが主導する形になるのではないか」

「対等な関係で結ぶ同盟です。主導権を持つ国は決めません。全員が合意したことだけを実行します」

「それは担保できるのか」

「意思決定の仕組みを文書に入れます。全会一致を原則とします。一国でも反対すれば、進めない」

「一国が拒否権を持つということか」

「そうです。小国であるランセルも、この国も、魔王軍も、同じ重みを持ちます」

「ランセルと同じ重みか」

「共通の問題に対処するための同盟ですので、規模ではなく、一国一票の原則にします」

「なるほど。それなら、この国が不利になることはないな」

「そうです」

「わかった」

 三人目はバルト卿だった。

「貿易の話、もう少し聞かせてもらえるか」

「どんなことをお聞きになりますか」

「魔王領との貿易が増えるとしたら、どんな品物が動くと思うか」

「魔王領は、この国より北にあります。北方の資源、鉱石類が豊富です。また、魔王城の食料交易で、双方の需要がある品目が確認されています」

「鉱石か。余の港を経由させることはできるか」

「できます。魔王領からの品物が、この国を経由して南に流れる形になれば、バルト卿の港が中継地になります」

「それは、余にとって利益がある」

「そうです」

「田中、余は同盟に賛成だ」

「ありがとうございます」

「貿易の話を具体的にしてくれれば、余の側から同盟を推す声を出せる」

「ガルド卿とも連携して、進めます」

「頼む」

 田中は訪問を終えて、メモに書いた。

 ・個別フォロー:三名。全員、方向性として納得。細部の確認が必要な部分あり。

 ・バルト卿:貿易の具体的な話を求めている。鉱石の中継地として港を活用する案が刺さった。


 夕方、田中はガルドに報告した。

「個別フォローが終わりました」

「どうだった」

「懸念が残っていた三名、全員と話しました。全員、方向性として納得しています」

「全員か」

「そうです。ただ、細部の確認が必要な部分があります。文書が出来上がった段階で、もう一度確認してもらいます」

「そうだな。文書を見れば、具体的な懸念が出てくる」

「そうです。今の段階では、大筋の方向性だけ確認しました」

「田中、一つだけ」

「はい」

「今回の根回し、余と田中で分担できたな」

「そうですね」

「余が大きい場で話して、田中が個別に話す。その分担が、うまく機能した」

「そうです」

「これが、田中が言っていた仕組みか」

「どういう意味ですか」

「一人でやらなくていい、ということだ。役割を分けて、それぞれがやれることをやる」

「そうです」

「余も、やれることがあった」

「ありました。そして、田中にはできないことをやってくれました」

「田中にできないことか」

「田中は、長く城にいる人間ではありません。ガルド卿が先に話すことで、重みが変わります。それは田中にはできないことです」

「そうか」

「ガルド卿にしかできないことをやってもらいました」

「なるほど」

「それが、最も効果的な分担です」

「田中、お前に一つだけ言っていいか」

「どうぞ」

「余は最初、お前が何をしに来たのかわからなかった。補佐官と言うが、何を補佐するのかが、わからなかった」

「そうでしたね」

「今はわかる。お前は、人が動けるようにしに来た」

「そうですか」

「そうだ。王を動けるようにした。余を動けるようにした。アレンを動けるようにした。全員が動けるようになった。それが、お前の仕事だった」

 田中は少し止まった。

「そうかもしれません」

「そうだ」

「ありがとうございます」

「珍しくすぐ言えたな」

「ガルド卿に言われると、受け取りやすいです」

「なぜだ」

「最初から反対していたガルド卿が、そう言ってくれるので」

「最初から反対していたからこそ、今の言葉に重みがあるということか」

「そうです」

「なるほど。では、余が反対していたことが、役に立ったな」

「役に立ちました」

「それは、面白い話だな」

「そうですね」

 ガルドは少し笑った。


 夜、田中は部屋でメモを整理した。

 今日一日で、貴族への個別フォローが完了した。

 ガルドとの分担が機能した。

 田中がやることが、また変わっていた。

 以前は、田中が全部の場で話していた。

 今は、場によって、ガルドが話し、田中が補足する。

 または、田中が話し、ガルドが支える。

 役割が分散していた。

 田中はリストを見た。

 【貴族への説明・完了】

 ・説明会:ガルドが主導。大きな反発なし。

 ・個別フォロー:田中が担当。三名全員と話した。

 ・次のアクション:同盟文書の草案を作成する。

 最後に一行書き足した。

 ・ガルドが「お前は、人が動けるようにしに来た」と言った。それが、田中の仕事の本質かもしれない。


次回「第八十話 バルト卿が、同盟に前向きになった理由」へつづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ